今回からは誰かの一人称視点で話が進みます。~sideと書かれている所はその人の視点、何も書かれていない所からは三人称となります。
シンシアside
ひどく重く閉じられた瞼の間から、強い光が差し込む。それは俺の意識を呼び起こすには十分すぎる強さだった。
「うぅ...ここは...」
見たことがある天井が目の前に映る。そこで少し考えて、ここが宿である事に気がついた。恐らく先生が俺をここまで連れてきてくれたのだろう。
(でもカッシュとかギイブルとかはいないな...一人部屋に移されたのか?)
俺はカッシュとギイブル、そしてセシルの三人で一つの部屋だったはずだ。それが今では誰もいない部屋にただ一人。ということは俺の怪我を考慮して、部屋を分けてくれたのだろう。
「とりあえず...起きるーーん?」
至るところに巻かれた包帯を痛々しく見ながら、俺はベッドから起き上がろうとした時、俺はふと自分の布団に違和感を感じた。
右手に何か、柔らかい物が当たっている。その部分だけ布団が不自然に盛り上がっているのだ。
「クッションか何かか?別にいらないのに...」
俺はよく分からない宿の気遣いに首を傾げながら、布団をはがした。するとそこには...
「すぅ...すぅ...」
「............」
そこには気持ち良さそうに寝るリィエルの姿があった。俺はゆっくりと布団を戻し、ベッドから降りる。
「うん、俺きっと疲れてんだよな?だってここ男子塔だしな...まさか女子がいるわけない...」
そう自分に言い聞かせながら、俺は静かにもう一度布団を剥ぐ。そこにはやはりリィエルの姿が。
「いやいや待て待て落ち着けシンシア=フィーベル。そうだこれは幻覚だそうじゃなきゃおかしいだろうだってここ男子塔だぞ?女子がいるなんてあり得ないこんなカッシュが喜びそうなイベントなんてーー」
「んんっ...」
早口で自分を納得させるために自己暗示させようとしている矢先、ベッドから声が聞こえる。俺はまるで壊れかけの人形のような固い動きでベッドへと首を回す。
「ん、おはようシン...」
そこには眠たげにいつもよりも目を細めるリィエルがベッドの上で座っていた。
「えっとリィエルさん?ここ男子塔、だよね...?」
「?そうなの?」
「いや俺が聞きたいんだけど...」
え?なんで?なんでいらっしゃるの?俺ちょっとわからないんだけど...
ふとそこで俺は入り口に目を向け唖然とする。扉があるはずのそこには何もなく、入り口の床にはボロボロのドアであった物が転がっている。
「リ、リィエル...あれはお前がやったの...?」
「うん、鍵がかかってて邪魔だったから壊した」
「あ...そう...」
もう何がなんだがさっぱりだ。とりあえず深呼吸して...
「いやなんでぇぇぇぇぇえ!?!?」
思考放棄して、現実逃避しましょ...
俺の叫びが、朝の宿に響き渡った。
ーーー
「とりあえず聞くけど、なんでここにいるんだ?」
少し時間を置いて、俺はどうにか落ち着く事が出来た。いや、落ち着かなきゃ話が進まない。
「シンが心配だったから、昨日の夜に見に来た」
「うん...」
「その時邪魔だったから、扉を壊した」
「リィエルならやりそうだからもうそこには触れない...」
これはもうリィエルだからといって諦めよう。弁償はグレン先生辺りに押し付ければなんとかなるかな?
「それで部屋に入って、シンが寝てるのを見つけた」
「ほう...」
「そのままシンのベッドに入って...」
「いやちょっと待て!?どうやったらそこに話が飛ぶ!?」
いきなりの話の飛躍のしように、俺は突っ込まざる終えない。
「なんでそこで俺のベッドに潜り込むように思考が動くんだよ!?」
「む、シンが気持ち良さそうに寝てるから」
「え?これ俺が悪いの...?」
明らかにお門違いだ。その理論では俺はもう気持ちよく寝れないじゃんか、嫌だよそれ。
「とりあえず!部屋に戻れリィエル。確か同じ部屋だったのはシス姉とルミ姉だろ?なら女子塔にーー」
「リィエル、一体どこに行ったのかしら...?」
「また朝起きたら部屋にいなかったよね。」
そこまで話した時、通路から聞き慣れた声が聞こえてくる。それは聞き間違えるはずがない、何年と聞いてきた声。
(待て、待て待て待て。もしかしてここって...)
俺は背中に嫌な汗を流しながら、直ぐ様バルコニーの窓を開けて外を見る。
「嘘だろ...」
そこから見えたのは、男子塔。つまりーー
(ここ女子塔!?)
俺から余裕が完全に消える(元からほとんど無かったが)
のが自分でもよくわかった。何故女子塔にいるのか?という素朴な疑問が頭をよぎったが、今はそんなことよりも重要な事がある。
リィエルが俺の部屋にいるという事実を、誰にも知られないようにせねば!!俺の今後の学校での生活が地獄へと変わっちまう!!
「リィエルいいか、絶対に誰にもばれずに自分の部屋に戻ってくれ。お願いだから...」
「シンと一緒にいちゃダメなの?」
「あとでいくらでも一緒にいてやるから!だから今はお願いだから自分の部屋に戻ってくれ、な?」
「...わかった」
少し不貞腐れるような顔をリィエルはしたが、渋々といった感じで了承してもらえた。リィエルはあんな感じでも宮廷魔導士団のエースだ。一般の生徒にばれずに移動なんて容易いだろう。これでどうにか俺の学校生活は守らーー
「シンー?怪我は大丈夫...」
「どうしたのシスティ。いきなり言葉を詰まらせ...」
リィエルが出入口から出ようとした瞬間、通路からシス姉とルミ姉がこちらに顔を出し、二人揃って驚きにより目を見張っているのが、包帯が巻かれていない左目だけでも十分にわかる。
「おはようルミア、システィーナ。」
「リ、リィエル...なんでここにいるのかな?」
ルミ姉が引きった笑みを浮かべながらリィエルに尋ねた。するとリィエルは表情を変えずに...
「シンと一緒に寝てたから」
そんな爆弾を叩き落とした。
「ちょ!?シ、シシシシシン!?アンタ女の子を自分の部屋に連れ込んで!!」
「ちょい待てシス姉!!これには、これには深い訳があるの!!ルミ姉、ルミ姉ならわかってーー」
「ハハハ...ハハハ...」
シス姉は顔を真っ赤にしながら捲し立てるように叫び、ルミ姉は壊れたように笑いながら、すーっとその場から立ち去っていく。
「リィエル!お前も少しは否定しろ!!」
「ん、シンの隣は寝心地がよかった」
「感想を言えって言ったんじゃねぇ!!お願いだシス姉、どうか話を...」
「《問答無用だこのけだものぉぉぉぉ!!》」
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
シス姉の放つ【ゲイル・ブロウ】が俺に直撃し、俺はその勢いのまま開けっぱなしの窓から外へ放り出された。
その間も、リィエルはいつも通り眠たげに目を細めてその一連を見ていた。
ーーー
「おかしい...これは絶対におかしいって...」
「今回ばかりは私が悪いわ...」
顔にさらに傷を増やして、俺はシス姉とルミ姉、そしてリィエルと共にみんなが集まる講堂へと向かっている。どうにかシス姉とルミ姉には誤解を解くことは成功し、さらには近くに他に女子生徒がいなかった事が幸いして他の生徒にはこの話は知られていない。
ちなみに俺が気絶した後の事についてもルミ姉から詳しく聞くことが出来た。
あの後俺が倒れているのをグレン先生とルミ姉が発見し、そのまま俺の予想通りグレン先生が俺を宿まで連れてきてくれたそうだ。
そして他の生徒の元に帰った後、俺のボロボロの体を治療し、寝かせようとしたようだがそこで問題が発生した。
空き部屋が男子塔に無かったのだ。
さすがに重傷の俺を他のメンバーと同じところに泊めるわけにはいかない。だが空いている部屋が無いのもまた事実だ。そこでグレン先生が出した案が...
『こいつ女子塔で寝かせろよ?その方が面白そうだし?』
と、ニヤニヤと人の悪そうな顔をしながら言ったそうだ。
「あの野郎、一発殴ってやろ...」
「でもシン君を治療してくれたのはグレン先生なんだよ?そこは感謝しないと」
「いやそうだけどよぉ...」
あのロクデナシが要らぬことをしなきゃ朝から俺の寿命を大幅に削るようなイベントに追われる事も無かったのだ。やはり一発、いや二発は殴らなければ気がすまない。
「にしても他の女子はよくOKしたよな。俺も一応男なんだけど...」
「別にシンならいいんじゃないって事で」
「これは俺が男として見られていないと悲しむべきなのか...?」
もう少しうちのクラスの女子達はそういうところに気を使うべきだと思うが、今は信頼されているとして受け取っておこう。
そんなこんなしているうちに、講堂の入り口へとたどり着く。俺は扉に手をかけノブを回して押し出す。重々しい音と共に扉が開き、そこには既に俺達四人以外の生徒は全員集まっていた。
「お、来た来た。遅か「死ねい!!」うおっ!!」
グレン先生を視界に入れた瞬間、俺はグレン先生へと飛び蹴りをかます。それはグレン先生の顔のギリギリを通り抜けていく。
「おいこらてめぇ!教師に向かってなんて事しやがる!!」
「俺を女子塔に押し込んだロクデナシに言われたかないね!!」
「んだと!?俺が直々に
「あんたにとっては
もうあんな心臓に悪い出来事はごめんだ。
「おいシン君?俺達が目指した
「俺達もあの場に行きたかったというのに!!」
「知るか!!俺はあそこでな...」
「?あそこで?」
カッシュやロッドのやっかみに、俺は先程の出来事を口を滑らせて言いそうになるのをギリギリで押さえた。けれどセシルが興味本意で俺に尋ねてくる。
「な、何もなか「私がシンと一緒に寝ただけ」おい言うなって!!」
第二の爆弾を、それもクラス中が集まる中でこいつは落としやがった。もうその瞬間、全員がフリーズした後...
「「「おいシィィィィィイン!!てめぇこの裏切り者がぁぁぁぁああ!!」」」
「誤解だお前ら!!お前はなんでそう言うことをペラペラ喋るかな!!」
「言っちゃダメなの?」
「色々と誤解を招くから駄目なの!!」
男子達は阿鼻叫喚の渦に、女子からは好奇の目で見られる。もうやだ帰りたい...
「シン、君のやった事犯罪だぞ?」
「なに冷静に言ってんだギイブル!?俺が連れ込んだんじゃないリィエルが勝手に入り込んで来たんだ!!」
「「「「え?」」」」
そして全員が、後ろにいたグレンでさえも驚きの表情を浮かべながらリィエルを見た。
リィエルは依然として無表情のまま、自分に視線が集中してることにすら気がついているのか怪しい。
「リィエル、シンさんが言ってることは本当ですか?」
「ん、私が勝手にベッドに入ったけど許可は取った」
「は?俺お前にそんな許可なんて...」
全くと言っていいほど無い心当たりに、俺が怪訝な顔をしていると、リィエルは俺の方を向いて口を開いた。
「シンは言った、自分の隣を私の居場所にしてやるって。だから私はシンの隣にいていい。」
自信満々に、そして少し嬉しそうに、
そんな超破壊力を持った爆弾が、リィエルの口から講堂に落ちていった。
「「「きゃああああ!!愛の告白だわぁぁぁあ!!」」」
「シン...あんた...」
「うわぁ...これってプロポー...」
女子がキャアキャアと黄色い大歓声を飛ばし、シス姉とルミ姉が顔を赤く染めながらこちらを見る。
「なっ!?違っ!!」
「違うの?」
「いや...違く...はない...けど...」
俺もその自分の発言に恥ずかしくなり顔が熱くなってきた。どうにかこのカオスな状態を押さえようと否定しようとすると、リィエルが悲しな声で俺に聞いてくる。それも目をうるうるとさせながら、上目遣いで聞いてくるのだ。そんなの否定できる訳がない。
「あいつあんな事を...」
「男らしいぜシン。これはもう仕方ないな...」
「あぁ、とりあえず...」
「「「夜道に気を付けろよシィィィン!!」」」
カッシュを先頭にその目に怨嗟の念を込めた男子達が俺を睨むように見てくる。いやだからこれ俺が悪いんじゃないんだって...
「お前俺の妹分に手を出した意味、わかってんだろうな...」
「へ?待って先生話を聞いてーー」
「《我は神を
「くれそうにないねこの親バカ!!」
顔は笑っているが目が全く笑っていない。確実に俺のこと殺しに来ちゃってるってあの人!?あんな攻撃食らったらひと溜まりもない、俺は近くの窓から外に出て逃げる。
「逃げた!追うぞお前ら!!」
「「「はいグレン先生!!」」」
「そういうとこだけ結託しやがって!!」
謎の統率力を発揮して、グレンと男子生徒達は俺を追うために講堂から出ていく。
追いかけてくるみんなから逃げながら、俺は笑みを溢した。
誰一人かけることなく進めた、俺がこの日常を守れたのだ。それが、俺はとても誇らしい。暖かな日常があることに、俺はどこか嬉しさを覚えた。
騒がしくも楽しい生活を、俺は守りたいと強く思うのだった。
ーーー
薄暗い地下を、たくさんの人が忙しなく動く。そこにいる人達は皆同じ格好をしており、それはこの国に住むものならば誰もが知るであろう、宮廷魔導士団の制服だ。
「隊長!『Project:Revive Life』の研究資料、全て押収出来ました。」
「うむ、ご苦労」
その中でも一人服装が少し違う人物がいる。他の物と比べて派手な装飾が施されているそれは、この場にいる誰よりも地位が高いことを表していた。
「そちら側は終わったのなら、残りは『
「その研究資料なのですが...」
隊長と呼ばれる男の下にやって来ていた若い男は、少し言葉を濁した。
「どうした、申してみよ」
「それが...研究資料については全て押収出来たのですが、あるものが無いのです」
「無いだと?何がないのだ」
若い男は少し間を開けてから、ゆっくりと話始めた。
「実験サンプルとして残されていた、『模造竜|ファクティスドラゴ》』の血液が見当たりません」
「なんだと!?」
余裕の態度が崩れ、その顔に焦りが浮かぶ。
「あれはあの研究の付属品と言えど竜の血。それを基盤にすれば、竜の生態などがよりわかるやもしれんというのに!!あのバカ者は、それもわからずに破棄したというのか!!」
「いえ、ですが彼、バークス=ブラウモンは死ぬ前にあの竜の血を持ち出した形跡は残っています。ですが、死体からはそれは発見されていません。」
「貴様、何が言いたいのだ?」
どこか既に答えを知っているかのような、若い男の回答に隊長は怪訝な面持ちで尋ねる。すると、若い男は重い表情のまま答える。
「さらに研究所からは注射器が一つ無くなっており、それは奥の牢のような場所で割れているのが発見されました。そしてそこには大量の血が広がっておりました」
「......」
その若い男の言葉に、隊長のみならず他の団員もその話に耳を傾ける。
「これは仮説ですが...バークスは、竜の血を何者かに打ち込み、さらにその打ち込まれた者は適応したのではないでしょうか」
ザワザワと周りが騒がしくなる。隊長も驚きのあまり言葉がでないのか、唖然としていた。
「当時、その注射器が発見されている場所には一人の生徒が拘束されていたのが確認出来ています。もし、彼が竜の血と適応したのなら...」
「...バークスも恐ろしい物を置いて逝きよったの...」
竜の血と適応した。それが何を指し示すのか、帝国の中でも実力者が集まるこの部隊の者であるならわかるだろう。
「その生徒の名前は?」
「アルザーノ帝国魔術学院二年次生二組、シンシア=フィーベルです。」
「二年次生二組だと!?」
「それって王女のいるところじゃ!!」
「もし暴走でもしたら...」
全員の頭の中で、最悪の光景が思い浮かぶ。それを想像するなか誰もが沈黙しているのを破ったのは隊長だった。
「その生徒を隠密に監視しろ。暴走を確認しだい、直ぐ様捕縛する。よいな」
「し、しかし相手は一生徒、まだ年端もいかない子供です。手荒な真似はーー」
「理解しておるのか?」
隊長が鋭い目付きで若い男を睨み付けた。
「ここで言う暴走は生易しい物ではない。それは帝国の脅威となりうる可能性を秘めるということだ。子供と言えども容赦は出来んぞ。わかったなら今の命令を私の隊の全員に伝えよ、他言無用であるぞ?」
「っ!?はっ!!」
そして若い男は、また地下の闇へと消えていった。
完全に狂った歯車は、ゆっくりとその歪みを露にし始める。その歪みはシンシアにとって何を成すのか、それはまだわからない。