女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
今回から少し行間の空け方を変えてみました。
こっちの方が読みやすいんでしょうか。気が向いた方は感想とかで教えてくれるとありがたいです(乞食並感)
「あれ、わーちゃん今日もいるんだ」
指揮官としての書類仕事の息抜きに、とカフェを訪れるとカウンター席の端にわーちゃんことWA2000が座っていた。このところ、結構な頻度で彼女を見かける気がする。
「な、なによ。いいじゃない。暇なんだし。……っていうか、わーちゃんって呼ぶのやめなさい!」
笑いながらごめんね、と軽く謝る。わーちゃんはと言えば分かればいいのと頬を膨らませてそっぽを向いた。ホントはもうそんなに気にしてないんじゃないかな。
うーん、実際『わーちゃん』って呼ばれるのに慣れたんだろうなあ。いい加減イチイチ怒るのをやめればいいのに。
そんなことを考えながら、わーちゃんの隣の席に座る。彼女は一瞬迷惑そうに私の方を睨んできたけれど、すぐに目をそらした。隣に座ることを許してくれたらしい。
「いらっしゃいませ、指揮官。本日は何になさいます?」
カウンターの向こう側から、スプリングフィールドが柔和な笑みを浮かべる。普段の軍服ではなく、カフェのマスターらしく、ブラウスにリボン、チョコレートブラウンのエプロンを身に着けている。とっても似合ってて眼福。
「んー、じゃあホットココアで」
「承知いたしました」
指揮官は甘いものがお好きですね、とニコニコするスプリングフィールドに思わず苦笑いを返す。やっぱり私も一人の大人としてコーヒーくらいは頼んだ方がいいのかな。
「へえ、意外。アンタってコーヒーとかじゃなくてココアなんて頼むのね」
隣のわーちゃんが意外そうに声を上げた。珍しい、彼女から絡んでくるなんて。
「苦い飲み物って苦手でね。飲めなくはないんだけど、どうせ飲むなら甘い方が私は好きなの」
「ふぅん……まあ、アンタらしいわね」
それはどういう意味だろう。ココアがお似合いのお子様指揮官、とでも言うつもりかな。
「あ、いや。別にバカにしてるとか、そういうんじゃないわよ。ただ、その……アレよ! 指揮官にしては甘さが目立つアンタの性格にぴったりっていうか!?」
うーん、フォローしようとして大失敗しているなあ。その言い方は誉め言葉にはならないんだよ、わーちゃん。でも可愛いから許す。
「ふふふ。指揮官、ワルサーはアナタの優しさにぴったりだと褒めたいんですよ。彼女、なんだかんだでアナタのことは」
「わーッ!? わーッ!? スプリングフィールド!?」
スプリングフィールドの暴露を、わーちゃんが大声を出してさえぎる。耳が痛い。
けれど、不器用なわーちゃんらしいな、と自然と笑みがこぼれた。
「そっかそっか。ふふ、ありがとね。わーちゃん」
私のお礼に、わーちゃんは一瞬フリーズする。文字通りのフリーズだった。完全に硬直している。可愛い。
「べべべ、別に、いつもアンタには世話になってるし? なんだかんだ頼りにはしてるっていうか、これくらいはバチが当たらないかなって言うか……ああぁぁあ!? アタシ何言ってるの!?」
もう完全に電脳がエラーでいっぱいらしい。自分が何を口走っているかもよく分かっていないみたいで、わーちゃんは真っ赤になった顔を隠す様に頭を抱えた。
「指揮官、お待たせしました。ホットココアです」
スプリングフィールドがほんのりと湯気の立つココアをカウンターに置く。
「ありがと、スプリングフィールド」
カップを傾け、一口ココアを口に含ませれば、口いっぱいに心地よい温かさと甘さが広がった。
「ん、甘くておいしい」
やっぱり息抜きにはこれに限る。温かくて甘いココアは、リラックスするのにぴったりだ。
「わーちゃんも飲んでみれば? ホットココア」
この美味しさはぜひ誰かと共有したい。45にも勧めてみたけど、あの子は苦いものの方が好きらしい。残念。
まあ、おいしそうに飲んではいたから、気に入ってはくれたみたいだけど。
「え? あ、えーと……」
それはさておき、わーちゃんはまだ混乱中だったらしい。私の言ったことをよく理解していなかったみたいで、目を泳がせている。
「わーちゃんも飲もうよ。ホットココア。おいしいよ」
私の言葉に、けれどわーちゃんは気まずそうに眉をひそめた。
「いや、その……ココアってアタシのキャラじゃないし」
絞り出された言い訳は、私を脱力させるのに十分なものだった。なんだキャラって。飲み物くらいでキャラ崩壊だとかいう輩がいるのか。
というか、そしたら私はどうなるだろう。
「ワルサー。折角ですから飲んでみては? 誰もココアを飲むなんて子供っぽい、って笑う人はここにはいませんよ」
スプリングフィールドの援護射撃に、ワルサーはう、と声を漏らす。飲みたいけど、プライドというかその辺が邪魔してるのか。
じゃあ、ちょっと意地悪だけどトドメを刺してしまおう。
「わーちゃん、スプリングフィールドのココアは絶品だよ? それとも、彼女の腕前を信じられない?」
私の言葉に、更に顔を歪ませていく。あー、すっごい渋いモノ食べたみたいな顔してる。美人が台無しだ。可愛いけど。
「アンタ……その言い方はずるいわよ」
恨めしそうに私を睨んでから、わーちゃんはスプリングフィールドの方へと向き直る。
「じ、じゃあ……その、私にも頂戴。ほ、ホットココア」
「かしこまりました」
わーちゃんのオーダーにスプリングフィールドが嬉しそうに微笑んでココアを作り始める。
やがてココアが出来上がり、わーちゃんの前に私と同じホットココアが差しだされた。
「はい。ホットココアです」
「これが……」
実際に自分の目の前に出てきたソレを、わーちゃんは興味津々といった目つきで見つめていた。可愛い。
「じゃあ、早速……」
わーちゃんは慎重にカップを持ち上げて、ほんの一口だけココアを口に含ませる。
それから口の中で数秒味わい、やがてこくりと小さく喉を鳴らしてココアを飲み下した。
「……おいしい」
ぼそりと呟かれたその言葉は、間違いなく本心からの感想だろう。
満足げにゆっくりと頷くスプリングフィールドに、ウィンクをしながら親指を立てる。
わーちゃんはといえば、余程気に入ったのか一口飲んではまたすぐ次の一口、といった感じでココアを楽しんでいた。
あっという間に彼女のカップは空になり、後に残ったのはどこか満足げなわーちゃんだ。
そこまで来て、ようやく私達の視線に気づいたらしい。せわしなく目を泳がせたかと思うと、いつものわーちゃんらしく、今の自分の姿を誤魔化し始めた。
「や、たまには甘いものもいいなーって思って? いつもコーヒー飲んでたけれど、試してみるものね! まあ、お礼は言っておいてあげる!」
ふん、と鼻を鳴らすわーちゃんに、けれど私はとても嬉しかった。
これで、ココア党の同士が一人増えたのだから。
今度から一緒に飲むっていうのもいいかもしれない。
「ココア、おいしかった?」
「まあ、悪くは……なかったわ。でも……」
「ん?」
わーちゃんが何かを言いたそうに私の方へと視線を送ってくる。
「また、その……アンタがどうしてもっていうなら、付き合ってあげてもいいわよ。……その、ココアを飲むの」
相変わらずのつっけんどんな態度で、けれどもまた一緒に飲もうと誘ってくれたわーちゃんに、頬が緩むのを感じた。
この誘いに乗るかどうかだって? 聞くまでもない。
「勿論、その時はお願いね!」
照れくさそうに頬をかくわーちゃんが、とても印象に残った。
後日、この一件を聞きつけたらしい45が私とコーヒーを飲もうと誘ってきたけれど、それはまた別の話。