女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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夏なので一回くらいはこういう話があっても


地下の端の部屋

「指揮官、知ってる?」

 

 今日の仕事を終わらせて、カフェでまったりとココアを飲んでいると唐突にスコーピオンが話しかけてきた。

 

「どうしたの、スコーピオン」

 

 そう問いかけながらスコーピオンの方を見れば、彼女はどこか得意げな笑みを浮かべながら私の隣に座ってきた。

 

「いやさ、噂で聞いたんだけど……この基地って『出る』らしいんだよね」

「出るって、何が?」

「そりゃあ指揮官、幽霊だよ」

 

 近くの席で誰かが思い切りむせこむのが聞こえた。わーちゃんみたいだ。そちらを見れば、なんてことを話しているんだと言わんばかりにスコーピオンを睨んでいる。

 けれど、スコーピオンはまるで意に介していないかのように語り始めた。

 

「この基地って結構広いじゃん? 最近は人形も増えてきたから空き部屋とか使ってない部屋って減ってきたけど、司令室のある棟の地下の端。あそこってまだガラクタ置き場になってるよね?」

「あー。確かにあそこは私が来た時からずっとガラクタ置き場のままね。特に必要がなかったから、使わないもの放り込む部屋にしてるけど」

 

 スコーピオンの言うとおりだった。あの建物の地下には、未だにガラクタ置き場としてしか使っていない部屋が一つある。

 今何かしらの用途で使っている部屋から不要な家具とかが出た時、一時的な保管場所として使っていることもある。

 でも、言われてみればそうしているのにもかかわらず皆あの場所を避けているような気がしてきた。

 

「いやね、この間MP5があの部屋の近くで明らかにこの基地の人間じゃないものを見たって大騒ぎしていてさ」

「あぁ、フュンフにしては珍しく大騒ぎしているなって思ったらそれだったの」

 

 数日前、仕事中にやけに廊下が騒がしいと思って耳を澄ませていたらフュンフの声だったのを思い出した。騒いでた原因はそれか。

 近くの席からカタカタと音がする。ちらりと視線だけをそちらに流してみれば、小刻みに体を震わせているわーちゃんがいた。カタカタと音がするのは体が震えているせいで服の金具がテーブルにあたっているからみたいだ。

 

「私も、まさかそんなと思って昨日の夜ちょっと確かめに行ったんだよ」

「……よく考えたら不審者だったらヤバいんだから、私に相談しなさいよ」

 

 不審者なんて入れるはずがないものだけれど、例外は必ず存在するものだ。万が一っていう可能性もあることを考えれば報告をさせるべきだった。

 けれど、そんな私にスコーピオンが神妙な顔つきで首を横に振った。

 

「それは無いよ指揮官」

「なんでそう言いきれるの?」

「だってさ……」

 

 スコーピオンがそこで口をつぐむ。心なしか顔色が悪い様な気がする。何を見たのだろうか。

 いつの間にか周りにいる人形達も皆スコーピオンの話が気になっているのか、誰も話さず聞き耳を立てる様に口を閉じていた。

 穏やかなBGMとスプリングの食器を洗う音だけがカフェに響く。そんな時間が数十秒ほど続いた後、スコーピオンがゆっくりと口を開いた。

 

「いや、さ。指揮官、笑わないでよ?」

「ん? うん」

「私も、昨日見たんだよ」

「その『人影』ってやつ?」

 

 私の問いにスコーピオンは首を縦に振る。そうとなれば問題かもしれない。今からでも私が部屋を確認しに行くべきだろうか。

 

「いや、でもさ! その人影、変だったんだよ……」

「変って、何が?」

 

 どうにもスコーピオンらしくない。いつもの彼女ならこういう時パパっと見たもの聞いたものを伝えてくれると思うのだけれど。

 なんだか変だな、と思いながらもスコーピオンの言葉を待った。周りの人形達も、固唾を飲んでスコーピオンの言葉を待っているのが気配で感じられた。

 

「なんかさ。白くぼんやりとして見えたし、そのガラクタ部屋に入っていくのを見たんだけど……ドアを開けなかったんだよ」

「何それ。ドアをすり抜けて部屋に入っていったってこと?」

 

 私の言葉にスコーピオンが首を縦に振った。そんなバカな、と言いたいところだけどグリフィンだってPMCだ。今でこそ人形との戦闘がメインだけど、元々PMCってのは戦争、紛争に武力を提供する存在だ。つまり、大勢の人間を殺してきている。となれば、幽霊の一人や二人連れて来ていて、この基地に居ついてしまっていてもおかしな話じゃない。

 何なら、私についてきた霊かもしれないし。私だって、少ない数の人間は殺してる。勿論、相手は犯罪者ばかりだったけれど……。

 閑話休題。

 

「で、部屋の仲間で確認したの?」

「指揮官……流石の私でもそんな不気味なものを見た後で部屋の中を確認しようって気にはならないよ……怖いじゃん」

「まあ、それもそうか」

 

 そうは言っても、何かあってからじゃ遅いし確認する必要はあるだろう。

 あ、そうだ。折角こんな雰囲気だし、最近は暑いからちょっとお遊びがてら肝試しでもしてみようか。

 

「じゃあそうね。今日の夜、肝試ししよっか」

「肝試し?」

「そ。今日の夜、日付が変わるくらいの時間に例のガラクタ部屋に皆で行くの」

 

 スコーピオンが露骨にいやそうな顔をしている。辺りを見回すと、興味津々と言った表情をしている人形と、私と目を合わせない様にそらす人形とがそれぞれいた。

 

「今の話聞いてた人で興味ある子、夜の12時に基地の地下に降りる階段前に集合ね」

 

 そう言って、その場は解散した。

 

 

 深夜12時。私は宣言通り地下へと向かう階段の前にやってきていた。

 既に何人かの人形達が階段の前に待っている。

 待っていたのは45、M14、わーちゃん、スプリング、スコーピオン、フュンフだ。45はまあ……私のお目付け役だろう。別に夜更かしなんてしないってば。

 

「これで全部? 他に来る予定のありそうな子知ってる?」

 

 私がそう聞くと、全員がそれぞれにアイコンタクトをした後に首を横に振った。

 

「そ。じゃあ行きましょ」

 

 懐中電灯をつけて、地下への階段を下りていく。肝試しも兼ねているので、当然地下のフロアの電気は落としてある。元々使用頻度の高いフロアじゃないから、電気を消したところでこの時間帯に問題が起きることはない。

 階段を一段ずつ降りる。静かな場所に私達の足音だけが響き渡るのが、妙に不安感というかそういうモノを煽る……気がする。

 一段、また一段と降りて行ってやがて地下にたどり着く。

 件のガラクタ部屋がある方向へ、ライトを向けた。地下とはいえそれなりの規模があるフロアだ。懐中電灯の光程度で端まで照らせるということはない。ギリギリ、廊下の端まで光が届きそうだけど、そこまではもうボンヤリとしか見えない。

 ともかく、このままでは肝試しにならないのでゆっくりと廊下の端へと歩いていく。少しずつ廊下の突き当りが光に照らされてくる。人影のようなものは特には見えない。

 歩いている間、誰一人口を開かなかった。ただ黙って、歩き続ける。

 そうこうしているうちに廊下の端へとたどり着いた。ガラクタ部屋の前には誰もいないし、人影らしきものはかけらも見当たらない。

 肝試しとしては拍子抜けだけれど、それはおまけ的な側面である。私の本来の目的は、ガラクタ部屋の中に不審者がいないかの確認だ。

 万が一があってもいいように、ショルダーホルスターに1911を入れて持ってきているけれどいらない心配だと思いたい。

 ガラクタ部屋は文字通りガラクタがいっぱい入ってるから、普段はみだりに入室しない様にカギをかけている。なので、私は持ってきたカギを使ってガラクタ部屋の扉を解錠する為にカギをシリンダーに差し込む。

 

「……あれ?」

 

 解錠するときはシリンダーに差し込んだカギを反時計回りに回す必要がある。そう記憶していたはずだけど、シリンダーは反時計回りに回らない。

 おかしいと思って時計回りに捻ってみたところ、かちゃりというと共にシリンダーが回った。

 記憶違いだったかな、と思いながらドアノブをひねってみる。

 けれど、扉は開かない。思わず、ノブから手を放してホルスターの銃を抜いた。

 

「し、指揮官……?」

 

 後ろから誰かの怯えた声が聞こえた。

 

「……鍵が開いてた。誰か開けた? もしくは開けたって言ってた子知ってる?」

 

 振り返ると、皆首を横に振った。

 

「……一応、警戒しておいてね」

 

 あたりに緊張感が張り詰めて、皆表情が引き締まる。

 ライトを45に預けて、銃を構えながらゆっくりとドアノブに手をかける。

 そして、ゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

「で、結局どうだったんですか? 肝試し」

 

 後日、司令室で仕事をしているとそんなことをG36が聞いてきた。

 

「別に大したことはなかったわよ。ガラクタ部屋に不審者なんていなかったし、怪しい影も見当たらなかった」

「では、やはりスコーピオン達の見間違いでしょうか」

「どうかな。カギも、誰かが閉め忘れただけかもしれないし。危ないから施錠は徹底してもらうけどね」

 

 軽く笑いながら書類を捌いていく。

 実際、何もなかった。拍子抜けして、皆がため息を吐いたことをよく覚えている。その後ガラクタ部屋の鍵を閉めて、私達は解散することにした。

 行きはよいよい帰りは怖い、とは言うけれど帰り道も特に何もなかった。

 

 ……ただ、一つだけ気になることがある。

 皆には言わなかったけれど、あのガラクタ部屋。確かに人がいた形跡があった。使っていない部屋だから埃が積もっていたのだけど、その部屋の中心。そこに小さな手形がついていた。

 大きさからして、10に満たない子供の手だった。そんな子はうちの基地にはいない。いや、それくらいの年の見た目をした人形はいる。が、問題はそこじゃない。

 手形だけがポツリと、部屋の中心についていたのだ。あの手の大きさなら、どう頑張ったって何歩か歩かないとそこまでいけない。大人でも一歩は必要だし、仮に大人が二人がかりとかで工夫をすれば手形だけをつけるということは出来ると思う。でも、ついているのは子供の手形だった。

 だから、手形だけがついているというのは不自然極まりない。理屈による説明が出来ないのだ。

 

 ……もしかしたら、本当にあの部屋には何かがいるのかもしれない。

 




今日で丁度かしましおぺれーしょんが始まって6か月になりました。
時間が経つのは早いもんです。
まだ当分続く予定なので、これからもシーラさん達をお願いします!
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