最後にその手が掴むもの   作:zhk

16 / 51

すみませんちょっと私用で遠出していたので投稿遅れました。では本編どうぞ!


最悪の事態

遠征学習も四日目、遂に本命の研究所見学の日がやって来た。向かうはサイネリア島中心部にある白金魔導研究所だが、そこへ行くのはなかなかに骨の折れる作業だ。

 

「遂に、ついにこの日が来てしまった...」

 

「なんで...あんたはそんな...余裕なのよ!」

 

汗一つかかずにすいすいと舗装されていない山道を歩きながら憂鬱な雰囲気を醸し出すシンシアに、システィーナが肩で息をしながらそう返す。

 

この島、サイネリア島は未だに未知の領域が多数存在しており、そこはまだ手付かずでうっそうとした森や山が広がっている。その中心部に白金魔導研究所は位置しているので、必然的に生徒達は山登りを強いられるのだ。

 

「俺は鍛えてるからな。ルミ姉は大丈夫?」

 

「うん...結構...キツいかな...シン君は?」

 

「大丈夫!ここから宿に戻ってもっかいこれるぐらいには大丈夫。」

 

「その体力は恐ろしいわ...」

 

システィーナも最近になってトレーニングを始めたが、シンシアとは年単位で期間が違うので比べるまでもない。

 

「リィエルは大丈夫か?ま、多分大丈夫だろうけど...」

 

「......」

 

シンシアは振り向き、後ろを歩くリィエルにそう聞くがリィエルはなにも答えない。

 

「なぁシス姉、リィエルなんかあったのか?」

 

「それが私もわからないのよ。朝も部屋にいなかったし...」

 

システィーナも困惑気味にそう話すなか、それは起こった。

 

「!?あぶねぇ!」

 

後ろのリィエルが、崩れかかっていた石畳を踏んで転びそうになる。シンシアは持ち前の反射神経で直ぐ様反応し、リィエルの手を掴みどうにか支えた。

 

「どうしたんだ?お前らしくもない...なんかあったんなら話ぐらいならーー」

 

「触らないで」

 

シンシアの純粋な心配からの言葉を、リィエルは強く拒絶しながら掴まれた手を強く離す。

 

「ちょっとリィエル、シンはあなたの事を心配してー」

 

「うるさい!」

 

「「「っ!!」」」

 

システィーナが少しリィエルの行動にもの申そうとしたその時、リィエルの中で何かが爆発した。その叫びに、シンシアもシスティーナもルミアも、誰もが唖然となった。

 

「うるさいうるさいうるさい!!あなた達と関わるとイライラする!!もう関わらないで!!」

 

「リィエル...」

 

リィエルはそれだけ言うと、そのまま何も言わずに坂道を登っていく。

 

「ちょっと待てよリィエルーー」

 

「待てシン」

 

シンシアがリィエルを追いかけようとするが、その肩を誰かが掴む。振り返ると、そこにいるのはグレンだった。

 

「あいつは今は一人にさせてやってくれ。ああなってるのは俺のせいなんだ。」

 

「先生...」

 

グレンのいつもの飄々とした態度とは違う、真剣な表情にシンシアも表情を引き締めた。

 

「だからあいつの事は愛想つかさずにいてほしいんだよ。難しいとは思うが...」

 

「何が難しいんすか?」

 

シンシアは即座にそう返す。その返しに、グレンもルミア達も驚きながら見ていた。

 

「あいつは悪いやつじゃないのは知ってますよ。そんな一回程度で愛想を尽かすわけ無いじゃないですか。」

 

シンシアは当たり前の事を言うように、真顔のままそう言った。

 

「そうです先生、私達もリィエルの事を嫌いになったりしません。ね?システィ?」

 

「もちろんよ。少し驚いただけだわ!先生も、早くリィエルと仲直りしてくださいよ!」

 

そう言うと、ルミアとシスティーナはまた山登りを再開していくがシンシアはまだグレンの下に残っていた。

 

「先生...今回のは...」

 

「言ったろ、深く関わるなって。俺に任せてとけ」

 

グレンは何も言わずに、システィーナ達の後ろに続くように歩き始める。

 

「わかってます。ただーー」

 

シンシアは静かに、そして強い意思を込めながら呟く。

 

「何かあったら、俺は動きますからね」

 

その言葉に、グレンは振り向くがシンシアは何もなかったかのようにグレンを追い抜いてまたシスティーナやルミアと話ながら坂を登っていく。

 

「ったく...そんな事起こさせるか...」

 

グレンは思い通りにならない生徒二人にやきもきとしながら、黙々と坂を登っていくのだった。

 

ーーー

 

それから二時間ほどで白金魔導研究所には着いたが、それまでにシンシア達とリィエルの間に会話はなかった。

 

「ようこそ皆様、長旅お疲れ様です。」

 

生徒達が肩で息をするなか、研究所から五十代位の老人が現れる。その顔には柔和な笑顔が浮かばれており、その纏う雰囲気は親しみやすさがにじみ出ていた。

 

「私はバークス=ブラウモン、この研究所の所長を務めています。では早速参りましょうか。」

 

「へー。所長自ら案内してくれるんすか?」

 

「ちょっとシン!?」

 

バークスの声に対して、生徒の集まる塊から声が飛んだ。もちろんシンシアなのだが、それをシスティーナが驚きながら止めにはいる。

 

「ええ。私も研究だけでは気が滅入りますしね。」

 

「なるほど、すんません不躾な質問しちゃって...」

 

「いえいえ構いませんよ。それでは参りましょうか、私の後についてきてください。」

 

そう言ってバークスは研究所へと入っていく。それに合わせてグレン率いる二組の生徒がぞろぞろと中に入っていった。

 

「シン、なんで急にあんなこと聞いたのよ」

 

「いやだって気になってよ。所長っていったら一番忙しい人じゃんか。その人が数少ない暇な時間切り詰めて、俺ら生徒を連れて回るなんてさ...確かに研究なんかしてりゃ気が滅入るわな...俺じゃ耐えれん」

 

「あんたのそれと一緒にするのはバークスさんに失礼だと思うわよ...」

 

呆れながらシスティーナが見るが、シンシアはそんな事関係無しに歩いていく。

 

「ん?どうしたのルミア。」

 

だがそこでシスティーナが、少しルミアが強張った表情をしているのに気がつき後ろを振り向き、それに合わせてシンシアも同じように後ろを向いた。

 

「ちょっとね...バークスさんが私の事見てたから気になって。」

 

「バークスさんが?あの子かわいいなとか思ってたんじゃね?」

 

「ううん、そんな感じじゃなくて、凄い冷たい感じ」

 

「冷たい?」

 

ルミアの言葉に、システィーナがおうむ返しのように聞き返すとルミアは静かに首を縦に振った。

 

「う~ん...なら少し気を付けとくわ。シス姉も一応ってことで」

 

「わ、わかったわ。じゃあ行きましょルミア」

 

「うん」

 

そして三人はまた歩き始めるが、シンシアは列の後ろの方で一人歩くリィエルに目を向ける。そのリィエルの顔は、どこか思い詰めているようにシンシアには受け取れた。

 

ーーー

 

「すっげぇな...」

 

シンシアはシスティーナ達と別れ、カッシュやセシル達と研究所内を見ていた。

 

シンシア達の目の前には、複数の生き物を掛け合わせて作る合成獣、通称キメラが円柱の形をしたガラスの入れ物の中に入った物が幾つも並んでいる。

 

「うん、こんなの出来るなんて...やっぱりすごいよね」

 

「にしてもグロいのもあんだな、俺こういうのはちょっと無理かな...」

 

カッシュがそう言いながら指差すのは、キメラに成りきれなかったのであろう失敗作。どこか形がおかしく、それはもはや生き物の形を成してはいない。

 

「俺も見てて気持ちのいいもんじゃない。命を勝手に弄ってる訳だからな。」

 

「でもその成果として、他のキメラが出来ているのも事実だ。」

 

シンシアの独り言に反応したのは、後ろからやって来たギイブルだった。ギイブルはメガネを軽くあげながら話を続ける。

 

「こういう実験をする以上、失敗作が出来るのは当たり前だが、そうしなければ成功しない。」

 

「ならこうやって弄られて死んだ生き物達の命は、必要経費だって言いたいのか?」

 

シンシアは少し苛立ちを込めながら、ギイブルにそう言い放つ。

 

「そんな綺麗事じゃ、研究も何も進まないんだよ。君も知識は豊富なんだからわかるだろう?」

 

「だけどよ...」

 

それでも渋るシンシアに、ギイブルは大きなため息をついた。

 

「君は色々な事に関して甘過ぎるんだよ。今のキメラの事もそう、転校生の事もそう、競技祭の一件だってそうだ。君はもう少し、切り捨てるという考えを持った方がいいんじゃないか?」

 

「......」

 

その言葉に、シンシアは押し黙ってしまう。ギイブルの言うことはもっともだった。だけどシンシアの中に切り捨てるという考えはない。

 

「......まったく、君は成長しないね。早く現実を見れるようになることを祈ってるよ」

 

ギイブルはそのままシンシアの横を通りすぎ、他の部屋へと向かっていった。

 

「シン君...」

 

「わりぃ二人とも、先に行っといてくれ。後から追い付くわ」

 

「でも...」

 

「わかった!セシル、早く行こうぜ!!」

 

セシルの言葉を遮って、カッシュはセシルを連れて部屋から出ていった。大方カッシュも何かを察したのだろう。

 

「はぁ...俺の考え方が幼稚なのはわかってるけどな...」

 

シンシアは自嘲気味に笑いながら、部屋の奥へと進んでいく。そこには進むにつれて、徐々に生き物の形をなさなくなった物が並んでいる。

 

ギイブルから突きつけられた事は、シンシアの胸に深く刺さっていた。自分が持つ甘さ、それはもう既に色々な所で露呈している。

 

色々な事件があったが、それに関わってしまったのもそれが少しは原因として絡んでいるだろう。

 

「現実を見ろ、か......ん?」

 

ギイブルからの言葉を噛み締めながら歩いていると、いつの間にか部屋の一番奥まで来ていたのか、部屋は行き止まりとなっていた。だが、そこにあった生き物にシンシアは困惑を露にした。

 

「これって...」

 

そこにあるのはほかのケースよりも二まわりほど大きなもの。そのなかにいる生き物は獰猛な牙を持ち、鋭い爪に鋼のような鱗。そして何より、その背中には大きな翼があり、それは今は畳まれている。

 

十人が見て、十人が同じ名を呼ぶであろう魔獣の中でも最強の生物。

 

「ドラゴン?」

 

「ええ。作り物(・・・)の、ですがね...」

 

後ろから聞こえた声に、シンシアは振り向くとそこにはバークスがにこやかな笑みを溢しながらこちらに近づいてきていた。

 

「すみません、こんな奥まで来てしまって」

 

「いえいえ構いませんよ。あなた方はこの国の未来の宝なのですから、そのあなた達のためになるのならば、私としても嬉しい限りです」

 

その言葉に、シンシアも自然と顔が綻んだ。

 

(やっぱりルミ姉の考えすぎだな。それよりも...)

 

「これが気になりますかな?」

 

バークスに自分の考えを読まれ、シンシアは恥ずかしがるように頬をかいた。

 

「このドラゴンはなんなんですか?」

 

「これは竜であって竜ではないのです。さしずめ私達の呼び名を使うならば、模造竜(ファクティスドラゴ)ですかね。」

 

模造竜(ファクティスドラゴ)...『紛い物の竜』ですか...」

 

シンシアは目の前のドラゴンから目を離さず、そう答えた。

 

「この竜を作った理由は何ですか?もしかして軍事目的?」

 

「正解です。理由を聞いてもよろしいですかな?」

 

「ドラゴンは、単体でもかなりの戦闘能力を保有します。それを人工的に作るなら、理由は自ずと見えてきますよ」

 

「さすがですね。」

 

バークスが感嘆の声をこぼすが、シンシアにそれは響かない。そのお世辞よりも、シンシアにとっては目の前の竜の方が気になる。

 

「これは軍の新戦力として、我々が作り上げた実験体の一つ。その実験体の中でも特にうまく出来た物です。もう死んでいますがね...」

 

「完成はしたんですか?」

 

「いや、完成を前にして計画は頓挫。資金がままならなくなりましてね...」

 

なるほど...とシンシアは一人納得するように呟いた。

 

「しかし、最近になってある噂を聞くようになりましてね...」

 

「噂?」

 

ええとバークスは答えながら、ケースに触るために竜へと近づいていく。

 

「ある魔術結社が、計画のために密かに未だに竜を作っている、という他愛ない都市伝説ですよ。まぁそう簡単に作れる物でも無いですし、所詮噂でしょうね。」

 

「魔術結社ね...」

 

その魔術結社に一つ予想はついたが、それを口にはしなかった。

 

「それでは皆さんの所に戻りましょう、グレン先生が君が戻ってこないと怒ってましたよ?」

 

「マジっすか!?やべ急がないと!!」

 

シンシアは焦るようにその部屋から出ていき、それに続くようにバークスも部屋から出ていった。

 

ーーー

 

研究所の見学も終わり、自由時間となった。それぞれが食事をとるために町に繰り出ていった。

 

そして夜も深まっていき、街中にはぞろぞろと宿に戻る生徒の姿があった。

 

「マジで損した!!あの部屋の奥にドラゴンがいたなんてよ!!」

 

「僕もだよ!!シン君と一緒にもっと見てればよかった!!」

 

「俺も運がよかっただけだからな。」

 

食事のためにシンシアとカッシュ、セシルはオレンジの街灯が灯す道を歩きながら、今日の研究所見学についての話で花を咲かせていた。

 

シンシアが二人と合流したあと見たものを二人に言うと、二人ともかなり驚いたようで目を輝かせながら質問していた。

 

そのためシンシアも、それに答えるのに必死で後半の見学をまともに出来ていないのだ。

 

「けど、レポートのネタにはいいのが出来た訳だし!あとは遊ぶだけだな!!」

 

「でも明日は終日講義だよ?」

 

「そうだった...どうするシン、フケるか?」

 

「俺はそれサボると進級できねぇんだよ...悲しいことに」

 

暗い顔をしながらそう答えるシンシアに、カッシュもセシルも苦笑いを浮かべるしかない。

 

「それよりも、シス姉もルミ姉も来ればよかったのにな...」

 

先程まで一緒にいた自分の姉に思いを更けながら、そう一人呟いた。ルミアとシスティーナは、未だに宿に戻らないリィエルを心配して宿に残るようで、システィーナはそのための軽食を買いにいくといって先程別れたのだ。

 

「二人とも友達思いだからね」

 

「さすが聖女ルミアだな。システィーナはちょっと残念だけど...」

 

「カッシュ俺はその意見にすごい賛成するわ...」

 

カッシュの一言に苦笑を漏らしたその時、シンシアの耳に何かを叩き壊すような音が聞こえる。それはかなり微かな音だが、シンシア以外の二人には聞こえていない。

 

(方向は宿の方!?まさか!!)

 

その時シンシアの頭に過るのはアルベルトの言葉。

 

『リィエル...あの女は危険だ。』

 

(違う!俺の考えすぎだ!!あいつがそんな事するわけ...)

 

どうにか自分で納得しようとするが、頭の中でアルベルトの言葉と最悪のシーンがずっと残り続ける。

 

「シン?」

 

「どうかしたの?」

 

いきなり立ち止まったシンシアを不審に思ったのか、カッシュとセシルがシンシアを覗き込むようにこちらを見た。

 

「ああくそが!!悪い二人とも!!」

 

「ちょ、ちょいシン!!」

 

二人に謝ると、シンシアは脚にお得意の無詠唱で【フィジカル・ブースト】を全力でかけて走り出す。その衝撃で地面が少し抉れるが今はそんな事を気にしている時ではない。

 

(頼む!頼むから当たるなよ俺の勘!!)

 

シンシアはいつも頼りにしているフィーリングが外れる事を祈りながらひたすらに走る。

 

かなりの速さで走ったためか、もう宿が見えてくる。だがその宿の一部屋のバルコニーは見るも無残な程に破壊されている。それを見たシンシアの心は、より焦燥に駆られていく。

 

何故ならその部屋は、システィーナとルミアの泊まる部屋なのだ。

 

(くそっ!!間に合え!!)

 

シンシアは勢いよく入り口の扉を蹴破ると、その勢いのまま階段をかけ登り二人の泊まる部屋の前まで走っていく。

 

「二人とも!!」

 

そして足に魔力を込めた魔闘術(ブラック・アーツ)で蹴り壊して中に入る。そこに広がるのは...

 

「なんだよ...これ...」

 

そこに広がるのは、破壊の数々。部屋の壺は割れ、バルコニーの扉の破片がその辺りに散らばっている。

 

そして血に濡れた床の上で、泣きじゃくる自分の姉。

 

「シス姉!!大丈夫か!?どこか痛むか!?」

 

ほぼ半狂乱で泣くシスティーナに、シンシアは寄る。

 

「私は大丈夫!けど、ルミアが!ルミアが!!」

 

「ルミ姉がどうした!?」

 

「リィエルに、リィエルに連れていかれた!!」

 

その言葉に、シンシアは絶句した。この一騒動を起こしたのがリィエルだとするならば、それは最悪の状態としか言うことが出来ない。

 

「リィエルは、自分が天の智恵研究会の者だって...先生も殺したって...」

 

「まじかよ...」

 

嗚咽を響かせながらそう話したシスティーナの背中をさすりながら、現状の大変さに目を剥いた。

 

(グレン先生が、死んだ?そんな...あの殺しても死ななそうな先生が?だとすれば、誰がルミ姉を助けに行く?リィエルを連れ戻す?...)

 

ぐるぐると渦を巻きながら混濁する思考の中、自分がすべき事を考える。

 

「いや、決まってるな...」

 

「え?」

 

シンシアは立ち上がり、システィーナに笑顔を向けた。

 

「大丈夫だ!二人とも俺が連れて帰ってくる!だから泣くなよ!」

 

「でもっ!?」

 

反論しようとするシスティーナの頭に手をのせる。そのまま表情を変えずに語りかける。

 

「俺を信じてくれ。頼むシスティ(・・・・)

 

「!!」

 

いつものシス姉というような呼び方ではなく、シンシアが真剣な事を言うときの呼び方にシスティーナも驚く。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「待って!!」

 

壊れたバルコニーから出ていこうとするシンシアを、システィーナは呼び止める。シンシアはゆっくりとシスティーナの方へと振り向くと、

 

「絶対二人を無事に帰して!絶対よ!!」

 

「言ったろ?信じろって!!」

 

シンシアはニカッと笑うと、そのままバルコニーから飛び降りた。

 

「どうして...どうして貴方達はそんなに強いの?シン...」

 

システィーナは自身の無力を痛感していると、また目から雫が溢れ落ちる。ルミアも、シンシアもそれぞれが強い心を持つ。だけれど自分には何もない。

 

「私も...!!私も強くなりたい!!」

 

涙を流しながら、痛々しい部屋の中で悲痛な叫びが響いた。

 

ーーー

 

暗い森を気絶するルミアを担ぎながら、リィエルは走る。

 

自分のしている事は正しい、間違えていない。

 

何故なら自分は兄を守るために生きると決めた。

 

ならばこの行いは正しきこと、その筈なのに...

 

『二人と過ごしてどうだ?』

 

(やめて...)

 

頭に海辺でのシンシアとの会話がこだまする。それはまるでリィエルに制止を促すように続く。

 

『いや、リィエルは二人の事をどう思ってんのかなと思ってさ』

 

(うるさい...私は兄さんのために、兄さんのため活きる。そのためにグレンも殺して、ルミアも捕まえて兄さんのところへ連れていく。それが私の役目、私の望むこと。なのに...)

 

「なんで...こんなに辛いの?」

 

リィエルは一人走りながらそんな事を呟いた。その頬に、一筋の光が流れたその時、

 

「っ!?」

 

リィエルの後ろから、何かがかなりの速さでリィエルを追い抜いた。リィエルは後ろから来た何かに驚きながら急停止する。

 

「よぉ、リィエル...」

 

その高速移動した物体はリィエルの少し前で止まり、リィエルに話しかける。その声は聞き覚えのある声、目の前に映るのは輝かしい銀髪に、深緑の瞳を鋭くしながらリィエルを睨み付ける人の姿。

 

「ここでお前を止める」

 

「シン...」

 

シンシアの強い意思の込めた言葉に、リィエルは静かにその名を呼んだ。

 

その声は、少しだけ震えていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。