そしてシンシアが学校に通う理由とは?
さて第3話スタート!!
放課後の学校の屋上で、柵によりかかりながらグレンはボケーっと辺りを見ていた。
システィーナの一件以来今日は教室には顔を出していない。
「あーあ、俺もガキだな-。あんな言葉に噛みつくとは...」
グレンは頭をかきながら一人そんな事を呟く。しかし、グレンは食い下がるしかなかったのだ。システィーナは魔術の裏を知らなさすぎる。それに彼女はその黒い一面から、目を背けている。それがグレンには許せなかったのだ。
「まぁこのままクビが妥当だろうな。セリカには悪いけど、土下座すれば許してくれるだろう...」
そう言ってグレンは屋上から降りようと後ろを振り向いて階段へと向かおうとするが、途中で足を止める。
「おい、怒んねぇから出てこい。そこにいるんだろ?」
そう言ってグレンは階段の方へと語りかける。そうすると、階段の影からスラッと人影が現れる。
「いやーすみません。立ち聞きするつもりはなかったんすよ?少しグレン先生を探していたらここにいるのを見つけてきただけっすよ。」
そう明るい声で話しかけてきたのは、深い緑の瞳に銀髪の少年だった。
「お前か。えっと名前は...」
「シンシア。シンシア=フィーベルっす。呼び方はシンでいいっすよ」
シンシアはそう笑顔で話す。
「それで?ろくでなしの俺に何のようだ?姉貴を泣かせた事を怒りに来たのか?」
グレンはまだ生徒全員の名前は覚えていなくとも、今日泣かせた相手の弟が目の前のシンシアであることぐらいは知っていた。
「いえいえ。むしろシス姉にはいい薬になったんじゃないっすか?シス姉は少し魔術を神聖視しすぎるような喜来があるんで、そういう自分が見たくないとこは蓋してるんでしょう...」
グレンは少し目を見張る。グレン自身、シンシアの事はただの馬鹿なお坊っちゃまぐらいにしか考えていなかったので、シンシアからかなりまともな事を言われたため、少し驚いたのだ。
「じゃあ何のようなんだよ?」
「一つ、尋ねたい事があるんす。」
「尋ねたいこと?」
グレンは怪訝そうに聞き返す。しかし、シンシアは依然ニコニコとした笑みを壊さない。
「はい。先生ーーー」
「あんたいつまで道化を演じるんだ?」
シンシアは笑みを消し、真剣な表情を見せてそう聞く。
確信を突いた質問に意表を突かれたからなのか、グレンの注意が一瞬違う方向へと向く。
その瞬間、シンシアがグレンの視界から消える。
「なっ!?」
グレンは直ぐ様臨戦体制をとるが、シンシアの方がワンテンポ早い。
シンシアは既に、グレンの懐に潜り混んでいた。
「セイッ!」
その掛け声と共に、シンシアはグレンの鳩尾へとナックルを叩き込もうとするが、グレンはそれを片手で防御し、その勢いを利用して後ろに飛ぶ。
「あぶねぇ!お前何すんだよ!!」
グレンは完全にシンシアを敵視しながら、再度臨戦体制をとった。が、シンシアにはもうその気が無いのか先程までの柔らかな雰囲気へと戻っていた。
「やっぱりただ者じゃなかった。これは後でシス姉に自慢できるな!」
何故かガッツポーズをするシンシアを見て、グレンは自分がシンシアを敵視するのが馬鹿らしくなり、ファイティングポーズを解く。
「今のは...
「ご名答!さすがはグレン先生、このぐらいならわかるか」
自身の拳や足に魔力をのせて、インパクトの瞬間相手の体内で直接その魔力を爆発させるという異色の近接戦闘術。ほとんど使うものはおらず、さらに学生というくくりになればその人数はゼロに近いはずだった。
しかし、シンシアがグレンに行った物はまさにそれであり、それもかなり威力を調整されていた物だった。そこまで緻密な魔力操作ができる人物はグレンは今まで見たことがなかった。
「まさか学生でこれを使うやつがいるとはな...正直俺お前の事なめてたわ。」
「これで少し印象が変わればいいんですけどね。さて、本題に入るんですが、どうして今の攻撃が対処出来たのに、シス姉の【ショック・ボルト】に反応しなかったんですか?」
シンシアの言うことはもっともだった。普通なら、いつどこから、どのように攻撃されるかわからない近接戦の方が、来るとわかっている魔術に対処するよりも格段に難しいはずだ。
だがグレンはこの攻撃に対処して見せたにも関わらず、システィーナとの決闘では何もせずにされるがままだった。
「お前...そんな事を確認するためにわざわざ殴りに来たのか?」
「?はい。」
まるでさも当然といった感じに、シンシアは大きくうなずいた。その反応にグレンは頭が痛くなってくる。
「あのなぁ、それは俺だからどうにかなっただろうが、他の人じゃそのまま殴られて吹っ飛ばされるぞ?」
「ま、その時はその時です。気合いか根性あれば殴られた方も大丈夫でしょう。」
「根性論の話じゃねぇんだよ!?」
まさに脳筋思考のシンシアにグレンが勢いよく突っ込む。
(あの姉貴がいるのにこの弟なのか...まさに真逆だな)
システィーナは真面目を体現したような人だが、比べてシンシアはまさに脊髄反射で生きてるような人だ。
(きっとこいつは思い付いたらその場ですぐに行動するタイプだ。後先考えずに...)
「確かにあのシスティーナ?の魔術には確かに反応出来た。だが俺としても?さすがに大人げないかな~と思ってな!手を抜いてやったんだよ。」
「嘘っすね」
それをシンシアはあっさりと嘘だと見破る。
「はぁ?根拠はあんのか?」
「いえ、勘です。」
シンシアは自分の頭を指でツンツンとつきながら応える。
(こ、こいつ...あいつに似てて怖いな...)
グレンは青髪の大剣をブンブン振り回す、自分の元同僚とシンシアを重ねがらそう感じる。
破天荒な所なんてもはやそっくりだ。
「まあ何故真剣にやらないかは別に聞かないっすよ。人には聞かれたくないことの一つや二つはあるらしいので。」
「へー。お前もそんな気遣いが出来るんだな...」
「家でシス姉達の体重聞いた時に、殴られながら教えられたっす」
「そ、そうか...」
(一瞬でも、こいつ意外とまともじゃね?と思った自分がバカだった!!)
グレンは自分の中でシンシア=フィーベルという人物がコロコロと変わっていくのがよくわかった。
「ただ、シス姉だけじゃない。ルミ姉も他のみんなもここには魔術を学びに来てるんスよ。確かに魔術は人を簡単に殺せる物っすよ、それは俺も
シンシアは屋上の柵に腰をかけながらそう話す。
「だから、グレン先生が百パー合ってるとは言えないし、シス姉が百パー合ってるとも言えないっす。両方の側面があるのが魔術なんじゃないっすか?
夕日に当たりながら話すシンシアの顔は赤く光っていた。
「なぁ、お前は何のために魔術を学ぶんだ?」
グレンがシンシアの横に立ちながら尋ねる。
「俺っすか?そんな大層な事じゃないっすよ?」
「いいんだよ。生徒の事を知っとくのは教師の役目だ。」
「うわっ。こういう時だけ教師ずらっすか?」
少し小バカにするようにシンシアが返す。が、シンシアはすぐに真剣な表情へと変わった。
「まぁ、少し恥ずかしいんすけど...」
「お?なんだ?ここに好きな人がいるから入ったのか?」
「残ねーん!俺は恋愛に関してはかなり疎いしそこまで興味も無いっす!」
「んだよ面白くねぇな...」
グレンが残念そうに項垂れる。
「誰にも言わないってんなら言いますけど?」
「言わねーよ。そんな事吹聴して何になんだよ。」
「まぁそれもそうっすね。」
はははと笑いながら、シンシアは静かに話し始めた。
「正義の魔法使いになりたいんすよ。」
「ッ!?」
その一言に、グレンの体に緊張が走る。
「絵本に出てくるような、正義の魔術師。悪をよしとせず、正義を体現する。そんな物に俺は憧れたんすよ。そんなガキみたいな理由で、俺はここにいる。」
グレンは強張った顔でシンシアを見ていた。だがシンシアの顔は真剣そのものだった。
「正義の魔法使いなんていねぇよ」
だからこそ止めなければならない。自分の二の舞を生まないために。
「あるのは悲痛な現実だけだ。それを願う者に甘い液だけを吸わせて地獄をみせる。それが現実だ。正義なんてものはこの世には存在しねぇんだよ。だから、お前もそんなふざけた事抜かしてないで、もっとまともなものを目指せよ」
その道だけは進んでは行けない。自分の生徒から、あの地獄を見せることだけは、グレンは許せなかった。
「そうっすよね。普通ならその反応だと思います。」
しかしシンシアはその反応を予想していたかのように落ち着いた物だった。
「でもよ先生、憧れちまったんすよ。この憧れは、そう簡単に潰えるもんじゃねぇんですよ」
「それが、自分の身を滅ぼすとしてもか?」
そこでグレンは、今まで見せた事の無いような真剣な顔つきになる。それに伴い、シンシアの表情も厳しくなる。
「誰かの味方になるってことは、誰かと敵対するって事だ。自分が語る正義は自分でしか証明できねぇし、それが本当に正しい事なのかすら自分でもわからねぇ。その思想はきっと、自分自身を食い尽くすぞ」
それはシンシアには、グレンが自分の体験から基づいた事を話しているように感じた。それを経験したからこそ放てるオーラのような物を纏っているのが、シンシアにはわかった。
「それが自分の身を滅ぼすとしても、俺はその道を進み続けるっすよ。」
シンシアにはそれを変えるつもりはもとよりなかった。その道がどんな茨道であろうと、シンシアは誰かのためにはその力を使う覚悟がある。
「はぁ...筋金入りだな...」
「よく言われます。」
「何がお前をそこまで突き進ませる?確かお前は実技の成績はあんま良くないんじゃなかったか?」
「おりょ?よくご存知で」
「その程度ならセリカから聞いた。」
「教授に名前を覚えてもらえてるとか、光栄っすね!」
シンシアはサムズアップをグレンに見せながら、笑顔をみせる。だがグレンからすれば不思議で仕方ないのだ。
シンシアはほとんどの魔法を使う事ができない。それは先天的なもので、後からどうにかなるわけではない。おおよそ魔力調整の能力にはかなり長けているのだろうが
、それは魔術を使えて初めて機能する才能だ。
「まぁ俺自身全部魔法が使えないってわけじゃ無いっすよ?錬金術なら少しだけなら使えるし、【フィジカル・ブースト】ぐらいなら安定して発動できます。まぁそれでも実技は赤点なんすけどね...」
またシンシアが笑うが、それは明るいものではなく、どこか自嘲気味な笑みだった。
「だけど俺としては、誰かが泣いてるのを見るのは我慢ならないんすわ!」
そう言うとシンシアは柵から飛び降り、屋上の床へと足をつける。その動きには淀みはなく、鍛えていることを証明するかのような動きだった。
「魔法がロクに使えなくても、俺には
「大事なもん?」
グレンは怪訝そうに尋ねると、シンシアは今日一番の笑顔を向けながら自分の胸を指で指した。
「気合いっすよ気合い!俺の最高にして!最強の武器!不屈の闘志って奴っす!」
そう言うシンシアの姿は、夕日の後光によってとても輝いて見えた。グレンはその姿が昔の自分と重なり、自分の昔の忌々しい願いを思い出してしまう。
(ああくそ。なんでこういう奴が俺のクラスにいるんだよ
。まるで昔の俺の鏡写しじゃねぇか...)
「それじゃ俺はそろそろ帰りますわ。帰ってシス姉を宥めないといけないんで」
そう言うと、シンシアは階段の影へと消えていった。屋上にはコツコツと階段を下る音が少しだけ響いたが、それも少しの間だけで、すぐにグレンの周りを静寂が支配していた。
「ああ、やっぱやめようかな。あいつを見てると昔を思い出しちまうしな...ん?」
また一人でぶつぶつとグレンは文句を垂れ始めると、ある教室に人影が見えた。
「何やってんだ?」
グレンはそこで遠見の魔術を使ってその光景を見る。そこにはルミアが一人で実験室を使っていた。
「ばーか。そんなんで上手くいくかよ。」
しかしそのできはあまり良くなく、グレンからのダメ出しが入るが、この距離では彼女に聞こえるはずもなかった。
「しゃーねーな。やめる前に、少しだけ見てやるか。」
そう言ってグレンは屋上を後にした。
この直後、グレンのその辞めるという決意を崩されるなんて、この時グレンは思いもしていなかった。
ーーー
翌日
相も変わらず、今日も全ての生徒が一日を自主につぎ込む予定の筈だった。しかし、そんな予想は朝一番から叩き崩される事になった。
「昨日はすまなかった」
朝の授業一発目で、なんとグレンがシスティーナに謝罪したのだ。その光景に、クラスメイト達は唖然とするしかなかった。シンシアとルミアを除いて。
「ふふふ。グレン先生もやっと素直になったね」
「だな。全く、今日は遂に先生の化けの皮が剥がれるかな?」
隣にはシスティーナがいるのにも関わらずシンシアとルミアがこんな会話をするのは、システィーナが先生のこの行動に大きな衝撃を受けて硬直しているため、二人の声なんて聞こえていないのだろう。
「じゃ、授業を始める。」
そう言ってグレンは教科書を手にとってページをめくっていくが、何か飽きたのか教科書を閉じて、近くの窓を開ける。
「そぉい!」
そしてグレンは勢いよく教科書を投げ捨てた。その奇行にクラス中から失望の意味を込めたため息がとんだ。
「さてと、授業を始める前にお前らに言っておくことがある。」
いつもならそのままグダグダと授業を始めるのだが、今日のグレンは一味違った。そしてグレンは一呼吸をおいてーー
「お前らって本当にバカだよな」
唐突に暴言を吐き出したのだ。
「昨日までの十一日間お前たちを見てきた訳だが、お前らって魔術のことなんもわかってねぇんだな?」
「【ショック・ボルト】程度も一節詠唱できない三流魔術師に言われたくないね」
その声を引き金に、クラスのあちらこちらから笑い声が聞こえる。ルミアはそれを少し嫌そうに、シンシアはこれからおこることにわくわくした顔つきでそれを見ていた。
「ほう?【ショック・ボルト】程度ねぇ。じゃあそう言ったお前に質問だ。この魔術の詠唱は《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》で機能する。ならば、」
そう言うとグレンは黒板にすらすらと文字を書いていく。それは先程説明した【ショック・ボルト】の詠唱だが、ある部分が違った。
「このように、《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》という風に三節の詠唱を四節に区切れば、魔法はどのように発動されるでしょう?」
グレンを嘲笑うかのようにバカにしたメガネの男子生徒にグレンは質問する。その男子生徒はメガネをかきあげながら答えた。
「そんなものはまともに起動しません。何らかの形で失敗しますね」
「はぁ?そんなの当たり前だ。俺が聞いてるのは、それがどういう風に失敗するかって聞いてんだよ。」
「なーー」
この問いにはさすがにメガネの男子生徒、ギイブルも予想外だったのか、何も答えられなくなる。
「何が起きるかなんてわかりませんわ!そんなのランダムに決まってます!」
そこでツインテールの少女、ウェンディがそれに反論する。
「ランダム!?お前らこの術式極めたんじゃねぇのかよ!!もういいや、答えはーーー」
「右に曲がるだ。」
そう言ってグレンは呪文を黒板に向けて唱えると、雷閃は黒板に当たる直前に右に曲がっていった。
「極めたって言うならこれぐらいやってくれないとなぁ。という訳で、今日は初歩の初歩、【ショック・ボルト】について教えてやる。興味が無い奴は寝てな。」
そう言うが、この教室にいる者達の目は眠気など感じさせなかった
「面白くなってきた!!」
その光景を見たシンシアは、おもちゃを与えられた子供のような目をしながら、前のめりに授業を聞く体制を取っていた。
ロクでなしの本気の授業が、いまここに始まったのだ。
次回はもっと戦闘シーンが増えるぜ!!
では次回をお楽しみに!!