最後にその手が掴むもの   作:zhk

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はい嘘つきました。

今回で競技祭編終わりです



共闘

「で、こっちの猪バカが自分の素性を全部ばらしたせいでこっちの白髪バカがお前らを手伝うはめになり、それにこっちの白髪バカもそのお願いに二つ返事でOKしたと...」

 

「グレン痛い」

 

「痛い痛い痛い痛い!!これまじでヤバいって先生!頭!頭割れるって!!」

 

グレンは額に青筋を浮かべながら、右手にリィエル、左手にシンシアの頭を掴んで持ち上げていた。リィエルは無表情を崩さないが、それと正反対にシンシアはギャアギャアと喚きながらグレンの腕を離そうと必死にもがいている。

 

「すんません!すんません!!でも頼まれたら断れないんで、先にOKしたんすよ!!」

 

「お前の場合はお人好しが過ぎるんだよ!!その性格なんとかしろ!!リィエル!!お前コードネームとかは安易に言うなって帝国軍時代にあれほど言ったよな!?」

 

「言った」

 

「ならそれを実践しろぉぉぉぉ!!!」

 

グレンの怒声が辺りに響く。それをルミアのアルベルトは呆れたように見ていた。

 

「そろそろいいか?事態は思ったいるよりも深刻なんだぞ?」

 

「わ、悪い...」

 

そうアルベルトから冷たく言われて、グレンは両手に持つリィエルとシンシアを離した。

 

「痛ぇ...マジで頭割れるかと思った。」

 

シンシアはまだ痛む頭を押さえながら、アルベルトへと向き直った。

 

「今現在ここ、フェジテでは『廃棄王女』であるそこのルミア=ティンジェルを狙って親衛隊が独自に動いている。さらにその親衛隊に楯突いたシンとグレンも、今現在お尋ね者状態だ。」

 

「それはわかってるよ。王室がルミアを狙う理由は?」

 

「詳細はわかっていない。だが、親衛隊が独断で王室の名誉を守るために動いたとも考えられるが...」

 

「それは無理がありすぎるぞ。女王陛下がいる今、不敬罪を犯してまで起こす意味は無いだろう。」

 

と、言うような感じでグレンとアルベルトが現状況のすりあわせを行っているが、それを真摯に聞くルミアと対照的に、リィエルとシンシアはーー

 

「ここでグレンが突っ込んで...」

 

「いやリィエル。ここは俺の方がよくないか?俺の方が接近戦なら強いぞ?」

 

「ならシンが突っ込む。その後ろをグレンが突っ込んで...」

 

全く意味を成しそうに無い作戦会議を行っていた。リィエルもシンシアも頭を使うようなタイプではなく、むしろ前線で暴れるタイプなのでこのような作戦を練ることに関しては全くと言っていいほど役に立たない。

 

「その後ろからアルベルトさんが突っ込むと!うし、完璧だな!!」

 

「どこがだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

その緊張感の無さに、嫌気が差したのかグレンがまたも二人の頭を鷲掴みにして持ち上げる。またギャアギャアと叫ぶシンシアと、無表情なリィエルが対照的な絵面が出来上がる。

 

「お前はここを抜けても大変だな...」

 

「俺にはこういう手の奴がついてくる呪いでもついてんのか...」

 

アルベルトの哀れむような視線に、グレンは本気で落ち込んでいくがリィエルもシンシアもどこふく風といった感じのようだ。

 

「まぁいい。とりあえず女王陛下に面会出来れば、この状況を突破出来る。それはセリカが言っていたから信頼出来る情報だ。」

 

「なら、お前達二人を陛下の前に立たせるとして...俺達はどうする?」

 

アルベルトは自分とリィエル、そしてシンシアを指しながら尋ねる。

 

「そうだな...ならこうするか...」

 

そして、グレンは自分が考えた策を話始めた。

 

ーーー

 

「グレン先生も!なかなかにきつい策を言いますね!!」

 

「だが、この状況ではそれが最善だろう。」

 

路地裏での会議から数時間後の今、シンシアはフェジテの町中を駆けていた。

 

隣にはグレンと、グレンに抱き抱えられるようにルミアがいるが、本物ではない。

 

シンシアの隣を走っているのは、実はアルベルトとリィエルだ。

 

グレンの考えた策はこうだった。

 

アルベルトとリィエルがグレンとルミアに黒魔【セルフ・イリュージョン】で変身して囮になる。そしてグレンとルミアが、アルベルトとリィエルに【セルフ・イリュージョン】で変身し、会場にグレンの代役として赴くというものだった。

 

しかしシンシアは【セルフ・イリュージョン】なんて使えるわけもなく、またシンシアが会場に戻れば一瞬で親衛隊に蜂の巣にされるのは間違いないため、シンシアはアルベルト達と行動を共にすることとなったのだ。

 

これに対してはルミアが大反対したが、アルベルトが必ず無事で帰すと約束したため、渋々納得してくれたのだ。

 

「帰ってからが怖いです...」

 

「それはお前の自業自得だ。」

 

シンシアもアルベルトもかなりの距離を走っているが、どちらも息は切れていない。それもそうだ、アルベルトは軍人であり体は相当鍛えている。それにシンシアはほぼ毎朝フェジテを一周するように走り込んでいるため、問題なく着いていけるのだ。

 

「アルベルト、グレンから連絡は?」

 

「まだだ。恐らくもう少しかかるだろう、優勝はしたらしいがな」

 

「マジですか!!よっしゃ!」

 

後ろには親衛隊が迫ってきているというのに、シンシアは恐れる素振りも見せず優勝を喜ぶ。

 

「お前には恐怖心というものは無いのか...?」

 

「え?何にビビるんですか?」

 

シンシアからすれば、親衛隊というのもあまり怖くはない。自身の体術や魔闘術(ブラック・アーツ)を使えば親衛隊とも対等に戦えると考えているからだ。それにそれは自惚れではない。シンシアには、自分の技能に絶対的な自信をつけられる程の努力量がある。

 

そこでふと後ろから爆発音が轟いた。アルベルトが仕掛けた罠、黒魔【バーン・フロア】が起動したのだ。

 

「うわぁ...熱そう...あれ大丈夫なんですか?」

 

「死なない程度に加減してある。少し動けなくなるぐらいだろう」

 

シンシアはアルベルトの恐るべき魔術技能に舌を巻く。

 

その時、アルベルトのポケットから鈴の音が響く。それは通信用の魔導器に連絡が入ったことを示すものだ。

 

「俺だ。ああ、ああ。わかった。」

 

端的にアルベルトは返し、すぐに魔導器をなおした。

 

「グレン達が陛下との接触に成功したようだ。」

 

「お?てことは...」

 

「やっていいの?」

 

シンシアとリィエルが目を爛々と輝かせながらアルベルトに尋ねる。その瞳は、『反撃してもいいか?』と強く言うかのようだ。

 

ちょうど目の前は路地の行き止まり、アルベルトとシンシアは立ち止まり、リィエルはアルベルトから降りる。そしてリィエルとアルベルトは変身を解き、もとの姿へと戻った。

 

「宮廷魔導士...道理でか!!では貴様もか!!」

 

シンシア達を囲むように動く親衛隊の隊長各が、シンシアを指差しながら問う。

 

「いやいや、俺はただの学生だわ。あんたらより強いけどな!」

 

「小僧!!調子に乗るのもいい加減にしろよ...我々に勝てると思っているのか?」

 

「もちろん」

 

シンシアは間髪いれずに、そう答えた。その問答に、アルベルトは今日何度めかの頭痛に苛まれるが、それはシンシアの知る話ではない。シンシアのその答えが、親衛隊達の怒りに火を着けたようだ。

 

「貴様のその舐めた態度、後悔させてやる!!

 

「やってみろよ!!返り討ちにしてぶっ倒ーー」

 

「さなくていい」

 

「私が全員切り倒ーー」

 

「さなくていい...」

 

シンシアとリィエルの二人をあしらいながら、アルベルトは二人に告げる。

 

「奴らの方が人数は多い。それに俺達は奴らを足止め出来ればそれでいい。それよりシン、本当に戦えるのか?」

 

「任してください!!楽勝ですよ楽勝!!」

 

「.........」

 

アルベルトは少し不安になるも、視線をリィエルへと移す。

 

「リィエル、せめて殺すな。派閥は違えど仲間だ、死んでは目覚めが悪い。」

 

「ん」

 

リィエルはわかっているのかわかっていないのかよく分からない返事をアルベルトに返した。

 

「じゃいきますか!ルミ姉を泣かした罪は重いぞてめぇら!!」

 

その声と共に、シンシアは一気に【フィジカル・ブースト】を足にかけて加速し、敵陣へと突っ込む。そして手始めに最前列にいた隊長各に魔力を込めた右腕で殴る。

 

「ぐおっ!?」

 

「隊長!?貴様!!」

 

他の騎士達もシンシアに攻撃しようとするが、シンシアにはそれがきちんと見えている。シンシアは【タイム・アクセラレイト】を無詠唱で発動し、最大限まで加速する。そしてその速さのまま、自分の周りに集まる親衛隊全員を殴り飛ばした。

 

シンシアに殴られた親衛隊のメンバーは、魔闘術(ブラック・アーツ)の破壊力に耐えきれずその場で悶絶するように倒れ混んだ。

 

しかしそこで【タイム・アクセラレイト】の効果が切れ、シンシアの動きがノロノロとした物になる。それを親衛隊は見逃さなかった。

 

「今だ!!そのガキを捕らえろ!!」

 

シンシアに出来た大きな隙を狙い、親衛隊が接近する。

 

だがそれは、シンシアの後ろから飛ぶ大剣によって遮られた。

 

「な、なんだ!?」

 

「いいいいいいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そのまま後ろから現れたリィエルは、大きな掛け声を伴いながら新しく作った大剣を親衛隊へと振りかざす。その場にできた大きな衝撃によって親衛隊は吹き飛ばされ、各々が周りの壁へと体を打ち付ける。

 

「サンキューリィエル。助かった」

 

「ん、問題ない」

 

やっと【タイム・アクセラレイト】の反動から解放されて元のように動けるようになったため、シンシアはリィエルに礼を言うが、それをリィエルは相変わらず素っ気なく返した。

 

「油断するな二人とも、まだ終わっていないぞ。」

 

「わかってますよ!」

 

「うん!」

 

そしてリィエルとシンシアが飛び込む後ろから、アルベルトの威力を弱めた【ライトニング・ピアス】が飛ぶ。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「いいいいいいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

誰が示し合わせた訳でもないのに、リィエルとシンシアは背中合わせになるような形で戦い始める。どちらかが危なくなれば、片方が救援に入る。それを繰り返しながら、ひたすら拳と剣を奮う二人。そこには、まるで長年の相棒のような雰囲気さえも醸し出していた。

 

(驚いたな...まさかリィエルに並ぶ戦闘センスとはな...)

 

アルベルトは遠距離から魔術で援護しながら、そのシンシアの戦いっぷりにただただ驚愕していた。普通ならば、リィエルの突拍子もない動きにほぼ初対面の人間が合わせる事など不可能だろう。だが、シンシアはリィエルの動きに合わせてきているし、その動きについてきている。

 

(これがシンシア=フィーベルか、あいつが目をつけるのも頷けるな...)

 

アルベルトが一人納得しているうちにも、親衛隊の人数はどんどん減っていく。

 

リィエルの剣術とシンシアの武闘術のコンビネーションは、もうすでに親衛隊の手に負える物ではなかったのだ。いや、二人の相性が良すぎるのだ。

 

二人の間に会話はない。ただすべてアイコンタクトで伝え合うだけ。それですべてを悟り、相手の動きに合わせていく。

 

山のようにいた親衛隊も、もう数人という所でも減っていった。

 

親衛隊の目には戦意はなく、足を震わせながら眼前で暴れまわる怪物二人を見ていた。

 

「ば、化物め!!」

 

「化物で結構!!大切なもん守れるなら、怪物でもなんでもなってやらぁ!!」

 

「敵は切るだけ」

 

シンシアとリィエルは互いに一歩引き下げた。

 

「さぁ殴られる覚悟だけ持っとけ!歯ぁ食いしばれよ!!」

 

そして二人同時に残りの親衛隊の元へと駆けていく。

 

その後、裏路地には親衛隊の叫び声だけが木霊した。

 

 

 

「おしまいっと...」

 

地べたに転がる気絶した親衛隊を尻目に、シンシアは大きな伸びをした。

 

「あれほどの実力者だったとはな...俺は少しお前を過小評価していたようだ。」

 

「俺なんてまだまだですよ。リィエルのヘルプがあっての戦果です。」

 

「だが、お前一人でもかなりの数の親衛隊を屠ったのもまた事実だ。もう少し、自分の事をよく知るんだな」

 

「あー...善処します。」

 

シンシアはお世辞抜きにアルベルトに誉められ、照れ隠しに目を背けた。その向けた視線の先では、リィエルが黒魔【マジック・ロープ】で作った紐で、親衛隊を拘束していた。

 

「リィエル、さっきはサンキューな。色々助かった。」

 

「私も助けてもらったからお会い子。それにシンとは戦いやすかった。」

 

リィエルは相も変わらず無表情だが、その顔は少し上機嫌のようにも見える。

 

「そう言ってもらえると、俺としても嬉しい限りだな。所でアルベルトさん、俺はもう戻ってもいいんですか?」

 

もうこの騒動は方がついており、それはグレン自身からついさっきアルベルトに連絡が入っている。シンシアもさすがにこれ以上システィーナやルミアをほっておくと、後々が怖いのだ。

 

「ああ。戻ってもいいが、俺達も同行する」

 

「なんでですか?」

 

「お前が勲章されるからだ。」

 

「あ、そうなんですか。」

 

そう返してシンシアはアルベルトから視線を外す。

 

(へぇー。俺が勲章ねぇ.........ん?俺が!?勲章!?)

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!俺勲章されるんすか!?」

 

やっと事の大きさに気がついたのか、シンシアは目を大きく見開きながらフェジテ中に響くほどの声で叫んだ。

 

「当たり前だ。間接的にとはいえ、この事件の解決に手を貸しているんだ。ちなみにグレンもだぞ?」

 

「え、いやちょっと待ってくださいよ!!俺ただ親衛隊相手に暴れただけですよ!?」

 

「それは普通出来ない事なんだよ」

 

アルベルトは当たり前のように話すが、シンシアがそれで落ち着ける筈もなかった。

 

勲章を受けるということは、競技祭で優勝して女王陛下から貰う勲章ではない。国として一人の人間に与える物だ。そう簡単に、ましてや学生が貰える物ではない。

 

「という訳で今から戻るぞ。ちなみに、お前が勲章されることは会場にいるすべての人間は衆知済みだ。それも女王陛下から直々に語られている。」

 

「いや待って!?これ戻ったらわちゃわちゃになるやつじゃないんすか!?俺戻りたくないっすよ!!」

 

どうにか連れていこうとするアルベルトに必死に抵抗するシンシア。だが、それは徒労となる。

 

「リィエル」

 

「わかった」

 

「え?ちょ、リィエル?無言で俺を持ち上げるな!!やめい!!余計目立つ!!わかったわかりました行きます行きますから下ろしてぇぇぇぇぇ!!」

 

シンシアの叫びを完全に無視しながら、リィエルは会場へと走っていく。

 

会場に着くまで持ち上げられ、そのまま会場中の視線をかっさらったのは、最早笑い話にもならないだろう...

 

ーーー

 

「散々だ!!リィエルの奴!!」

 

「あれはマジで面白かったぞシン!!叫びながらリィエルに連れてこられて、最後は会場に投げ飛ばされて...ダメだ..思い出したらまた笑っちまう!」

 

苛立ちを近くの壁にぶつけるシンシアの後ろでは、グレンが腹を抱えながら笑っている。もう辺りは暗くなっており、街灯がポツポツと明るく輝いている。

 

「あー笑った笑った。にしても俺がこんなボロボロなのにお前はそんな平然なんだよ!?」

 

「いやだって親衛隊の相手してただけですもん」

 

「そんなあっさり!?」

 

夜の街路に、男二人の騒がしい掛け合いが響く。それを隣では、ルミアが微笑ましく見ていた。

 

「で、ルミ姉は陛下と話せたわけ?」

 

「うん!お母さんといっぱい色々話せてよかったよ!!」

 

「なら良かった良かった。頑張った甲斐があったてもんだ。」

 

シンシアの顔は達成感に満ち溢れていたが、そこには少し陰りが見える。だがルミアもグレンも、それに気がつく事はなかった。

 

「あそこか?うちの連中が騒いでるのは?」

 

「ええ、システィーナがそう言ってましたよ」

 

「うし、ちょっと覗いてみるか」

 

そう言ってグレンとルミアは店に入ろうとするが、シンシアはそこで足を止めた。

 

「ごめん先生にルミ姉、俺はちょっと疲れたから帰るわ」

 

「え、でも...」

 

「じゃ先生さよーなら!!ルミ姉はまた後で!!」

 

それだけ言うと、シンシアは二人を置いて走っていった。

 

「なんだあいつ...こういう時は、いの一番に騒ぎそうなのに...」

 

「きっと疲れたんじゃないですか?王室親衛隊と戦ってたんですし、競技でもあれだけ活躍してましたから」

 

「ま、それもそうだな」

 

グレンとルミアは納得したような顔をして、店へと入っていった。

 

ーーー

 

シンシアが向かったのは家、ではなく薄暗い路地の一角。

 

「おい、俺に何のようだ?」

 

シンシアが語りかけるその先には、場所にそぐわないメイド服の女性。普通ならばおしとやかな印象を受けるが、シンシアにはそんな印象は全く受けない。

 

受けるのは強烈な死の気配。まるで、ついこの間のテロリスト達が纏うものと同じもの。

 

「あらまぁ、私に気がついておられましたか...一体いつから?」

 

「先生とルミ姉と一緒に会場を出たところからだよ。そこからずっと俺を見てただろお前」

 

シンシアの目付きが鋭くなる。それは、明らかな敵対を表す視線を送るため。だが相手はそんな事気にしないように不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 

「さすがですわシンシア様。私が見込んだお方ですわ」

 

「御託はいい。何のようだ。事によってはーー」

 

シンシアはそこで構えを取る。

 

「物騒ですわね...私はあなたに刃を向けるつもりはありません。ただ私はあなたを御誘いに来たのです。」

 

「誘い?」

 

シンシアが困惑しながらおうむ返しのようにメイドの女性へと尋ね返す。

 

「申し遅れました。私、天の智恵研究会所属の魔術師エレノア=シャーロットと申します。」

 

「ッ!?天の智恵、研究会だと!!」

 

シンシアはエレノアが名乗ったその団体の名前に驚きを隠せない。

 

それは政府と敵対する組織であり、魔術を極めるためならどんな手も使う外道の集まり。そして、今回の騒動と学院襲撃事件を首謀した団体だ。

 

「ええ。私はあなたをスカウトしに来たのです。私達と共に、魔術を極めてーー」

 

「断る」

 

シンシアははっきりとそう告げる。エレノアはそのシンシアの答えに意外そうな顔をしながらシンシアを見た。

 

「おやおや...何故断るのです?」

 

「逆になんで俺が断らないと思った?てめぇらみてぇに外道に落ちる気は更々ないんでな。それに俺が天の智恵研究会に入って手に入るメリットはなんだ?」

 

シンシアの淡々とした受け答えに、エレノアは未だにその笑みをさずシンシアに対応する。

 

「あなたの持つ劣等感を払拭して差し上げる、と言ったら?」

 

「あ?」

 

「あなた自身思ったことはあるでしょう?どれ程頑張ってもうまく使えない魔術への苛立ち、優秀な姉と比べられる日々へと憎しみ、出来損ないな自分へと自己嫌悪、一度は感じた事があるのでは?」

 

「...だからなんだって言うんだよ」

 

より声に怒気を込めながら、シンシアはエレノアへと向かう。

 

「私達がそれを払拭して差し上げましょう、自分をバカにしてきた者への復讐が叶いますよ?」

 

「あいにく誰の事も恨んでねぇよ。だがてめぇの言うことを感じた事があるのは事実だ。ただな、それがどうした?それがてめぇら屑と馴れ合う理由にはなんねぇな!!」

 

エレノアのその誘いは、シンシアの願いを、夢をばかにする発言だ。それがシンシアには最も許せない。

 

そこでエレノアは、少し考えたような素振りをとりまた口を開いた。

 

「ならば...大切な物を守れるほどの強さ、ならば?」

 

「っ!!」

 

一瞬、ほんの一瞬シンシアの心に動揺が走る。あの時、テロリストからルミアを救えなかった自分の弱さ。それがシンシアの心に揺らぎを与えていく。

 

「あなた様の持つ力は確かに強い。しかし、それは精々自衛が精一杯でしょう。だからこそ、私達がお手伝いいたしますわよ?」

 

「...ふざけるな。俺はルミ姉も、シス姉も、クラスの皆も守って見せる。もうお前らに、俺の大切な人達を泣かせねぇ!!」

 

シンシアは【フィジカル・ブースト】を発動し、エレノアへと接近する。そしてエレノアを蹴ろうとするが、それはいとも簡単に避けられてしまう。

 

「はて?それは叶うのでしょうかね?」

 

「何が言いたい!?」

 

もうシンシアは冷静では無い。さっきのエレノアの一言で心に与えた波が、シンシアから冷静な部分を全て奪い去った。

 

「あなた様はきっと近日中に思いしるでしょう。自分の無力さに。その時、私の問いに同じように答えられるでしょうか?」

 

エレノアは不敵な笑みをさらに狂喜に染め、シンシアを見つめる。

 

「私はこの辺りで失礼します。あなた様のその考えが、揺らがぬ事を祈って...」

 

「待ちやがれ!!」

 

シンシアはどうにかエレノアを捕獲しようと右手を伸ばすも、それは宙を切るだけで何も掴まない。

 

もう薄暗い路地にいるのは、シンシアただ一人。

 

「守る、守るんだ...俺が、必ず!!」

 

シンシアは一人、宣言する。だがその声に、いつものような力強さは無い。

 

月明かりだけが、そのシンシアの歪みかけの顔を照らしていた。

 

 

 

 





遂に次回から、ヒロインメインのお話です!

これが書きたかったんだよ!!
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