やっと最近ろくでなし十一巻読みました!
イブが可愛かったです!でもこのヒロインは変えないぜ!!
どうにか勝利を手に入れたシンシアは、現在観客席ではなく先程までいた広場にいた。さすがにあれだけ動いた後に、あれほどの歓声が飛ぶ観客席にいては休憩したくても出来ない。
シンシアはちょうどいい木を見つけ、それに登って一休みしていた。
(今頃ルミ姉の『精神防御』か...)
ふと今行われているであろう競技へと意識を向けた。ルミアは今回『精神防御』に出場する選手の中でも、唯一の女子だ。そのため注目度も高いのか、会場からは大きな声が聞こえてくる。
(ルミ姉なら大丈夫だろ...すんげぇ肝座ってるし...)
ルミアはテロリストが校内にやってこようと、動揺一つ見せずに行動する精神力の持ち主であるし、小さい頃からルミアを見ているシンシアから言わせてもらっても、十分いい成績を残せるだろう。
(やべ...これだけ暖かいと眠くなるな...)
ちょうどよい気温に、いい具合に疲れた体がシンシアのまぶたを重くしていく。
(シス姉にも休んで良いって言われてるし...ちょっと位寝てもいっか...)
そう思いながら、シンシアは重くなる瞼になにか抵抗するわけでもなく、流されるがままに瞳を閉じる。
そこから薄れていく意識に身を任せ、シンシアは眠り始めた。
ーーー
シンシアが目を覚ましたのは、シンシアが登る木の下辺りが騒がしくなり始めたからだった。
シンシアはどうにか目を開け、木の下へと視線を移す。
(は!?!?)
そこで見た光景は、この国アルザーノ帝国女王であるアリシア七世が王室親衛隊に囲まれている所だった。
(どうして!?いや、アルベルトさんの予想が当たっちまったって事か...)
シンシアは声をあげそうになるのを必死にこらえて、その光景をじっと見つめる。
(全員が相当手練れだな...しかもあの顔に傷が入ったおっちゃんだけ桁違いだ...化け物かよ)
アリシア七世を囲む全員を、値踏みするように見るシンシアは、ただ一人レベルが違いすぎる者がいるのに気がつく。
それもそのはず。シンシアが見る彼は王室親衛隊総隊長であるゼーロス本人だ。精鋭揃いの親衛隊のトップが、弱い筈がない。
そのままゼーロスは、自分の部下と共にアリシア七世を連れていく。幸い、シンシアの存在には気が付かなかったようだ。
(どうする!そうだ、とにかく今何時だ!)
時計を見ると、時刻は既に昼休みの終わりに差し掛かっている。もうそろそろ午後の部が始まろうとする時間だった。
(俺こんなに寝てたの!?いやいやそんな事より!!)
シンシアは木から飛び降り、ポケットから通信用の魔導器を使ってアルベルトへと連絡を入れようと試みる。
『俺だ』
「アルベルトさん!今親衛隊が!!」
『わかっている。こちらも遠見の魔術で確認した。まさか本当に動くとはな...』
アルベルトの声音にも、驚きが少し含まれていた。
「俺はどうしたらいいんです!?」
『慌てるな、それにお前は一般人だ。これ以上巻き込む訳にはいかん。』
「くっ...」
シンシアは歯噛みする。そうだ、今の自分はただの学生だ。こんな大事に関わるような身分ではない。
『...お前には十分感謝している。その魔導器は後日俺に渡しに来い。』
「.......わかりました」
そこで通信は切れた。シンシアは魔導器をポケットに直しながら、近くの木を殴り付けた。
(クソ!!わかってるのに、何も出来ないのか...)
危険な事が起こっている事がわかっているのに、それに対して動けないその歯痒さに、シンシアはイライラとするしかなかった。
「しゃーない。会場に戻るか...」
苛立ちを抱えながら、シンシアは会場へと向かうために入り口へと足を向ける。その時だった。
シンシアから少し離れた所で、強い光が灯ったのだ。
「なんだ!?」
シンシアは考えるよりも早く、その光源へと走っていく。
そこでシンシアが見たのは、王室親衛隊を倒すグレンの姿だった。
(どういうことだ?)
シンシアはその光景を見ながら、近くの木に隠れる。どうにも状況が読めない。
(グレン先生が親衛隊を倒した?でも、あの近くにいるのはルミ姉??なんで?ああもう!!わけわかんねぇ!!)
困惑するシンシアが求める答えは、予想だにしない方向から聞こえてくる。
「いたぞ!!奴だ!」
「おのれ陛下を手にかけようとした大罪人、ルミア=ティンジェル!!この剣の錆びにしてくれる!!」
そう叫びながら、王室親衛隊の二人がルミアとグレンの元へと走っていく。
(は?ルミ姉が、陛下の暗殺!?んなバカな!!)
シンシアはその言葉に目を見張るが、グレン達に近づく男たちの気迫は、真剣そのものだった。
シンシアはそのまま視線をルミアへと移した。そこに写るのは...
とても悲しげな面持ちをした、ルミアの姿だった。
それを見た瞬間、シンシアの行動は決まった。いや、思考よりも体が勝手に動いたような、そんな感覚。
シンシアは、直ぐ様地面を蹴りルミアへと近づく男達二人へと踏み寄る。
「うらっ!!」
親衛隊がこちらに反応するよりも早く、一人の顔に拳を叩き入れる。
そのままシンシアに殴られた親衛隊の一人は、近くの草むらにふっとんでいった。
「な!?シン!!」
「シン君!?」
シンシアの後ろでグレンとルミアが驚いたような声をあげているが、シンシアはそれを無視して、自分の目の前のもう一人の親衛隊を睨み付ける。
「貴様!?その後ろの女は大罪人だ!それにその隣の男は我ら親衛隊に牙を向けた反逆者だぞ!貴様がどこの馬の骨か知らないが、その行いが国家反逆罪になると...」
「うるさい」
親衛隊の男の言葉を遮るように、シンシアは無詠唱で【フィジカル・ブースト】を全身に発動させて、かなりの速さでその親衛隊の男を殴り飛ばす。
親衛隊の男は延びてしまったのか、もうその場からピクリとも動かなかった。
「さてと、どういうことっすかグレン先生?」
「いやお前何もわからずに突っ込んで来たのか!?」
「はい」
グレンの突っ込みに、シンシアは真顔のまま首を縦に振る。
「お前...今や国に反逆した大罪人だぞ...」
「いや、それは先生もでしょ。見てましたよ、先生が親衛隊倒すところ。」
「いや確かにそうだが...」
グレンは苦虫を潰したような顔をしながら、頭をボリボリとかきはじめる。
「シン君!!なんで、なんでこんなことを!?」
「え?そんなの簡単だよ」
シンシアは真顔のまま答える。
「ルミ姉は家族だからな。家族の味方をするのは当然だ。」
さらっと答えたその答えに、グレンもルミアもポカンとした顔になった後、グレンが笑い始めた。
「え?ちょ、ちょっとグレン先生?俺変な事言った?」
「いや...お前はかわんねぇなと思ってな。」
「?」
そのグレンの意味不明な言葉に、シンシアは怪訝な顔をするしかなかった。そこで、ルミアがシンシアの手を取る。そのルミアの顔には、一筋の涙がつたっていた。
「ありがとう...ありがとうシン君...」
そう言うルミアの顔は、さっきとは違い少し安心したような顔になっていた。
「奴ら!同士達を...」
「許さん...許さんぞ貴様ら!!」
そんな会話をしている暇はない。シンシア達三人を目の敵のように見ながら、さらに親衛隊が近づいてくる。
「ちょ先生、あの人数はさすがにきつくないっすか?」
「とりあえず逃げるぞシン!!」
そうグレンは言うと、ルミアを横抱きで抱える。
「《三界の
そしてグレンは呪文、【グラビティ・コントロール】を使って飛び上がる。
「え!?そっちに逃げんすか!!」
「逃がすか!!」
グレンの行動に驚きいていると、シンシアへと親衛隊が近づいてくる。
「ほんとすんません!!」
シンシアは【フィジカル・ブースト】を足にかけ、地面を蹴りあげる。それにより砂が目の前の親衛隊へと降りかかる。そこで出来た隙に、【グラビティ・コントロール】を無詠唱で起動してグレンを追う。
「飛ぶなら飛ぶって言ってくださいよ!!」
「そんな余裕あるわけねぇだろ!!」
シンシアとグレンは並走しながら、口々に文句を言い合うが後ろからは続々と親衛隊がやってくる。
「ああもう!!なんで俺ばっかり厄介事に巻き込まれるんだーーーー!!!」
グレンの悲痛な叫びが、フェジテの町にこだましていった。
ーーー
どうにか逃げおおせたシンシア達は、一般住宅がある区域で一休みしていた。
「それにしてもこっからどうするんすか?」
「目的は案外簡単なもんだ。女王陛下に会えればこっちの勝ちだ。陛下に会えれば誤解はどうにか解けるだろ」
「でも先生、親衛隊はどうするんですか?」
そこが今、この状況で最も邪魔な存在だった。親衛隊はそれぞれがかなりの能力をもち、その人数もかなり多い。その全てが今、シンシア達の敵なのだ。その親衛隊の目を掻い潜りなから、女王陛下に会うのはなかなか至難の技だろう。
「大丈夫だルミ姉。親衛隊は全員ぶっ倒していきゃあいいんだよ!」
「いやそれが出来たら苦労しねぇよ...」
グレンは深いため息をつきながら、笑顔でルミアに語るシンシアに冷たい視線を送る。
「あ、待てよ...俺らが直接会わなくても!」
そこでグレンはおもむろに、ポケットからシンシアも見たことがある半割れの宝石を出した。
(あ、そっか。この状況をアルベルトさんに言って来てもらったらいいんだ!!)
完全にグレンがそれを出すまで、シンシアもその存在を忘れていたのだ。
シンシアは会話を始めたグレンと、その会話を集中して聞いているルミアから少し距離をとって、ポケットから魔導器を取り出してかける。
『なんだ。今俺達も忙しいんだぞ、シン。』
タンタンとどこか硬い物の上を走るような音を背景に、アルベルトは通話に出た。その声音は、どこか怒気を孕んでいた。
「アルベルトさん。今どこにいます?」
『シン、俺は忙しいといってるんだ。切るぞ』
「ちょっと待ってください!もしかして今、逃げたルミア=ティンジェルと、その逃げる手伝いをしたグレン先生を追ってたり...」
『!お前、なぜそれを知っている...』
どうやら、案外事はうまく進みそうだとシンシアは内心ガッツポーズする。
「実は俺...その二人と行動を共にしてます...」
『何?』
そこでシンシアは一通りの事をアルベルトに話す。全て話終えると、アルベルトは通話越しに深いため息をついた。
『お前はトラブルに自分から突っ込んでいくんだな...』
「すみません...」
『もういい。詳しい話は後だ。もうすぐそちらに着く。切るぞ』
そう言ってアルベルトは通話を切った。シンシアはそれを確認すると、ルミアとグレンの方へと戻っていく。
「ったく...セリカの奴訳わかんねぇ事言いやがって!俺とシンだけでどうやって陛下のとこまでたどり着けってんだよ...」
「あ、そこは大丈夫ですよ。今助っ人呼びましたから。」
「助っ人?そういやお前、今何してーーッ!?」
グレンの言葉が紡がれる前に事は起きた。シンシアとグレンの背中に悪寒が走る。
それは、シンシアが昨日感じた物と同じ。
「リィエル!?それにアルベルトまで!?」
グレンは驚いているが、シンシアは来てくれた事にほっと安堵する。が、それも直ぐに裏切られる事となる。
リィエルが急に何か口を動かしながら、地面に手を着ける。すると、地面から十字の剣が現れた。
「え?」
シンシアの額から、冷や汗が流れ始める。昨日の夜リィエルの大剣による一撃の強さを知ったため、リィエルのその行動に嫌な予感が絶えない。
そしてリィエルは、作り出した大剣を構えながらこちらに向かってくる。
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい!!!」
「いいいいいいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リィエルの大剣の大振りが、グレンへと叩きつけられようとするのを、シンシアはギリギリの所でそれを挟んで止める。
「ちょっと待てリィエル!?落ち着けって!!」
「止めないでシン!私はグレンと決着をつける!」
「いや今それどころじゃねぇよ!!だからとりあえず剣を引けって!!」
シンシアがリィエルの大剣を挟みながら、リィエルとの対話を試みるが、リィエルは全く聞く耳を持たない。
「邪魔するなら、シンも切る!」
「ああもう利かん坊め!」
シンシアは大剣を蹴り飛ばすと、両手に握り拳を作り構えをとる。そのシンシアの対応に、リィエルも大剣を構え直して少し距離を取った。
「いいいいいいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シンシアとリィエルは同時に地面を蹴り、遂に拳と剣が激突する。と、思われた時だった。
シンシアとリィエルに一閃の雷が飛び、それは寸分違わずそれぞれの額へと直撃する。
「きゃん!?」
「うげ!?」
その一撃に小さな悲鳴を二人同時にあげると、二人共々石畳へと倒れていった。
「久しぶりだな、グレン。場所を変える。俺についてこい」
アルベルトはグレンにそれだけ告げると、地面に倒れているリィエルとシンシアを引きずりながら、路地裏へと進んでいった。
「なんだったんだ今の...」
「私にもわかりません。ただ、シン君には色々聞かないといけない事はわかりました。」
「...だな」
グレンとルミアはそう簡単に話すと、アルベルトの後ろをついていった。
さてあと2話ぐらいで競技祭編も終わりかな?