女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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久しぶりなのでちょっと短め。


基地間合同演習

「別の基地との共同演習?」

『そうだ。今は鉄血の活動が比較的小康状態とは言え、いつまた活発化するか分からない。その為、今のうちにグリフィンの戦力や戦術を強化しようということだ』

 

 ディスプレイの向こうでそう語ったのはヘリアントスだ。まあ、彼女の言っていることも分かる。私も正規軍の頃に極まれにだけど、別部隊と合同で演習を行ったことはあった。

 でも、少々遅すぎやしないだろうか。いや、今までそういうことの意見具申をしなかった私が言うべき言葉でもないんだけどね。

 

「それで? どことやればいいの?」

 

 ヘリアンたちが合同演習のメンバーを決めるにしろ、私達が自分で決めるにしろ、お互いにあまり基地から離れずに済むような状態にしておきたい。

 いくら演習のためとはいえ、基地を長いこと開けてその間に襲撃をされてしまったら本末転倒だ。

 

『相手はもう決まっている。R05地区の新任の指揮官だ』

「新任の……? いいけど、なんで私が? 同じR05地区に指揮官って他にもいたでしょ?」

 

 私がそう問いかければ、ヘリアントスはちょっと苦い顔になった。……なんだ、変な無理難題でも押し付けられたんだろうか。

 

『向こうが貴官を指名しているんだよ』

「私を? 私、そんなにグリフィン内外で有名だったっけ?」

『何でも、貴官に命を救われたということらしいが。コリンズ指揮官に覚えはないのか?』

 

 私が命を救った……? そんな人、いただろうか。

 

「名前は? 聞けば思い出すかも」

 

 私の質問に、ヘリアントスが手元の書類に目を落とす。

 

『名前は……モイラ=シンプソンとあるな』

「あ、あー……あの子か……」

『筆記、人形指揮実技試験において優秀な成績を収めた指揮官だよ。指揮官への着任を希望した理由は、貴官に命を救われ、そして憧れているから……だそうだ』

「…………」

 

 今度は私が苦い顔をする番だった。

 

『……指揮官になったのは彼女の選択だ。たとえそれで戦場で死ぬことになったとしても、お前が責任を感じることじゃないだろう。シーラ』

 

 ヘリアントスが慰めるような優しい声でそう言ってくれたけれど、それで割り切れるほど私も器用じゃない。

 あの日、私は投身自殺をしようとしたモイラを救った。あの行動は間違ったことだったとは思っていない。見た感じ10代の女の子がむざむざ死ぬのを黙って見ているわけにはいかなかった。

 でも、そのせいで彼女はこの先死ぬよりも辛い目に遭うかもしれないのだ。少なくとも、普通の一般市民として過ごすよりはそういう目に遭う確率はずっと高くなる環境になる。

 私は、ああいう若い子をわざわざ死地に出向かせるような真似をするために彼女を助けたわけじゃあないのに……。

 とはいえ、来てしまったものは仕方がないだろう。それならそれで、悲しい思いや辛い思いをしない様に教えられることを教えるだけだ。

 

「それでも……出来ればあの子にはこんなところには来ないで欲しかったかな」

『ただでさえ人類は滅亡一歩手前だからな。ああいう若い子には生き急がないで欲しいとは、確かに私も思うよ。だが、上級代行官としてはああいう即戦力足り得る人材が確保できたのは嬉しいのも確かだ。……本当に、ままならないものだな』

「まあ、あの子が死なない様に私が教えられそうなことは教えておくわ。……それが、この世界に引きずり込んじゃった私の義務でもあるしね」

『シーラ……あまり、背負いこみすぎるなよ』

「分かってる。大丈夫、今は皆がいるから」

 

 言いながら、左手の薬指を撫でる。誓約の指輪のひんやりとした感覚が、けれども45との繋がりを感じさせてくれて温かさすら感じた。

 そうだ。一番にモイラに教えるべきは、これかもしれないな。

 一緒にいられる。それだけで、力が湧いてくるというか。拠り所になり得るパートナーを見つけること。私の場合は人形だったけれど、きっとこれは別に人間の威勢でもいいのかもしれない。さしずめ、愛を知ってもらうこととでもいうべきものかな。

 

『ともかく、仔細は追って知らせる。準備はしておいてほしい』

「承知したわ。連絡ありがとね」

「よろしく頼む」

 

 ヘリアントスがそう言って通信を切った。

 それを確認した私は、ついため息を一つ吐く。

 世界を守る。その為に第一線に立って戦うというのは、はたから聞けばカッコよく聞こえる。あるいは、名誉なことのようにも聞こえる。

 けれど、その実態は誰よりも人が死ぬのを見て、誰よりも辛い思いをする世界だ。勿論、戦うことで救えるものっていうのはある。むしろ、戦うことでしか守れないものもある。

 暴走した鉄血を前にして、戦う力のない普通の人間はただの動く的でしかない。どんな美辞麗句を持っていても、鉄血は説得なんてできないしその前に額に鉛玉をプレゼントされるのが関の山だ。

 だから、ああいう奴らを前にした時に戦う力と術を持っていなかったら、自分の命かあるいは大事な人が殺されるのを甘んじて受け入れるしかない。

 戦う力を持つのは決して悪いことじゃない。でも、必ずしも持つべきものだとは思わない。

 力を持つってことは、それ相応のリスクと責任が伴うってことだから。そして、それは20も行かなそうな女の子が持つにはあまりにも重すぎる。

 私だって、正規軍の時はアイツらがいたから何とか耐えられたようなものだ。一体、何度理不尽なことや辛い思いをして折れそうになったことか。

 まあ、一番折れそうだったのはそんな皆が目の前で死んでいって、なおかつ私もクソッタレ共の肉欲のはけ口にさせられた時だったけど……。

 

「シーラ。仕事は……シーラ?」

「……あ、よんごー」

 

 変なことを思い出してブルーになっていると、45が司令室に入ってきた。

 流石に付き合いが長いし、パートナーあってくれてるだけあっていつもと違うことにすぐに気が付かれてしまったみたいだ。

 

「大丈夫? 何か、いやなことでもあったの?」

「嫌なこと……ではないけどね。ちょっと、昔のことを思い出して」

「そう……じゃあこれ、追加の書類ね」

 

 言って、45はどさりと音を立てて書類の束をデスクの上に置いてきた。……結構な数あるじゃん。

 

「……そこは優しく抱きしめるなりなんなりで、私を慰めてくれるところじゃないの?」

 

 眉間にシワを寄せながらそんな文句を45に投げつければ、返って来たのは涼しい顔だった。

 

「感傷に浸れるくらいの無駄な余裕があるから変なことを思い出すんであって、仕事でそんな余裕を削ってしまえばすぐに忘れられるわよ」

「……一理あるけどさあ」

「ほら。ぶー垂れてる暇があったら手を動かして。早くしないと残業よ」

「分かったよぅ……」

 

 唇を尖らせながら、45が持ってきた書類に手を付ける。

 

「終わったらカフェで美味しいモノ食べましょ、シーラ」

「よし。やる気出てきた。今日は甘いパンケーキよ」

 

 45から誘ってくれるなんてなかなか無いレアイベントだ。気張っていこう。

 深呼吸をして、気合いを入れ直す。さあ、頑張りますかね。

 

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