「………」
『あの山崎さんを怒らせるなんて、ホントに凄いよ鉄クン』
鉄が部屋で着替えていると
縁側でサイゾーと遊んでいた早弥が話かける
隣にいる沖田は黙っていた
「…あの野郎思いきりひっぱたいてふり返りもしねぇで立ち去りやがった」
鉄の頬には叩かれた跡
「「仕事をなんだと思っている」だの「なんの為の小姓や」だの、分かった様なこと言いやがって」
ブツブツ文句をもらす鉄だが
「あの浪人達が長人だということ、気付いてましたか?」
沖田の問掛けに目を見開き、顔を左右に振る
「おそらく桝屋も関係してるでしょう」
『今回の騒で他の長人に少なからず警戒心を抱かせてしまいました。山崎さんといえどいまだちを隠せなかったんでしょうね』
そう言われて鉄は汗を流す
「…そりゃーー…勢いでツッ込んじまった俺も悪かったけどサー」
少しは反省していた鉄だが
「でも!あれは絶対長人共の方が悪かったぜ!?」
自分の考えを二人に言い
「そりゃあ、そうですとも」
二人もその意見には賛成だった
けど
『おかげでうち二人は「正義の浪士にお仕置き」され』
「浪士?」
「残る一人は「新撰組の沖田と早弥に斬られ」ました」
その真実を聞いた鉄は一瞬二人が何を言っているのか分からなかった
「……は、また…何言って」
冗談だと言ってほしくて沖田と早弥をみるも
二人の目は嘘をついてなかった
「…なんでですか」
そう言うと走り沖田の胸ぐらを掴んだ
「なんで…
なんで殺したんですかッ!!?」
『鉄クンやめて!』
早弥が言うもその手は離れない
「もう勝負はついてたじゃないですか。逃がすでも捕まえるでもすれば良かったじゃないですか。それなのになんで!?なんで…」
手が震えるなか沖田に詰め寄るが
『…あの人は運が無かったんです』
「「正義の浪士」に扮した私達にではなく。「新撰組の沖田と早弥」に剣を向けてしまった」
「……なんだよ、それ…」
意味が分からない鉄
その側には、怒り鳴いているサイゾーがいた
『桝屋にはおそらく幾人かの長人が潜んでいると思われます』
そんな中、早弥は鉄に分かる様に説明し始めた
『お仲間がいきなり店の前で騒を起こして潜んでいた方々はさぞ肝を冷やしたでしょうね。だけど新撰組もその騒ぎの為に出動する訳にはいかなかったんです』
「新撰組がやってくれば彼らは間違いなく逃げ出してしまうでしょうからね」
『かといって、放っておけば鉄クンの命が危ない…』
鉄の手が離れる
それでも二人は話を続ける
「そこで、私・雫・永倉さん・原田さんの四人は〝浪人〟として割り込み、「浪人同士の喧嘩」として騒ぎを終わらせる行動をとったんです」
『永倉さんと原田さんは予定通りにことが済みましたが…私と総司は…』
「………」
二人の話に固まる鉄
けどまだ納得できない
「…新撰組だってバレたからって…何も殺さなくたって…!!」
『逃がせば仲間に報告されてしまいます』
「かといって刀をつきつけて屯所まで連れていく訳にもいかないでしょう」
そこまで言われて鉄は気づく
「…俺が、二人の名前を呼んだから…」
「あなたは悪くありません。…運が無かった。それだけのことです」
その言葉に鉄は反応した
「…「それだけのこと」?」
沖田と早弥は背を向け続ける
「人が一人殺されたことが…「それだけ」?」
鉄は二人に問掛ける
「長人だって「人の子」じゃないですか。「人の親」じゃないですか」
「ええ、ですが…」
そこでやっと二人が鉄に顔を見せた
『私達は「人の子」ではありません』
だが
「『私達は「鬼の子」ですから』」
振り向いた二人の顔は、いつだか血に汚れて自分を睨んだ土方の顔と重なって見えた
「………」
鉄は、ただ震えている事しかできなかった
そんな鉄に
『鉄クン』
「一つあなたに、教えなければいけないことがあります」
一枚の紙を見せた
.
─パラ…
「局中法度
土方さんが考え出した、まさに鬼の隊規…」
「新撰組において絶対の〝支配者〟です」
その内容に背筋が凍る
『…「一、士道ニ背キ間敷事」』
「一、局ヲ脱スルヲ許サズ」
『一、勝手ニ金策致ス可カラズ』
「一、勝手ニ訴訟取リ扱ウ可カラズ」
『「一、私ノ闘争ヲ許サズ」…』
「右条々相背ク候者ハ」──…
〝切腹〟
〝申付べク候也〟
「…〝士道〟において敵を仕損じることは許されません」
沖田と早弥の話を真剣に聞き続ける鉄
「新撰組として刀を抜くということは、敵か己か、どちらかが死ぬということ」
『…「小姓」という仕事は唯一その危険を回避出来るものだったんです』
早弥の言う事に山崎の言葉が蘇る
─だから…!!
なんの為の小姓やねん…
「しかし」
沖田は紙に手を置き鉄に話かける
「選ぶのはあなた自身だ」
鉄は黙って聞いていた
「強くなりたいのなら」
『仇を討ちたいなら』
「『人を捨てて剣をとりなさい。──…今一度』」
───鬼となる覚悟を
決める刻です…───
.
――――
―ギシッ
――えーと…確かこの辺りだな
たくさんの書類を持ち廊下を歩く辰之助
すると、手前の部屋から鉄が出てくる…
「!!あっオイ鉄――!!なんだこんな所に居たの…」
―ぼす バサバサッ
鉄が辰之助の懐に頭を当てる…
その衝撃で辰之助の抱えていた書類が数冊落ちる
「ああッι大事な書類がーー!!おい鉄なんてこと…―――
――…今度は何してきたんだ…?」
涙を流す鉄を見て優しく問う辰之助
.