最後にその手が掴むもの   作:zhk

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リィエル対シンシアが書きたくてすぐに書き初めました!!それではどうぞ!!


激突

相対する二人の雰囲気は、昨日までの和やかな物ではなく、まるで刃物のような冷たい雰囲気が広がっている。

 

「戻るぞリィエル、ルミ姉も一緒に宿にな。」

 

「嫌だ、私は兄さんのために生きる。ルミアを連れていくのは兄さんの願い。だから私はそれをかなえる。」

 

「兄さん?」

 

リィエルはゆっくりとルミアを下ろして近くの木に凭れかからせた。そして自分は少し前を歩き、シンシアと完全に相対する。

 

「その意志はお前の意志か?」

 

「私の意志は関係ない。私は兄さんのために生きる。兄さんの邪魔をするなら...」

 

リィエルはそのまま無言で地面に触れると、そこからリィエルが愛用する大剣が姿を現しそれをシンシアに向けて構える。

 

「だから退いて」

 

「いいや、今の言葉を聞いたらなおさら退けないね」

 

シンシアも合わせて構えをとり姿勢を低くする。

 

「俺は約束したんだよ。ルミアとリィエルを連れ戻すってな。いつもは説教臭い姉だけど、泣き顔はやっぱ見たくねぇからな」

 

「警告はした...」

 

リィエルはそう告げると、地面を蹴ってシンシアへと近づく。その速さはもとの場所に残像ができるほどだ。その速さで振りかぶられる大剣を、シンシアはギリギリの所で避ける。

 

「せりゃ!」

 

かけ声と共にシンシアが右手に魔力を込めながら右手で殴りかかるが、それをリィエルは横にステップすることで回避する。

 

リィエルはそのまま距離を取ろうとするがシンシアはそれを許さない。【フィジカル・ブースト】を使って加速しまたリィエルに肉薄する。

 

「おらっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

魔力を込めた掌底を、リィエルはどうにか大剣で防御するがそこで込めた魔力が爆発し大剣はくの字に折れ曲がる。

 

「そこっ!」

 

シンシアは出来た隙を逃さず、戦闘しながら詠唱していた【痺霧陣】を発動する。

 

「ん!」

 

だがそれも空しく、リィエルが掌底の威力を利用して後ろに飛んだためそれは当たらない。

 

(くそ!これでケリをつけたかったんだがな...出来れば傷つけないようにしてるけど相手はあのリィエルだ)

 

戦闘センスはシンシアよりも格段に上で、さらには場数も違いすぎる。比べることすらおこがましいほどだ。

 

(魔闘術(ブラック・アーツ)と【フィジカル・ブースト】でどうにか対応出来てる...【タイム・アクセラレイト】を使えばなんとかなるかも知れないけど論外だ。どうにか出来なかった時の三秒が痛すぎる!!)

 

シンシアは必死に策を練る。本来シンシアの戦闘スタイルは本能に任せるがまま全力で殴りつけるものだが、今はそれが行えない。

 

シンシアの当初の計画は話し合いでどうにかしようと考えていたが、それは簡単に失敗してしまった。そのために自分が使える唯一相手の動きを完全に止められる【痺霧陣】で麻痺させて、強引に連れていこうとしたのだが...

 

「読まれた、よな...当たる気がしない」

 

少し距離を離した所で、リィエルはまたお得意の高速錬成で大剣を錬成している。そしてそれを担ぎながら一気に距離を詰めてくる。

 

「くそ!考える暇もなしか!!」

 

リィエルの重い一撃を、どうにか回避。そしてシンシアが元いた場所には轟音とともに大きな溝が出来る。

 

「なんちゅー威力...」

 

その一撃に当たった所を一瞬想像して、シンシアは身震いする。あんな物を食らえばほぼ一撃で逝ってしまう。

 

(マジで手抜きじゃ勝てない!ならアレ(・・)を使う?俺の魔術特性(パーソナリティー)なら相性がいいから使えると思うけど、失敗すれば...)

 

と、そこまで考えるとリィエルは問答無用と言いたげに大剣をシンシアに向けて投げつける。それは風を切りながらかなりの速度でシンシアへと飛ぶ。

 

「失敗なんて考える時間すら惜しいな!!《ーーー・」

 

口を片手で隠しながらシンシアは詠唱を初め、そして大剣を空いている手で殴りどうにか方向を変える。だが、

 

「!?やべぇ!!」

 

リィエルがもう目と鼻の先という距離にいる。投げつけられた大剣にシンシアの意識が向きすぎて、近づいてくるリィエルへの注意が完璧にそれてしまっていた。

 

「いいいいいいやぁぁぁああああああ!!」

 

大きなかけ声と共にリィエルの大剣が無慈悲に振るわれる。

 

「頼む!発動してくれ!!」

 

シンシアは詠唱を終えて手を地面につけた。

 

(入った!!)

 

リィエルはその一撃が確実にシンシアに当たることを確信しながら剣を真っ直ぐ迷いなく振った。

 

だがそこで聞こえた音は肉を断つような、鈍い音ではなかった。

 

代わりに聞こえたのは、カンっという高音質の音で。

 

「え??」

 

リィエルは目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 

何故なら、シンシアの手には剣が握られているのだから。

 

「うらっ!!」

 

シンシアはそのまま力任せに剣を振り上げてリィエルの大剣を弾き返した。リィエルは後ろに数歩下がりながら、驚きのあまり大剣を少し下げた。

 

「うし!!なんとかいったけど...頭痛ぇなこれ...お前こんなのホイホイやってんの?マジですげぇな...」

 

シンシアはその額から流れる玉の汗を制服の袖で拭きながら、その手に握られている剣をリィエルへと向けた。

 

それはリィエルの大剣のように身の丈に合わない長さではなく、シンシアの体に合った長剣。だが、ただのロングソードとは違う。

 

通常とは違い、刀身には刃ががついておらず、刀身部分は美しい輝きを放っていた。それが東洋で使われている『刀』だと理解するのに、リィエルは少し時間を要した。

 

「それをどこから...」

 

「ああ?お前お得意の高速錬成術だよ。お前が教えてくれたろ?」

 

シンシアは自信満々に言いながら刀を地面に刺す。シンシアはこの魔術、【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】が自分向きであることは、リィエルから教えてもらった時に既にわかっていた。

 

シンシアの魔術特性(パーソナリティー)は『物体の生成・強化』だ。そのために錬金術においては大きなアドバンテージを持ち、さらにはこの【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】のような錬成の魔術とも相性は良い。

 

だがこの魔術は、失敗すれば脳がオーバーヒートして焼ききれる。そのためにシンシアは使わなかったのだ。

 

(一応成功したけど...頭がむっちゃ痛いし、視界が安定しねぇ...反動がキツすぎるだろ...)

 

無理に使ったせいで体へのダメージはかなり大きい。体の節々が悲鳴を上げており、ふらふらと立ちくらみもしている。

 

「さて...続きと行こうぜリィエル?」

 

それでもシンシアはボロボロの体に鞭を打ち、リィエルへと刀の先を向ける。

 

「どうして...」

 

「あ?」

 

「どうしてそこまでするの!?」

 

そう叫びながらリィエルは大剣を横に薙ぐ。それをシンシアは刀で防御するが威力を完全には殺しきれずに横に飛ばされる。

 

「私はシンシアやルミア、システィーナに悪いことをしたのに!!なんで!!」

 

叫びながらリィエルはひたすらに剣を振るい続ける。それをシンシアはどうにか受け流し、防御するが【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の反動の影響もあり、どうにか防御するのが精一杯。

 

「簡単だ!!お前がいる場所はそこじゃねぇ!!」

 

「違う!!!」

 

そう言い放ちながら、リィエルは大剣を全力で振るう。その一撃に刀は耐えきれずに折れ、シンシアに重い一撃が入る。その衝撃を受けたまま、近くの木を吹き飛ばす勢いでシンシアは飛ばされる。

 

「私は兄さんの!兄さんのために生きると決めた!!だから、そのために!!」

 

「うるせぇ!!!」

 

地面に叩きつけられ、地を這うような姿勢のまま折れた刀の先の部分をリィエルへと投げつけたがリィエルはそれを大剣で簡単にはたき落とす。

 

「はぁ...はぁ...」

 

どうにか立ち上がったが、もう満身創痍だ。

 

体の至る所に打撲や大剣による裂傷。さらには【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の反動でろくに頭も回らないし、視界もぐらついてうまく見えない。

 

それでも止まれない。止まれない理由がそこにある。

 

「お前は言ったよな...ルミ姉やシス姉、クラスの連中と過ごす時間は...楽しいって...」

 

折れた刀を片手に、どうにか膝をおらないように立ちリィエルに語りかれる。

 

「なら...今お前がやってる事は...自分の大切なもん壊してまでやるものなのか?」

 

「っ!?...そう」

 

「嘘つけ」

 

シンシアは一歩、また一歩と歩みながら話し続ける。

 

「そうなら...そんな辛そうな顔...してるわけねぇだろうが!」

 

もうろくに回らない頭に浮かぶ、自分が伝いたい事を言葉にし続ける。それがリィエルに響くかはシンシア自身にもわからない。それでも、言葉を紡ぎ続ける。

 

「お前はこんなこと...望んでないんだろ!!シス姉やルミ姉達と過ごした時間は無駄だったってのか!?違うだろ!!」

 

「あ、あぁ...」

 

「お前自身も...あの学園の日々が楽しかったんだろう?新鮮な一つ一つに目を輝かせてたじゃねえか!!」

 

「わ、私は...」

 

リィエルの中で、二つの感情がぶつかり合う。兄のために生きなければならないという使命感と、ルミアやシスティーナ、シンシア達に抱いていた感情がぐちゃぐちゃと混ざり合っていくかのように...

 

「私は、私はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

もうわからない自分自身の感情に自暴自棄になり、リィエルは無我夢中でシンシアへと突貫していく。

 

「悪いなリィエル...」

 

それを静かに見るシンシアは、とても落ち着いていた。そしてーーー

 

「俺の...勝ちだ!」

 

「いいいいいいやぁぁぁああああああ!!!」

 

リィエルが大剣を全力で振るために飛び上がったその瞬間、シンシアは【タイム・アクセラレイト】を起動する。そして超高速で動きリィエルの攻撃をギリギリで避けて、そのまま折れた刀の短い刀身をリィエルの首もとへと突き付けた。

 

そこから二人は動かない。そしてきっちり三秒後、シンシアがゆっくりと動いた。

 

「リィエル...帰ってこい」

 

「うう...わ、私...」

 

シンシアが差し出した手を、リィエルは涙目になりながら見る。

 

「お前は...どう...したいんだ?お前のしたいようにしろ。この手をとって...ルミ姉と一緒に宿に戻るのも良い、俺をここで...殺して兄さんとやらの所に...行くのも良し。どうせもう俺は動けないしな...お前が...自分の意志で...選べ...」

 

「私は...私...は...」

 

リィエルは悩む。悩み悩みに悩んだ。そして意を決したかのように手を伸ばそうと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だめじゃないかリィエル。敵の言葉に耳を傾けちゃ」

 

その声と共に、シンシアは横殴りの衝撃によってリィエルの前から飛ばされていく。

 

「がっ!ゲホっ!!」

 

その一撃によって肋骨が折れたのか、シンシアは膝をつきながら地面に血を吐いた。

 

「リィエル、あいつは敵なんだ。僕の邪魔をする、ね。」

 

「兄さん...」

 

そこに現れたのは優しげな面持ちの青年。シンシアよりも年は上ぐらいだろうか、リィエルと同じ青い髪に詰め襟ローブを羽織った青年は笑顔でリィエルに話した。

 

「てめぇが...てめぇがリィエルをたぶらかしたのか!!」

 

「たぶらかしたのは君の方だろう?リィエルは僕のために働いてくれただけだ。そうだろ?リィエル」

 

「私...私は...」

 

「また、僕を見捨てるのかい?」

 

「っ!?違う!!私は!!」

 

その男が悲しげな表情でそう言うと、リィエルは焦るように言葉を紡ごうとするがいいものが思い付かない。

 

「そうだよね、リィエルは僕のために、僕を助けるために働いてーーー」

 

「その口を閉じろ!外道が!!!」

 

シンシアは痛む体なんて気にせずに、全身に【フィジカル・ブースト】をかけてその男へと走り出す。

 

そして男との距離がもう一挙手というところまでになり、握り拳を作った右腕で殴り飛ばそうとした。が、

 

「うっ!あがっ!!」

 

視界が一気に揺らぎ、そこで【フィジカル・ブースト】の効果は切れ、シンシアはその男の前で倒れ伏す。全身にひどい痛みが走り、口から血を吐き、顔は青白くなっている。

 

「【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の反動に、リィエルとの戦闘でのダメージ。そして極めつけはマナ欠乏症、と言った所かな?もう動く事も出来ないだろう?」

 

「くっ!!ち...くしょう!」

 

地べたを舐めながら、シンシアは睨むようにその男を見るがもう視界が歪みすぎて顔もうまく見ることが出来ない。

 

(ここまで...かよ...すまねぇシス姉...ルミ姉...リィ...エル)

 

シンシアは徐々に重くなる瞼に抵抗しながら、それぞれに謝った後、完全に意識を手放した。

 

 

「さて気を失った事だし...」

 

シンシアが気を失った事を確認すると、その男はシンシアへと手を向けて詠唱を始めようとする。

 

「待って兄さん!!」

 

「ん?どうしたんだいリィエル?」

 

いきなりその男とシンシアの間にリィエルが立つ。それはまるで、シンシアを庇うかのように...

 

「シンは...シンは殺さないで。お願い...」

 

「そうは言っても、ん?待てよ?」

 

男はシンシアの顔をまじまじと見た後、またリィエルに向き直る。

 

「わかった、彼は殺さない。だけどこのままじゃ死んでしまうから、一度研究所に連れていくよ。リィエルは先にルミア=ティンジェルを連れていってくれ。」

 

「わかった。ありがとう兄さん」

 

それだけ言うと、リィエルは踵を返してまたルミアを担いで走り去った。

 

それを見送ると、男は通信用の魔導器を取り出して通話を始める。

 

「僕です。ええ、予定通りルミア=ティンジェルは捕獲、リィエルがそちらに運んでいます。そして、面白い実験体も一緒に捕まえましたよ。どうします?バークスさん?」

 

その通話をする男の顔は、先程のような柔和な笑みではなく下卑た笑みを浮かべていた。

 

夜はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

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