女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
今日も今日とて退屈な書類仕事をしていると、突然正面ゲートから緊急通信が入った。
突然の出来事だけれど、一気に意識が戦闘モードに切り替わる。
隣にいた副官の45も険しい表情になって404小隊と連絡を取っているようだった。
「こちら司令室! どうしたの?」
『しっ、指揮官! 鉄血がせめて来ました!』
はぁっ!? 一体どうやって防衛線を超えてきたんだ。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。ここまで攻め込まれたってことは、全戦力を駆り出してでも撃滅しないと後方の街に……?
あれ? 正面ゲートって街の方角にあるはずだから、アイツら街から来た? 何の連絡も爆音とかも聞こえなかったんだけど。
『待って、待って! 事情を説明させて!』
「……あー?」
なんか聞き覚えのある声だな? もしかして、私達の知り合いだろうか。鉄血兵を鹵獲した知り合い、確かにいるのよね。
「45、ゲート前の映像出せる?」
「ちょっと待って。……はい、出たわ……あー」
「あー。……増えてない?」
正面ゲートに止まっていたパネルバンの横に大きく『D08』とプリントされている。
その車の前でウチのゲート警備を担当していた第6部隊のM1918始めとしたネゲヴ、ジェリコ、この間製造できたAA-12、SAAがD08の417に銃を向けていた。
ん? 前よりデカく……じゃなくて。とにかく、彼女達であれば問題なさそうだ。
「第6部隊、銃を下ろして。彼女達は味方よ。……知らない子も増えてるけどね」
私の言葉に、第6部隊の面々は警戒しながらゆっくりと銃を下ろした。
それを見届けてから、ゲートにあるスピーカー用のマイクを入れる。
「ご無沙汰ね。歓迎するわ、通って頂戴」
『あはは、すみません。事情は後で説明しますから』
監視カメラに向かって申し訳なさそうな笑みを浮かべて、417が車に乗り込んだ。そういえば、あの車一体何を積んでるんだろう。
まあいいや。とりあえず出迎えしに行こう。
「デリバリー?」
「そうです! 知り合いのところあっちこっち回って美味しいものご馳走しようかなって」
そう言ってニコニコしている417は、パネルバンの後方ドアを開けた。
417の他に乗ってきた人形達が……!?
「ドリーマーッ!?」
一瞬、ショルダーホルスターに手が伸びかかって……その豊満なバストを見て思いとどまった。いや、その判断の仕方もどうなんだろうと自分でも思うけど、だって仕方ない。
417もそうだけど、D08にいる人形はやたらデカいのだ。どことは言わないが。
私がN03で通信機越しに話したノーマルのドリーマーはもっと慎ましかったはずだから、アレは多分大丈夫なんだろう。
……ていうか、ヴィオラからさらにハイエンドを鹵獲してたのね。やり手というべきなのか、恐れ知らずというべきなのか。
まあ、武器の類も特に取り出してこないし大丈夫だろう。……一応、警戒だけはしておくけれど。
それはそれとして、417がバンの後ろに引っ込んだ。一体何があるのかと覗きに行ってみれば、バンに乗せるには不釣り合いなくらいに立派なキッチンだ。箱型の置物は多分冷蔵庫かなんかだろう。……電源とかの確保、大変そうだな。バッテリーの消耗激しそうだけど、どうやって賄ってんだろう。
そんなことを考えている間に、その後方のエリアにしまってあったらしいお品書きのブラックボードやら折り畳みテーブルや折り畳みの椅子なんかを417以外の人形達が用意する。
気が付いた時には、あっという間にバンの周りが野外カフェみたいな状態になっていた。
「はーい。座って座ってー。ママが良いもの作ってくるからさ」
「あ、うん……」
ドリーマーに着席を促されてしまった。ものすごく違和感があるというか、何とも言えない気分になる。
とりあえず、言われた通りに着席をすると隣の席に45も座らされていた。
「……相変わらず、破天荒というか常識外れっていうか」
「シーラ……アナタも大概だけどね?」
「えぇ? そんなことないでしょ。私別に鉄血を鹵獲したりとかはしてないわよ」
「前線に飛び出して来るバカはそうそういないと思うわよ」
N03のことかな。アレは仕方がないと思うんだ。あの時の編成ではE.L.I.Dに有効打を与えられるような装備を持っている子はいなかったんだから、保険でレールガン持ち込んだ私が行くしかなかったし。
まあ、クルーガーにも小言を言われたけれど本来私みたいな指揮官が最前線に武器もっていくなど言語道断だ。
そりゃあそうだ。部隊に指示を出す司令塔が自ら前線で戦って死にました、なんてジョークにしたって笑えない。
分かってはいる。分かってはいるんだけど、じゃあ黙って45達が死ぬのを見てられるかと言えば答えはNOだ。
結果論にはなるけれど、あの時私が行かなかったら皆は恐らく殺されていただろう。だから、あの時の選択が間違っていたとは思わない。
なんて難しいことを考えていたら、甘い匂いが漂ってきた。うん。小腹がすくようないい匂いだ。
「はーい、お待たせしましたー! アップルパイですよ!」
「おお……これは美味しそう……」
417が目の前のテーブルに出してきたのは綺麗な円形のアップルパイだ。見た目からしていかにも美味しそうなパイだし、匂いも良い。あ、ダメだ、ちょっとヨダレが……。
「ふふ、いつでも召し上がっていいですよ。おかわりもありますから」
「ホントッ? じゃ、いただきまーす!」
お、ちゃんとすぐに食べられるように切り分けてあったのか。これは助かる。
まずは一切れ、手に取ってゆっくりと口に運ぶ。パイを口に含んで、ゆっくりと噛み締めた。
サクサクとしたパイ生地に、しっとりとしたバター、甘いりんごの味がミックスされていて共美味しい。りんごはちょっとしゃくしゃくする食感なのも最高だ。
「うん、美味しい!」
「ふふ。良かったです。UMP45もどう?」
「ん。じゃあ私も頂こうかな」
いいぞいいぞー。この美味しさはぜひとも45と共有したいところだ。
パイを一切れ掴んだ45がぱくりとパイを口にする。味を吟味するかのような表情をしていた彼女の顔は、すぐに美味しいことに気づいたような表情になった。
「あ、美味しい……」
「んふふー♪ 腕によりをかけた甲斐があったね!」
417が得意げに胸を張った。……その大きな胸が存在を強調する。
ちらりと45の方を見れば、意外や意外。特にリアクションらしいものをしていなかった。まあ、イチイチ歯噛みとかをされてもね。
「何よシーラ」
「ん? なんでもない。ほら、早くしないと残りの分全部私が食べちゃうからねー」
言いながら、二切れ目に手を伸ばす。うん、これはバリバリ食べられそうだな!
「うっぷ……食べ過ぎた」
「シーラ……アナタ本当に甘いものになると加減が分からなくなるのね」
「あはは。満足してもらえたみたいで何より!」
それから小一時間後、調子に乗ってパクパクとパイを食べた私はきつめの満腹感にお腹を抱えていた。
でも、すごくおいしかったな。いつの間にかスプリングがレシピとか色々教わってたみたいだし、今後も楽しみだ。
そう言えば、忘れていたけどお代はいくらだろう。……もしかしたら、今月もちょっとひもじい生活になっちゃうかもしれないなあ。
「417、ご馳走様。お代は……」
「もう貰ってますよ」
「……? あれ、私前払いしたんだっけ?」
全く記憶にないんだけど。それとも、私が食べるのに夢中になっている間にスプリング辺りが払ってくれちゃったかな?
「ああいえ。お友達価格……じゃないですけど、まあ無償提供みたいなものですよ」
「え……いやそれはダメよ。ちゃんと払わせて」
「いやいや。正直このデリバリー、趣味みたいなものだから特にお代を貰うわけにも……」
「ダメよ。物を貰ったら対価を払う。そこは徹底しておきたいの。今後の良き関係の為にもね」
恩を売られるのが嫌とか、そういう捻くれた考えをしているわけじゃない。純粋に、いいものに対してもらいっぱなしじゃ私の気が収まらないというだけだ。
だから本当に無償で大丈夫だったとしても、お小遣い程度でも対価は渡しておきたい。
そんな感じのことを説明しながら、無理やりお金を握らせようとした。が、向こうも若干意地になっていたせいか手を開こうとしてくれなかったので、その豊満なバストの谷間にお札を無理やり突っ込んでやった。
若干ポロリをしそうになっていたけど、ぎりぎりセーフだから大丈夫でしょう。いやでも、おっぱいおっきいってああやってみると便利なのかな……?
小物がしまえるってそれはそれで便利な気が……いや、私の性格上絶対邪魔だって思うし、重たいのなんのって文句言いそうだから却下だな。
「ま、そういうコトでチップくらいは受け取っといてね」
「あはは……ハイ。それじゃあ、またいつか」
「ええ。そっちの指揮官にもよろしく伝えておいて」
やり切った感に包まれていると、急に後頭部に衝撃が走った。
「こっ、このバカシーラ! よそ様の人形になんてことしてんのよ!」
「痛いなあ! しょうがないでしょ! 417が手を開こうとしないんだもの!」
「だからと言ってアレはダメでしょ! ごめんなさいね、ウチの馬鹿指揮官が……」
「あー、慣れっこだからあれくらい。寧ろ、全然ぬるいというか……」
「「えっ……」」
「あっ……」
何とも言えない空気がその場を支配した。まあ、多分。そういうことなんだろう。
それじゃあ今度こそ、と苦笑いをしながら417達が車に乗り込んでいく。しかしまあ、綺麗になったなあ。なんというか、女性として。ちょっとうらやましい。
私も、いつかあんな風にちゃんとした女性然とした雰囲気をまとえるようになるのかな。自分でいうのもあれだけど、私はとてもレディとは言えないだろう。
基地の出口へと発信していくバンを見ながら、そんなおセンチなことを考えた。
「シーラ」
「なぁに?」
「シーラだって決めるときは決められる女性でしょ」
「……顔に出てた?」
45の方を向けば、彼女は小さく肩をすくめた。全く、私もまだまだ精進が足りないな。
あ、そうだ。今度あの子達が来た時は私からも何か振舞えるようにお菓子作りでも練習しようかな。
ユノちゃん達とも作ろうって約束してたし。
「その前に。今日の分の仕事をしっかり終わらせてからね」
……うぐぅ。
力技(セクハラ)
シーラさん、アンタそれでいいのか……
ムメイさん、今回はありがとうございましたmm