最後にその手が掴むもの   作:zhk

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覚醒とは、必ずしもいいものとは限らない


崩壊する少年、暴走する龍

 

教会の中は混迷を極めていた。一角に固まる生徒達に向かって、肌を土気色に染めた人擬きが近づこうとするが、それを二つの剣閃が阻む。

 

一つは大胆に周りの敵を薙ぎ払う一撃、もう一つは無駄のない動きで敵を切り裂く華麗な一撃、リィエルとシンシアだ。

 

シンシアが前に出て戦い、シンシアを抜いた者をリィエルが次々に屠っていく。

 

「せりゃ!」

 

ヒュンという風を切る音と共に、接近する敵を切り払う。それと同時に切り口から輝くような鮮血が迸る。

 

一見シンシア達が優勢のように見えるが、シンシアの顔は優れない。むしろ苦痛に歪んでいるようにすら見える。

 

「【マインド・アップ】...」

 

小さく呟き、自分の精神力を強化する。すると心で響く声やどす黒い何かは少しだけ安らいだように感じる。だがそれは気休め程度であり、また敵に刀を振るえばそれらはシンシアへと襲いかかる。

 

(くそ!お願いだから持ってくれ!!)

 

既にここ数日で何度も何度も【マインド・アップ】を使用しているため、体がそれに慣れてしまい十全に効果が発揮できない。

 

そんな事相手が理解してくれるはずはなく、無慈悲にシンシアへと肉薄していく。

 

「ぐっ!」

 

さすがに捌ききれず、相手のナイフがシンシアの腕に突き刺さる。その拍子に、シンシアは刀を落としてしまうが、とっさに無傷のもう片方の手に魔力を込めて殴り飛ばす。

 

「シン君!」

 

「大丈夫!そこから動くなよルミ姉!」

 

心配げに声をかけたルミアに、シンシアはどうにか気さくに返す。

 

(あともうちょい...頼むから持ってくれ...)

 

頭にはガンガンと声が響き、胸のうちがどんどん黒く染まっていくのがわかるが敵の残りもあと少し。シンシアは再度両手に魔力を込め直した。

 

「来やがれ!全部俺がぶっ倒してやる!!」

 

仁王立ちのように構えながら、大声で叫び敵の注意をすべて自分へと向ける。するとシンシアの狙い通り残り四人となった人擬きはシンシア目掛けて、人の限界を越えた動きで近づいてくる。

 

シンシアは教会床を蹴り、自分から一番近い一体を殴る。相手の鼻が潰れたのか鈍い音がなり、自分の顔に血が飛ぶが気にしない。

 

次にシンシアへと鉈を振りかざそうとしている者の腕を蹴り、鉈を吹き飛ばす。そのまま怯んだ所を見逃さず、相手の襟を掴み他の動こうとしている三体目に投げつける。

 

身体強化の魔術である【フィジカル・ブースト】をかけた投げはよほど強烈だったのか、投げられた者とぶつかった者はその勢いのまま壁にぶつかり動かなくなる。

 

「《我・時の頸木より・解放されたし》━!」

 

最後の一体を仕留めるべく、シンシアは【タイム・アクセラレイト】を体に付与し一気に加速。そして拳を顔に叩きつけた。

 

すべての敵を倒したことによって、教会から騒がしさは無くなり、うってかわって閑散とした空気が漂った。

 

━━━

 

シンシアside

 

(間に合ったか...結構ギリギリだなこれ...)

 

手を膝につき、肩で息をしながら今の自分の現状にそう考えた。肉体的な疲労はないが、精神的にかなりきつい。さっきからずっと頭に囁くように声が聞こえるし、少しでも気を緩めれば飲まれそうだ。

 

「シン!」

 

「リィエル...みんな無事か?」

 

刺された所を押さえ、俺はみんなの元へと戻った。見たところ誰も怪我はしていなさそうだ。俺の次に一番敵と接触していたリィエルも無傷だし、大丈夫だろう。

 

「シン君その腕!」

 

「大丈夫だってルミ姉。こうしときゃ治るから」

 

手早くポケットからハンカチを取り出して傷の上から巻き付ける。これで少し安静にしておけば血は止まるだろう。

 

「ダメだよ!!今治癒魔術で━━」

 

「大丈夫大丈夫!!こんくらいなんて事ないって!!」

 

本音を言うと、最近【マインド・アップ】をかなり頻繁に使ってしまっているため、治癒魔術があまり効かない事を隠したいからなのだが、そんな事は奥目にも出さずに隠し通す。

 

ルミ姉は白魔術に関してはプロ並みの腕前だから、俺の違和感にもすぐ気づくだろう。それは絶対に避けなければいけない。

 

「さてと...これからどうする?」

 

俺が皆に問いかけるように聞くと、それに答えたのは以外にもギイブルだった。

 

「とりあえず軍の者に任せるしかないだろう。こんな奴等がフェジテに跋扈しているんだ。無理に動くのも危険だろう」

 

「それもそうだね。ならとりあえず入り口を閉めて━━━」

 

ルミ姉が何かを言おうとした瞬間、大きな音をたてながらこの教会のすべての扉と窓が次々に閉まり始める。

 

「な、なんなんですの!?」

 

「誰も触ってねぇのに勝手に!!」

 

「リィエル!」

 

「ん!」

 

口々にみんながその光景に対して何かを口にするなか、俺とリィエルはすぐにみんなを守るように前にたつ。

 

全身に緊張がめぐるが、特に何も起こらない。教会にはステンドグラスから灯るカラフルな光が差し込み、辺りを照らしている。

 

「どういう事だ?特に何も━━」

 

そこまで喋って俺はやっと辺りの違和感に気がついた。

 

「なんだあれ?粉?」

 

ステンドグラスから差し込み光に、何か粉末状の物体が宙を舞っている。最初はただのゴミかと思ったが、それにしては大きいような気がするし、この辺りはすべて石畳だから砂が入ったというのも考えにくい。

 

それが一体なんなのか、その答えを考えるよりも早く目の前の光景に変化が起きた。

 

先程までただ宙を舞っていただけの粉末は、いつしか一ヶ所に集まり何かを形どっていく。

 

それに、俺達は唖然とするしかなかった。

 

粉は徐々に人形を作り、ある一つの存在を作り上げた。

 

「め、女神...」

 

誰かがふとそう呟いたが、俺もまさにそうだと思った。

 

左手には黄金の剣を、右手には銀の吊り天秤を持ち、目元は目隠しがされている。大きさは俺の背の高さの三倍は下らない巨大さで、眩い輝きを放ちながら、俺達の前に女神は顕現した。

 

「おいおい...冗談が過ぎるぜ...」

 

全体像が把握できた時、俺はその姿に見覚えがあった。それはよくある聖画集の一片で、俺もさして興味もなかったが無駄にいい記憶力があれの正体を告げている。

 

「正義の女神...ユースティアだと!?」

 

これほどまでじぶんの記憶力のよさを恨んだことはない。そうでなければ少しは俺も絶望しなくてもよかったのだから。

 

ユースティアはゆっくりと黄金の剣を振り上げ、こちらに狙いを定めた。

 

「っ!!全員しゃがめ!!!」

 

直ぐ様俺は地面に手を触れ、大きな壁を作る。ユースティアはそのまま黄金の剣を振り下ろし━━

 

刹那、強すぎる衝撃と共に壁はあっさりと切り裂かれた。

 

「がぁ!!」

 

勢いのあまり俺達は四方八方に吹き飛ばされる。それは俺も等しく同じだが、唯一違うのはどうにか受け身ぐらいは取れた事だろうか。

 

(くそ!考えろシンシア=フィーベル!あれが女神な訳がないだろ!!ならあれはなんだ?その前に何があった?)

 

優雅に佇む女神を睨み付けるように見ながら、俺は足りない頭で必死に考える。そしてふと、一つの可能性が過った。

 

「まさか、人工精霊(タルパ)だってのか!?」

 

人工精霊(タルパ)とは、錬金術の奥義であり人工的に神や悪魔、精霊を生み出す秘術だ。錬金術で合成された特殊な薬品を使い自身をトランス状態に陥れる事によって、その存在があたかもそこにいるかのように暗示させ、周囲に事前に撒いておいた疑似霊素粒子(パラ・エテリオン)に自分が思い描いた存在を写し出して現出させるという超高難易度の術だ。

 

(なら疑似霊素粒子(パラ・エテリオン)はどっから用意した?あのジャスティスとか言うやつが撒くには時間がないはず...)

 

いや待て...あの粉に気がついたのはあの人擬きをほぼ倒し終えた後だった。てことは...

 

「あの人擬きに紛れ込ませてた物を、起動したってのか!?」

 

あり得ない。そこにどれだけの濃度で広がっているかによって成功するかどうかが大きく関わってくるのに、それをその場に居ずに、発動させたというのか?

 

こんなの...まるでそうなるのだと解っていないと出来る事じゃない。

 

ユースティアは今度は天秤を空に掲げるようにすると、天秤は何か怪しく光輝き始める。

 

「なんかやばそうだな!!」

 

もう一度瞬間錬成で、クラスメイト各々がいる場所に壁を作りどうにか防御は出来るようにし終わると、天秤は一際光を放ち...

 

閃光が全面に無差別に放たれた。

 

「きゃああああああああ!!!」

 

至るところから聞こえる悲鳴に破砕音。吹き荒れる風圧に俺は顔を遮ってしまう。

 

(レベルが...違いすぎる!!)

 

その圧倒的な力に、俺の心は折れかけていた。

 

重すぎる一撃。無差別に放たれる強烈な魔術攻撃。それに俺は完全に萎縮し動きが止まってしまう。

 

そんな俺に、ユースティアはゆっくりとその巨体を俺へと向ける。そして天秤を俺に向けて掲げ、天秤はまた怪しげな光を放ち始めた。

 

(だめだ...避けなきゃ...)

 

頭ではわかっているが、体が言うことを聞いてくれない。震える膝には力が入らず、一歩たりとも動くことが敵わない。

 

王国親衛隊と戦ったときにも、リィエルと対峙したときも、こんな震えは感じなかった。

 

俺はただただ恐怖している。目の前の、人ならざる存在に━━━

 

遂に光は最高潮に達し、目を痛める程の強烈な光が俺を射ぬかんと飛ぶ。

 

(あ...死んだ...)

 

瞬間的にわかってしまった。もう避けることは出来ないし、あの一撃を防御する術もない。俺はこの閃光に穿たれるのが目に見えてしまった。

 

そして閃光が俺の目の前まで来たとき...

 

何かが俺の前に現れ━━━━

 

ドンっという腹に響く振動と共に、俺は壁へと叩きつけられた。苦悶の声をあげ、床をのたうちまわる。教会は既に半壊状態になっており、いたる所に皹が入っている。

 

「い...生きてる...?」

 

何故かまだこの世から離れていない自分に困惑しながら、俺は立ち上がる。身体中の骨がきしむように痛むがそれよりも何故という考えが頭を占めた。

 

あれほどの一撃を食らえば、まともに立てるはずもないのに...

 

「あ...あぁ...」

 

そこで俺は目の前の惨状を見て、すべてを理解した。俺の視線の先には未だに俺を狙うユースティアと、

 

ボロボロの状態で横たわるリィエルの姿だった。

 

「リィエル!!!」

 

俺はすぐにリィエルのもとへ駆け寄り体を起こす。華奢な体には傷が大量についており、口からは血が流れている。それでもいつものように眠たげに彼女は目を開き、いつもは見せないような笑みを俺に向けた。

 

「よかっ...た。シンが...無事で...」

 

「なんで、なんでこんな事を!!」

 

あの一瞬俺の目の前に現れたのは、リィエルだったのだ。そしてリィエルは錬成した大剣と共に俺の盾になって、あの一撃をもろに食らったのだ。

 

「だって...シンが...いなくなるのは...嫌...だから」

 

「リィエル...」

 

「シンには...助けてもらった...だから...今度は私が助ける番...」

 

そしてリィエルはよろよろと立ち上がろうとするが、そのまま力なく俺によりかかるように倒れる。

 

「もう動くな!お前死ぬぞ!!」

 

「構わない...ルミアや...みんな...シンを守れるなら...」

 

リィエルのその言葉には、確固たる意志が込められているのがわかった。

 

俺は一体何をしているのだ?こんな少女が勇敢にも立ち向かっているのに、俺は恐怖のあまりただ木偶の坊のように動けなかった。

 

(あまりにも情けない!何が正義の魔法使いだ!!)

 

何がすべてを守る者だ。たった一人守れずに何を俺はほざいているんだ。

 

そしてリィエルを抱き抱えたまま、ユースティアへと睨む。

 

ユースティアはまたゆっくりと黄金の刃を俺とリィエルに向けながら、構えをとった。その凶刃はあと数瞬もすれば俺達に振りかかるだろう。

 

(倒す、あのデカブツを、俺が倒す!!!)

 

そうだ、何を恐怖する必要がある。

 

たかが女神の偽物ではないか。

 

人ならざるもの?ならば━━━

 

 

 

 

 

それは俺も同じ事だろう。

 

(壊す...潰す...ユースティアを...)

 

それを心のなかで言うに連れて、心がどす黒く染まっていくのがわかるが今はそれでいい。

 

(お前も龍の端くれだろうが。なら、俺に力を寄越せ!!)

 

すべてを受け入れる。心のすべてが黒に染まった瞬間...

 

ブチンと、俺のなかでなにかが切れる音がした。

 

 

 

シンシアsideout

 

━━━

 

ルミアside

 

女神のようななにかが、どんどんシン君へと近づいていく。私は痛むからだに鞭をうちどうにか立ち上がった。

 

「ルミア!?だめですわよ!!死ぬ気ですか!!」

 

「でも、このままじゃリィエルとシン君が!!」

 

ウェンディが私の手を取って止めに入るけど、このままじゃあ本当に二人が死んでしまう。あの黄金の剣の一撃が一体どれ程の物なのかは、さっき十分味わった。それがまた二人にぶつかれば、確実に無事ではすまない。

 

それにリィエルはシン君を庇ってあの光に当たってしまったのは私のいるところからも見えた。いくらリィエルと言っても無傷ではいられないはずだ。

 

「おいギイブル!お前どうにか出来ないのか!」

 

「無理だ!!あんなの、どうにか出来る訳がない!!あれは勝利の女神ユースティアを模した人工精霊(タルパ)だぞ?そんなの勝てるわけがない!!二人は運が悪かったとしか言いようがないんだよ!!」

 

ギイブル君の言葉に、全員が現実を見てしまった。もう二人は助けられないのだという事に。

 

そして遂に黄金の剣は最高点まで振り上げられ、

 

「...いや」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

無慈悲に振り下ろされた。

 

私の悲鳴はむなしく教会に響く事はなく、代わりに尋常じゃない風圧が私たちを襲う。

 

「そんな...」

 

「嘘だろ...」

 

ウェンディとカッシュ君が、息を飲むようにそんな事を呟き、私の頬には雫が流れた。

 

私の大事な友達が、家族が死んでしまった。

 

「シン君!!リィエル!!」

 

二人の名前を呼ぶが、返事は返ってこない。そして、狙いを返るようにユースティアはこちらを向こうと━━━

 

「待て。何かおかしいぞ?」

 

ギイブル君がそう言った。そして絶望から思考を現実に戻し、ユースティアを見ると何故か剣を振り下ろした状態から動かない。

 

私を含めた全員がその光景に見入っていた、その時。

 

ユースティアの頭上に、黒い稲妻が轟音と共に落ちた。

 

「きゃああああああああ!!」

 

「なんだよこれ!!」

 

轟雷はユースティアを穿ち、計り知れない威力によって地面が揺れ動く。それはユースティアの放った光とは比べる事すらおこがましい程の破壊力だった。

 

黒雷が止むと、すぐにユースティアは後ろに下がる。すると、瓦礫の山の頂点に、一人の青年が居るのが私の目に写った。

 

「シン君!!」

 

「無事だったのか!!」

 

ユースティアが後ろに下がったのをきっかけに、私達はシン君の元へと歩み出す。

 

だが、そこで私達は気がついた。どこかがおかしいと。

 

確かにシン君であるのは確かだ。だが、その手には傷だらけのリィエルが抱えられており、その目はじっとユースティアを睨んでいる。それに...

 

「シン君...なの?」

 

その纏う雰囲気は、レオス先生の首を締めた時と同じものだった。

 

シン君は私達に目もくれず、リィエルを片手で抱きもう片方の手をユースティアへと掲げる。そして...

 

「ツブス...」

 

短く、そう呟いた。その直後、彼のその手の周りに大きな黒い魔方陣が三つ現れる。

 

その魔方陣はゆっくりと回り始め、どんどんスピードをあげていく。

 

「なんだあれは...あんな魔方陣見たことない...」

 

ギイブル君は呆然としながらそう語る。だがシン君の手の周りを回る魔方陣はなお速度をあげつつ回り続ける。

 

そしてシン君は少し腕を後ろに下げ、そのまま勢いよく前に突き出した。すると、回転していた魔方陣がすべて前方に拡大拡散しながら重なる。そして━━

 

「《消し飛べ》━━!」

 

そう唱えると、大きな魔方陣から赤黒い巨大な光の衝撃波が放たれた。それは光を飲み込むような暗い黒の光。さっきユースティアに落ちた雷とほぼ同等、いやそれ以上の一撃がユースティアへと直撃する。

 

黒の光の奔流はユースティアを飲み込み、徐々にその形を壊していく。そしてその黒の一撃はユースティアを貫き教会に大きな穴を開け、空を切り裂いた。

 

赤黒い衝撃波が収まると、そこには中心を抉りとられたように宙に浮くユースティアが消えていく姿のみだった。

 

「......」

 

「......」

 

この場にいるクラスのみんなは総じて、今の光景に驚愕を示して何も言葉に出ない。

 

だけど、シン君はゆっくりと私に近づいてきた。そこで私はあることに気がついた。

 

私がいた場所からは顔の左側しか見えなかったから気がつかなかったが、シン君の顔の右側に黒い紋様が浮かびあがっていた。

 

「シン君それ━━!!」

 

「ルミア、リィエルの怪我が酷い。すぐ治療してくれ。頼む」

 

いつものような呼び方ではなく、真剣な話の時の呼び方に、私の体に緊張が走った。そして彼は私の話は聞く気がないとでも言いたげに、そう言いながら傷だらけのリィエルを私に預け踵を返す。

 

「待ってシン君!どこにいくの!!」

 

「これの犯人を潰しにいく。システィーナも先生もあいつに狙われてるから、俺が行かなきゃ」

 

シン君はボロボロになった入り口から外に出ていく。

 

「シン!!」

 

「シン君!!」

 

「シンさん!!」

 

みんなが彼の名を呼ぶが、ついぞ彼はそれに反応することはなくどこかに行ってしまった。

 

その彼の背中は、どこか哀しそうに私には見えた。

 

 

 

 

ルミアsideout

 

 

━━━

 

シ□□□side

 

長い長い回想を終える頃には、もうなん十体もの邪魔な白い何かを屠っていた。けれど、それらも思い出す度に、泡沫のようにわれて消えていく。

 

もともと頬にしかなかった黒の紋様も、今では顔の半分まで埋め尽くしている。

 

(あア...ナンでオれハ...アルいてるんだ?俺ノ...ナマエは...なんダっけナ?)

 

もう記憶も曖昧になってきた。何故回想なんてしてたかすら思い出せない。叫んで黒い稲妻を落とす度に、俺として何かを失っていく。もう何を失ったのか、何が残っているのかすら俺もわからない。

 

(そうだ...思い出した...コロスンダ...)

 

(誰ヲころスンダッケ...?まァイいヤ...)

 

もうおれの周りに白い何かは飛ばなくなっている。あれは鬱陶しいから嫌いだな...

 

その時、少し遠くで爆発音が響いた。

 

(もうスコしだ...モウスコしでツく。ソシタラ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテツブシテ尽くして。

 

コワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテコワシテ尽くして。

 

コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ尽くすんだ。

 

ああ...タノシミだ...)

 

俺は狂った笑みを浮かべながら、足早に爆心地へと進んで行った。

 

 

 

 

 

━━━━

 

グレンside

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

とある裏路地で、俺は右の二の腕の傷を左手で押さえながら建物の壁に座り込んでいた。隣で白猫が必死に治癒魔術を使っているが、本人も顔が青白く足元も於保ついていない。

 

「白猫...やっぱお前だけでも逃げろ...お前が戻ってきてくれた事だけで、俺は十分だ」

 

「嫌です!!先生は一緒に帰るんです!!こんなところで死なないでください!!」

 

白猫は涙を流しそう言うが、それは恐らく叶わないだろう。

 

最初はジャスティスとも白猫との協力によって戦うことが出来ていた。だが、ジャスティスが本気を出し始めた途端、俺達は手も足も出なくなった。

 

元々俺は魔導士としては三流だ。固有魔術(オリジナル)の『愚者の世界』と周到な準備があって俺はやっと格上と戦える事が出来る。

 

しかし今はもう使える手はほとんど使いきり、あるのは弾のない銃も、『愚者の世界』の魔術式が埋め込まれたタロットカードのみ。それに俺も白猫もろくに魔術を使えるほどマナも残っていない。

 

こんな状態では、二人仲良くジャスティスに殺されるのは明白だ。

 

「さて...グレン、僕達の宿命に決着をつけようじゃないか?」

 

ジャスティスはそう言いながら指をならすと、ジャスティスの周りに四体の人工精霊《タルパ》、【彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・銃刑】を呼び出した。

 

その四体はマスケット銃を構えており、それらの狙いはすべて俺へと向いていた。

 

「ジャスティス...俺を殺すのは構わねぇ...ただ一つ頼む。こいつは生かしてくれないか?」

 

「っ!?先生!!」

 

白猫が俺の体を揺するようにするが、俺は無視してジャスティスを見つめる。

 

「わかった。君の最後の願いだ、聞き入れよう。」

 

ジャスティスは指を少し動かすと、【彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・銃刑】の一体が白猫を俺から引き離す。

 

「やめて!離して!!先生!!」

 

「...ごめんな」

 

一言だけ謝って、俺は一度深く深呼吸した。

 

(悪いセラ...案外早くそっちに行くことになりそうだ...)

 

もうこの世にはいない少女に思いを更けながら、俺は覚悟を決めた。

 

「さぁこの時をどれだけ待ち焦がれたか!僕はここで、君を殺して真の正義を得る!!」

 

「せんせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

白猫の叫びのなか、【彼女の御使い《ハーズ・エンジェル》・銃刑】がゆっくり引き金を引こうとしたその時━━━

 

目の前で、三体の人工精霊(タルパ)が無惨にも黒い雷によって打ち砕かれた。

 

「は?」

 

「え?」

 

俺と白猫は、それに何が起きたのかわからない。そして俺達はほぼ同時に、その黒い稲妻が飛んできた方向を見た。

 

そこには....

 

 

「シン...なのか?」

 

顔の半分は真っ黒の紋様が埋め尽くしており、猟奇的な笑みを溢した、変わり果てたシンシア=フィーベルの姿がそこにはあった。

 

「ふふふふふふ...ははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

そして、シンの狂ったような笑い声が裏路地に響き渡った。俺はただ、それを呆然と見ながら恐怖するしかなかった。

 

 

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