最後にその手が掴むもの   作:zhk

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二話連続投稿!!きついぜ...


始まる結婚式

シンシアside

 

シス姉の結婚報道は、瞬く間に学院中に広まっていった。その急すぎる展開に、誰もが一度は何かの間違いなのではと疑うが、本人がそう公言してしまっている以上、外野もそれをそうなのかと聞くしかない。

 

そして今は休み時間、俺から少し離れた所でシス姉にウェンディ達何人かの生徒が詰めよっていた。

 

どうやら何人かの生徒は、その不自然さに気がついたらしい。

 

一つ、親の同意がまだ得られていないのにも関わらず結婚が認められたこと。今親父と母さんは何かの事件を追っているため、1ヶ月ほど家を空けている。それに色んなところを転々としているためか、正確な場所もわからない状況だ。

 

二つ、シス姉のその笑顔は、どこか影が差しているように見えること。

 

(ったく...いったい何があったんだよ...)

 

何故ここまで話が急展開を見せたのか、それは遡ること魔導兵団戦の日の事だった━━

 

━━━

 

「は?おいシス姉、今なんて言った?」

 

「だから、私はレオスと結婚する」

 

三人しかいない大きな豪邸のリビングで、ホットココアに舌鼓をうっているときに、その話になった。グレン先生と仲直りをしに行ったとルミ姉から聞いていたため、シス姉のいきなりの告白に俺は驚きを隠せず、その場にいたルミ姉も目を白黒している。

 

「ちょ、ちょっと待て。シス姉は魔導考古学を目指すから結婚の話は断る、最初はそう言ってたよな?それがなんで...」

 

「うん、でもやっぱり結婚することにしたわ。やっぱり女性の幸せって家庭を持つことだと思うし━━」

 

「待ってよシスティ!」

 

さすがに黙っていられなかったのか、ルミ姉は珍しく声を荒げながらシス姉に食って掛かった。

 

そこからはもう泥仕合だった。ルミ姉や俺の話も、シス姉はレオスと結婚するという事で頑なにその姿勢を変えない。

 

けれど、途中からシス姉の表情が悲痛な物に変わっていくのを俺は見逃さなかった。それはどこか無理をしているような、なにか隠しているような仕草だった。

 

(まさか、レオ兄がなにかしたのか?)

 

俺のなかで一つの仮定が生まれる。グレン先生はろくでなしであれど、悪い人ではない。だから、今さっきシス姉とグレン先生との間になにかがあったとは考えにくい。ならば考えられるのは、その二人の間にレオ兄が介入したという考えだ。

 

(けどあのレオ兄だぞ?温厚で優しい、まるで本に出てくる姫を助ける王子を具現化したみたいなあの人が、シス姉になにかするとは考えられない...)

 

昔からの付き合いである俺にとって、レオ兄は憧れの存在だった。その人が、実の姉に危害を加えているなんて誰が考えるだろう。

 

「私の事は放っておいて!別にいいでしょ!?私はレオスが昔から好きなの!レオスのお嫁さんになることが、私の夢なんだから!!」

 

「システィ...」

 

「シス姉...」

 

文字だけを見れば、それは固い意思をもって言われた言葉だろう。だが、俺の目の前にいるシス姉は今にも泣きそうな顔をしながらこちらを見る。それが本意ではないなんて、何年も共に過ごしている兄弟が理解するのはいとも簡単だ。

 

「!先生...!!」

 

ルミ姉は何か思い付いたように家から出ていく。おそらく先生本人に話を聞きに行ったのだろう。リビングには、俺とシス姉の二人だけが残される。

 

「なぁシス姉、いったい何があったんだよ。少しぐらい話してくれたって...」

 

「なによ!隠し事があるのはシンの方でしょ!!」

 

「っ!?」

 

いきなりのシス姉の反撃に、俺は一歩後ずさる。そのままシス姉は話すのをやめない。

 

「リィエルから聞いたわよ、あなた魔導兵団戦の模擬戦の時も体調を崩したらしいじゃない。私からすれば、あなたの方が変よ!いきなりレオスの首を絞めるし、最近顔色も悪いし...人のことを聞く前にまず自分の事を話なさいよ!!」

 

そう俺にいい放ち、シス姉はリビングから出て自室へと戻ってしまった。リビングには先程までの喧騒が嘘のように、しんとした空気が広がっていた。

 

「確かに、俺が言える話でもないな...」

 

自嘲気味に笑いながら、俺は今自分がやろうしたことについて考える。それは、自分が否定した方法だ。それを自分はせずに、人には強要するとはなんと傲慢なのだろうか。

 

そしてルミ姉が帰ってくるまで、俺は一人で冷めきったココアがどこか心に染みるような気がした。

 

━━━

 

そんなひと悶着があったのは三日前。今週末に迫ったシス姉の結婚式までほとんど時間はない。

 

ルミ姉はグレン先生に何かを頼んだようだけれど、その肝心のグレン先生もあの約束の決闘の日以来、学院にすら姿を見せていない。

 

一度は俺がレオ兄に直に聞きに行くことも考えたが、恐らくあしらわれるのが落ちだろう。

 

(頼むグレン先生!シス姉を、システィーナを救ってくれ!!)

 

目の前で陰りのある笑みを浮かべる姉を見ながら、自分の非力さに悔しくなり手のひらを強く握る。

 

この状況では、俺に出来ることはなにもない。ただ戦うことしか脳のない俺では、今のシス姉の力になんてなれるはずもない。だからこそ、今は救世主(グレン)を待つしかないのだ。

 

(頼む...先生、シス姉を...)

 

俺はただ、我らが教師の帰還を待つのだった。

 

━━━

 

けれど俺の願いも儚く、結婚式の当日は無慈悲にやってくる。そこにグレン先生の姿はない。

 

「グレン、来なかった...」

 

「まだわかんねぇよ...まだ...」

 

「うん、今は先生を信じよ?」

 

結婚式が執り行われる教会の控え室で、俺とルミ姉、そしてリィエルは結婚式には向かない重い面持ちで話していた。

 

今シス姉は奥の着付け室で、ウェディングドレスに着替えている真っ最中だ。会場には既にクラスのみんなを含めたくさんの人が集まっている。もうすぐにでも結婚式は始まってしまうだろう。

 

(くそっ!先生はなにしてんだよ...もう式がはじまっちまう...)

 

落ち着かないように貧乏ゆすりをし、苦虫を潰したような顔をしながら俺は未だ来ない救世主に苛立ちを隠せない。

 

そこで着付け室の扉が開く。三人揃ってその方へと目を向けると、全員が息を飲んだ。

 

純白の鮮やかなドレスを身に纏うシス姉の姿は、まさに女性として一番輝いているように見えた。そういうことに関して、まったくと言っていいほどないに等しい知識でもそれがすごいものだと理解出来た。

 

いつもの説教臭さや幼さは見られず、そこには大人びだ淑女のような雰囲気を醸し出している。

 

「どう...かな」

 

「なんか、すごい...」

 

「...システィーナ、すごい綺麗」

 

リィエルと揃って語彙力の無さを露呈しながらそんな事を述べる。いやだって本当になにも浮かばなかったんですもん...

 

「ねぇシスティ、本当にこれでいいの?」

 

「いいの。心配しないで。私は貴女達のためなら...」

 

最後にシス姉が何かを呟いたように見えたが、それがなんなのかはわからなかった。

 

「それよりも!三人共もうすぐ式が始まるから、参列席に行っててよ!!」

 

そう言って俺達を部屋から追い出す。それはどう見たって空元気だ。

 

俺達になにも言わせないと言わんばかりに部屋を閉じるシス姉のその瞳は、涙で潤んでいるような気がした。

 

━━━

 

厳かな雰囲気の中、結婚式は進んでいく。中央の赤い絨毯のヴァージンロードを、シス姉とレオ兄が歩いていく。

 

そのシス姉の顔はヴェールで見えないが、暗い表情であるのは確かだった。

 

そのまま歩き続け、二人が聖堂奥の前にたつ。そして二人の前に居た神父が、ゆっくりと聖書を朗読していく。

 

(先生!頼むから早く!このままじゃ━━)

 

必死に心のなかで祈るが、無慈悲に聖書の朗読は進んでいき、遂に誓約の儀の時となる。

 

「レオス=クライトス。汝は愛を魂の闘争と理解し、それでも尚、神の導きによって今、システィーナ=フィーベルを妻とし、夫婦となる。汝、その健やかなる時も、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支え合い、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「誓います」

 

レオ兄さんが宣誓し、神父の視線がシス姉へと向く。

 

「システィーナ=フィーベル。汝は愛を魂の闘争と理解し、それでも尚、神の導きによって今、レオス=クライトスを夫とし、夫婦となる。汝、その健やかなる時も、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支え合い、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「...誓います」

 

少し間を空けて、シス姉は震える声でそう宣誓した。

 

そして神父が二人から視線を参列者へ向け問う。

 

「この式に参列するものに今一度、問い質さん。汝らはこの婚姻に讃するか?祝福せし者は沈黙を以てそれに答えよ...」

 

隣でリィエルが動こうとするのをどうにか制して、俺達は無言を貫き通す。教会に響くパイプオルガンの音は、まるで残りの時間をカウントダウンしているようで俺の心に焦りを持ってくる。

 

「今日という佳き日、大いなる主と、愛する隣人の立ち会いの下、今、此処に二人の誓約は為された。神の祝福があらんことを━━━」

 

誓約の儀が終わり、神父が締めの言葉を口にしようとしたその時、

 

「━━異議ありッ!」

 

扉を蹴破る音と共に待ちに待った声が、パイプオルガンの音をかきけすかのように響き渡った。

 

参列者達が一斉に扉の方へと見る。

 

そこには一人の男がいた。普段着崩している講師用ローブを今日はきっちりと着るのその男は、俺が、リィエルが、ルミ姉が待ちに待った救世主。

 

「異議あり!俺はこの結婚に大反対!!お前に白猫は渡さねーよ」

 

救世主、グレン=レーダスはレオ兄と相対しながらそう宣言したのだった。

 

シンシアsideout

 

━━━

 

「グレン!」

 

「たくっ...遅いぜ先生!!」

 

リィエルとシンシアが共に笑みをこぼし、ルミアが目を見開きながら驚き、そして信じていましたと小さく呟いた。それと同時にこの結婚式に参列していた二年次生二組の生徒達が口々と騒ぎ始める。

 

「てことで、レオス!白猫はもらってくわ」

 

「きゃあ!」

 

そう言いながらグレンは懐から何かを取り出すと、それを床に叩きつける。すると、猛烈な光が辺りを覆い視界を遮る。その隙にグレンはシスティーナを持ち上げ、そのまま出口へと駆け出していく。

 

「じゃあなー!花嫁はもらっていくぜぇぇ!!」

 

そんな捨て台詞を吐いて、グレンはすたこらと教会から出ていった。

 

会場は大パニックになり、グレンの行動を咎める者、グレンの行動を称える者等が入り交じり大混雑する。が、その喧騒は教会の中心から聞こえた甲高い金属音によって沈められる。

 

「なぁレオ兄、追わないのか?」

 

中心にいるのは、隠す爪(ハイドゥン・クロウ)によって錬成した刀を床に突き立て、レオスを睨むシンシアの姿があった。

 

「シス姉は大事な花嫁なんだろ?なら、どうしてそこで立ち尽くして動かないんだ?」

 

「......」

 

シンシアの問いかけに、レオスは反応しない。

 

「ふーん。なら、質問を変えるか...」

 

刀を引き抜き、刃をレオスに向けながら、シンシアは尋ねた。

 

「お前、誰だ?レオ兄じゃないだろ」

 

その一言に、静かだった会場が騒がしくなり始める。

 

「...くっくっく、やはり君が一番に気がつくと思っていたよ。シンシア=フィーベル。」

 

そこでレオスから飛ぶ声は、レオスの物ではない。そしてそれに驚く暇もなく、レオスの姿が変わっていく。リボンタイに手袋をつけ、フロックコートを羽織ったグレンと同い年ぐらいの青年。

 

切れ長の目に髪は灰色、色白い肌に、冷酷さを感じされるその美貌を持つその男はくつくつと笑いながら、シンシアを見た。

 

「やはり君は僕が見込んだ通りだ。」

 

「誰だお前、まず自分から名乗ったらどうだ?」

 

刀を向けたまま、シンシアは強い口調で話すが相手はそれに動じる素振りすら見せない。

 

「ああ、名乗るのを忘れていたよ。僕の名はジャスティス=ロゥファン。君と同じ、正義を目指すものだよ」

 

「正義、だと?」

 

ジャスティスが口にした言葉に、怪訝な顔をしながら尋ね返す。

 

「ここで深くは語れない、僕はすぐにでもグレンを追わなきゃならないんだ。それでは━━」

 

「逃がすと思ってんのかよ!!」

 

足に【フィジカル・ブースト】をかけ、数瞬の間にシンシアはジャスティスへと肉薄し刀を振るうが、それをジャスティスは意図も簡単に避ける。

 

「残念だけど、()君の相手はしていられない。だから君、いや君たちの相手は彼らにしてもらおうかな?」

 

不敵な笑みをジャスティスがシンシアに向けたその時、参列者が並ぶ席からうめき声が聞こえ始める。

 

そこには、シンシアのクラスメイト以外の参列者(全てレオスの関係者)が虚ろな目をしながら、土気色に顔を染める姿があった。

 

「なんだよ!?これ!!」

 

シンシアは目の前のあり得ない光景に、驚きを隠せない。なぜならさっきまで彼らはシンシア達と同じように話したりしていたはずなのだ。それなのに一瞬でゾンビのように慣れ果ててしまっている。

 

「それでは僕は行くとするよ。それじゃあ見せてもらうよ、君の正義をね...」

 

ジャスティスはそう言い、その場から立ち去っていった。それをシンシアはどうにか追おうとするが、それをゾンビ達が道を塞ぐように遮る。

 

「ちっ!!リィエル!みんなを一ヶ所に集めろ!」

 

「わかった!」

 

シンシアの的確な指示により、散り散りになっていたクラスメイト達を一ヶ所に集め守りやすくする。そして彼らを守るように、シンシアは刀を、リィエルは大剣を構える。ゾンビのような人々は、手にナイフや鋏、鉈などを手に握りながらじりじりとシンシア達へと近寄っていく。

 

「絶対守り切る!俺が、必ず!!」

 

シンシアのその叫びと共に、ゾンビ達とシンシア達の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

徐々に進む狂った運命という名の歯車は、その狂いを精算するために、歪んだ部分を現し始めていく。

 

その歪みが現れるまで、あと僅かだ。

 

 

 

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