最後にその手が掴むもの   作:zhk

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少しずつシリアスになってきますよ!!


遠征学習

 

リィエルはシンシアの陰ながらの助力により、どうにかクラスに馴染むことに成功した。もうほとんどの生徒はリィエルに対して、怯えや恐怖を覚えておらず、むしろ友好的なまでになっていた。

 

そしてリィエルが魔術学院にやって来て、はや数週間がたった今、二組ではある行事についてで盛り上がっていた。

 

それは『遠征学習』だ。フェジテ郊外にある魔術研究所を見学し、魔術に対しての見聞を広めるという目的の下行われる、アルザーノ魔術学院でも重要な行事だ。

 

それについて、放課後のホームルームで説明が行われているのだかーー

 

「ぶっちゃけていい?行きたくないです...」

 

「単位落としたいのシン?」

 

驚くほどにシンシアにはやる気がなかった。シンシアはいつものように机に伏せながら、まるでこの学院に来た当初のグレンのような目をしながら、教卓で進む説明をダラダラと聞いていた。

 

「だってよぉ!どうせ長い講義聞くだけだろ!!ならこっちに来いっての!!」

 

シンシアは『遠征学習』自体が嫌な訳ではない。シンシアが嫌なのは、その行った場所で行われる講義だった。

 

シンシアは魔術を学ぶのはあくまで夢への手段のひとつなのであって、何かを極めたいだとか何かを知りたいというような物ではない。そのため、シンシアのような特殊な人間からすれば暇でしょうがないのだ。

 

「あとレポート!なんで!なんで十枚も書かなきゃならんの!?ほんと嫌になるな!!」

 

「で、でも行かないと単位落としちゃうよ?シン君実技があんまりだから、こういうところで点とっとかないと...」

 

「そこなんだよな...」

 

先程までの勢いはどこに行ったのか、シンシアは悲痛な顔になる。

 

この『遠征学習』は必修単位の一つであり、ほぼ筆記の成績のみでこの学院にいるシンシアからすれば、それを落とすのはデッドラインを踏み越えることなのだ。つまり、どれだけ喚こうが行かねばならないのが現実なのだ。

 

「研究所の近くまで行って何すんだよ...自由時間って...特にやることもねぇのに...」

 

「ふっふっふ...本当にそうかな?シン君。」

 

憂鬱な面持ちのシンシアに、グレンが不敵な笑みを浮かべながら近づく。

 

「へ?どしたグレン先生?」

 

「今回俺達が行くのはどこか知ってるか?」

 

「知りません」

 

「マジかよ...」

 

シンシアの堂々とした宣言に、グレンは芝居じみた演技をやめて生徒全員に語りかける。

 

「いいかお前ら、お前らは他の所が良かっただの言ってるがな...今回お前らは最高の場所を引き当てた事に気がついてないのか?特に男子ども」

 

「「「「「?」」」」」

 

シンシアを含めた男子は、グレンが言いたい事の真意がわからなかった。だが、グレンはそのヒントを与えていく。

 

「今回俺達が行くのは白金魔導研究所があるサイネリア島、そこは一体どういう場所だ?」

 

グレンの与えたヒントに、ほとんどの生徒はグレンの言わんとする事を理解した。

 

「あそこはリゾートビーチとしても有名!?」

 

「まさか先生!!」

 

「どういうことだシス姉?」

 

「アンタはこれだけ言われても理解できないのか...」

 

他の男子が着々とその真意を理解するなか、シンシアは未だに何が言いたいのかわからない。

 

「あのね、サイネリア島はリゾートビーチとして有名なの」

 

「ほうほう」

 

「それで、今回の『遠征学習』は自由時間が多いのよ」

 

「ほうほう」

 

「ということは...?」

 

「ということは!?」

 

シンシアはガバッと高速で立ち上がる。

 

「海で泳ぎ放題って事ですか!?」

 

「おう!なんかお前だけ違うけどそう言うことだ」

 

「グレン先生!!俺はあんたを神と崇めたい衝動に駆られてるぞ!!」

 

「ふっ、わかったな野郎共。ならーー」

 

そう言いながら、グレンはここ一番のキメ顔をしながら、

 

「黙って俺についてこい」

 

「「「「「「はい!!!」」」」」」

 

男達の熱い返事に、女子達の冷たい視線が飛ぶがそんな事は彼らには関係なかった。

 

「うっしゃ!!これで暇はしねぇ!!先生万歳!!」

 

「シンなんか噛み合ってないわよ...」

 

他の男子の思惑とは少し違う思いを込めるシンシアを、システィーナとルミアは呆れながら見ていた。ただひとり、リィエルは何の話をしているのかわからないのか、不思議そうな顔をしながら首を傾げていた。

 

ーーー

 

騒がしい学園生活は、日を早く感じさせるのか、すぐに『遠征学習』の日となった。サイネリア島へは船で行かねばならないため、港町へと向かわねばならない。そのためフェジテから馬車にのって港町へと向かうのだ。

 

「おっしゃあがり!」

 

「あ!おいカッシュずりぃぞ!」

 

「いやずるなんもしてないんだけど...」

 

そして今移動中の馬車の中では、シンシアとカッシュ、ギイブルとセシルが馬車の中でトランプに興じていた。

 

「まーた俺の敗けかよ...これはあれか?俺に何か呪いでもかかってんじゃ...」

 

「君が分かりやすすぎるだけだよ。全く、ジョーカーを触られたときに瞬きする癖を直さない限り、君は勝てない」

 

「え!?俺そんな癖あんの!?」

 

「あるな...」

 

「うん。絶対一回はするよね...」

 

「マジかよ...無意識だったわ」

 

シンシアは驚愕を顔に埋めつくしながら、トランプをきっていく。

 

「次何やんの?神経衰弱?」

 

「それはお前には絶対勝てない」

 

「ある場所全部シン君覚えるのに勝てるわけないよ...」

 

「もう一度ババ抜きでいいんじゃないか?」

 

珍しくギイブルが積極的なのは、シンシアが煽りに煽った結果なのだがそれは割愛する。

 

「じゃあさ、次は賭けをしようぜ?」

 

「賭け?明日の朝の飯代でも賭けるか?」

 

「いやいやこんな学生の旅で、賭けといったらあれでしょう!」

 

「?」

 

カッシュのいきなりの提案に、三人とも状況が読み込めない。

 

「最後に負けた奴は、自分の好きな女子の名前を言う!」

 

「俺いない」

 

「僕もいないかな...」

 

「興味ないね」

 

「え!?みんな素っ気ないな!!」

 

シンシアは恋愛よりも自己鍛練の方が好きなタイプ。ギイブルは恋愛よりも勉学に重きを置くタイプ。セシルはただ単純に好きな女子がいないのだ。

 

「シンはどうなんだよ!!リィエルちゃんと仲良いじゃねぇか!」

 

「はぁ?俺とリィエル?」

 

カッシュの発言にシンシアはハテナマークを頭上に浮かべる。確かに男子の中でリィエルと最も会話をするのはシンシアだろう。だが、それはクラスのメンバーよりも前から知り合っていると言うだけで、特に深い関係ではない。

 

「仲はいいけど、それだけだぞ?」

 

「ほんとか?」

 

「マジマジ」

 

カッシュの尋問も、シンシアは素っ気なく返すのでカッシュは興味を無くしたのか話をやめる。

 

「でもシンなら絶対彼女とかすぐ出来そうだけどな!」

 

「そうだね。誰にでも優しくて、気さくだし。」

 

「おいおいやめろむず痒い。俺はそんなすげぇ奴じゃねぇよ...」

 

シンシアは少し恥じらうように顔を背けながら頬をかく。

 

「だいたい恋愛とか言われてもわっかんねぇよ俺。それにこんな俺を好きになる奴なんているか?」

 

「それこそわかんねぇぜ?意外に今回の遠征で告白されるかもよ?」

 

「いや...無いだろ」

 

シンシアは自分が告白されるシーンを想像しようとするが、まったくといっていいほど想像出来ない。というより、シンシアにとって彼氏彼女という関係と友人の違いすらよくわからないのだ。

 

「ふん。そんなくだらないことに構ってる暇があるならカードを配ってくれ。」

 

三人で話し込むのを見ていたギイブルがついに口を挟んだ。ギイブルはトランプを繰りながら既に次のゲームの準備をしていた。

 

「なんだよ、グダグダ文句言ってた癖にギイブルが一番やる気があるじゃねぇか」

 

「な!?違っ!?」

 

「なら付き合わない訳にはいかねぇよな!カッシュ!!」

 

シンシアはギイブルの肩を組みながら、カッシュを力強く呼ぶ。

 

「そらそうだろシン!さあやるか!ギイブルもやりたくてウズウズしてるみたいだし」

 

「だから違うと言っているだろ!!」

 

そしてまたトランプ大戦が始まるのだが、その日シンシアが勝利する事は一度もなく、本気でポーカーフェイスの練習をしようかシンシアは悩むのだった。

 

ーーー

 

馬車の中で一夜を過ごし、次の日の正午には港町シーホークへと着いていた。ここで馬車から降り船に乗るのだが、間に挟んだ休憩時間で各々が昼食を取りに行く。

 

そして集合時間になり、生徒全員が既に揃っているのだがら約一名この場にいない人物が一人。

 

「何やってんだグレン先生...」

 

「遅い!社会人が時間に遅れるなんて!」

 

呆れるシンシアの隣で、システィーナはイライラとしていた。

 

「しゃあないな...ちょっと探してくるわ」

 

シンシアはそこで集合場所から離れ、グレンを探すために繁華街へと駆けていく。

 

「私も行く」

 

「ダメだ。後々二人ともいなくなった時に先生が来たらそれはそれで探すのが面倒だ。」

 

「でも...」

 

リィエルは少し不安げな表情を浮かべながら繁華街の方へと向く。リィエルがグレンがいなくて不安なのは、シンシアにはすぐに理解できた。

 

「大丈夫だって!!俺が連れてくるから!!」

 

シンシアはポンとリィエルの頭に手を置き、そのまま繁華街へと走り出す。

 

「あんまり遠くに行くんじゃないわよ~!」

 

「わかってるよシス姉!」

 

後ろから聞こえたシスティーナの忠告に身振り手振りて返しながら、シンシアは繁華街へと繰り出していった。

 

「つってもどこにいるんだか...」

 

繁華街の周りを探すが、どうにもみつからない。何せここは港町だ、たくさんの人が行き交う場所のため街路はごった換えっている。

 

「せめてどの辺かってのが分かればな...」

 

シンシアはまた街路を歩き出すが、これ以上行けば逆に自分が迷うだろう。

 

「どうしよ...一旦戻って...ん?」

 

この後どう動くか考えていると、目の端で見慣れた男性を見つける。

 

「先生だよな?隣の人誰だ?」

 

どうにかグレンを見つける事に成功したが、グレンの隣には見慣れないシルクハットの男性が一人。そのまま二人は路地裏へと入っていく。

 

「ここで見失ったらヤバいな」

 

そう考えたシンシアは人の間を抜けながら、グレン達が入っていった路地裏へと入る。薄暗いそこは、まるで競技祭の夜を思い出させる。

 

シンシアは心のなかで舌打ちをしたくなる気分になる。あの時のエレノアの言葉は、まだ自分の心に深く残っている。

 

『あなた様の持つ力は確かに強い。しかし、それは精々自衛が精一杯でしょう。』

 

『あなた様はきっと近日中に思いしるでしょう。自分の無力さに。』

 

それが頭によぎった瞬間、シンシアは近くの壁を殴り付ける。その人の神経を逆撫でするような声を頭から排除するために。

 

「守る...守るんだ。そうだろシンシア=フィーベル、正義の魔法使いになるんだろ?」

 

弱々しい声で、シンシアは自分に言い聞かせる。殴った手がジンジンと痛むが、そんな事は気にしない。シンシアはまた、グレン達のあとを追うために路地を進んでいく。

 

(あっいた。でもあれってアルベルトさん?どうしてここに...)

 

ようやく追い付いたシンシアは、路地の壁に背を預けながら二人の話に耳を傾ける。

 

「グレン、リィエルに気を付けろ。あの女は危険だ」

 

「っ!?」

 

アルベルトの言葉に、シンシアは息を飲む。そのアルベルトの声音は真剣そのもの、冗談を言っているようには聞こえない。

 

「おいおい何言ってんだよアルベルト、あいつは仲間だろうが」

 

「お前と俺は知っているだろう、あいつの危険性を」

 

(リィエルの危険性?一体何のことだ?)

 

シンシアがより話を聞こうと足を一歩踏み出した時、不覚にも近くの石を蹴ってしまう。

 

「誰だ!?」

 

「やっべ!」

 

シンシアはとっさに【フィジカル・ブースト】を使ってその場から離れる。そのまま走り続け、路地から出る。特に逃げる必要は無かったが、アルベルトの気迫に気後れしてしまった。

 

「あ、危なかった...俺がいたってバレたか?それより...」

 

気がかりなのはあの言葉。

 

「リィエルが危険って、どう言うことなんだ?」

 

ーーー

 

「シンか...まったく面倒ごとに首を突っ込みたがるな...」

 

「悪いな、後でそれとなく注意しとくわ」

 

もちろんこの二人はシンシアがいたことに気がついていた。

 

「グレン、自分の生徒はちゃんと面倒をみろ。特にシンのな」

 

「それを言われると返す言葉もない。だけど、なんでシンなんだ?」

 

アルベルトがそこで名を上げたのは、何故かシンシアの名前だった。確かにシンシアはトラブルメイカーだが、そこまで危険な生徒でもない。

 

「お前になら話してもいいか。だが、これは他言無用だぞ?」

 

「お、おう...」

 

アルベルトは辺りを少し確認してから、声を潜めてグレンへと話した。

 

「上は、シンを特務分室に入れたがっている。」

 

「なんだと!?」

 

グレンは目を見開き、声を上擦らせながら叫んだ。

 

「なんであいつなんだ!確かに今特務分室は人員不足に悩まされているのは知ってるが、それでもなんで!?」

 

「テロリストを単独で撃破、それに親衛隊と対等に戦える戦闘能力、そして数は少ないが魔術の無詠唱発動が出来る。これだけでも十分過ぎる理由だと思うが?」

 

「だけど!それでもまだあいつは学生だぞ!!」

 

「年はクリストフやリィエルと大差ない。」

 

グレンの反論も、アルベルトの正論によってすべて論破されていく。

 

「俺は断固反対だ!あいつがあんな血生臭い所に行けば、間違いなく俺のようになる!!」

 

シンシアはまるで昔のグレンの鏡写しだ。そんな彼が特務分室に入れば、グレンが辿った地獄を見るのを予想するのは簡単だった。

 

「俺としても反対している。それにまだシンに声がかからないのには理由がある。」

 

「理由?」

 

「それはシンが魔術をうまく使えないことだ」

 

グレンはハッとしたような顔になる。特務分室に入れる条件は何かに秀でたオールラウンダーだ。シンシアは確かにその接近戦での戦闘能力は規格外だが、遠距離になるとまるで使い物にならない。

 

「それを理由にして、どうにか上層部の首を縦に振らせない様俺も努力しているが、あいつが遠距離魔術を使えるようになれば、すぐにでもスカウトに来るぞ。それにあいつの性格なら、あっさり了承するだろう。」

 

「なんだよそれ!?あいつが成長すれば地獄を見るってのか?そんな理不尽があってたまるかよ!」

 

シンシアは努力して、周りのように魔術を使えるようになろうとしている。だがそれが叶えば血生臭い道が待つというあまりにも理不尽な仕打ちに、グレンは憤る。

 

「だからこれ以上シンを事件に絡ませるな。でなければ

、本当に奴は引き抜かれるぞ?」

 

「あぁ、わかってる」

 

「ならいい。俺は警告したからな?」

 

それだけ告げると、アルベルトは路地の闇へと消えていく。

 

進んでいく歯車、それが徐々に狂い始めている事に、この時はまだ、誰も気がついてていない。

 

 

 

 

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