婚約者現る!?
「そちらに居たか!?」
「いえ、こちらでは発見出来ませんでした」
「急げ!!急がなければ、フェジテが地図から消えるぞ!!」
「は、はい!直ちに!!」
そう言いながらおどおどと走っていく男を、険しい面持ちで見る男達がそこにいる。
宮廷魔導士団のローブを羽織ったその男達はある一人の少年を探すためにフェジテ中を駆ける。
それは正義を目指した青年。
人よりも強い正義感持ち、輝きを放つ銀髪の青年。
それを、国家のエリート集団が血眼になってまで探している。その少年にはそれほどの価値があるのだ。
「どうしますか?このままでは...」
「わかっておる!しかし場所が...」
その集団の中で最も年老いた男性が焦りを声に乗せたまま話そうと口を開いた、その瞬間ーー
轟音とともに、黒雷が彼方に迸った。それはあまりの衝撃に、雷が落ちた地点から少し離れているこの場所まで衝撃の波が届くほどだった。
「団長!今のは...」
「そのようじゃな。行くぞ」
その一声とともに、男達は動き出す。
たった一人の青年。いや、怪物を仕留めるために...
ーーー
シ□□アside
わかっていた。こうなることはきちんと理解していた。
これが俺の代償。身の丈に合わない事を為そうとした俺の罪。そうなんだろうな、きっと。
もう上手く考えも纏まらない。頭に靄がかかったみたいだ。
さっきから鬱陶しく俺の周りをくるくると飛ぶ何かも、叫べば消えていく。粉々に、清々しいほどに。
ああだめだ、まだのまれちゃだめだ。
甲高い音とともに、俺の上空に白き何かが現れる。
それはまるで、俺を裁く天使のようで...
「うせろゴミが...」
でもそれは、空から降り注いだ黒雷によって跡形もなくなる。
それを使う度に、俺がコワレていく。
使えば、俺カら何かがナクナッテ変ワってイク。
デモ、キモチがイい。
コワス、コワス、コワス。
ツブス、ツブス、ツブス。
このチカラにノマレタナラ...オレは...
「だめ、だ!!」
頭を壁に叩きつけて正気に戻す。あれを使ったらどんどんおかしくなっていく。
「ふっ、なんでこうなったんだろうな...」
近くの壁に手をつきながら、ゆっくり歩む。
自嘲気味に笑い、その一歩一歩に、この状況になった所以を思い出しながら...それは今から十日ほど遡らなければならない...
シ□□アsideout
ーーー
シンシアside
「頼むリィエル!!この通りだ!!」
魔術学院のアプローチに、グレン先生の悲痛な声が響く。グレン先生が頭を下げる先にいるのは青髪の小柄な少女、リィエルだった。リィエルは眠たげに開かれた目でグレンを見る。そして...
「わかった。グレンのお願いなら」
そう言って地面に落ちている石の一つを拾い上げ、詠唱をし始める。すると、ただの石が金色の輝きを放ち始めた。
そしてそれは全てを金に染め上げるーーー
「《何考えてるのよ・この・お馬鹿》ー!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
前に、グレン先生に横殴りの風が吹きグレンは吹き飛ばされる。そしてそのまま勢いよく、アプローチにある池へと飛び込んでいった。
「いってぇな...おい白猫何しやがる!!」
「何しやがるじゃ無いですよ!犯罪ですよ!!」
グレンの下に駆け寄ったシス姉は、つり目をさらにきりっと上げながら叫ぶ。その後ろには心配そうにグレン先生を見るルミアと、先程から表情を変えないリィエル、そして俺といった並びになっている。
「先生さすがにそれは俺も擁護できないっすよ。また食費をギャンブルに賭けたんすか?」
「違うわ!いつもはそうだが今回は違う!!」
「いつもはそうなんだ...」
ルミ姉が苦笑をこぼしながらボソッと呟いた。
「リィエルのせいで俺の給料はバリバリカット!!そのせいで俺は餓死寸前なんだよ!!」
「それでも犯罪は犯罪です!仮にもあなたは教師なんですから、生徒の見本になるようにですねーー!」
シス姉がグレン先生に説教を始めるが、グレン先生はどこ吹く風といったように話を聞かずに俺の方へと向いた。
「大体!彼女の面倒ぐらい彼氏のお前が見やがれシン!!」
「だから違うって言ってんでしょうが!!あんた一体何回言えば気がすむんだよ!!」
「ふんだ!俺は認めないからな!!」
「いや、だから!!」
もう何度めかわからないこの掛け合いに、俺はため息が出そうだ。あの遠征学習以来、変な勘違いのせいでグレン先生から俺への当たりがかなり強くなった。
俺としてはそんなつもり全くなかった発言だったのだが、それを言ったら言ったで違う方向でキレるので余計にめんどくさい。
「こうなったらお前とリィエルの事をもっと学院内に流してやる!!」
「変な噂の元凶はあんたか!もうなんだよあれ!!俺とリィエルが将来を誓いあった仲とか広めやがって!!」
「あれ~?僕間違ってるかな~?お前の隣がリィエルの居場所なんだろ~?なぁリィエル?」
その気持ち悪く間延びした問いかけに、リィエルはゆっくりと首を縦に振る。
「グレンの言ってることはあってる」
「いや否定して!?お前がそうやって肯定するから俺クラスの男子から扱いが最近酷くなってんだけど!!」
このグレン先生の噂と、リィエルのせいでカッシュ率いるモテない男子軍団(自分たちで名乗っていた)からの視線が痛い...女子からは好奇の目で見られるしもう勘弁してほしい...
「ちょっと先生!?私の話聞いてます!?」
「んあ?ごめん白猫まったく聞いてなかったわ」
「...ねぇシン、私こういう類いには荒療治よね?」
「さすが我が姉、考えてることは一緒だな。俺もそれをしようと思ってたんだよ」
俺とシス姉は笑顔のまま話し合う。目はまったく聞いてなかった笑ってないが...
「えっと?君たち?ちょっと先生怖いんですけど...」
「なに怖くないですよ。ちょっと痛むだけです。シス姉?」
「《その剣に光在れ》」
シス姉が笑顔のまま俺に【ウェポン・エンチャント】をかける。そして俺は徐々にグレン先生へと近づいていく。
「あの...シン君?それ絶対痛いよね?お前のパンチにそんなのかけたら絶対ヤバイことに...」
「先生、遺言は?」
俺はにこやかに微笑みかけながら、だらだらと冷や汗をかくグレン先生に問いかける。
「最後に腹一杯飯をーー」
「しねぇ!!」
グレン先生の言葉を最後まで聞く前に殴り飛ばす。するとグレン先生は面白いように回転しながら校門の外へと飛んでいった。遺言は聞いたけど、最後まで聞いてやるとは言ってない。
「スッキリ~!!」
「大丈夫かな先生...」
「大丈夫よルミア。先生ならあの程度屁でもーー」
シス姉が言うよりも早く、目の前の光景に俺達は目を見開く。何故なら、転がるグレン先生へ今まさに馬車が突っ込もうとしているのだから。
「どわぁぁぁぁぁぁ危ねぇ!!」
どうにか寸での所で馬車はどうにか止まる。俺達は直ぐ様グレン先生の下に走り寄る。
「大丈夫すか先生!?すみませんここまで殺る気は無さそうであったんです」
「あるんじゃねえか!!」
グレン先生とのバカ騒ぎをシス姉は呆れるように見た後、馬車の御者に頭を下げた。
「すみません、この二人には私からきつく言っておくのでーー」
シス姉が謝るのを見て、俺も頭を下げようとしたその時、馬車から誰かが降り立つ。
「来て早々君たちに会えるとはね。僕は嬉しいよ」
その男は片眼鏡に少し波打った金髪。それは俺もシス姉も見覚えのあるもので...
「貴方は...」
シス姉はその男性を見ながら目を丸くする。それをしたいのは俺もなのだが...
「久しぶりですね、システィーナにシンシア。」
「レオ兄、なのか?」
俺はその男、レオス=クライトスのあだ名を口にする。するとレオ兄は嬉しそうに俺に微笑み返した。
「え?誰?」
そこで空気を読まないグレンが尋ねた。するとレオ兄はゆっくり口を開き...
「紹介が遅れましたね。私はレオス=クライトス、この度この学院に招かれた特別講師で、システィーナの
その一言に、俺もグレン先生も口をあんぐりと開け、そして....
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
二人で同時に驚きのあまり、素っ頓狂な叫び声を上げた。
ーーー
驚愕の宣言から少し日が経ち、今この教室ではレオ兄が教壇に立ち授業を進めている。
レオ兄がこの魔術学院に来たとき、周りはとにかく沸きに沸いた。それもそうだろう、レオ兄はそれほどの人物だ。
レオス=クライトス。貴族クライトス家の御曹司であり、クライトス魔術学院の名講師。さらに魔術総会の期待の新星なのだ。注目されないわけは無いだろう。
そして彼が行う授業は...
「すげぇな...」
俺はその講義を聞きながら、ただただ感心する他なかった。レオ兄が担当した授業は『軍用魔術概論』。軍用魔術を研究するその学問なのだが、それは普通学生が理解できる物ではない。
俺も知ってはいるけど説明できないというレベルなのだ。それなのに、それをレオ兄はあっさりと生徒全員に理解させた。
「レオス=クライトス...噂通りのすげぇやつだな」
「本当にすごい授業でした...」
俺の後ろの席に座っているグレン先生とルミ姉が感嘆の声を漏らした。
「お前も理解したか?」
「まぁあれだけ分かりやすく言われれば理解できますよ。今まで理解できなかったのがわからないぐらいですね...」
顔だけを後ろに向けてグレンへと言葉を返す。
「お前ならやっぱり理解できるだろうな...あと隣のバカをそろそろ起こせ」
俺はそこで右に視線を移す。そこには寝息をたてながら俺の肩にもたれ掛かっているリィエル。開始して数分で寝始めたため、俺は一時間ほどずっと同じ姿勢なので少し体が痛い。
「起きろリィエル、もう終わったぞ」
「んん...」
緩慢な動きでリィエルは現実に覚醒する。最近ずっとリィエルは俺のとなりで授業を受け、俺の肩に頭を置いて眠る。最初は戸惑ったが慣れとは恐ろしいもので、もうこれが普通になりつつある。
リィエルが俺から離れたのを確認すると、俺は表情を険しくしてグレンへと向き直った。
「でも先生、これ【ショック・ボルト】でも人を殺せるって事じゃないんですか?」
「やっぱお前なら気がつくか...そうだよ。お前の予想通りだ」
レオ兄の授業は確かに凄い、それは俺も納得だ。だがこの授業自体はあまり肯定できない。
レオ兄の授業はどれだけ効率よく魔術の威力を上げるかというところに重きを置いていた。それは言い換えれば、どれだけ楽に人を殺せるようにするかということだ。
そこをうまい具合に隠して説明するその姿勢に、俺は少し嫌悪を覚えてしまう。
「ま、だからといってそれに溺れる訳じゃないんすけどね。」
「そう言うなら、俺も安心だよ...」
ぼそりとグレンが呟いたが、それを俺は聞き逃さなかったが聞かない事にした。それを見るルミ姉もにこやかに笑みを浮かべていたけど
「というか白猫!お前いい男捕まえたよな!!」
「そうだシス姉!なんでレオ兄がシス姉の婚約者になってんの?そんな話しあったっけ?」
「違うって!あれはーー」
シス姉が何かをまくし立てるように話そうとした時、こちらにレオ兄が近づいてくる。
「やぁシスティーナ。僕の授業はどうだったかな?」
「レ、レオス...」
レオ兄がこちらに来たことで教室中の視線が二人に向く。シス姉は少し戸惑ったような様子だ。
「と、とても素晴らしい講義だったわ」
「それは良かった。将来の伴侶を納得させられない授業しか出来なければ、貴方の夫にふさわしく無いでしょう。ねぇシン君?」
「そこで俺に振られてもわからんとしか言えねぇよレオ兄」
いきなり話を降られたことに驚きながら、俺はレオ兄にそう返す。レオ兄は女子受けがよさそうな柔和な笑みを俺に向けていた。
「あなたもガールフレンドが出来たのであればわかるんじゃないかな?」
「いや違う、ホントに違うのレオ兄。お願いだから勘違いしないでくれよ...」
「そう照れずとも良いんだよシン君。」
「ホントに違うんだけどなぁ...」
もう憂鬱になってくる。いつになったらこの誤解はきちんと解けるのだろうか?
そしてレオ兄は柔らかな笑みを解き、真剣な表情でシス姉へと体を向ける。
「システィーナ、少し外に出ませんか?大事な話があります。」
「うぅ...それは今でないとダメなの?」
「今でなくても構いませんが、いずれ話さなければいけません」
「......」
シス姉は少し考えたあと、俺達の方を向き
「ごめん、私ちょっと行ってくるね」
そう言ってレオ兄とともに教室から出ていった。
「どうなると思います?」
「逆にお前はどうなってほしいんだよ」
「俺から言わせて貰うなら、シス姉の好きなようにってだけっすね。外野が何を言おうが決めるのは本人ですし、止めなきゃいけないような人じゃないでしょう?レオ兄は」
「それもそうだな...」
そこで俺もグレン先生も興味を無くした。そこで話は終わりになるはずだったが、
「先生、一つお願いがあるんですが...シン君も...」
「「ん?」」
どうやらまだ続きそうだ。
ーーー
学院内にある散策用の庭園、そこではシス姉とレオ兄が何かを話ながら歩いている。それだけ見ればなかなかに絵になる光景に見える。シス姉の中身を見ればそれも変わるだろうが...
と、何故それがわかるのかというと...
現在進行形で覗き見しているからだ。
「ルミ姉、さすがにこれはダメじゃないか?」
「あいつの恋路なんてどーでもいいんだけど...」
どこか悪いことをしているような背徳感に苛まれる俺と、隣でグチグチと文句を言うグレン先生、その隣でルミ姉とリィエルの四人で草むらに隠れて逢い引き現場を覗いている。
「ごめんなさい二人とも、変なことを頼んでしまって...」
「俺は別にいいけど、眠い...」
「俺、こういうのに興味ないんだよな~」
と二人同時にあくびをしながら俺達はシス姉達を見る。
そこでレオ兄が動いた。
「私と...結婚してください」
「言ったぁぁぁぁあ!プロポーズ!!シン、プロポーズってのはああやってやるんだぞ!!」
「おいこら俺はやってねぇって言ってんだろギャンブラー」
なんだかんだで興味津々じゃねぇか。ていうか流れで俺を弄るな!
「システィーナ顔真っ赤」
「照れてんだろ」
隣でいまいち状況がわかっていないリィエルに相槌だけをうち、目の前に集中する。はてさてなんて返答するのやら...
「ごめんなさい、私は貴方の申し出は受けられない。」
きっぱりとそう応えた。その声にはしっかりとした意志が込められているのが俺にもわかった。
「私はお祖父様が憧れたメルガリウスの天空城の謎を解くと誓ったの。そのためにまだまだ学ばなければいけないことがたくさんある。だからその誘いは受けられないわ」
その答えに、俺はふと笑みが浮かんだ。シス姉も夢があるのだ。そのシス姉の真意を知れたような気がしてどこか喜ばしかった。
もう終わりだろうと俺は判断し、そこから静かに離れようと...
「まだそんな夢物語を語っているんですか?」
レオ兄の言葉が耳に入った瞬間、俺の足が止まった。
「魔導考古学、あなたの目指すそれは無意味で不可能な物だ。それは貴女を幸せにはしない」
淡々と語る。そこに嘲りや馬鹿にするような意思はなく、ただ相手を思う気持ちが籠っている。
けれど、それはシス姉の夢を真っ向から否定するものだ。そして、それはまるで俺を嘲笑うかのように聞こえる。何度も聞いた、俺の夢を否定する声のように。
「私は、貴女の人生を無駄にしてほしくは無いのです」
黙れ、お前にシス姉の何がわかる。シス姉の夢へ向ける意志の強さの何がわかる。
「貴女には、女性としての幸せをきちんと掴んでほしいのです」
それはお前の押し付けだ。ただシス姉の夢を否定しているだけ。
レオ兄の言葉を聞くたびに、俺のなかに何かどす黒い物が積まれていく。それは今まで感じた事のない、重く醜い物。
「これは、貴女のためなんですよ?」
ダマレダマレダマレダマレダマレ。
うるさい、鬱陶しい。ならどうする。
ツブセバイイ
ツブス、レオスヲツブス
ソウスレバイイ
その三言が頭に何故か浮かぶ。それをすることが最善というかのように...何故かそれに対する疑問が浮かばない。それが正しいと、頭のどこかが語りかけてくるようだ。
俺はその考えのまま、二人のもとへと足を進めた。
シンシアsideout
ーーー
リィエルside
見ていて、あまり面白くない。何をしているのかいまいちわからないので見ていても仕方がないだろう。
ちょうどシンもどこかに行こうと立ち上がったので、私もそれに合わせて移動しようとシンのあとを追うと、何故かシンが立ち止まった。
「シン?」
話しかけるが反応はない。後ろのグレンもルミアもこちらを見ていないため気がついていないのだろう。少しおかしい...
「シン、どうしたの?」
そこでシンの肩に触れようとしたその時、
背筋に強烈な悪寒が走った。
「っ!?」
私は反射的に後ろに飛ぶ。いきなり動いたため、さすがにグレンがこちらに気づいて不審げに問いかける。
「どうした?なんかあったのか?」
グレンとルミアを見るが、どうやら二人は気がついていない。私だけが気がつけたのか?わからないけれど、ただ一つわかるのは...
(シン、なの?)
この強烈な圧が、シンから放たれているということだ。いつもシンが纏う優しげな物でも、戦闘の時とも違う、おぞましい気配。
私が立ちすくんでいると、シンはきびすを返してシスティーナ達のもとへと歩み出した。
「ちょ、おいおいシン!?」
「シン君?」
二人がシンを呼ぶが反応しない。そのまま歩き続け、システィーナとレオスの間に立ち、レオスへと向き直った。
「シン君?どうしたんだい?今システィーナと大事な話をしているからーー」
レオスが何かを話そうとした次の瞬間、
シンがレオスの首をつかんだ。
「「「「!?!?」」」」
全員が驚愕する。だがそのままシンは止まらない。首を掴んだままレオスを上に掲げるように上げる。必然的にレオスの首が締まっていく。
「あっ!?...がっ!?」
苦しげなうめき声をレオスがあげているが、シンはそれでもやめない。それはもう明らかにいつものシンではない。
「おいシン!!」
そこでグレンが飛び出していきシンの腕を掴んでレオスから離させる。レオスは肩で息をしながら地面で横になった。
「お前なにやってんだ!!危うく人を殺すところだったんだぞ!!」
「え?俺は...一体何を...」
シンの下に行くと、もうシンからはあのおぞましい気配はなくいつも通りのシンへと戻っていた。だが何をしたのかわかっていないのか、一人あたふたとしている。
「シン君レオス先生の首を掴んで締め上げてたんだよ!」
「へ!?俺が!!」
「記憶がないのか?」
グレンが不審げに見るが、シンはきょとんとした顔で見るだけだった。
「お前大丈夫か?なんかおかしいぞ」
「体は大丈夫です。ごめんレオ兄、俺ちょっとおかしかったみたいだわ...」
そういいながら、シンはレオスへと手を伸ばす。それはもういつも通りのシンそのものだった。
「え、えぇ。きっと疲れているんでしょう。保険室で休んでおいてはどうかな?」
「そうさせてもらう。ごめん皆」
そう言ってシンは一人、保険室へと歩いていく。
「先生、シンはなんで...」
「わかんねぇ、気の迷い、なのか...?」
システィーナが心配気にグレンに尋ねるが、グレンもわかっていないため曖昧な返事しか出来ない。
けれど、けれど私には、
あの一瞬だけ、あれはシンではない何かであると、本能的に理解した。
リィエルsideout
ーーー
シンシアside
「うっ...うぇぇぇ...」
近くのトイレで胃の中の物を吐き出しながら、俺は肩で息をする。
「なんで、なんであのとき...」
記憶がないと言ったのは嘘だ、自分が何をしたのかはきちんと理解していた。
「なんでレオ兄の首を絞めたとき、なんで、なんで...」
「『楽しい』って感じたんだよ!」
あの苦悶に歪む顔頭から離れない。それを見た時、何故か幸福感と充実感を味わった。それはまさに『楽しい』と思うときと同じように...
「ハハっ、なるほどな。変わり始めてるのか...」
人ではないなにかに。
あの時、牢の中で目を覚ました時に理解はした。あの血を飲んで生き延びていると言うことは、あれがレプリカであったのか、それかあの血が体に馴染んだのか。
前者であってほしいとどれだけ願った事かわからない。だがもう答えは出た。
俺は人間では無くなりつつある。それも着実に。
心のなかで蠢くこのどす黒い何かがきっとそうなのだろう。
ならば抵抗するまでだ。飲まれずに、俺が俺でいられるようにし続けるだけ。
「【マインド・アップ】...」
白魔【マインド・アップ】を発動し、強引に精神力を強化する。すると、心のそこにあったどす黒い何かが徐々に薄れていく。
「俺が選んだんだ。なら、俺が責任を負わないとな...」
壁に寄りかかり、一人ぼそりと呟く。
体はゆっくりと、だが確実に俺の体を蝕んでいく。それを絶対に周りに悟られてはいけない。俺一人で耐えるんだ。そうすれば誰も不幸にならない。
「抑えてみせるさ...」
俺のうちなる何かとの戦いが、始まった瞬間だった。