最後にその手が掴むもの   作:zhk

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やはりグレンはロクでなしのようだ

「一体なんなのよ!あの男は!!!」

 

騒がしい食堂では、システィーナが怒りの叫びをあげていた。その机には向かいにルミア、システィーナの隣にシンシアという席の並びになっている。

 

「大体!!講師としてあの態度は一体何なの!?やる気の一つも感じられないわ!それに来て行きなり自習ぅ?自分が眠いからぁ?ふざけるじゃないわよ!!」

 

「ははは...」

 

ひたすら叫び続けるシスティーナに、苦笑いを浮かべて聞き続けるルミア。どうにか話を違う方向へと持っていきたいところなのだが、もう一人はただひたすらに食堂で大量に頼んだ地鶏の香草焼きを無言で食べ続けているため、実質システィーナの話を聞いているのはルミアただ一人だけだった。

 

「ちょっと!?シンもそう思わない!?」

 

何も反応しないシンシアにしびれを切らしたのか、システィーナはかなり機嫌が悪そうにシンシアへと語りかける。

 

「ああそうだな。確かにここの香草焼きは絶品だがやらねぇぞシス姉。」

 

「そんな事一言も言ってないわよ!あの非常勤講師の事を言っているのよ!アイツ今日女子更衣室にも入ってきたのよ!!もう信じらんない!!」

 

確かに今日1日、というよりまだ半日足らずでグレンの印章は最悪だった。

 

全くやる気の感じられない態度に、テキトーな授業、そして生徒の質問に対して『わからない』と返す先生としてあるまじき行為まで堂々と引き起こすのだから当たり前だろう。ルミアもこれはさすがにフォローしきれなかった。

 

「グレン先生?確かにろくでもない人ではあったけど...」

 

「あったけど何よ」

 

そこでシンシアにしては珍しく言葉を濁す。彼はかなりざっくばらんとした性格のため、思ったことや感じた事はざっくりそのまま伝える。

 

そんな彼が言葉を濁した事が気になったシスティーナはシンシアに尋ねるが、シンシアは首を傾げている。

 

「なんだかなぁー。わざと無能を演じてる?ような気がする。それになんかただ者じゃねぇような気もする。」

 

「はぁ?あの男がそんな器用な真似できるわけないでしょう。」

 

「うーん...」

 

シンシアはそれでも納得していないのか、まだ首を傾げたままならな元に戻さない。その状況で香草焼きにフォークを突き立てて、そのままかじりついているのだからなかなかにシュールな光景である。

 

「シン君はどうしてそう感じたの?」

 

「へ?勘だけど?」

 

ルミアの最もな疑問に返した答えは、まさかのフィーリングだった。

 

「でもアンタの勘ってすごい当たるのよね...今回は外れそうだけど」

 

「ま、まだ1日目だしわからないよシスティ...」

 

とそんな会話をしていると、その世界に突然乱入者が現れる。

 

「ちょっと失礼」

 

そう言って三人の隣に座ったのは、話題の非常勤講師、グレン=レーダスその人だった。

 

「あ、あ、貴方は!?」

 

「違います人違いです。」

 

どこかで見たようなくだりでグレンはシスティーナの言葉を華麗に無視して、食事にありつき始める。

 

「美味ぇ。なんつーか、この大雑把さがいいんだよな~」

 

「お、先生わかってるじゃないですか!!美味いっすよねーこれ!!」

 

「おお!!やっぱお前とは話が合うと思ったぜ!!」

 

シンシアとグレンが拳をつきあわせるのを、ルミアは微笑ましく、システィーナは不機嫌そうに見ていた。

 

「先生って、ずいぶん食べるんですね。ひょっとして食べるのはお好きなんですか?」

 

「ああ、食事は数少ない俺の娯楽の1つだからな」

 

ルミアとシンシアがグレンと和やかな雰囲気で会話する中、システィーナだけはそれをイライラしながら見ていた。

 

「ところで、そっちのお前はそんだけで足りるのか?成長期なんだから食わないと育たないぞ?」

 

「余計なお世話です。私は午後の授業が眠くなるから、昼はそこまで食べないだけです。」

 

「ほら、シス姉はそうやって少食だからいつまでたっても胸が板のままーー」

 

その言葉が最後まで紡がれるよりも早く、システィーナは指二本を使ってシンシアの目へと突っ込む。

 

「うがぁぁぁぁぁ!?目が!?目がぁ!??」

 

「アンタも余計なお世話よ!!」

 

「なぁ...あれは止めなくていいのか?」

 

「いつもの事ですから...」

 

少し気まずそうにグレンがルミアに聞くも、ルミアからすれば家で毎日見る光景なので、驚く事はなにもないような顔をする。

 

「まぁでも、先生の授業であれはそんな事は関係ないでしょうがね...」

 

未だに床の上で転がりながら叫んでいるシンシアをほっておいて、システィーナは悪意たっぷりにグレンにそういい放つ。

 

「回りくどいな...言いたい事があるならはっきり言ったらどうだ?てかお前うるさい!」

 

「いやだって!いきなり目をついてくるなんて誰が予想しますか!?」

 

「アンタは黙ってなさい!」

 

「うっす...」

 

姉の一喝が相当怖かったのか、それとも二人の間に広がる重い空気をかんじとったのか、シンシアはそこでふざけるのを止める。

 

「わかりました。この際はっきり言わせてもらいます!私はーー」

 

「わかった、わかったよ。降参だ。そんな必死な顔すんなって」

 

「え?」

 

そこでグレンは降参と姿で表すように両手を上げる。

 

「そこまでお前が腹を空かしているとは思わなかったわ。全く、素直じゃねぇなー。はっきり欲しいなら欲しいと言えばいいだろ?」

 

グレンはそう言うと、自分のトレイにある煮豆をスプーンで一掬いすると、システィーナの皿の上にのせた。システィーナの思う事と的外れなその回答に、システィーナは怒りのあまり身を震わす。

 

「ち、違います!?私が言いたいのはそんな事ではなくてーー」

 

「代わりにそっちの貰うな。」

 

「あー!私のスコーン!!」

 

グレンはシスティーナの皿に煮豆をのせた拍子に、システィーナの皿にあった二つあるスコーンの内一つをかっさらい、直ぐ様自分の口に放り込んだ。

 

「うんうん。久しぶりに食べるスコーンは美味いな...」

 

「もう許さない!?貴方ちょっとそこに直りなさい!

!」

 

「うおっ!?危な!!ちょ、食事は静かにお願いしまーす!!」

 

さすがに沸点が限界に達したのか、システィーナは怒りに身を任せるままナイフで突き始める。それを防御するようにグレンはナイフを振るうので、まるでそれはじゃれあっているようだった。

 

「案外この二人仲がいいんじゃねぇの?」

 

「そうかもね...」

 

集まり始めた人混みに紛れて、シンシアとルミアがそんな事を呟くが、それがシスティーナの耳に入ることはなかった。

 

ーーー

 

グレンが講師として魔術学院にやって来て、はや一週間が経った。しかし、グレンはその態度を一向に変える素振りすら見せなかった。最初はきちんと書いていた自習の文字すら、今ではぐちゃぐちゃで何を書いているのかすらわからない。

 

さらには教科書を黒板に釘で叩きつけるという暴挙に出ていた。

 

遂に限界に達したのか、事件はその日の最後の授業で起きた。

 

「いい加減にしてください!?」

 

堪忍袋の尾が切れたのはシスティーナだった。システィーナは机をバンっと強く叩きながら、グレンへと抗議した。しかしそのシスティーナの隣ではシンシアがぐっすりと眠っているため、あまり締まらない。

 

「む?だからお望み通りいい加減にやってるだろう?」

 

「そんな子供みたいな屁理屈をこねないで!貴方がこれ以上授業態度を変えないと言うのなら、こちらにも考えがあります!」

 

さすがに隣でそこまで騒がれては眠ってはいられなかったのか、シンシアは眠たげに目を擦りながら起き上がる。

 

「え?ちょっとルミ姉、これどういう状況?」

 

「さすがにシスティも限界だったみたいで...」

 

そう答えるルミアの顔は暗い、さすがのルミアでもこの状況はよしとしていないようだ。

 

「私はこの学院にそれなりの影響力を持つ魔術の名門フィーベル家の娘です。私がお父様に進言すれば、貴女の進退を決することもできるでしょう。本当はこんな事したくありませんが、貴方がその態度を改めないというのならーーー」

 

「お父様に期待してますと、よろしくお伝えください!」

 

そのシスティーナの言葉への反応は、クラス全員の予想を超えたものだった。

 

システィーナとシンシアは共にフィーベル家の嫡子であり、先程のシスティーナの言葉通り教師一人の今後も簡単に左右出来てしまうだろう。

 

しかしそんな事知らないとでも言いたげに、グレンの態度はあっけらかんとしたものだった。

 

「いやーよかったよかった!!これで1ヶ月待たずに辞められる!!白髪のお嬢さん、俺のために本当にありがとう!!」

 

どうやらグレンは本当にこの仕事を辞めたかったようで、教卓の前で諸手を挙げて喜んでいる。その態度にシスティーナの中で、何かがプツンと切れた。グレンのその態度に、自分が愛する魔術と時分が誇るフィーベルの名をバカにされたと感じたシスティーナは、感情の赴くまま自分の左手の手袋を投げつける。

 

「貴方に、それが受け取れますか?」

 

「お前...マジか?」

 

さっきまでふざけたようなグレンの態度が一変して真剣な物になる。システィーナがしたその行為はそれほどまでに意味がある物だったのだ。

 

古来より、魔術師が相手に向かって手袋を投げるという行いは、決闘を申し込む事を意味する。この決闘は勝者は敗者に一つだけ、願いを通す事ができるのだ。

 

それにこれは受託者にルールを決める権利があるため、決闘を申し込んだ側が不利なのだ。

 

そうとわかっていてもシスティーナはそれをせざるを得なかった。それは自分の誇る物をバカにされたというのもあるが、ただ単に若気のいたりというのも理由に含まれるだろう。

 

「私は本気です。」

 

システィーナの瞳には確固たる意志があった。その意志がどれ程強い物なのか、それがわからないほどグレンも落ちぶれてはいなかった。

 

「システィ!」

 

「ルミ姉止めちゃダメだ。」

 

直ぐ様飛び出そうとしたルミアをシンシアが手で制する。

 

「でも、このままじゃシスティが!」

 

「大丈夫だ。この勝負、シス姉が勝つ。」

 

そのシンシアの言葉に、ルミアは困惑する。確かにシスティーナはこの学校でも天才の部類に入る人間だろう。しかし、相手は腐っても魔術の教師。それにこの勝負は元からシスティーナが不利だ。

 

それでもシンシアは、システィーナが勝つと明言したのだ。何かその言葉に意味があると感じたルミアはその言葉を信じて、その場に座った。

 

(ま、多分先生は本気でやらないだろう。勘だけど...)

 

ルミアの信頼とは裏腹に、シンシアの予想は全て勘によるものなのが少し残念だが、そんな事をしている内にも前での会話は進んでいく。

 

「ほらさっさと中庭行くぞ?」

 

「ま、待ちなさい!もう、貴方だけは絶対許さないんだから!」

 

と言って二人して中庭へと向かっていく。

 

「さて俺も行くか...」

 

シンシアは気だるげに席から立ち上がり、その二人の後をついていくべく、教室から出ていった。

 

ーーー

 

中庭にはクラスの生徒だけでなく、他のクラスの生徒や講師など野次馬が山のように集まっており、かなりの人の量となっていた。

 

「さて、いつでもいいぜ?」

 

グレンは余裕綽々とした態度で、システィーナへと挑発する。この決闘で使える魔術は【ショック・ボルト】という初級魔術のみ。これによって怪我をすることなんてまずない。せいぜい少し体が痺れる程度だ。

 

その魔術のみの決闘において、勝敗をわけるのは詠唱の速さだ。その状況において相手に魔術の発動を促す行為は、辺りの生徒を驚かせるようにするには十分だった。

 

「ね、ねぇシン君、本当に大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だと思う。多分...」

 

少し不安げになりながらシンシアは応える。その回答にルミアはより不安になる。

 

「おいおい、何もとって食おうって訳じゃないんだぞ?胸かしてやっから気楽にかかってきな?」

 

そしてグレンは余裕の笑みを浮かべながら、システィーナへと語りかける。その言葉に少しだけ歯噛みしながらも覚悟を決めたのか、システィーナは詠唱するために口を動かす。

 

《雷精の紫電よ!》

 

その言葉が紡がれると、システィーナの指から紫の稲妻が真っ直ぐグレンへと放たれる。それをグレンは笑顔を崩さないまましっかりと見ながらーーー

 

「ひぎゃぁぁぁ!!」

 

その電撃が直撃した。

 

「...あ、あれ?」

 

そのままグレンは魔法のダメージによってその場に倒れ伏す。

 

システィーナが困惑の声を漏らしたが、それはこの場にいる全員が言いたいことだろう。

 

「これって...システィの勝ち、なの?」

 

ルミアは困ったようにそう独り言として呟く。

 

「ぐ...卑怯な!」

 

「いやでもいつでもかかってきなさいって言い出したのは先生で...」

 

「だがしかし!これは三本勝負だ!いくぞ二回戦!《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ーー》」

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

何かいちゃもんをつけ、グレンが奇襲をかけようとするが、グレンの詠唱が終わるよりも早くシスティーナの魔法が完成する。

 

「うぎょうあああああああああ!!」

 

そして予想通りその魔法はグレンへと当たり、また地面へと這いつくばった。

 

その後もグレンの空しい言い訳の末、四十七本勝負と言い張った仕合が終わると完全に折れてしまった。

 

「これで決闘は私の勝ちです!だから要求通り、先生は明日からーー」

 

「え?なんの事だっけ?」

 

「え?」

 

グレンからの予想外の返答に、システィーナは硬直する。

 

「俺達約束なんてしたっけ?覚えてないなぁー?誰かさんのせいでいっぱい電撃食らったしなー?」

 

グレンは誰かさんという所を強く強調しながらそう言う。最早その言葉に、誰もが口を開けるしかなかった。

 

「先生...まさか魔術師同士で交わされた約束を反故にするって言うんですか!?貴方はそれでも魔術師ですか!?」

 

「だって俺魔術師じゃねぇし!」

 

「...は?」

 

システィーナはそのグレンの一言に固まってしまう。他の生徒も、講師も同じような状態だった。

 

「とにかく!今日の所は超ギリギリで引き分けということにしといてやるが、次はないと思え!!さらばだ!」

 

そう言うとグレンは高笑いをしながら、受けたダメージの反動で何度かこけつつもその場から走り去っていった。

 

「なんだよあの馬鹿」

 

「まさか【ショック・ボルト】みたいな初等呪文すら一節詠唱できないなんてね」

 

「ふん、見苦しい人ですわね」

 

「魔術師の決め事を反故にするなんて、最低...」

 

そしてグレンがいなくなると、その場でほぼ全ての人達がグレンへ軽蔑の念を込めた言葉を投げ掛ける。

 

そんな中、ルミアは心配げにシスティーナの元へと歩み寄る。

 

「システィ大丈夫?怪我はない?」

 

「私は大丈夫、だけど、心底見損なったわ...」

 

システィーナはグレンが行った先を睨むように見ながらそう答えた。それを見るルミアは途方に暮れるしかない。

 

だからこの状況で誰も気付かなかった。

 

ただ一人、その周りとは全く違う目をしながらグレンの行った方向を見る者がいることに、誰も気づくことが出来なかった。

 

ーーー

 

あの事件から三日が経った。あの事件のせいでグレンの評判は地に落ちてしまった。

 

しかし、当の本人は全く気にしていないのかいつも通り気だるげに授業を進めていく。その態度についていけなくなっていったのか、生徒達は次第にグレンの授業を聞かなくなっており、それぞれがそれぞれ自分のやりたい勉強を行うようになっていった。

 

それに対してグレンも何か言うわけでもなく、今も教卓の前でやる気の無い授業が続いている。

 

「あ、あの先生。今の説明に対して質問があるんですけど...」

 

こんなひどい授業でも聞いていた生徒がいるようで、グレンへ質問をする生徒が現れた。

 

その子の名はリンと言って、一番初めの授業でもグレンへと質問していた生徒だった。

 

「無駄よリン。その男に何を聞いても無駄だわ」

 

「あ、システィ」

 

そこで彼女を止めたのはシスティーナだった。システィーナはグレンへと侮蔑の念を込めた視線を送りながら、話すことをやめない。

 

「その男は魔術の崇高さを何一つ理解していないわ。そんな男に教えてもらう事なんて何もないわ」

 

「で、でも...」

 

「大丈夫、私が教えてあげるから。一緒に偉大なる魔術の深奥に至りましょう。」

 

そう言ってシスティーナはリンに微笑む。ただ、そのあとはいつもとは違った。

 

「魔術って、そんなに偉大なもんかねぇ?」

 

ふと、グレンがそう呟いたのだ。魔術を重いと思えるほど信奉しているシスティーナが、それを聞き流せるはずもなかった。

 

「何を言うかと思えば、偉大で崇高な物に決まっているでしょう?もっとも、貴方には理解できないでしょうけどね。」

 

システィーナは鼻で笑いながら、そう返す。その討論が気になったのか、他の生徒までが自習からそちらに意識を向け始めた。そんな時だった。

 

「何が偉大でどこが崇高なんだ?」

 

「え?」

 

いつもならふーんとか言って聞き流すだけの筈が、今日に至っては何故かその問いに食い下がってきた。

 

「魔術ってのは何が偉大で、どこが崇高なんだ?それを聞いている。」

 

「それは...」

 

システィーナは言葉に詰まってしまう。が、それも一瞬ですぐに答えを返した。

 

「魔術はこの世界の真理を追及する学問よ」

 

「ほう?」

 

「この世界の起源、構造、法則、魔術はそれらを解き明かし、自分と世界が何のためにあるのかという永遠の疑問を解きあかし、私たちをより高次元の存在へと引き立ててくれる。だから魔術は偉大で崇高な物なのよ。」

 

それはまさに満点の回答。普通ならその答えに拍手が送られるだろう。

 

「それが何の役にたつんだ?」

 

「...え?」

 

だが彼、グレン=レーダスは普通ではなかった。それに対してさらに問いを重ねてくる。

 

「そもそも、魔術って何の役に立つんだ?この世界で術とつく物は大概何か人の役にたっている。だがな、魔術だけは何の役にもたっていない。違うか?」

 

確かにそうだ。魔術の恩恵を受けられるのは一部の人間だけ。下手をすれば魔術を見ずに一生を終える人だっているだろう。

 

それでも、システィーナは弱々しげにもそれに反抗していく。

 

「魔術は...人の役に立つとか、立たないとかそんな次元の話ではないわ。人と世界の本当の意味を探し求める...」

 

「でも何の役にも立たないのなら、それはもうただの趣味とかわんねぇんじゃねえのか?」

 

その言葉に、遂にシスティーナも返す言葉がなくなり何も話せなくなる。そしてシスティーナは悔しそうに唇を震わせているとーー

 

「悪かった。嘘だよ。魔術は立派に人の役にたってるさ」

 

「え?」

 

そのいきなりの手の平返しに、クラス中が目を見開きながら驚いた。がーーー

 

「あぁ。魔術はすげぇ役にたつさ。人殺しのな」

 

最後にのべられたその一言で、教室中に寒気が響いた。

 

それを言うグレンの顔は、ひどく歪んだ物だった。

 

「実際、魔術ほど人殺しの役にたってる術は無いんだぜ?剣術が一人を殺す間に、魔術は何十人も殺せる。戦術で統率された一個師団の部隊を、魔導師の一個小隊は戦術ごと焼き尽くす。ほら、立派に役に立ってるだろ?」

 

「ふざけないで!?」

 

さすがに聞き捨てならなかったのだろう。システィーナ

は先程までの弱々しさを消し去り、半ば憤りながらグレンに食ってかかる。

 

しかし、その程度ではグレンの熱演は止まらなかった。

 

「全く、俺はお前らの気が知れねーよ。こんな人殺し以外何の役にも立たない術をせこせこ勉強するなんてなぁ。こんな下らんことに人生費やすなら、もっとましなーーー」

 

その時、パンっと乾いた音が、教室に響いた。それはシスティーナがグレンの頬をひっぱたいた音だった。

 

「いってぇな!テメェ!!」

 

グレンもさすがに切れたのか、システィーナに対して怒ろうとするがそれはすぐに止めることになる。

 

そのシスティーナの涙を見て。

 

「なんで...そんな事言うの?...大嫌い、貴方なんか...」

 

そう言ってそのままシスティーナは教室を後にした。

 

「システィ!!」

 

それを心配に思ったのか、ルミアがシスティーナの後を追う。教室には、重苦しい空気だけが取り残されていた。

 

「あーなんかやる気でねぇから、今日は自習にするわ」

 

そう言ってグレンも教室から出ていく。

 

その姿を、寝るために組んだ腕の隙間から、シンシアはまるで値踏みするようにじっくりと見ていた。

 

 

 

 

 

 




結構進んだけれどほぼ原作通り...

もう少し!もう少ししたらシンシアが活躍するから!!
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