女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
ヘリアントスから合同演習の話をされてから数日経った。
あれから当日演習に連れていくメンバーを選んだり、私達が不在の間の警備やらなにやらのスケジュールを調整が思いのほかごたごたして忙しかった。
そして迎えた演習当日。今、私達はR05地区のモイラ指揮官がいる前線基地に人形達を乗せてバンで向かっている。
今日のメンバーはM14、フュンフ、RO635、SOPⅡ、M16の5人だ。メンバーを決める時にまた演習で決めるとかになりそうだったのだけれど、時間かかりそうだったので私が無作為にクジで決めた。AR小隊が多めだけれど、こればっかりは運だから諦めてほしい。
また45には埋め合わせをしないとな、なんて考えていると進行方向にグリフィンの前線基地の建物が見えてきた。あそこがモイラがいる前線基地みたいだ。
正面ゲート前に到着すると、警備していた人形にバンを止められた。なので、私は車から降りて所属と訪問理由を明かす。
警備をしていたのは偶然にもM14とMP5だった。でも、うちの子達に比べるとまだまだ新米と言った感じの顔つきだった。
「R06地区のシーラ=コリンズよ。本日は演習のために来ました」
「話は指揮官から聞いています。……グリフィンのIDカードをご提示いただいてもよろしいでしょうか?」
「これでいいかしら?」
私の前に寄ってきたMP5にIDカードを渡す。MP5は私のカードの表裏をしっかりとチェックし、最後にポーチから小さなカードリーダーを取り出した。
取り出したカードリーダーに私のカードを通す。こじゃれた様な電子音がカードリーダーから響いた。どうやらカードの照合は無事済んだらしい。
MP5が顔を上げて、私にカードを返す。
「ありがとうございます。シーラ=コリンズ指揮官、お待ちしておりました! どうぞ、お通りください!」
MP5がそう言った直後、正面ゲートが開かれたのでバンに乗り込む。なんだか、ウチの基地に来たばかりのフュンフを思い出して、頬が緩んだ。あの子も、最初はあんな感じだったなあ。
「指揮官さま、今私が着任したばかりの頃のことを思い出してますね?」
「フュンフ……人の心を読むのはプライバシーの侵害よ?」
後部座席からフュンフのクスクスという笑い声が聞こえてきた。……いや、それ以外にも笑ってる奴いるな?
「指揮官さまが分かりやすすぎるだけですよ」
「指揮官、全部顔に出ますもんね」
「M14、そこは私に味方するところじゃないの?」
「いえ、事実ですし。今更取り繕ったってここにいるメンバーは皆指揮官のそういうところは把握してるんですから無駄ですって」
さらっと酷いことを言ってくれるわねM14!? うう……この間まで何があっても「大丈夫ですよ」って励ましてくれてたと思ったのに。反抗期かな。
「大丈夫ですよ指揮官。そういうところも含めて、私はアナタが好きですから」
「……フォローに見せかけて、フォローしてないわよねアナタ」
「あ、バレました?」
車内を小さいながらもそれぞれの笑い声で包まれる。皆、別の基地との合同演習だからと編に固くなったりはしていないようだ。まあ、ほとんどのメンバーがそれなりに場数を踏んできたのだから、今更演習程度でガチガチになられても困るのだけれど。
そうこう言っているうちに、正面玄関の前に到着した。
「さあ皆、着いたから降りてね。分かってると思うけど、あんまり相手を威圧する、失礼な態度をとるなんてことはしない様に」
「SOPⅡ、間違っても相手の人形を解体しようなんて言い出さないでね」
「あー、RO私のこと信用してないでしょ。私、そこまで見境ないキャラじゃないってば」
「ははは。ま、でも先輩よろしくちょっとは強めに揉んでやろうじゃないか」
「M16もです! あんまりあおるようなことを言わないでください!」
なんてガヤガヤ言いながらも、皆手早く荷物をまとめてバンから降りる。普段通りの会話をしながらも、その手元に一切のよどみがないのは流石と言ったところか。
私も念のための着替えやら貴重品、書類なんかが入ったバックを担いで車から降りる。
既にそこには、グリフィンの赤い制服に身を包んだ少女が敬礼をして待っていた。
「お待ちしておりました。シーラ=コリンズ指揮官! この度は私達の基地との合同演習にご参加くださり……」
「あー、そんな固くしなくていいわよモイラ=シンプソン指揮官。形式上は必要かもしれないけど、長いし面倒。どうせお偉いさんが見てるわけでもないし、そういう面倒なのは省きましょ」
私の言葉に、背後で大きなため息が聞こえた。ROだろう。気持ちはわかるけど、実際面倒くさいし時間の無駄だ。私の方が先達ではあるし、確かに新人のモイラが私に敬意を払う必要は組織としてもあるけれど、今日はマナー講座をしに来たわけじゃない。
そんな座学なんかは後でいくらでもできるし、どうせそのうちヘリアンの奴から叩き込まれる。今は演習を少しでも多くやりたかった。……モイラと、その周りの人形達が出来るだけ長く生き延びるための術を教える為の、演習を。
「あ、えと……じゃあ、シーラさんって呼んでも……?」
「いいわよ。まあ、立ち話もなんだし、早速演習についての話をしましょ」
「はっ、はい! よろしくお願いします!」
あー、何とも見事な敬礼だ。見てて清々しいくらいね。
まあ、気合いが入ってるのはいいことだ。入りすぎて空回りするかもしれないけど、それも経験のうちに入る。せっかくの演習だし、彼女達には酸いも甘いも体験してもらおう。
「それでは、皆さんをブリーフィングルームに案内しますね。ナガン、シーラさん達を案内してもらえる?」
「了解じゃ指揮官。それじゃあお客人方、年寄りの案内で済まぬがついてきてくれるかの」
モイラのナガンリボルバーがそう言って私達に背を向けたので、大人しくそれに従ってついていく。
基地の構造は流石にどこも同じようなものだった。地形とか立地の関係で廊下の距離とか幅に差はあれど、ブリーフィングルームまでの道のりはほとんど私のところと同じだ。
「さて、ここじゃ。指揮官が演習の資料を用意してもってくるから、それまで少しここでゆっくりしていてほしい。ワシは指揮官を迎えに行くが、何かあったら扉横の内線を使ってくれれば誰かが対応するぞ」
「丁寧にありがとうね、ナガンリボルバー」
お礼を言うと、ナガンリボルバーはにこりと笑って部屋を出ていった。
「で、指揮官的にはどうだったんだ?」
不意にM16が茶化す様な声色で私に声を掛けてきた。
「どうって、何が?」
「そりゃあ、命を救った相手なんだろ? その時と今、どう違うんだよ」
言われてさっき会ったモイラのことを考えてみる。とはいえ、久々の再会とは言っても顔を合わせていたのはほんの数分にも満たない時間だからまだ何とも言えないというのが本音だ。
「まあ強いて言うなら」
「言うなら?」
「実戦を知らない新兵、って感じだったかな。前との比較はちょっと難しいけど」
私の答えにM16はなおも笑って問いかけてくる。
「それじゃあ、今日はそんなひよっこたちに私達がシゴキを入れるって訳か」
「人聞きの悪い言い方はやめてよ。皆が生き残るためにはどうすればいいか、私の知る限りを教えに来ただけだってば」
そんな雑談をしていると、ブリーフィングルームの扉が開いて紙の束を持ったモイラが入ってきた。……まあ、資料を用意していると聞いたから予想はしていたけど印刷したのか。
「お、お待たせしました! 皆さんお揃いですか?」
「ええ。R06基地のメンバーは皆いるわ」
「では、これより本日の演習に関するミーティング……じゃなかった。ブリーフィングを開始いたしますので、資料をお配りしますね」
なんか、一般企業に紛れ込んだ気分だ。今まではこんな感じのブリーフィングしたことなかったからなあ。なんか新鮮かもしれない。
そんなことを考えていると、資料が配られた。紙の資料使うブリーフィングなんて初めてだ。私とかが今までやってきたのと、どんなふうに違うのかちょっと楽しみかもしれない。
「資料は行き渡りましたか? それでは、ブリーフィングに移りますね」
そうして、モイラを司会としてブリーフィングが始まった。