とりあえずこれで5巻は終了です。
なかなか強引だと思いますが、私の文才ではこう終えるしか出来ませんでした。許して...
リィエルside
私が目を覚ました時、周りは真っ暗な空間だった。
なにもない、ただただ暗い場所。そこに私は一人佇んでいた。
「ここはどこ?」
私が漏らした声は、反響しながら小さくなっていく。けれど、その呟きに誰かが返してくれる事はなく、静寂が辺りを支配していた。
「グレン...システィーナ...ルミア...シン...みんな...」
たった一人という状況に、私はとても不安になる。また一人ぼっちになってしまったのではないか、また皆居なくなってしまうのではないかという恐怖が私に襲いかかる。
それに耐えきれず、私は走り出した。どこかに宛があるわけではないが、これ以上一人でいるのは嫌だった。
誰か、誰かいないか。
ひたすら走り続ける。タンタンと軽い私の足音だけが響く暗い空間は、どこまで走っても変わることはない。
目頭が熱くなり、頬を涙が伝う。
(嫌だ!もう一人は嫌だ!)
がむしゃらに走り続け、もうどれだけ走ったかわからないというところまで走った所で、遠くに人影が見えた。
「っ!!皆...」
そこにいるのはグレンやシスティーナ、そしてルミアなどの大切なクラスメイト達だ。彼らを視界に納めた時、心にあった不安がゆっくりと溶けていくのが私自身もよくわかった。
皆のもとへ走りより、もう一度皆の顔を見た。だが、何故か彼らの顔は優れない。
そこで私は、あることに気がついた。
「グレン、シンは...シンはどこ?」
ここにたった一人、シンだけがいないのだ。尋ねられたグレンも、重い面持ちのままなにも答えない。
「システィーナ、ルミア...シンはどこなの?」
尋ねる相手を変えたが、システィーナもルミアも顔を背けるだけでなにも答えない。
周りの皆にも目を向けるが、大抵が同じように目を背けるだけでなにも答えない。私にまた不安が押し寄せてくる。
そこで皆の後ろを見ると、そこには皆に背を向けるように奥へと歩いていく青年が一人いた。
「シン!!」
それが誰なのかはすぐにわかった。綺麗な銀髪に私や皆と同じ魔術学院の制服に身を包み、ゆったりとした歩みで前に進んでいく。私がいくらここから呼んでも、彼は反応すらせずにただ歩いていく。
「待って...待ってシン!」
追いかけるために走り出そうとするが、その時私の足に何かが絡み付く。見ると、それは地面から生えてきた腕だった。その腕は私の足をガッチリと掴んで離さない。
「邪魔!離れて!!」
どうにか払おうとするが、その力は強く一向に離してはくれない。シンはその間にも着々と進んでいき、徐々に彼の姿が小さくなっていく。
「待って...待ってよシン!お願いだから、どこかに行かないで!!」
そう言って呼び掛けると、彼はゆっくりとこちらに振り向いた。そして━━━
「ごめんな...」
辛そうな顔をしながら、シンはそう答えた。
━━━━
重かった瞼が徐々に上がり、私が今誰かにおぶられているのだと理解するのに少し時間が必要だった。
「リィエル!!よかった...無事で本当によかった...」
そこで私が起きた事に気がついたのか、私をおぶっていたルミアはこちらを見て涙を流した。
「ルミア...私は...」
「ちょっと気絶してたみたいなの。傷はとりあえず全部治療したけど、痛かったらすぐに言ってね!」
私はそこで辺りを見渡すと、クラスメイトの皆もどこかに走っている。後ろを見るとさっきまでその形を維持していた教会が、跡形もなく崩れていた。
「今グレン先生の所に向かってるから」
「グレンの?なんで?」
「さっきから街中は死体だらけで、警備隊も上手く機能していない。だからこの状況で最もいい判断が出来るであろう先生と合流するんだよ。」
私の問いにギイブルはぶっきらぼうに答えた。
(あれは夢...?でも、なんだか嫌な感じがする)
さっきまで見ていた物が全て夢だとわかっていても、何故か胸騒ぎがやまない。
私が心の中で不安に駆られている、その時だった。
轟音と共に、遠くの建物が崩れ落ちたのが見えた。その建物の周りは、どこか黒く放電しているように見える。
「また、もうなんですの一体...黒い雷は鳴るわ、竜巻は起こるわで。もう天変地異ですわよこんなの...」
「ホントだよな。訳わかんねぇよマジで...」
皆がそれぞれこの状況に愚痴の一つや二つを吐く。確かにこれはおかしな状況だ。グレンにあんな魔術は使えない筈だし、ジャティスもそうだ。
あまり深くは考えられないが、確かに変だ。
「あっ!先生!」
そこからさらに走った後、先頭を走っていた人がグレンを見つけたのか声を飛ばす。私もそこを見ようとするが、なにぶん小柄なので皆が邪魔で見えない。
そこでルミアが足を止め、息を飲んだのがわかった。
「ルミア?どうしたの?」
ルミアは答えずに、その先の光景を見ている。私はどうにか隙間からその光景を見た。
「...え?」
そして私の口から素っ頓狂な声が出た。そこには...
縄で縛られ身動きを封じられながら、連行されているシンの姿があったのだから。
リィエルsideout
━━━
シンシアside
「シン!!!!」
いきなり呼び掛けられた声に、俺は顔をそちらに向ける。
「リィエル!?それに皆も!なんでここに...」
「そんな事より、なんでシンが捕まってんだよ!!おかしいだろ!?」
カッシュが言うのも最もだ。皆は俺が竜の血を飲んだなんて知らないのだから。
「控えろ。この男は国家に反逆した大罪人だ。」
「大罪人...?シン君が...?」
ルミ姉が目を見張りながらこちらを見るが、俺はそれに答えられない。本当の事を言う事は出来ないのだ。元々俺が飲んでしまった竜を作る実験自体を宮廷魔導士団は揉み消したいようで、箝口令が敷かれたのだ。
俺のとなりにいるシス姉とグレン先生もこの場に皆がいることに驚いているのか、あんぐりと口を開けていた。
「この男は我々宮廷魔導士団が身柄を預かる。異論は認めん。この者を擁護するというならば、国家反逆罪と見なしてその者も捕らえるぞ?」
「無茶苦茶ですわ!シンさんが一体何をしたというんですか!?」
「それには答えられない。」
一辺倒な意見で貫き通そうとする宮廷魔導士団に、皆が反論していく。
「もうやめろ!」
その騒ぎを止めたのは、意外にもボロボロの状態のグレン先生だった。
「今は抵抗するなお前ら。それ以上すれば、本当に国家反逆罪が適応されちまう。」
「でもっ!!」
「ルミ姉」
ルミ姉が反論しようとするのを、俺が遮る。その時全員の視線が俺に集まったのがわかった。
「みんな、俺を擁護してくれるのは嬉しい。けどこれは俺が悪いんだ。それは変わらない。だからこうされるのが正しいんだよ。」
優しい口調で、俺はそう言う。それを皆が静かに聞き入っている。
「時間が惜しい。早く行くぞ」
「すみません、最後にもう少し皆と話させてくれませんか?これを最後にします。」
「...五分だけだぞ」
そう言って俺に付いていた魔導士は、席を外して路地から出ていった。
「というわけだ。皆に一言一言言ってる時間は無いから手短にいく。俺は絶対戻ってくるから、その時まで待っててくれ。絶対にまた皆と一緒に授業が受けたり出来るように帰ってくるから...」
俺が話始めるが、何人かは状況すら読み込めていないようで唖然としている。ルミ姉に関しては涙を流していた。
「グレン先生、皆を頼みます...」
「......すまねぇ」
「先生謝らないでくださいよ。これは俺が選んだ道なんですから。」
グレン先生の苦い顔で述べた謝罪の言葉にそう返し、俺は今度はシス姉に向き直る。
「こんな事になって悪いと思ってる。親父と母さんには、どうにか言っておいてくれ。」
「こんなの...こんなのおかしいわよ!!だって━━」
「シス姉。それは言っても今は意味がない。」
次にルミ姉の方を向く。
「ルミ姉、リィエルの事頼むな。」
「シン君...」
何か言いたげな様子だったが、ルミ姉はそれを飲み込んで押し黙った。
「リィエル...」
この中で最も衝撃を受けているであろう少女の名を呼ぶ。リィエルはルミ姉の背中で呆然としながらこちらを見ていた。
「ごめんな。側に居られなくなった。」
「あ...」
「でも...」
そしてリィエルの頭に俺は手をのせて、その頭を優しく撫でた。
「絶対戻ってくるから。約束だ」
彼女に対する罪悪感がやっぱり拭えない。あれだけ強く一緒に居ると言ったのに、それをこんなに早く破ってしまうことになってしまった。
「行かないで...行かないでシン...」
涙を流しながらそう言うリィエルを見るたびに、胸がきつく苦しめられる。けれど、もう行かないといけない。
「じゃ、
それだけ告げて、俺は皆に背中を向ける。まだ言いたいことは山のようにあるけど、そんな時間は無い。
後悔はない。してはならない。これは俺が選んだ選択なのだから。だから、後悔するのは筋違いだ。
後ろで皆が俺に言葉を投げ掛けるが、俺は振り返らずに俺を待つ魔導士のもとに歩んでいく。
「もういいのか?まだ少しだけなら時間はあるぞ」
「大丈夫です」
「そうか...ならば来い」
そのまま無言で、俺はその男へと付いていくのだった。
それが今生の別れになるかもしれないと、した約束が守れる保証なんて無いに等しいのだと、心の奥底で理解しながら。
シンシアsideout
━━━
リィエルside
行ってしまった。止められなかった。
もうシンの姿は見えない。周りではグレンが悔しそうに壁を殴り付け、システィーナはせせり泣き、クラスの皆は驚きのあまり言葉も出ないようだ。
私に居場所をくれた人。優しく、強い芯を持っていて、崖っぷちで落ちそうになった私の手をとって、救いあげてくれた人。
一緒に居てくれると、どんな時も側に居るといってくれた人は、私から離れていってしまった。
「嘘つき...」
ぼそりと私の口から無意識に言葉が出た。留めていた想いが、その言葉をきっかけに溢れでてくる。
「ずっと一緒に居てくれるって言ったのに!なんで!なんで!!シンの嘘つき!!!」
「リィエル...」
「なんでシンが捕まらなきゃいけないの?シンは何にも悪いことはしてないのに!!うぅ...」
ポロポロと涙が流れる。
「シン...シン!!うわぁぁぁぁぁん!!」
救ってくれてありがとうとか、まだシンに伝えてないことはたくさんある。けれど、それは伝えられずに終わってしまった。
難しい事はよく分からない。けど、シンがもう戻ってこれないと思っているのは、少し話してなんとなくわかってしまった。
きっと、もう彼と会うことは出来ないのだろう。
それが、何よりも辛かった。その事実が私の胸に突き刺り、抉るように痛めつけてくる。
その事実を前に、私は泣き叫ぶしか出来なかった。