最後にその手が掴むもの   作:zhk

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海辺の戦い

 

港町を出ること数時間、シンシア達二組一行はサイネリア島に到着する。

 

「おおー!!すっげぇ!!」

 

シンシアは誰よりも早く船から降り、大きなカバンを振り回しながら既に街路で騒いでいる。

 

「先生!めっちゃ綺麗な海っすよ!!」

 

「ちょっと待ってくれ...いま...それ所じゃねぇ...」

 

目を爛々と輝かせるシンシアとは対照的に、グレンは顔を真っ青にし近くの街灯に体を預けている。

 

「ったく先生ひ弱っすね~?たかが船に乗るだけじゃないっすか。」

 

「誰もがお前みたいに、強靭な体を持ってる訳じゃねぇんだよ...うぅ...」

 

「グレン、大丈夫?」

 

リィエルが心配そうにグレンに問いかけた。グレンはそれに苦し気な声で返すが、どうみても大丈夫ではない。

 

「仕方ないから先生の荷物持ちますわ。先いっときますよー。」

 

「ああ、わりぃな」

 

そう言うとシンシアはグレンの荷物をひょいっと抱えると、既に前を歩くカッシュ達の下へと走っていく。

 

「あれだけいきたくないっていっておいて、一番楽しんでんじゃない...」

 

「シン君もきっと、みんなで行くのが楽しいんだよ。」

 

「あの元気を...少しは分けて欲しいんだがな...」

 

シンシアの相変わらずなその態度に、三人は呆れたり微笑んだりと忙しく表情を変えながら見守る。だが、リィエルだけはシンシアを、どこか懐かしいものを見るような目で見ている事に、三人とも気がつかなかった。

 

ーーー

 

「うわ!!カッシュ!ベッドが!ベッドが柔らかい!スッゴい柔らかい!!」

 

「ホントだなんだこれ!!俺の借りてる所のベッドとは大違いだぜ!?」

 

「二人とも!!ベッドの上で跳び跳ねるな!?壊れるだろう!!」

 

宿の一部屋は四人から三人部屋で、馬車のメンバーと同じギイブルにシンシア、カッシュにセシルが部屋のメンバーとなっていた。

 

部屋に入って早々ベッドに飛び込んだシンシアとカッシュを尻目に、ギイブルが説教しているが、それもあまり効果はなくシンシアとカッシュは止まらずに騒ぎ続ける。それをセシルはギイブルの後ろから乾いた笑いを浮かべていた。

 

「明日って何すんの?」

 

「さぁ?俺日記帳家に忘れたし...」

 

「日記帳?なんだそれ?」

 

「まったく君たちは...」

 

とりあえず落ち着いた二人は、明日の予定を知ろうとするが二人のその計画性の無さにギイブルはため息をつく。

 

「今日は何もないよ。あとは食事をして、風呂に入って寝るだけだ」

 

「飯は何が出るんだ?」

 

「僕が知るわけないだろ!?」

 

「んだよ...それぐらい知っとけよ...優等生だろお前」

 

「そこは優等生かどうかは関係無いだろう!?」

 

ギイブルが顔を真っ赤にしながら叫ぶが、シンシアはベッドの上でゴロゴロと回りながらギイブルの抗議を右から左へ聞き流す。

 

「ついでに言うと、本格的に始まるのは四日目からだ。その日に研究所を見学、五日目は終日講義、六日目で自由行動で七日目でフェジテに帰る。」

 

「ふーん。なんかもう最初らへん忘れたけどわかった。」

 

「君に真剣に説明した僕がバカだったよ...」

 

ギイブルは額を押さえながらシンシアから視線を外す。そしてギイブルがカッシュを見ると、カッシュはどこか悪そうな笑みをしている。

 

「じゃ飯の時間になったら起こして。俺寝とくわ...」

 

そう言うシンシアは布団に身をくるみ、瞼を閉じる。そのまま意識を深いところに置いてこようとーー

 

「なぁシン、折り入って頼みがあるんだが...俺達の夢がかかった、シンにしかできない事なんだ!」

 

「いいぜ!親友の頼みだ、何でも言ってみろ!!」

 

するのを中断し、ガバッと飛び起きてカッシュの話を聞き入る。

 

「と、言うわけなんだが...」

 

「それはいいけど...その間お前らは何しに行くんだ?」

 

「夢を叶えにいくんだ!深くは聞くな!!」

 

「なら無理には聞かねぇ。この俺に任せとけ!!お前らの夢が何であれ、そこには俺が架け橋になってやるよ!!!」

 

「さすがだぜシンの兄貴!!」

 

シンシアはベッドの上に立ち上がりながら胸を張る。それをカッシュは神を崇めるような視線を送る。

 

「シンがいいように利用されてると感じるのは、

僕だけか?」

 

「僕もそう思うよ...」

 

その二人の掛け合いを見る二人は、シンシアの純粋さが少し心配になるのであった...

 

ーーー

 

大広間で食事を終えて、全員が風呂に入り終わり、今はもう就寝の時間。

 

「うし、行くぞお前ら!」

 

中庭の茂みには、クラスの男子達が集まっていた。そしてカッシュを中心に輪を作り、何かを話し合っている。

 

「作戦会議は終わったか?」

 

「おう!用心棒は頼むぜシン!」

 

「何が目的かは知らんけどわかった」

 

そう言ってシンシアはカッシュ率いる男子軍団のあとに続く。よほどしっかり調べたのだろう、かなり入り組んでいるはずの雑木林をすいすいと踏破していく。

 

そして遂に、カッシュ達が女子塔を視界に収めた、その時だった。

 

「甘いぜお前ら!!」

 

その女子塔の前に、一人の男が立ちふさがった。

 

「ぐ、グレン先生だと!?」

 

「バカな!?このルートは完璧のはず!?」

 

「甘い甘い甘すぎるぞお前ら、俺がお前らならこのタイミングで来るのは簡単に予測できたんでな!!」

 

グレンは悪びれる事もなく堂々も叫んだ。後ろでは女子の軽蔑するような視線がグレンと男子達に飛ぶが、彼等にとってそれは今関係ない。

 

「さあとっとと戻った戻った、別に学院に報告したりしねぇからさっさと戻れ」

 

「くっ!?どうする?」

 

「こんなところで引いてたまるか!!」

 

「でもグレン先生相手に勝てるのか?」

 

突然のグレンの登場に、男子軍団の考えは大きく別れる。そしてそれぞれが言い合いになるなか、シンシアがグレンの前へと現れる。

 

「あれ?お前がこういうことに参加するのは予想外だな、シン」

 

「親友の頼みなんで、俺も引けないんすわ」

 

そしてシンシアは構えをとり、グレンと相対する。

 

「な!?シン、お前...」

 

「お前らがこの後何がしたいのかは大体把握してる。俺が先生を押さえるからお前らは行け」

 

「し、シン...!?」

 

全員がシンシアを涙を流しながら見る。

 

「お前らが目指す場所のためなら、俺は進んで犠牲になろう!さぁ行けお前ら!!」

 

「シン!俺はお前の事を忘れないぞ!!」

 

「お前は英雄だ!!」

 

「あいつの死を無駄にするな!!行くぞみんな!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

シンシアを除く男子軍団は、グレンの横を通って女子塔へと向かっていった。

 

「さて、茶番はこれくらいにして一戦お願いします。先生。」

 

「やっぱなんか目的があったか...ま、じゃなきゃお前がこんなことに手を貸す分けないか」

 

この一連の動きはすべてシンシアの演技だ。すべてはグレンと一騎討ちのため、そしてあの事を聞き出すためだ。

 

「俺が勝ったら、昼間アルベルトさんと話していた事の真相を教えて下さい」

 

「ふーんなるほど、それがお前の狙いって訳か」

 

シンシアの真意を把握すると、グレンもファイティングポーズを取る。

 

「いいぜ、お前が勝ったら教えてやるよ。来い!」

 

「行きます!!」

 

シンシアは地面を蹴り、グレンに近づく。そして右足でグレンの顔に蹴りを入れようとするがそれはグレンの手によって捌かれる。

 

グレンはシンシアの足を掴み、シンシアを投げ飛ばすがシンシアは綺麗に受け身を取り、ダメージをゼロにする。

 

「お前のその体術にはびびるわ...ホントに学生か?」

 

「ゼロ距離だけなら、この学院の誰にも負けませんよ!!」

 

シンシアは自分の体全身に【フィジカル・ブースト】をかけて殴りかかる。それは凄まじい速さで、普通ならば目で追えないほどのものだ。

 

(いける!!入った!!)

 

シンシアは感覚的にもうグレンは自分の一撃を避けられないと確信した。もうグレンとの距離は目と鼻の先、このままシンシアがグレンの顔に一発叩き込めば終わる。

 

「うらぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

大きな掛け声と共に振りかざされた拳はーーー

 

 

 

 

グレンに当たる前に宙を切った。理由は、シンシアが何かに足を引っ掻けたからだ。

 

「え?うそ!?」

 

シンシアはどうにか体勢を整えようとするがもう遅い。かなりのスピードで加速していた体は思うように止まらず、グレンの足下で鈍い音をたてながら転ぶ。

 

「あはははは!!いや、中々面白かったぜシン!綺麗に罠にはまって...やべ笑いが止まんねぇ!!」

 

「...くそ!!」

 

グレンは元からそこに罠をはっていたのだ。それにみすみすはまっていく浅はかな自分が、シンシアに苦汁を飲ませる。

 

「もうちょい成長しろシン。周りをよく見て動け」

 

「うう...それを言われると返す言葉もないっす」

 

シンシアは服についた土や草を払いながら立ち上がる。

 

「という事で、あの話をするのは無しだ。ま、お前が勝とうが話す気は無かったがな」

 

「!?なんで!!」

 

「これ以上事件に関わるな、シン。」

 

そう言うグレンの目は、とても冷たいようにシンシアは感じた。

 

「お前はお前が出来ることだけをやればいい。無理に体

張る必要もねぇんだよ。お前が正義を重んじて、周りを大切に思ってるのもわかるが、それでもお前が関わりすぎるのは元々ダメなんだよ。悪いがわかってくれ」

 

そこまで言うと、女子塔から叫び声が聞こえる。聞こえたのは女子特有の高い声ではなく、男子の野太い声だ。

グレンはそれが聞こえると、シンシアに背を向けて声が聞こえた方へと向かう。

 

「じゃあ俺はあいつらを見てくるわ。だからお前も早く部屋に戻れよ。」

 

グレンらそれだけ言うと、女子塔へと走っていった。その場に残されたのはシンシアただ一人。

 

「まただ。また俺が弱いからなのかよ...!」

 

シンシアは苛立ちのまま近くの木を蹴って、きびすを返して部屋へと戻っていった。

 

ーーー

 

次の日、一日自由時間のためたくさんの生徒がビーチに来ていた。

 

ビーチでは楽しく海で泳ぐもの、砂浜で戯れる者など色々だ。

 

「せりぁぁぁぁぁあ!!」

 

バシンっという気持ちのいい音と共に、ボールが九の字に曲がり砂浜を抉るように地面につく。

 

「おっしゃぁぁぁこれで勝ち!!」

 

「シンの奴強すぎねぇか!?」

 

砂浜で行われているのは、魔術の使用ありのビーチバレー。ちょうど今シンシアが力強いアタックを決め、試合を終わらせた所だった。

 

チームはシンシアとグレン、そしてカッシュという肉弾戦になればかなり強い者が集まった、なんとも大人げない組み合わせ。

 

「シン魔術まだ使ってないのに...ホントにあきれた身体能力ね...」

 

「ははは!俺の強さに恐れをなしたかシス姉!」

 

高笑いをしながらシスティーナを指差し挑発する。しかし今のところシンシアのチームは一度も負けておらず、また本命のシンシアがそこを見せていないという強力なチームだ、だがシスティーナのチームも負けてはいない。

 

「これは...中々に面倒だな...」

 

グレンがそう呟く。次の相手は魔術成績トップクラスのシスティーナ、そしてこの魔術ありの戦いにおいて最も効果の強いサイキック系の白魔術を得意とするテレサ。そしてこのチーム最も強力なカードはーーー

 

「ん」

 

人間離れした身体能力のリィエルである。グレンからすれば相手にするチームで最強の敵といっても過言ではないだろう。

 

「試合開始ー。」

 

暑さで疲れたのか、少し気だるげな声でセシルが試合開始を告げる。サーブ権はシンシアのチーム。

 

「カッシュ!いいとこにほれよ!!」

 

「わかってるシン!行くぜ!!」

 

とそんな掛け声と同様に強力なサーブが飛ぶ。

 

「《見えざる手よ》」

 

だがそれをテレサの【サイ・キネシス】によって止められ、ボールは地面につく直前で止まり、そのまま高くあげられる。

 

「リィエル!!」

 

システィーナが綺麗にトスを返し、そのタイミングに合わせてリィエルか飛んでーーー

 

「えい」

 

そんな貧弱な掛け声と共に、砲弾のようなボールが地面を貫く。三人がその着弾地点を見ると、ボールは砂浜に半分以上埋まっていた。

 

「あ、あんなんどうするんすか先生!?」

 

「俺にどうにか出来るわけないだろカッシュ!!」

 

カッシュとグレンはそのリィエルの殺人スパイクに、驚愕を露に騒ぎ出す。だがただ一人、シンシアだけは特に何の反応もしない。

 

「おいシン!?あんなの勝てっこねえよ!!」

 

「......」

 

カッシュの言葉にも、シンシアは反応しない。だがその代わり、相手の生徒達はシンシアを見て表情を強ばらせる。

 

「これは...厄介なのに火をつけちゃったわね...」

 

システィーナは少し引き気味になりながらシンシアを見ると、シンシアの顔には先程までの遊び感覚は無い。そこにあるのはただ純粋な勝利だけを狙う目。

 

(ああなると、あいつは常人離れした動きするからなぁ...)

 

「先生、カッシュ。」

 

そこでやっとシンシアが口を開く。

 

「ボール全部俺にまわしてください。相手からのは俺が拾います。」

 

「「お、おう...」」

 

その声に含まれていた凄みに、カッシュもグレンも首を縦に振るしか出来ない。

 

そしてシスティーナ側からサーブが飛ぶ、それをグレンがレシーブで上げ、すぐにトスのためにカッシュがボールの落下地点へと走る。

 

「行け!シン!!」

 

そしてカッシュがトスを飛ばす。それが飛んだ瞬間、シンシアは足に【フィジカル・ブースト】を加速しながら大きく飛ぶ。さらにからだを大きく弓なりにそる。

 

そこから強力なアタックが飛ぶと誰もが思ったその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールが一瞬で地面に着いていた。

 

「「「「え?」」」」

 

リィエルとシンシアを除いた全員がその光景に目を見張る。そしてそれを行った張本人は、地面に着地して動かない。

 

 

「おし一点...」

 

少し経ったあと、シンシアのその一言で周りの止まった時間が動き始めた。

 

「えええええええええ!!!お前今どうやったんだよ!?」

 

「速すぎて見えなかった...あんなの拾えっこないわ...」

 

「詠唱する暇もないわね...」

 

それぞれが口々に今の感想を言うなか、シンシアはチームに今何をやったのかを説明し始める。

 

「【タイム・アクセラレイト】を使って全力でスピードを上げた」

 

「にしても速すぎんだろ!?俺ですら目で追えなかったぞ!!」

 

「もうこいつ人間じゃねぇ...」

 

カッシュが頬を引き吊りながらそう言う中、リィエルはシンシアを睨むように見たあと、

 

「私にそれもっとまわして。」

 

と一言だけ言って、シンシアと同じような雰囲気を醸し出し始める。

 

「こ、こっちもこっちで火が着いた?」

 

「これは面白くなりそうね...」

 

コートに現れてしまった二体の獣に、両チームともに恐れおののくのだった。

 

ーーー

 

「あ~疲れた」

 

シンシアは砂浜の上で体を倒しながら、空を仰ぐ。試合はリィエルとシンシアの拮抗勝負となっていたが、長期戦になるに連れてリィエルとシンシアの体力差が露になっていき、最後はシンシアが折れリィエル達の勝利となった。

 

「というかマジできつい...【フィジカル・ブースト】と【タイム・アクセラレイト】を連発で死ぬかと思った。最後なんて気力しか残ってなかったし...大体なんだあの体力量!?チートだ!チート!!」

 

グチグチと文句を言い続けるが、シンシアの胸のうちはスッキリとしていた。昨日のグレンからの宣言がずっと胸のなかをぐるぐると回っていた時よりは、少しは冷静に考えられるようになった。

 

(先生の言うことがもっともだな、俺はただのしがない学生、さらに言えば魔術もろくに使えない落ちこぼれだ。こんな体で事件の渦中に入り込んでも邪魔なだけ...か...)

 

冷静になった事で、そう考えられるようにはなった。しかし、それでも納得できない自分がどこかにいる。

 

もし、自分以外に誰も動ける者がおらず、誰かが危険な目にあっているなら、自分はその理由で動かずに助けを待ってられるだろうか?

 

(無理だな...また勝手に動きそうだ)

 

自嘲気味に笑いながら、瞼を閉じる。他はまだ海で遊び回っているが、その中に入れるほど体力は回復していない。少し眠るくらいはいいだろう。

 

だが、そこで瞼の間から入っていた光が突如消え暗くなる。奇妙に思って目を開くと、そこにはこちらを覗き込むようにリィエルが立っていた。

 

「どした?シス姉達ならあっちだぞ。」

 

「私も疲れたから休憩」

 

そう言うとリィエルは、シンシアの隣にちょこんと座る。そこから少しの間無言の時間が続くが、意外と居心地は悪くなかった。その沈黙を破ったのはシンシアだった。

 

「二人と過ごしてどうだ?」

 

「二人って?」

 

「シス姉とルミ姉だよ。」

 

シンシアは海辺で他の生徒と遊ぶ二人を指差しながら話す。

 

「いや、リィエルはどう思ってんのかなと思ってな。二人の事」

 

「......わからない」

 

リィエルは少し俯きながらそう答えた。その顔には困惑が少しだけ含まれているようにシンシアは感じた。

 

「でも、みんなともっといたいって思う」

 

「...そっか」

 

(危険なんかねぇじゃねぇか...今回ばかりはアルベルトさんの勘違いって事か...)

 

隣から感じる雰囲気には、つい最近連続して起こったテロリスト達が纏う空気は無い。リィエルの纏うそれは、どこかまだ楽しさというものが掴めていないような、そんな感じだった。

 

「悪いけどちょっと寝るわ...お休み...」

 

「ん」

 

シンシアはそう言ってリィエルから視線を外し、体を横に向けながら眠りに落ちていった。

 

 

 

シンシアが眠ってからも、リィエルはじっとシンシアを見続けた。

 

彼の言った問いがどういう理由で言われた物なのかはわからない。だが、確かにシスティーナやルミア、他の生徒ともっと過ごしたいと思う感情は、リィエルにはあった。だが、シンシアに向ける感情はどちらかというとグレンに向ける物に似ている気がする。

 

どこか彼の仕草や行動が、兄に似ている。諦めない精神や優しげな声、それが兄に通ずるところがあるようにリィエルは感じていた。

 

(私は...どうしたらいいの?グレン...)

 

特務分室にいたときには感じなかったたくさんの事を、学院に入ってから感じるようになった。それが良いことなのか、それとも悪いことなのかは精神的に幼いリィエルには判断がつかない。

 

リィエルは、そのぐちゃぐちゃと織り混ざるような感情を整理できぬまま、ただたださざ波の音に耳を澄ましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に、シンシアのすべてを変える一日が始まる。

 

 

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