女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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アナタが一番

 モイラの基地で大雨をやり過ごし、翌朝私達は彼女達に別れを告げて自分達の基地へと帰ってきていた。

 道はぬかるんでいたし木の枝なんかも折れて地面に転がってはいたけれど、幸いにも土砂崩れで立ち往生をするということは特にはなかった。

 帰り道で鉄血やならず者の襲撃を受けるようなこともなく、出発した時と同じように基地に帰ってきた私を司令室で待っていたのは45とその補佐についてた416だった。

 

「ただいま、45。それに416も」

「ええ、おかえりなさいシーラ」

「お疲れ様です指揮官。……M16、アナタ指揮官に迷惑なんてかけてないわよね? 特に、アルコールを飲みすぎたとか」

 

 刺すような視線を投げかけてくる416に、M16はと言えば飄々とした態度で笑うだけだ。

 

「おいおい。いくら私でも出先で位はちゃんとやるさ。そういうお前はどうなんだ416。変に肩に力入れて問題を増やすようなことはしていないだろうな?」

「私は完璧よ。そんなことあるはずないでしょう」

 

 んー、これはこれで仲のいい二人を眺められるからいいんだけど、この場で続けられるのはちょっと困るかな。続きはカフェででもやってもらおう。

 

「はいはい。二人ともそこまで。とりあえず私も今回の出張についてまとめなきゃいけないこともあるし、それをこなすのにこんな大人数も必要ない。カフェで甘い物でも食べてきなさいな」

 

 私の言葉にM16はそらみたことかと言わんばかりに肩をすくめ、416はムスッとしながらも一旦は矛を収めることにしてくれたようだ。

 その他のメンバーもそれぞれ司令室を後にしていく。部屋に残ったのは、私と45、416だけになった。

 

「ふぅ。さあ、ちゃちゃっと報告書をまとめるとしますか」

「ええ。416、アナタもカフェで休んでくれば?」

「いえ、報告書がまとまるまで私もここにいるわ」

 

 ん? 報告書をまとめるったって最悪私一人でどうにかなるし、手伝いをするにしても45が一人いれば十分だ。というか、それ以上の人数がいたところで手が付けられる場所もない。

 

「ハァ……指揮官。私がいなかったら、だれが仕事を放り出してイチャつきだすアナタたちを止めるというんですか?」

「……流石にそんなだらしないことはしないってば」

「シーラ……否定するなら間をおかないでしっかり答えてよ……」

 

 うるさいな。そもそも416が変なことを言わなければそんなことを考えることもなく普通に仕事が出来ていたかもしれないのに!

 でもまあ、確かに言われなくても416が懸念した事態にならないとは自信を持って言えないのが痛い。

 自分の基地で45を待つことには慣れていたけど、知らない場所で45のいない夜を過ごしたのは久しぶりだってことに昨日気づいたのだ。私はあまり外泊をしないから。

 だから、正直に言うとちょっと落ち着かなかった。具体的には寝つきが悪かった。結局ちゃんと寝つけたのは日付が変わってからしばらくしてからだった気がする。おかげで今日は寝不足だ。45に甘やかしてほしい。

 まあ、落ち着かない理由はもう一つあったんだけど……

 

「指揮官? 大丈夫ですか」

「え? あ、うん。ちょっと考え事」

「シーラ、昨日何かあったの? ……まさかと思うけど、あの新米に変なことされてないわよね?」

「さ、されてないってば」

 

 やば、一瞬つっかえちゃった。……うわぁ、45の目が怖い。やめてよ、ホントに何もしてないのに。

 

「シーラ?」

「……はい。白状します」

 

 うぅ……悪いことをしたわけじゃないはずなんだけど、なんでこんな縮こまってるんだろう私。

 

「……モイラに抱き枕にされて寝ました」

「ハァ……どうせアナタのお人好しが出たんでしょうけど……一応理由を聞かせてもらおうかしら」

「いや、あの子ったらべろんべろんになるまで飲んでたから放っておけなくて……担いで彼女の部屋のベッドに寝かせたら、そのまま組み付かれたの」

 

 アレは本当にびっくりした。無理に振り払うこともできなくはなかったんだけど、まあ抱き着いてくるだけだったし……。

 

「相変わらずお人好しね……お酒に酔って部屋を汚すのも自己責任でしょうに」

「先輩指揮官として止められなかった私にも責任があると思ったの」

「シーラ、それが甘いって言ってるの。大体、アルコールが飲める年なんだったらそれくらいは自分でコントロールできて当たり前でしょ」

「うぐっ……」

 

 私も時々羽目を外し過ぎて翌朝地獄を見るってことがあるから、耳が痛い。

 

「あら、それなら45。アナタも自分をコントロールして、業務時間中に盛るような真似をする指揮官を止めないと行けないわね?」

「んなっ!? よ、416! 最近はちゃんと我慢……じゃなくてそんなことしてないわよ!」

「45……今ので完全に自白したようなものでしょうが……」

 

 あーあ、もう二人そろってズタズタだ。416の視線が生温いものでとても心に刺さる。

 よ、よし。とりあえず今日のところはしっかり仕事をしてしまおう。うん。そうすれば416の生暖かい視線からも逃げられる。

 

「とりあえず……私報告書まとめちゃうね」

「あ、私手伝うよシーラ」

「やれやれ……」

 

 クッソ、416め。そのうち絶対仕返しをしてやるからな。

 でもその前に、ちゃんと出張の報告書はまとめてしまわないと。

 頑張れば1時間もかからずに終わらせられるだろう。さっさと終わらせて、45とカフェで甘いものでもつつきたい。

 

 

 

 あれから416の監視の元、私達は黙々と報告書をまとめ上げてヘリアントスに向けてデータをアップロードした。

 これで晴れて今日の残り時間は自由時間になったので、私と45はその足でカフェへと向かうことにした。416は部屋に戻ってゆっくりするらしい。……なんか、変に気を遣わせたみたいでちょっと申し訳ない気もした。

 特に二人共会話をするわけでもなく、カフェへの道を無言で歩く。

 けれど、不意に指先に温かい何かが触れた。それが45の指先だってことはすぐに分かったから、特に躊躇うこともなくそのまま自分の指を絡めて手を繋ぐ。

 

「……温かいね、シーラの手」

「45だって温かいよ」

「あのモイラって子と、どっちが温かい?」

 

 うわ、また意地の悪い質問だし、私を試す様に笑ってるなこの子。

 まあ、だからと言って別に私は返答に困ったりはしないけど。

 

「例えば私が『モイラの方が温かった』と言ったとして、よんごーは私に対して幻滅するの?」

 

 私がそう問い返せば、45はちょっと困ったように眉尻を下げながら唇を尖らせた。なんだこれ、可愛いか。

 

「幻滅はしないけど……ちょっと妬ける」

 

 ん"ん"っ! これは破壊力の高いことをまた……!

 でもそっか。妬けちゃうのか。じゃあ、45のことを安心させてあげないとね。

 

「よんごー」

 

 手を繋いでない方の手を45の頬に添えて、私の方を向かせる。

 私の目と45の目が合ってすぐ、私は自分の唇を彼女の唇に重ねた。

 ぴくり、と45の体が震えたけれどソレも直ぐに収まる。そして、もっととねだる様に唇を押し付けてきた。

 そうしてたっぷり1分くらいキスをして、どちらともなく唇を放す。部屋じゃないので、間違ってもお互いの間に銀色の橋がかからない様に気を付けながら。

 

「これで安心した?」

「……シーラ、TPOって知ってる?」

「ねだる様に唇押し付けてきたくせに何言ってんの」

 

 頬を上気させて責める様に睨む45だけど、その目に眼力はおおよそ籠っていない。廊下のど真ん中でキスをした、という公私混同気味な行為に対してとりあえずは副官として咎める姿勢を取っておこう、ということだろうか。

 最も、その姿勢が私の心に響くかと言われればはなはだ疑問ではあるけれど。

 まあとりあえず、カフェには行こう。そう思って私は45の手を引いて歩き出す。

 ああ、でも。さっきの質問の答えをまだ聞いてなかったな。

 

「……で、どうなの?」

「何が?」

「さっきのキスで、アナタへの気持ちが揺らいだりしないって分かってもらえたと思うんだけど」

「……あんな程度じゃ証拠不十分よ。もっといっぱい証拠を出して」

 

 おやおや。これはまたワガママな。それじゃあ続きはカフェで甘いものを食べながらゆっくりと証拠品提出としゃれこもう。

 やっぱり、45とこんな風に過ごすのが好きだな。モイラには悪いけど、やっぱり手を繋いだり抱き着いたりして満足できるのは45だけだ。

 

「ふふ」

「何よシーラ。突然ニヤニヤしだして」

「んーん。何でもない。ほら、カフェについたよ。今日は何食べよっか?」

「パンケーキを二人でシェアとかどう?」

「賛成。じゃあ今日はコーヒーでも頼んでみようかな」

 

 今夜は充実したひと時が過ごせそうだな。……あんまりハッスルしないように気を付けよう。




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