最後にその手が掴むもの   作:zhk

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ウェンディの口調が難しいな...ですわよとか普段使わないし...


仲良くなるのは難しい

 

「つーわけで、今日からこのクラスの一員になるリィエル=レイフォードだ。仲良くしろよお前ら」

 

朝のホームルームでは、グレンが教卓の前でリィエルの説明をしている。そのグレンの横ではちょこんとリィエルがたっている。

 

「すっげぇ可愛いな!」

 

「お人形みたい!」

 

転入生の登場に浮き足立つ生徒達だが、ルミアとシスティーナはそれとは全く違う反応をしていた。

 

「ねぇルミア...本当にあの子大丈夫かしら?」

 

「だ、大丈夫だよシスティ。リィエルも宮廷魔導士なんだよ?」

 

「そうだけど...」

 

ルミアの説得を聞くも、システィーナは今日の朝の出来事のせいであまり良い印象は得られていない。

 

「シン君だってそう言ってたし、ね?シン君?」

 

そう言ってルミアはシンシアの方を向く。だがシンシアはいつも通り机に体を預けながら、夢の世界へと飛び立っていた。

 

「シン君、シン君!」

 

「zzz...zzz...」

 

「ルミア、そんなんじゃこのバカは起きないわよ。」

 

システィーナは片手にルーン語辞典を持ちながら、それをシンシアの頭に叩き付ける。

 

「起きなさいこのバカ!!」

 

「うがぁ!!」

 

ガンっと言う鈍い音と共に、シンシアがむくりと起き上がる。

 

「ヤバい...頭殴られ過ぎてバカになりそう...」

 

「もうアンタは十分にバカよ」

 

シンシアは目を擦りながら、教卓の前で行われている自己紹介へと意識を向けた。

 

「ほらリィエル、自己紹介だ。」

 

「ん、わかった」

 

グレンに促され、リィエルはその場から一歩前に出る。

 

「リィエル=レイフォード」

 

「.........」

 

リィエルはただそれだけ言うと、ペコッと頭を下げる。

 

「グレン終わった」

 

「終わったじゃねぇぇぇ!!趣味とか特技とか!お前自身の事を話せばいいんだよ!!」

 

「わかった」

 

それだけ返すと、リィエルはまたクラスメイトの方へと向き直った。

 

(なんか...デジャブを感じる...)

 

シンシアの額から冷たい汗が流れ、嫌な予感が頭から離れない。

 

「リィエル=レイフォード。帝国軍が一翼、帝国宮廷mーー」

 

「あー!手が滑ったー!!」

 

シンシアは勢いよく自分の手元にあった教科書をリィエルに投げつける。リィエルは自己紹介を一時的にとめ、自分へと向かってくる教科書を避ける。

 

「シン危ない」

 

「いや今のお前の行動の方が危ないだろ!?自分が宮廷魔導士団だってーー」

 

「お前も黙っとれぇぇぇぇ!!」

 

「あが!?」

 

シンシアの言葉を遮るように、グレンはシンシアが投げた教科書をシンシアに投げ返す。それをシンシアは避けきれず、顔に直撃する。

 

「ああもうちょっと来い!シンもだ!!」

 

グレンはリィエルとシンシアを引き連れながら、一時的に教室から出ていった。

 

「...ホントに大丈夫なの?」

 

「多分...」

 

システィーナの怪しげな視線に、ルミアも苦笑いを浮かべていた。

 

ーーー

 

「お前らはバカなのか!?いやバカだな!!」

 

「痛い痛い痛い!!」

 

「グレン痛い」

 

教室の外では、シンシアとリィエルがまた仲良く二人でアイアンクローを食らっていた。

 

「先生おかしくないっすか!!俺は止めに入ったっすよ?」

 

「それでお前が口走りそうになってどうする!?」

 

「うっ...すんません...」

 

グレン怒声に、シンシアはシュンと小さくなった。シンシアは善意でやっているのはグレンにもわかっているが、それでバレては全く意味がない。

 

「リィエルは何考えてんだ!!自分の素性を晒すなってあんだけ言っただろうが!!」

 

「でも自己紹介って...」

 

「限度を考えろ限度を!!」

 

グレンはもう朝から疲れはてる。シンシア一人でも捌くのが大変なのに、そこにそれ以上のリィエルまで加わるのだ。グレンの心労は計り知れない。

 

(特務分室の奴らめ!!なんでリィエルなんだよ!?『法皇』のクリストフで良かっただろ!!)

 

ここにはいない特務分室の元同僚達を心底恨みながら、グレンはどうにかこの場を収める方法を考える。

 

「しゃーない。リィエル、俺が横で言うことを復唱していけ。わかったな?」

 

「わかった」

 

「シンはもうなんも喋るな。話が拗れる。」

 

「了解っす」

 

二人の確認がとれると、三人はまた教室へと入っていった。

 

ーーー

 

どうにか朝のホームルームを切り抜け、シンシア達二組は今魔術の実践授業となっていた。

 

「すげぇなシス姉。六分の六かよ」

 

「姉を舐めないでもらいたいわね!」

 

授業の内容は、二百メトラ先の人形の人形につけられた六つの的を、魔術で射抜くというものだ。システィーナはそれを【ショック・ボルト】で全ての的を射抜き、パーフェクトを達成していた。

 

「シンはどうするつもり?このままじゃまたゼロよ。」

 

「わかってるよ。でもこればっかりはどうしようもないからな...」

 

学生が使える魔術で、二百メトラもの射程距離を持つのは【ショック・ボルト】ぐらいしかない。そのためほかの生徒も【ショック・ボルト】を使ってテストを実施しているのだが、その【ショック・ボルト】もうまく使えないシンシアにとっては、的に攻撃を届けることすら出来ない。

 

他の生徒はほとんど終わり始め、残りはリィエルとシンシアの二人だけとなっていた。

 

「リィエル、お前の番だ」

 

「......ん」

 

リィエルは人形の前に立ち、片手を構える。

 

「やっぱりリィエルちゃんすごいのかな?」

 

「集中力すごそうだしな...」

 

「ま、お手並み拝見といこうか」

 

各々がリィエルに注目するなか、リィエルは詠唱を始める。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

淡々と告げられたその言葉によって構えた腕から【ショック・ボルト】が飛ぶ。そしてその【ショック・ボルト】はーー

 

的には当たらず、的外れな場所に着弾する。

 

「「「「え??」」」」

 

クラスの全員が困惑により、そんな声をあげた。そのままリィエルは【ショック・ボルト】を撃ち続けるが、どれも的に当たることはなく、遂に最後の一射を残すのみとなった。

 

「ねぇグレン...これって【ショック・ボルト】じゃなきゃダメなの?」

 

「ダメじゃねぇーけど、他の呪文だと届かないんだよ」

 

「つまり、呪文は何でもいい?」

 

「まぁ...そうなるな...」

 

「ん、わかった」

 

するとリィエルは、先程とは全く違う呪文を唱え始める。

 

「《万象に(こいねが)う・我が腕手(かいなで)に・十字の剣を》」

 

それを唱え終わるのと同時に、リィエルは指先を地面につける。すると、地面から大きな大剣が姿を現す。

 

「おいリィエル?お前何を...」

 

「いいいいいやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

グレンの声に聞く耳も持たずに、リィエルは自分の持つ大剣をフルスイングでゴーレムに向けて投げ飛ばした。

 

そして大剣は風を切り裂くような速さで飛んで行き、人形に直撃。人形はバラバラに散っていった。

 

「ん。六分の六」

 

そしてそれを終えたリィエルは、グレンに向かって胸を張った。他の生徒はあんぐり口を開けながら、その光景を見るしかなかった。

 

「え!?あれってアリなのシス姉!?」

 

「へ?あ、いや、どうなんだろ...アリ...なのかな?」

 

まさかのこの状況でも平常運転のシンシアに少し驚きながらも、システィーナは答える。

 

「あれアリだったら俺も錬金術でなんか作って投げようかな?そしたら絶対百発百中なのに...」

 

リィエルの鮮烈なデビューも、シンシアには特に驚く事はないようだ。

 

ーーー

 

リィエルは先程の授業のイメージのせいで、二組の生徒達から怯えられる事になってしまった。最初は友好的に接していた生徒達も、今では誰もリィエルに寄り付かない。

 

そのため、昼休みとなった今もリィエルは一人ポツンと椅子に座っていた。

 

「ったく...何やってんだあいつ...」

 

「先生もなかなか過保護なんすね」

 

リィエルを教室のドアから見守るグレンに、シンシアは意外そうに話しかけた。

 

「でもこのままじゃ任務にも支障きたすし、リィエルにはもうちょい成長して欲しいんだよ...」

 

「なるほど...」

 

シンシアは納得したような声を出すと、そのまま教室へと入っていく。

 

「おいシン!?何するつもりだ!?」

 

「大丈夫ですって!!任せてくださいよ!!」

 

シンシアは何の迷いもなくリィエルの前まで歩いていく。それを教室に残る生徒達は、驚くようにチラチラとシンシアの方を見始めた。

 

「リィエル、飯ってもう食った?食ってないなら食堂行こうぜ?ちょうどシス姉とルミ姉も来るしさ」

 

「食堂?何それ?」

 

「旨いもんがいっぱいあるとこ。」

 

リィエルは少し悩むような仕草をとったあと、視線だけでなく首ごとシンシアへと向ける。

 

「みんながいいなら...」

 

「いいに決まってんだろ!なぁルミ姉!」

 

「うん。リィエルも一緒に食べよう?」

 

シンシアの後ろには、話し合わせたようにルミアとシスティーナが立っており、ルミアは笑顔でリィエルに接する。

 

「さぁいくぞ!香草焼きが、俺を待っている!!」

 

「ちょ、シン!待ちなさいって」

 

シンシアはリィエルの手をとって食堂へと走っていった。その後ろをシスティーナとルミアが着いていく。

 

「やっぱすげぇなシンの奴...」

 

その一部始終を見ていたグレンは、そのシンシアの高過ぎる社交性に目を見開いていた。

 

「ま、リィエルと一緒にシンシアが問題を起こさねぇとも限らないし、俺も着いていくか...」

 

グレンは誰に言うわけでもなく、一人何かボソッと呟きながらシンシア達に続いて食堂へと向かっていくのだった。

 

ーーー

 

「大きい...」

 

食堂に着いたリィエルは、その食堂の広さに驚いていた。たくさん生徒達が賑やかに食事を楽しむ光景は、リィエルにとっては初めて見る光景だった。

 

「おばさん!!香草焼き十五個!!」

 

「またかいシス坊。あんたはもう少しバランスってもんをねぇ...」

 

「肉食っときゃあとはなんとかなるもんなの!早く早く!!」

 

「ったく...いつになってもあんたは成長しないねぇ。ちっとは姉を見習いな!」

 

そう言いながら、その女性はシンシアに山のように香草焼きが乗せられた皿を渡す。すると、シンシアは目を輝かせながら席を探していった。

 

「あのバカは...まるで犬みたいね。」

 

「ハハハ...リィエルは何を頼む?」

 

リィエルを誘った張本人は席を探しにどこかに行ってしまったため、ルミアがリィエルの相手をしている。リィエルは、近くのテーブルにあったイチゴのタルトを一心不乱に見続けている。

 

「あれがいいの?」

 

そのルミアの問いに、リィエルはゆっくりと頷いた。そしてルミアはリィエルをカウンターまで連れていく。

 

「おや?見ない子だね。この子が転入生かい?」

 

ついさっきまでシンシアも漫才のような物を繰り広げていた老齢の女性はリィエルを見るとそうルミアに聞いた。

 

「はい。ここのシステムがあんまりよくわかってないみたいで...」

 

「ああそう言うことかい。あたしはバーバラ=ウェストン、ここの料理長をしてる。ここのもんなら自由に頼みな!でも香草焼きは無いね。どこかのバカが全部持っていきよったからね」

 

「...すみませんうちの弟が」

 

今この場にいないシンシアに変わってシスティーナがその女性に謝る。しかしその女性は気さくな笑いを浮かべていた。

 

「いいってことよ!若い内はいっぱい食わなきゃ育たないしね!!その点は嬢ちゃんも見習いなよ!!」

 

バーバラはシスティーナのスコーン二つしかない皿を指差す。

 

「これは!私はただ!?午後からの授業で眠くならないように!!」

 

システィーナが何か捲し立てるが、バーバラはそれを無視してリィエルへと向く。

 

「んで嬢ちゃんは何が欲しいんだい?」

 

「あれをいっぱい」

 

リィエルは机の上におかれていたイチゴのタルトを指差しながら、バーバラにそう答える。すると、バーバラは大笑いをし始めた。

 

「まさか嬢ちゃんもシン坊と同じ類いとはね!!いいよ、ちょい待ちな!!」

 

バーバラはイチゴのタルトを皿に積み上げてリィエルに渡した。それはシンシアの香草焼きの山に勝るとも劣らない量だ。

 

「ありがと」

 

「ありがとうございますバーバラさん。」

 

「良いってことよ!残すんじゃないわよ!!」

 

バーバラはそれだけ伝えると、厨房の奥へと消えていった。

 

「さてシンはどこにいったのかしら...」

 

システィーナは辺りを見渡すが、時間が時間のため人がかなり多い。その中からシンシア一人を見つけるのはなかなか難しーーー

 

「おーいシス姉!ルミ姉!リィエル!こっちこっち!!」

 

いことは無かった。シンシアがこちらを発見するなり、大声で呼びながらシスティーナ達に手を振っていたのですぐにわかった。

 

システィーナ達がそちらに近づいていくと、そこにいるのはシンシアだけではなかった。

 

「カッシュにセシル、リンにウェンディまでどうしたの?」

 

そこにいたのはクラスメイト達だった。各々が既に料理を運んでおり、あとはシスティーナ達を待つだけとなっていた。

 

「いやー俺達はシンシアに誘われてな。可愛い子ちゃんと話せる機会を無駄にするわけにはいかないからな!!」

 

「僕はリィエルと色々話したかったんだ」

 

「私は一人で食べるのが嫌だっただけです!」

 

「わ、わたしも...」

 

上からカッシュ、セシル、ウェンディ、リンと言う具合で話始める。

 

「せっかく食うんだから、人数は多い方が楽しいだろ?」

 

「それもそうね」

 

シンシアの隣にリィエル、そしてリィエルの隣にルミアとシスティーナと言う風に席につく。

 

「にしてもリィエルのあの魔術は凄かったな!どうやったらあんな速攻で錬成できんだ?」

 

「確かに。今度僕達にも教えてよ。」

 

「.........」

 

リィエルはまた何か考えてから、

 

「ん。暇なときなら...」

 

「よし!ウェンディ達もどうだ?」

 

ガッツポーズを取りながら、カッシュは隣の女子二人に話しかける。

 

「それもいいですが、あなた【ショック・ボルト】をまともに撃てないのはなかなかに大変ですわよ。あなたの隣の人は特殊なだけですけど、ここで【ショック・ボルト】が使えなければ、後々苦労します。よかったら、私が教えて差し上げますわよ」

 

「わ、わたしも今度、教えて貰うから、一緒にどうかな?」

 

ウェンディの誘いに加えて、リンがおどおどしながらリィエルを誘う。リィエルは少し困惑したような顔をすると、何故かシンシアの顔を見た。

 

「ん?教えて貰えよ。ウェンディ、ついでに俺もお願いしていい?」

 

「あなたは一向に成長の兆しが見えないので嫌です。」

 

「そこをなんとかお願いします!!俺もバーンて撃ってみたいわけよ!!シス姉に頭下げるのは死んでもゴメンなんだ!頼れるのはウェンディだけなんすよ!!」

 

「アンタは一言多いのよ!!」

 

わちゃわちゃと賑やかな空間が広がるその一角、それを遠目に見ながら、グレンは昼食に舌鼓をうっていた。

 

「シンシアもやるなぁ。あいつらのリィエルへの第一印象をあっさり変えやがった。」

 

実はシンシアは、先に席を見つけるだけでなく食堂にいた同じクラスの面子を、一ヶ所に集めていたのだ。そしてリィエルは勘違いされやすいだの、中身はいい奴だの言って固くなった考えをほぐしたのだ。

 

だから今一緒に食べているカッシュやウェンディには、リィエルへの怯えや恐怖は無い。

 

(にしても、あんなセリフをよく言えるわ...)

 

グレンはキルア豆のスープを飲みながら、さっき見たシンシアの言葉を思い出す。

 

『なぜ、なぜあなたは今日きたばかりの転入生のために、そこまで動くんですか?あなたには何のメリットも無いではないですか。』

 

それは話の途中で、シンシアの行動に不審に思ったウェンディから飛んだ質問への返答。それにシンシアは、笑顔のままこう返したのだ。

 

『え?なんでって...クラスメイトだからだろ。クラスメイトみんなで仲良くした方が良いに決まってんじゃん』

 

シンシアはさも当然と言うように答えたが、それは普通ではない。集団というのは、ほぼ確実に一つに纏まることはない。必ずはみ出し者が出来たり、分裂したりするのが常だ。

 

だが、シンシアはそれを真っ向から否定していったのだ。学院時代はみ出し者だったグレンから見れば子供の戯言、それも今時そんな事を思う子供なんてほぼいないと感じる。

 

(あいつは将来化けそうだな...楽しみだ)

 

システィーナに首を捕まれて、意識が飛びそうになるシンシアを見ながら、グレンは少し微笑んだ。そこで、その隣のリィエルが視野に入る。

 

リィエルはいつも通り無表情だが、その顔には少し楽しげな何かをグレンは感じた。

 

(あいつも、満更じゃねぇってことか)

 

グレンは自分の妹分の成長に少し喜びながら、食堂をあとにした。

 

 

 

 

 

 

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