女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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アナタみたいに

 結論から言うと、当然だけれど演習は私達の圧勝だった。

 そりゃあ年単位で戦場に身を置く私と、最近になって初めて戦場を経験することになるモイラとでは経験値に大きすぎるほどの差がある。

 これで少しでも私が危ないと思うようなことがあるのなら、それはスーパーミラクルか私が油断をし過ぎているかのどっちかだ。先輩指揮官として、そんな情けない姿を見せたくはないし見せるわけにもいかない。

 なので、ちょっとかわいそうではあったけど持てる知識と技術と持って本気で叩き潰させてもらった。当然、モイラ含め彼女の部下の人形達は激凹みである。

 

「シーラさん……容赦ないですね」

「戦場での命のやり取りに加減は無いし、いつでも自分と同じかそれ以下の戦力と交戦できるわけでもないからね」

 

 言って、自然と手が下腹部辺りに行ってしまった。慌てて腰に手を当てるようなポーズに変えたけど、バレてないかな……?

 結局、あの時の私は弱かった。だから犯され抜いたし、腹に弾丸を撃ち込まれるハメにもなった。おかげで雌としての機能は死んだわけだ。

 この子にはそんな結末を迎えてほしくはない。だから、例え鬼と言われようとも出来ることは全部やる。そう決めている。

 

「さて、それじゃあさっきまでの演習の振り返りをしましょうか」

 

 私の言葉にモイラの背筋が伸びる。部下の人形達はまだ落ち込んでいるようで、視線が地面に縫い付けられてしまっているけれどまあいいだろう。

 

「とりあえず動きが単調ね。私達の部隊がいるところに正面から突撃。サイドから強襲をかけようとしていたのは良いと思うけど、ちょっと分かりやすかったわね」

「うぅ……あれ行けると思ってたんですけど……」

 

 モイラが眉をハの字にして落ち込んだような表情をする。確かに、相手も素人であればあの強襲は成功していたと思う。はぐれの鉄血部隊程度ならあれでも十分通用するだろう。

 でも、ハイエンドモデルとなるとそうはいかない。特にドリーマーみたいな指揮モジュールの優秀なタイプと鉢合わせでもしたら簡単に見破られるだろう。私だって、ああいう奴の裏をかけるかと言われれば自信は無い。

 

「強襲部隊に人員を割き過ぎたのが失敗だったわね。囮にする部隊の人数があからさまに少なかったら、すぐに気が付いたわ。まあ、今回は演習であることとお互いの戦力を把握しているからこそ気づいたともいえるけれど……」

「じゃあ逆に、こちらの戦力を悟られていなかったら有効ってことですか?」

「いい質問ね。その通りよ。例え自分の戦力が向こうに数で劣っていても、ああいう意識外からの強襲を成功させられれば相手を一時的にでも混乱させることが出来る」

 

 モイラが顎に手を当てて考え事を始めた。流石に試験で優秀な成績を残したと言われるだけあって、頭の回転は速いようだ。案外、私が教えられることなんてすぐに覚えてしまうのかもしれない。

 

「それじゃあ、今回の場合だったら高火力を出せるメンバーを正面に残しつつ、RFと中距離戦が可能なARとかで二つくらい別動隊を作って、合計三方向から攻撃をすれば……」

「いいじゃない。そうすれば私達は別動隊の位置の把握、それらの排除に正面の囮部隊への対応をしなくちゃならないくなる。タスクが一気に増えるから、混乱もしやすくなるしそれぞれへの攻撃の密度も落ちるわね」

「やった!」

 

 モイラが嬉しそうに小さくガッツポーズをとる。戦いの筋が良い、というよりは元から理屈で物を考えるのが得意な子なんだろう。とはいえ、今の戦法が完璧というわけじゃない。

 

「まあでも、その作戦をきっちり決めるには前提が最低でも二つはあるわ」

「え……っと。まずは自分の戦力が相手に悟られていないことですよね」

「そう。それともう一つ。こちらの動きが相手にバレていないことよ。高所にスナイパーなんかが陣取っていた場合、戦力を分散させていることや強襲位置がバレてしまうこともある」

「あ……」

 

 言われてみれば、とでも言いたそうに口を半開きにしたモイラがけれどすぐに再び顎に手を当てて考え込む。

 

「えーっと……そしたらスナイパーを警戒する為にこちらも見通しの良い場所にRFを配置……いやでもそうしたら強襲部隊の火力が減ってしまって、効果が……」

 

 悩んでる悩んでる。でも、そうやって悩んだ末に出した結論は成功しようが失敗しようが必ず糧になるものだ。

 彼女には今日、たくさん悩んでもらうことにしよう。

 

 

 

「お疲れ様。今日の演習はここまでね」

 

 あれから何度もモイラのトライ&エラーに付き合っていたらあっという間に演習が終わる時間になっていた。

 正直言って、指揮官としての優秀さであれば遠くないうちにモイラは私を超えるだろう。そう思わせてくれるくらいには知識の吸収速度や成長速度が早かった。

 頼れる戦友となってくれそうな彼女と出会えたことの喜びの反面、その優秀さが仇になって早死にするような事態にならないかが不安で仕方がない。

 いや、そんな風に考えるのは彼女に対する侮辱になるか。モイラは優秀だ。それは間違いない。だから、ちょっとトラブルに巻き込まれたくらいで倒れるようなことはないだろう。

 それに、彼女は私よりも一般社会での経験が豊富だ。少なくとも、PMCではない一般企業に勤めていた経験がある。となれば、その辺りの立ち回りも私よりうまくやれるだろう。

 大丈夫。私が心配する必要は、そんなにないはずだ。それに、彼女のことを心配する前に自分達のことを心配しないと。

 今のご時世、人のことを心配する余裕なんてあまりないのだ。明日は我が身、なんて言葉が日本にはあるように、明日には私達が鉄血に攻め込まれて死んでいるかもしれない。そういう世界なのだから。

 

「シーラさん、今日はありがとうございます。おかげで色んなことを学べました!」

「そっか。大丈夫、モイラならすぐに一人前の指揮官になれるわよ」

 

 私がそう言って微笑めば、モイラは照れ臭そうに頬をかいてはにかんだ。

 

「えへへ……いつか、私もシーラさんみたいになれるでしょうか」

「っ……そう、ね。アナタなら優秀と言われる指揮官になれるわよ」

 

 私のように、と言われて思わず顔が引きつりそうになってしまった。私は、そんなに高尚な人間でもないし、出来た人間でもない。嬉しくないと言えばウソにはなるけれど、それでもやっぱり素直には喜べないものだ。

 それなのに、そんな私の内心を知ってか知らずかモイラははにかんだまま更に私の心をかき乱すような言葉を口にした。

 

「あ、いえ。優秀とか、そういうのはどうでもいいんです。私は、あの時の私のように辛くて死んでしまおうとする人に自分の身をかえりみずに助けに来てくれた、シーラさんみたいになりたいんです」

「…………私が言えた義理じゃないけど、自分のことはちゃんと大事にしなさいよ。私達の命は、私たち自身だけのモノじゃないからね」

 

 辛うじて。本当に辛うじてそれしか言えなかった。

 私は、あの時飛び降りるのだと言っていたモイラを放っておけなかった。かつての仲間が、アイツらがそうしていたように私だって誰かを救いたいと思っていたから。

 もしかしたら、それはとんでもない思い上がりだったのかもしれない。

 だって結果として、私は今一人の若い少女を死地に引きずり込んでしまったのだ。それも、他者の度を超えた悪意を知らないような純粋な子を。

 私は、顔や素振りで相手がどういう人間かなんとなくでも掴めるからまだいい。特に血の匂いとでもいうべきか、殺しに関わるような奴らのことは良く分かる。

 でもモイラは多分そうじゃないだろう。そんな彼女が、私のようになろうとしたのならあっという間にその善意に付け込まれてしまうかもしれない。

 

「ねえ、モイラ」

「はい?」

「…………あんまり、無茶はしないようにね。困ってそうだからって、誰も彼も助けようとかもできればしない方がいいわ」

 

 私の言葉に、モイラは一瞬キョトンとした表情を浮かべる。けれど、それはすぐに明るい笑顔に取って代わった。

 

「大丈夫ですよ! 私だって、別に無菌室で育ってたわけじゃないですから。ヤバい奴の見分け位はつきますって!」

「そう? ……ま、頑張ってね」

「シーラさんも。そうやって先輩面ばっかりしてると、すぐに追い抜いちゃいますからね!」

「あら、言うじゃない。ま、頑張りなさいルーキー」

 

 そう言って、私達はどちらともなく笑い出した。

 ああ、もしかしたら私はモイラに気を遣わせてしまったかもしれない。早速先輩失格案件だなあ、これは。

 

「さて、それじゃあ私達は帰ろうかしら」

「あ、それなんですが」

 

 荷物を詰め込んだバッグに手を伸ばしたところで、モイラから待ったがかかった。

 

「どうやらこれから天気が大荒れらしいので、ちょっと危ないかもですよ」

「え、そうなの?」

 

 一瞬モイラの冗談かと思って、傍にいたフュンフへ視線を送れば彼女は首を縦に振ってきた。

 

「モイラ指揮官の言う通り、これから大雨のようですよ」

「あちゃー……無理に帰るのはちょっとやばいかしら」

 

 私の言葉に、モイラがニコニコして私の腕を掴んできた。いや、抱きすくめてきた。

 

「この基地、結構山に近いですし最悪土砂崩れとか起きるかもしれません。だから、シーラさん?」

「な、何かしら……?」

「泊っていきませんか? 私、まだいろいろ聞きたいことがいっぱいあるんです!」

 

 ……忘れてた。この子、割とクレイジーサイコレズ的な気がある子だった。

 まあ、万が一があったら私としても良くない。泊めてくれるというのなら、好意には甘えよう。でも、体は許さないぞ。

 

「大丈夫ですよシーラさん。私、人のモノを取る趣味はありませんから!」

 

 モイラ、そのセリフは私の腕に抱き着いて言っても説得力は無いのよ……

 

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