女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
モイラの基地との合同演習後、悪天候による事故のリスクを考えて彼女の基地に厄介なることを決めた私は司令室の通信機を借りてR06基地の司令室に連絡を取っていた。
数回のコール音の後、モニターにG36の顔が映し出される。
『はい。こちらR06基地……あら、ご主人様。いかがされましたか』
「ああ、G36。R05地区の天気予報って確認したかしら?」
『いえ、まだ確認しておりません。……何か問題でも?』
「ええ。どうやらこれから大雨みたいでね。ここ、山間部でもあるから土砂崩れとか視界不良からくる事故や奇襲のリスクを考えて、一晩こっちに泊まることにしたの」
私の言葉にG36は裏で天気予報を検索していたのか、一瞬考えこむようなそぶりをする。
やがて確認が取れたのか、真っすぐとこちらを見て首を縦に振った。
『どうやらそのようですね。承知いたしました。こちらのことはお任せください。特に問題は起きていませんし、急を要する案件もございませんから』
「悪いわね。じゃあ、他の子達にもその旨伝えておいてもらえる? あ、あともう一つ」
『なんでしょうか』
「45に、『今度埋め合わせする』って謝っておいて」
本当は、帰った後45と一緒にカフェでまったりする約束だった。けれど、そもそも帰れないのだから約束を守ることが出来ない。
本当は、直接謝った方がいいんだけど……最初に通信に応じたのはG36ってことは45は司令室にいないんだろう。また、帰ってからちゃんと謝らないとな。
『ふふ。承知いたしました。それではご主人様、お気をつけて』
「アナタ達も。何かあったらここに連絡してね」
『承知いたしました。それでは』
通信が切られ、モニターが真っ暗になる。思わず、ため息が漏れてしまった。
「45って、シーラさんの彼女ですか?」
「ああ、モイラ。通信機貸してくれてありがとね。で、45だっけ? 私の嫁よ」
言いながら、左手薬指の誓約の証を見せる。
それを見たモイラは目を輝かせた。
「わぁ! それが誓約の証ってやつですか!? そういうシステムがあるってヘリアントスさんから聞いてはいましたが、実物は初めてみました!」
興奮してこちらへ前のめりになってくるモイラに、思わず上半身をそらしてしまう。すごいな、なんか私の知らないタイプの女の子かもしれない。強いて言うなら9とフュンフを足して2で割れるかどうかみたいな。
「それで、二人のなれそめは……って、それを聞く前にご飯にしましょうか。もういい時間ですしね」
「え、ええ……そうね。ここは食堂あるの?」
「雨で外に出れなくなるような立地ですよ? あるに決まってるじゃないですか」
「それもそうか。じゃあ、行きましょう」
待ってました! と言わんばかりに笑顔を咲かせたモイラに私も微笑みかけて、私達は食堂への道を歩き始めた。……ただし、モイラが私の腕に引っ付いて。
食堂で皆と一緒に夕食を共にした後、私はモイラに連れられて基地内のバーに連れてこられていた。どうやら、前線基地の指揮官が缶詰になりやすいことを上も把握していたらしく、せめてもの気晴らしにとカフェ&バーを作るのがデフォルトになっているようだ。
「シーラさんはお酒飲めるんでしたっけ?」
「飲めるわよ。あまりに強くは無いから、たくさんは飲まないけど」
「私、この間ようやく20歳になったから大手を振って飲めるようになったんですよねー」
ああ、やっぱりこの子はそんなに若い子だったのか。……いや、余りそれを考えるのはよそう。せっかくの酒がまずくなるだろうし、彼女の生き方にケチをつけることになってしまう。
「ご注文はいかがいたしましょうか」
「あ、えっと……あれ、アナタ人間?」
「ええ、まあ」
顔を上げれば、栗毛色の髪をローポニーでまとめた小柄な女性がバーテンダーの服に身を包んで立っていた。グリフィンの人形に、こんな見た目の子はいなかったはずだった。
強いて言うならスプリングがローポニーにすれば一番近いだろうけど、体格が全然違う。
「珍しいわね、前線基地のバーのスタッフに人間がいるなんて。あ、じゃあカルーア・ミルク一つ。モイラは?」
「せっかくですから同じのをもう一つ」
「かしこまりました」
バーテンダーが注文したカクテルを作り始める。……慣れた手つきだ。どうやらずぶの新人って訳ではないらしい。
「ねえバーテンダーさん。アナタ名前は?」
「ラムです」
「OKラム。……アナタ、バーテンダーとしてはそれなりに経験あるみたいだけど、どうしてこんなところに?」
私の問いに、バーテンダーは薄く微笑みながらこちらを見返してきた。
「大したことじゃありませんよ。働いていたバーがつぶれて、路頭に迷っていたら丁度グリフィンの基地内に併設されてるバーのスタッフの求人が出ていた。それだけです」
「あら、じゃあ幸運だったって訳ね」
「そうですね。おかげで衣食住に困ることはなくなりました。……カルーア・ミルク2つです」
「ありがと。じゃあモイラ」
モイラと私、二人共グラスを手に取って顔を見合わせる。
「乾杯」
「乾杯!」
グラスを軽く打ち合わせると、綺麗なカチンという音が小さく響いた。
そのままグラスを傾けてカクテルを口に含む。滑らかな舌触りと、ほんのりとした口説すぎない甘味が口いっぱいに広がった。
「ん……美味しい。いい腕ね、ラム」
「ありがとうございます。お気に召していただいたようで何よりですよ、ミス・コリンズ」
「あれ、私自己紹介したっけ?」
首をかしげると、ラムは小さく微笑んでモイラの方を見た。
「シンプソン指揮官がここに来るたびにアナタの話をするものですから。昨日なんかはずっとはしゃいでましたよ。今日はアナタが来るだって」
「ちょっとラム! それは言わないでよ!」
咎めるようにモイラがラムのことを睨みつけるけれど、当のラムはまるで気にしていない様に肩をすくめた。どうやら相当聞かされていたらしい。
どんな話を聞かされていたのかはすごく気になるけど、聞かない方が私の為の様な気がする。主に、羞恥心を刺激せずに済むという方向性で。
「お聞かせいたしましょうか? 私が毎日どんな話を聞かされていたのか」
「……アナタ、私の心の中でも読めるの?」
タイミングが良すぎる。何故バレた。
「ふふ。顔に書いてありましたよ。『なんて話を聞かされたのか気になるけど、ちょっと怖いから聞くのをやめておこう』って」
「…………」
今度は私がラムを咎めるように睨む番だった。ラムはと言えば、私の反応が面白いのかクスクスと笑っている。うーん、先輩指揮官としての威厳とかも形無しだなコレ……
「全く……まあいいわ。それで、ラムから見てモイラはどんな子?」
「ちょっと、シーラさん! 何怖いこと聞いてるんですか!」
「いいじゃない、別に。こういう話はこういう時に聞くもんでしょ」
言って、再びカクテルを口に含む。……うん、美味しい。気を付けないとぐいぐい飲んで酔っ払っちゃいそうだ。
「で、どうなのラム」
「そうですねえ。まず若いですよね。最近20歳になったばかりだと聞きますし」
「ぴちぴちの20歳ですよ!」
「あととても賑やかな子だと思いますよ。彼女の周りって、いつも賑やかですし」
「……ねえ、ラム。それ、褒めてるのよね?」
怪しむ様にモイラが目を細めながらラムを見つめる。ラムはクスクスと笑いながらそんなモイラを見返した。
「ええ、褒めてますよ。アナタは前の店にいた様なロクデナシ共に比べればずっと愉快でいいお客ですから」
「そ、そう? えへへ。じゃあいいかな」
ちょろいな……大丈夫だろうか。悪い人に騙されたりしそうでおねーさんちょっと心配。
「シーラさん! 今日はいっぱい、お話しましょうね! ラムもいるし、きっと楽しいですよ!」
でもまあ、本人がこうして楽しそうに笑っているんだ。今日は、それでいいのかもしれない。
「ええ。お互い、明日二日酔いで死なないように注意をしながらね」
「私としては、どんどん飲んで売り上げを上げたいところですが」
「ラム……じゃあ、私のところの人形も呼ぼうかしら。一人、お酒が好きな子がいるのよ」
まあ、余所様の基地の中だしM16もそこまでハメは外さないでしょう。それに、他の子達もそれなりには飲む。……ROだけは自分がストッパーに、って言って飲まなさそうだけど。
ま、いいや。せっかくだもの。楽しい夜にしましょう。
そんな風に決心を固めて、私は懐の端末に手を伸ばした。
どうか、こんな夜をまた迎えられますように。