最後にその手が掴むもの   作:zhk

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今回は今後の展開にも関する重要な回です。

それではどうぞ!!


どんな凶悪な魔術よりも、人間の方がよっぽど恐ろしい

「...ここは...」

 

鈍い思考のなか、グレンは目を覚ました。そこは宿の一室で、自分はベッドに横になっていた。その後自分が気を失うまでの事をどうにか思い出そうとする。

 

「確かリィエルを探しにいって...んで俺はあいつに刺されて...」

 

「やっと起きたか、相変わらずしぶとい奴だ。」

 

いきなり横からかけられた声に、緩慢な動きで反応する。そこには目付きの悪い昔の同僚の姿がそこにはあった。

 

「アルベルト...お前が助けてくれたのか。ありがとうな」

 

「礼は俺ではなく、そこのフィーベルに言え。その娘がいなければ、お前は助からなかった。」

 

「白猫?」

 

グレンは横を見ると、システィーナがグレンの寝るベッドに寄りかかりながら眠っている。

 

「その娘のお陰で、【リヴァイヴァー】が成功したんでな」

 

「【リヴァイヴァー】だと!?」

 

白魔儀【リヴァイヴァー】

 

施術者の生命力を相手に移植する高等魔術。それにはかなりの魔力が必要になる。グレンの負った致命傷を直すとなれば、アルベルトの持つ魔力量では賄いきれないはずだった。

 

「こいつそんな凄い奴だったんだな...」

 

通常複数人で行う魔術を、たった一人で行ったシスティーナの潜在能力にグレンは感嘆の声を漏らしながら、グレンはどうにかベッドから起き上がる。

 

「今状況はどうなってる?」

 

「リィエルが帝国宮廷魔導士団を裏切りお前を攻撃。そして俺がそこに駆けつけようとしたときに、天の智恵研究会の魔術師であるエレノア=シャーレットに足止めを食らった。」

 

アルベルトは淡々と事実だけを告げていく。

 

「そして俺が足止めを受けている間に、リィエルはルミアを誘拐して行方知れずというわけだ。」

 

「くそ...大体予想はしてたが、まさか本当に裏切るかあのバカ...」

 

グレンは顔を歪めながら毒づいた。それは気がつけなかった自分へ向けたものなのか、それともリィエルをたぶらかした天の智恵研究会に向けたものなのか、アルベルトにはわからなかった。

 

「それともうひとつ面倒な事が起きている。」

 

「あ?なんだよ面倒な事って...」

 

「シンシアがルミアを誘拐したリィエルと接触し、戦闘となった。」

 

「はぁ!?」

 

グレンは胸の痛みも忘れて大きく叫んだ。

 

「ちょっと待て!!なんでシンがそこで出てくる!!あいつは確かカッシュ達と飯を食いに行ったのを俺は見たぞ!!」

 

「そうなった過程は知らんが、戦闘になったのは事実だ。」

 

「それであいつはどうなったんだ!まさか...リィエルの奴が...」

 

そこでグレンの頭に思い浮かぶのは、シンシアにあの大きな大剣を突き刺すリィエルの姿。それが事実ならば、リィエルをこちらに引き戻すのはほぼ困難になってくる。

 

「シンシアはリィエルと戦い、引き分けた」

 

「引き分け?あのリィエルが!?」

 

「ああ、俺も見ていて驚いた。まさかあのリィエルと互角に渡り合うとはな...」

 

アルベルトの声には少なからず驚愕が込められていた。それも無理はないだろう。リィエルは腕の立つ魔術師が集まる特務分室でもエースであったのだ。その彼女の強さは、よくコンビを組んでいたアルベルトはグレンはよくわかっている。

 

それをただの学生であるシンシアが対等レベルで戦った事は驚くしかない。

 

「結局無事なのか!?」

 

「わからない」

 

「は?どういうことだ?」

 

アルベルトが顔をしかめながら答えたその言葉に、グレンは食いついた。

 

「シンシアがリィエルとの戦闘を終えた後、何者かが二人に接触。その後シンシアはリィエルとのダメージが災いして気を失った。そしてその男が、リィエルと共にシンシアを連れ去った。そこまでしか俺にはわからん。今あいつが生きている保証は何処にもない。」

 

「男!?あいつか!!」

 

「心当たりがあるのか?」

 

「...あいつの『兄貴』だ。それだけ言えばわかるだろ?」

 

グレンが押し黙るように呟いたその言葉に、アルベルトはゆっくりと口を開いた。

 

「なるほど、そういうことか。まぁ情報が少ないが仕方がない」

 

「おい、どこに行く気だ?」

 

アルベルトはグレンに背を向けて、扉のあった(シンシアが蹴破ったので今はなにもない)場所へと歩き始めるのを、グレンは呼び止めた。

 

「連中の潜伏先は既に目星がついている。俺はこれから王女と先走ったお前の生徒を助けに行くだけだ。その障害としてリィエルが現れるのなら、俺はリィエルを殺す」

 

アルベルトは静かに、だがその瞳に明確な意志を持ってそう言った。それはもう覚悟を固めているかのようにグレンには見てとれた。

 

「待てよ、俺も連れていけ。あいつと話をさせろ」

 

「あの女が聞くと思うか?クラスメイトを手にかけようとしたんだぞ?」

 

「それでもだ!!」

 

グレンは頭に浮かぶ、リィエルがクラスの者達であるシスティーナやルミア、シンシアと楽しく過ごしていた光景。それが壊されるのは、グレンは我慢ならない。

 

「俺はあいつの教師だ!!自分の生徒が道を踏み外しそうになるんなら、俺はそれを正しに行く!!んでもって突っ込んでいったバカも助ける!!」

 

すべてを話終えると、両者の間に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのはアルベルトだった。

 

「お前は変わらんな...だからこそ、俺はお前に期待するのかもしれん(・・・・・・・・・・・・・・)

 

それだけ言うと、アルベルトはいきなり動き出しグレンを殴り付けた。その勢いのまま、グレンは壁に叩きつけられた。

 

「帝国宮廷魔導士団を何も言わずに去った落とし前は、これで勘弁してやる。」

 

アルベルトは懐から何かを取り出し、それを床に倒れているグレンの下へと投げた。

 

「な!?これは...《ペネトレイター》!?」

 

それはグレンが宮廷魔導士団に所属していた時に愛用していた魔銃。銃身には幾つかルーン文字が刻まれており、月明かりによってより黒く輝きを放つ。

 

「条件は二つ。一つは、俺はあくまでも王女とシンシアの救出を最優先する。二つは、状況がリィエルの排除を余儀なくした場合、俺はリィエルを討つ。以下の二点を邪魔しない限り、リィエルはお前に任せる。」

 

未だにアルベルトから渡されたそれに驚いているグレンを無視しながら、アルベルトは話初め、それが終わるとそそくさと部屋から出ていった。その内容は普通に聞けば、無慈悲な言葉だろうが、長年の付き合いであるグレンには違う。

 

「ははっ!そういえば、お前はそういう奴だったな」

 

グレンは自分の足元にある愛銃を拾いあげ、講師用のローブを羽織った。そして近くで眠るシスティーナを一瞥する。

 

「サンキューなシスティーナ。お前のお陰で助かった。三人連れて絶対に帰ってくる。」

 

そしてグレンはシスティーナに背を向けて、部屋を出ていく。その部屋の近くの壁に、アルベルトは背中を預けながら待っていた。

 

「さてと、行くか相棒!」

 

「俺はお前が相棒なのは心底ごめんなのだがな...」

 

二人で軽口を叩きながら、ルミア、シンシア、リィエルの救出に動き始めるのだった。

 

ーーー

 

グレン達が動き始めた少し後、シンシアはゆっくりと目を覚ました。

 

「どこだここ?」

 

シンシアはどうにか動こうとするが、ジャリンという音と共に動きが遮られる。

 

「鎖で拘束か...」

 

意外にも冷静な自分の頭に驚きながら、自分の状況を確認する。

 

(多分ここは、天の智恵研究会の奴等の拠点か...てことはリィエルもルミアももしかしたらここにいる?)

 

少し気を失っていたのが災いしたのか、今はリィエルと戦っていた時ほど体に痛みはなく、視界も明瞭だ。だが周りは明かりひとつついていないので、周りがどうなっているのかはわからない。

 

「とにかくここから出てーー」

 

「出れると思っとるのか?坊主が!」

 

シンシアの独り言に返す言葉が、暗い闇から聞こえた。かつかつという音を響かせながら、何者かがシンシアの下へと近づいてくる。それは徐々に人の形をとりーー

 

「な!?バークス...さん?なんで!!」

 

「ふん!貴様のようなバカは扱いが簡単で楽でいい!!」

 

つい数時間前に会ったときのような親しみやすい雰囲気はなく、そこにあるのは目を野心と欲にギラギラとさせる獣のような男の姿だった。

 

「全く、あの男がいいサンプルが見つかったというから見てみれば貴様だとはな。模造竜(ファクティスドラゴ)を食い入るように見ていた貴様は傑作だったぞ?あんな不良品を面白がる者がいるとはな...」

 

「不良品、だと...?」

 

シンシアの中で、バークス=ブラウモンの人物像がどんどん変わっていく。そしてシンシアは、そのバークスの発言に怒りを覚えた。

 

「そうとも!もともとはあの計画のための実験だったが、まともな物が生まれない。本当に資金の無駄だったよ!!あんなものはゴミ屑と変わらんな」

 

「あんた...それ本気で言ってんのか?」

 

「ん?」

 

バークスは奇妙な事を聞いたように首を傾げながら、シンシアを見る。

 

「てめぇは命を、命をなんだと思ってやがる!!」

 

「偉大な成功のために役にたつかもしれんのだぞ?逆にありがたいと感謝して貰いたいほどだ、まぁ結局なんの役にもたたんかったがな」

 

バークスは下卑た笑みを溢しながら高らかにそう叫んだ。

 

(こいつ...狂ってる。本物の屑だ...!!)

 

あの時一瞬でもバークスをいい人だと思った自分を殴ってやりたくなるが、今は両手を鎖で拘束されているため動けない。

 

シンシアがバークスへの嫌悪感を露にするなか、バークスはまだ一人語りをやめない。

 

「貴様もあの女と同じだな。現実を何も知らん、魔術の進歩には犠牲が付き物だ。それはあのルミアとか言う女も例外ではないがな...」

 

そのバークスが呼んだ名前に、シンシアの体は強張った。

 

「ちょっと待て、ルミ姉が犠牲ってどういうことだよ!!」

 

鎖の伸びる限界まで引き延ばし、シンシアはバークスへと肉薄するがバークスは余裕の表情でそれを見下しながら嘲笑うかのように口角を上げる。

 

「彼女は私の計画『Project:Revive Life(プロジェクト リヴァイヴ ライフ)』のために異能を使ってもらっていてね。強引にだが、それももう少しで完成する!!」

 

「『Project:Revive Life(プロジェクト リヴァイヴ ライフ)』だと!!」

 

魔術知識が豊富なシンシアにとって、その計画の名がここで出るのは予想外だった。

 

それは簡単に言えば、死者を蘇らせる計画。復活させたい人間の精神情報を違うものに変換し、代替精神を作り、肉体の代わりに錬金術で元の遺伝情報から作る。そして初期化した霊魂の三つを合成して一人の人間を蘇らせる、というものだ。

 

「あの計画は、通常のルーンじゃ無理なはず...そうか!!だから代わりに竜を作ったのか!?」

 

「ほう?ただのバカかと思えば、知識だけはあるようだな。その通り、この計画を実行しようとするには確実にルーンの機能限界にたどり着いてしまう。そのため、最初の魂が発したとされる『原初の音』に近い物が必要になる。そこで私たちが目をつけたのが、竜言語という訳だよ」

 

通常魔術を使うときに詠唱をするが、その時に使われる魔術言葉をルーンという。だがこれは万能ではなく、行えることに限界がある。そのルーンの上を行く魔術言語が、竜言語である。

 

「あれならば私はこの計画を成功できると思ったが、それもあんなゴミを作るだけだった。だが今回は違う!!ルミア=ティンジェルの異能、『感応増幅』があれば成功する!!」

 

そのバークスの言葉にはかなりの熱がこもっていた。目は狂気じみたように見開きながら高らかに語り終えた。

 

「そしてそれが終われば、あの気丈な態度の娘を『教育』してやるのだ。それも楽しみで仕方がない」

 

「『教育』?」

 

「そうとも!!あの凛とした目、何者にも屈しないという強い意志!!それを見るとイライラする。徹底的に締め上げて屈服させてやろう!!!あの小娘の心が折れるのを見るのが楽しみだ!!」

 

狂ったように笑いながら、バークスは話し続ける。その狂気染みた叫びを聞いた時、シンシアの中で何かがキレた。

 

「お前は...」

 

「おん?なんだ?」

 

シンシアが何かを囁いたが、バークスは聞こえなかったのか聞き返す。すると、シンシアは俯いていた顔を上げてーー

 

「お前は!!お前は生きてちゃいけない人間だ!!!」

 

そう叫ぶとシンシアは両手を抑える鎖を触り、詠唱していた錬金術で鎖を壊す。そしてそのままバークスへと近づき、魔力を全力で込めた拳をバークスへと叩き込もうとする。リィエルとの戦闘でのダメージや、【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】の使用による反動はまだ体に残っているが、今はそんな事関係ない。

 

シンシアの中には、自分の家族を、大切な命を弄ぶバークスを倒すことしか頭になかった。

 

そして岩をも砕くシンシアの一撃が、バークスへと入ると思われたその時、

 

「な!?止めた!?」

 

シンシアの攻撃を、バークスは意図も簡単に受け止めたのだ。シンシアは得意の『魔闘術(ブラック・アーツ)』は当たった場所に溜め込んだ魔力を流して爆発させる物だ。

 

だがまるでダメージが通っていないかのように、バークスはその場に佇んだままシンシアの握り拳を掴んでいる。

 

「このバカが!!」

 

バークスはそのままシンシアを投げ飛ばす。常人に出せる力を優に越えたその投げは、シンシアを部屋の壁にへと叩きつける。

 

「がっ!!ちっ!!」

 

「ほれほれ逃げてみろ!!」

 

そう言いながら、膝に手をおいてどうにか立ち上がったシンシアに向けてバークスは右手を掲げる。すると、その手から炎が舞い上がりシンシアに襲い掛かる。

 

「やべ!」

 

シンシアはとっさに【タイム・アクセラレイト】を使い火の手から逃れるが、前の戦闘の影響でうまく維持できずにすぐに体の動きが遅くなる。

 

「しまっ!?」

 

「とろいのぉ!!」

 

今度は左手を振るうと、辺り一面の温度が急激に下がり始める。そして徐々にシンシアの足が凍りついていく。

 

「くそ!!《万象に(こいねが)う・我が腕手(かいなで)に・剛毅なる刃よ》っ!!!」

 

詠唱を終えるとシンシアは地面に触れる。そして地面に稲妻が走り、地面からリィエルが使うものと同じ大剣が姿を現す。大剣を出す間に激しい頭痛が起きたがそれを気合いで沈め込み、大剣をバークスへと投げつける。

 

「その程度!!」

 

しかしバークスは余裕綽々と大剣を避ける。

 

「お前は少し静かにしていろ!!《雷精の紫電よ》!」

 

「ぐっ...」

 

バークスが発動した【ショック・ボルト】を足を凍りつかされたシンシアが避けられる訳もなく、それはそのままシンシアへと直撃する。

 

バークスはシンシアの足の氷を溶かすと、痺れによって立てなくなりシンシアはその場に倒れ伏せた。

 

「小うるさいハエだな。力も無いのにししゃり出てくるとは、無謀としか言えんぞ?」

 

「くっ!!」

 

嘲笑を浮かべるバークスをシンシアが睨むが、もうシンシアには立ち上がる余力も残っていない。気を失っている間に少しは魔力も体力も回復していたが、あれだけの攻撃をくらい、さらには【隠す爪(ハイドゥン・クロウ)】まで使えばそんなものはあっさりと消えていく。

 

その時、部屋に大きな振動が伝わる。

 

「な、なんだ!?何が起こっている!!」

 

バークスは焦りながら、通信用の魔導器から連絡を入れる。それに返すのは若い女の声だった。

 

『侵入者ですわバークス様。敵戦力は二人、帝国軍宮廷魔導士団、特務分室所属の《星》のアルベルト様と帝国魔術学院魔術講師のグレン様ですわね』

 

「なに!?グレンだと!!奴はあの小娘が殺したのではないのか!?」

 

「...ふふっ」

 

そこで聞こえた微笑に、バークスは後ろを向いた。そこには、絶対絶命の状況であるにも関わらず笑みを溢すシンシアの姿だった。

 

「貴様!何がおかしい!!」

 

「あの先生が、そう簡単にくたばるわけねぇだろうが。それに今度はアルベルトさんもご一緒か、なら安心だな。お前らの負けだよ屑ども」

 

「くぅ...軍の犬が!!もういい、私が手を下す!!」

 

そう言うとバークスは通信用の魔導器を投げ捨てた。そしてシンシアへと相対する。

 

「さっさと諦めたらどうだ?それとも、俺とまだやるか?」

 

シンシアは地面に伏せながら顔だけをバークスへと向ける。

 

(先生達が来てるなら、俺がこいつを少しでもここで足止めすれば先生達がより早くルミ姉の所に行ける!!だから少しでも時間を...)

 

とそこまで考えた時、バークスの顔が大きく歪む。そしてゆっくりと口を開いて話初めた。

 

「奴等も殺すが、先に貴様をいたぶるか...」

 

「へ...そんな暇があるのか?」

 

軽い調子で返すが、シンシアの額には冷や汗が流れていく。バークスのその歪んだ顔からは、何か恐ろしい物、非人間的な何かをシンシアは感じたのだ。

 

そして、それは現実となる。

 

バークスは懐から小さな金属製の注射器を取り出した。

 

「これを受けても、まだそのふざけた笑いを浮かべられるか?」

 

注射器の中身は赤黒い液体。その色に、シンシアの本能が危険信号を全力で鳴らし続ける。

 

「なんだ...それ...」

 

「やはり貴様のようなゴミには、ゴミを与えるのが一番だと思ってな。これは、お前も見た模造竜(ファクティスドラゴ)の血だ。」

 

「っ!?!?」

 

そこでついに、シンシアの顔から余裕が無くなる。それを見たバークスは歪めた顔をさらに歪めながら笑い出す。

 

「これを人間であるお前に打てば、どうなるだろうな?」

 

シンシアの顔が恐怖にまみれるが、バークスはシンシアへと徐々に近づいていき、シンシアの首もとに注射器を着けた。

 

「『Project:Revive Life(プロジェクト リヴァイヴ ライフ)や竜言語も知っているほど博識な貴様なら、こんなものを打たれればどうなるかはわかっているだろう?」

 

「......」

 

シンシアは無言を貫くが、シンシア自身もそれの結果は分かりきっていた。

 

竜は人知を越えた強大な力を持つ。そんな魔獣の血を体に入れられれば確実にシンシアの体は持たない。それにその血は竜は竜でも人口的に作られた竜の血。下手をすれば精神にも害を及ぼし兼ねない。

 

万が一、その血が体に順応するかもしれないが、その確率は0,1パーセントにも満たない。

 

つまり、打たれれば確実な死がシンシアを待つということだ。

 

「ここで最後に聞こう、貴様が我々に協力するというのなら打たずにおいてやろう。さぁどうーー」

 

「嫌だね」

 

「なに?」

 

それでもシンシアはバークスからの誘いを一蹴する。不敵に笑い、そして目に強い意志を込めながらバークスを睨み付けた。

 

「貴様はわかっているのか?死ぬのだぞ?」

 

バークスの驚きの表情を面白そうに見ながら、シンシアはこう言った。

 

「死なねぇよ、順応してやる。確率がどれだけ低かろうも関係ねぇ!!てめぇら屑の思惑で死んでたまるかボケが!!」

 

恐怖はある。死ぬのはもちろんシンシアであろうと怖い。だが、それ以上にシンシアの中の正義感が悪に屈する事を許さなかったのだ。

 

「ならば望み通りくれてやる!そして死ね!!」

 

バークスは注射器の針をシンシアの首に差し、打ち子をぐっと押し込んだ。

 

その瞬間、シンシアの全身に電撃が走った。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

体の至るところが、まるで剣に刺されたかのように痛み出す。体が入り込んだ異物を拒絶する、それと共に竜の血が体を破壊していくのが自分でもよく分かる。その痛みは先程ついたリィエルの攻撃によるダメージなど比ではない。

 

痛みに耐えきれず、シンシアはその場をのたうち回る。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

痛みのあまり叫び続けるシンシアを、バークスは愉快そうに見る。右目からは大量の血涙を流し、口からは血反吐を吐き、床は真っ赤に濡れていく。その血の海の上で、シンシアは体に入った異物による痛みに泣き叫ぶ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁああああ!!あぁぁぁぁ...」

 

最後に大きく叫びながら仰け反ると、シンシアはゆっくりとその血の海へと倒れ伏し動かなくなる。

 

「死んだか...成功などするはずが無い。ただの道化が」

 

バークスは興味を無くしたのか、シンシアをもう見ずに部屋から出てグレン達を迎え撃ちに行く。

 

 

部屋には、ただただ静寂が動かないシンシアを包んでいた...

 

 

 

 

 


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