女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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もう不安じゃないから

「なぁ、指揮官。最近皆が冷たいんだが」

「……いきなり何の話よ」

 

 司令室でいつものように書類仕事をしていると、遠征から返ってきたばかりのM16がソファに寝そべりながらそんなことを言い出した。

 

「いやさ、最近AR小隊の皆が私の飲みに付き合ってくれないんだよ。というか、飲もうっていうと私を無理やり連れて他のことをさせてくるんだよな」

「他のことって? あとソファに寝そべるなら靴を脱ぎなさい」

 

 まあM16は自他ともに認めるのん兵衛ではあるし、やや節操無しなところがあるのも周知の事実だ。のん兵衛なのはともかくとして、節操無しなところは同じ部隊のAR小隊メンバーとして見過ごすことが出来ないのかもしれない。

 

「M16は皆と一緒に何かするのが嫌なの?」

 

 私の問いかけに、M16はやや複雑な表情をした。

 

「嫌じゃないさ。皆と一緒にいられるのは嬉しいことだし、一緒に何かをするのだって楽しいから好きだ。……でもさ、それと酒が飲めないってのは別問題だろ?」

「ふーん……大変ねー。あと、ソファーに寝そべるなら靴脱いで」

 

 まあ好きなものが飲み食いできないってのは中々きつい様な気がする。というか、私だって甘いものを制限されると中々辛いな。

 でももとはと言えば飲むたびにべろんべろんに酔うまで飲んで、酒臭い息をまき散らすM16に問題があると思う。……止めない私も同罪かもしれないけどね。

 

「おーい。他人事だと思って真面目に聞いてないだろ。可愛い部下の悩みだぞ、もう少し真面目に聞いてくれてもいいんじゃないのか?」

「お酒飲まなくても、皆と一緒にいられるのは楽しいんでしょ? 問題ないじゃない」

 

 私が書類を捌きながらそう返せば、体を起こしたM16が不満そうに唇をへの字に曲げた。

 

「おいおーい。指揮官も気心知れた奴と飲む楽しさは知ってるだろ? 私はそれが味わいたいんだよ」

「じゃあ、飲んでも大丈夫って思って貰える様に普段の飲酒量を控えないとね?」

「むぅ……そういえば指揮官さ」

「ん? どうしたの」

 

 何かを思いついたようにM16がぱあっと表情を明るくして私の方を見やってきた。

 一体、なんだっていうんだろうか。……あまりいい予感はしないけど。

 そんな私の予感を裏付ける様に、M16の表情は意地の悪いニヤニヤしたものになっている。

 

「最近、UMP45とご無沙汰だったりするんじゃないのか?」

「ッ!?」

 

 まさかの夜のベッド事情を言い当てられて、体がびくりと跳ねてしまった。何でM16がそれを知っているんだろう。

 その辺は誰にも言わないし、なんならご無沙汰なことに不満を感じてたわけではない。45がAR小隊のメンバーにそういうコトを漏らすってこともないはずだし……。

 もしかして、前に良くシてた時の音とかやっぱり漏れちゃってたんだろうか。皆気づかないふりをしてただけで、実は聞こえてた……?

 どうして、とかもしかして、とかでどんどん恥ずかしくなっていって、耳の先まで熱くなってしまったのが自分でも分かった。

 

「はっはっは! その様子じゃ図星らしいな!」

「え、M16ッ……なんで?」

 

 一体どうしてそんなことが分かったんだろう。誰かAR小隊の子とかに盗聴とかでも……いや、それなら45が気づきそうなものだけど。

 何故バレたのか分からなくて混乱している私を見て、M16はカラカラと笑いながらこういった。

 

「最近、指揮官夜更かししてないだろ?」

「え……」

「皆言わないだけで前から気付いてたんだぞ? 指揮官が朝から眠そうにしてる時はいつも、指揮官もUMP45も艶っぽかったからな」

「うっ、嘘ッ!?」

「ははは! ホントホント」

 

 うぅ……音が漏れてなければまだ誤魔化せるかなって思ってたけど、そんなところでバレてたなんて……。

 いや、もしかしたら察しがついてる子はいるかも、とは思ってたけどこうして面と向かって言われると恥ずかしい……!

 どうしよ……これから下手に一緒に45と寝れないかもなあ。皆に言われなくても、実際はバレてるって思うと恥ずかしくて外に出れなくなっちゃいそうだし……。

 

「それにしても、前まであんなにお楽しみだったのに最近はなんでご無沙汰なんだ?」

「ちょっと。人聞きの悪いこと言わないでよね。そんなにしょっちゅうじゃないってば」

「でもそれなりの頻度ではシてたんだろ」

 

 M16の言葉に顔が引きつったのが分かった。完全に今墓穴を掘ってしまった気がする。M16がニヤニヤしているのを見るに、誘導されたらしい。おのれ……。

 

「そう怖い顔するなよ指揮官。言い振らしゃしないからさ」

「アナタお酒飲むと口軽くなりそうだしなあ……」

 

 酔った奴は思ったことを口に出すものだ。なのであまり言いふらさないとか言われてもあまり信用できない。M16みたいに毎日のように飲酒をするタイプならなおさらだ。

 

「信用ないなあ……これでも口は堅い方だと思うんだが」

「まあ、貴方の口ぶりだともう皆にバレてるんでしょ……気にするだけ無駄なのかもね……」

 

 ため息を吐くとドッと肩に疲れがのしかかってきたような気がした。今なら『憑かれてるのよ』って言われても納得できそうな気がする。

 

「それにしても、一体どうしたんだ? UMP45と喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩? 別にしてないけど」

「そうか? まあ、別に仲たがいとかしてないならいいんだけどさ」

 

 一体私達はどういう認識をされてるんだろう……。夜の営みをしてないと喧嘩をしてると思われてるわけ?

 ……でもまあ、そう思われても仕方がないかもしれない。

 45は分からないけど、少なくとも私はあの子と体を重ねていないといつか知らない間にどこかに行ってしまいそうな気がして、怖くて怖くて仕方なかった。

 定期的につかんでいないと、どこかに飛んでいってしまいそうな……漠然としたそんな不安。そんなものがあった気がする。

 それと、ふんわりとした将来に対する不安。その不安を忘れたいっていうのもあった。この戦いが終わった後、どうやって生きていけばいいか分からなかったから。

 

「……まあ、別に前みたいにシなくても良くなったのよ」

「ふぅん……理由を聞いても?」

「えぇ? 別に大した理由じゃないわよ。前みたいにあれこれ不安に思わなくて良くなった。それだけよ」

 

 私がそういうと、M16が再びニヤニヤとし始めた。

 

「何よ」

「いやぁ? ごちそうさまでしたって感じがしてな? そうだ、当ててやろうか」

「なにを?」

「前みたいに頻繁にヤらなくなった理由」

「……どうぞ」

 

 顎に手を当てて、M16が私の方を愉快そうな笑みを浮かべながら口を開く。

 

「ウェディングドレス特集の仕事を受けた時からだろ?」

「……正解よ」

 

 M16の指摘通りだ。あの日、例えお粗末なままごとみたいなものだったとしても、確かに私と45は将来を誓い合ったのだ。

 あの時の堂々とした45の表情は、今でもまぶたに焼き付いている。あの凛々しい表情を見て、それまで感じていた不安が消えていくのが分かったのだ。

 その後で、自分でも彼女との将来を誓う言葉を口にしたことで不安はほぼなくなった。

 それ以来、前みたいに体を重ねなくても良くなった。飽きたわけではないし、何なら今でも45と寝るのは大好きだ。

 でも、それはもろもろの不安を忘れる為の激しいものである必要はなくなった気がする。

 不安を忘れる為じゃなくて、お互いの愛を確認する……というかまあそんな感じの過ごし方で良くなった。

 45が我慢してる様子もないし、多分45も同じなんだと思う。

 だから、前ほど体を重ねなくていいんだ。まあ、キスとか位は頻繁にしてもいいかな……とは思ってるけど。

 

「熱いねえ。羨ましい限りだよ」

「じゃあ、アナタも頑張って相手を探さないとね?」

「誰か良い奴はいないか、指揮官?」

「そーゆーのは自分で探すものよ?」

 

 そんなことを話していると、司令室の扉がバンッ! と開かれた。

 扉の奥には、息を切らせたRO635がいる。

 

「M16ッ! アナタまた資材のチェック他の子達に押し付けたでしょう!?」

「ゲッ……RO」

 

 あからさまにしまったという表情をするM16と、眉間にこれでもかとシワを寄せながらM16に近づいていくRO。

 ……ふむ。おばあちゃんの故郷の日本でいうところのかかあ天下のお嫁さんとダメ亭主って感じの光景だなあ。

 M16め、中々隅に置けないじゃあないか。

 

「お、おい指揮官助け……何ニヤニヤしてるんだ?」

「別に? お似合いだなって」

「何がだよ?」

「秘密」

「こら! M16、話をそらさないで!」

 

 ふふふ。これはちょっと今後の経過を観察するのが楽しみかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は残りの仕事の処理に取り掛かった。

 




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