眠いぜ...
こんなに書いたのは初めてです。指が死にそう...
その後リィエルはいつもの調子を取り戻し、遺跡調査は順調に進んでいった。途中、グレンの夕食がリィエルに食べられたりグレンが何の間違いか女子と風呂で鉢合わせになるなどアクシデントはあったが、調査自体は順調そのものだった。
そしてついに、彼らは遺跡の最深部である大
「すごい...これ一体どうなってるのかな...?」
ルミアが感嘆の声とともに視線を向けるのは、半球状の大部屋の中心に鎮座する巨大な魔導装置だった。それはまるで天秤のような作りで、両端には大きな結晶があり、魔導装置を覆うように黒い石板のモノリスが立っている。
「これは確か
ルミアの一言に反応するように、システィーナが目を爛々と輝かせて話始める。
ここアルザーノ帝国があった場所には、もともと超魔法文明があったとされている。その名残として、『タウムの天文神殿』のような遺跡が帝国内には五万とある。
なぜ超魔術ではなく、超魔法なのか。それは魔法と魔術が根本的にまったく違うものだからである。
魔術とは今現在、人間が行使できる理論上説明がつくものの事を指す。だが魔法は、簡単に言えば不思議な力全般だ。その古代の魔法を
魔法は現代では説明がつかないが、それは古代の時代では今の魔術のように簡単に使われていたのである。その魔法によって作られ、今もそれの説明が出来ない物の事を、
「今先生が弄ってくれてるから、もう少しでこの装置で星空が見れるはずよ。それよりも...」
そこで明るい表情からどこか納得しない表情に変化したシスティーナは、ジト目でグレンの方を見る。
グレンの横にはセリカがベッタリとくっついている。そこで行われるにこやかな掛け合いに、システィーナは少し不機嫌になっていた。
「先生はわかってるのかしら?今は遺跡の調査というとても重要な事をしているのに、アルフォネア教授に鼻の下を伸ばして!大体━━━」
ああだこうだと文句をつけるシスティーナを、ルミアは苦笑気味に見守る。ルミアはシスティーナがセリカとグレンが仲良くしているのに嫉妬しているのだとわかっているが、あえてそこは言わない。ただ、素直じゃないなぁと心のそこで思うのみである。
「うし!やっと出来たわ...起動するぞお前ら」
だが二人の考えは、グレンの気だるげな声とともに書き消された。辺りは一気に暗くなり、魔導装置が動き始める。そして━━━
「わぁっ!!」
「すげぇ~!!」
「綺麗ですわね!!」
真っ暗な屋根に、まるで宝石をちりばめたかのような星明かりに生徒達全員が息をのみ感声をあげた。それはグレンも同じことだった。
そんな光景を生徒の中で見ていたリィエルも、いつもの無表情ではなく驚きがその顔に見てとれた。
(凄い...凄くきれい...)
いつもは星空なんて特に気にしてもいないが、今度から見てみようかとリィエルは内心思うほどその光景は圧巻の一言に尽きた。
(シンにも見てもらいたかったな...)
ふと思うのはここに居ないシンシアの事、少しは吹っ切れたといってもまだ心にしこりは残っている。けれど、今はやるべき事がリィエルにはある。
(また来て見れるように、私が皆を守る)
そうまた心のなかで決心し、リィエルは手に力を込めたのだった。
「さあさあさっさと調査を始めんぞ。これはまた後でいくらでも見れるから、今はこっちに集中しろ」
グレンはそう告げながら魔導装置を止める。クラカッタ周りは明るくなり、それにともない生徒からブーイング飛ぶがグレンは気にも止めた様子はなかった。
各々が動き出すのに合わせ、リィエルは自分の仕事へと移り出す。
「リィエル!お互い頑張ろう!」
「ん。ルミアとシスティーナも頑張って」
ルミアからかけられた声にそう返し、リィエルはその場を離れていった。
そして彼女がそこに戻ってきたとき、和やかな雰囲気などはなくなっているなど、リィエルは微塵も予想はしていなかった。
━━━
グレンの予想を遥かに越える緊急事態に、調査隊一向は一時的に野営場へと戻っていた。
その緊急事態とは、本当に突然起きた。一通りの調査を終えて戻ろうとしたとき、いきなり
そして両端の水晶体がある一部を照らしたかと思うと、そこに三次元的な扉が出現したのだ。それは明らかに、空間同士をつなぐワープゲートそのものだった。
新たな発見に沸く生徒達の中グレンは呆然としていると、そこでセリカが奇妙な行動に出たのだ。何か意味不明な事を口にしたかと思うと、グレンやシスティーナの制止も聞かずに扉へと進んでいき━━━
そのまま開いた空間の先へと行ってしまったのだ。
そして話は巻き戻り現在、グレンの天幕にはあの時
「あの時、お前らは一体何をしたんだ?」
グレンのその質問を皮切りに、システィーナとルミアはポツリポツリと話始めた。
セリカの調査によってなにも見つからなかった結果に納得がいかなかったシスティーナは、隠れてルミアの異能である『感応増幅能力』を借りて黒魔【ファンクション・アナライズ】によって
ルミアの能力によって魔力を大きく増幅させ魔術を強化すれば、生徒のかでも見つけられなかった物が見つけられるかもしれないという軽い気持ちから始まったこの行い。だが、そこでシスティーナは見つけてしまったのだ。この装置の本性を。
システィーナが見たのは装置の裏にある得体の知れない術式だった。それにシスティーナは動揺してしまい、つい操作モノリスに触れてしまったのだ。
この結果が、扉を発現させる引き金となってしまったのだ。
「ごめんなさい先生!私が勝手にあんな事をしたから...!」
「先生!システィのせいじゃありません、私が無闇に力を使ったから...」
二人はそれぞれ反省と後悔の念を顔に浮かべながらグレンに謝る。だがグレンはそこを気にしてはいなかった。
「別にお前らは悪くねぇ。元々俺達は遺跡の謎を解きに来たんだ。あれを見つけた事はなにも悪いことじゃない。それよりも、問題はセリカだ。」
明らかに様子がおかしかったセリカに、グレンは嫌な予感が絶えない。このままでは取り返しのつかない事になりそうな、そんな予感が。
「俺は今からセリカを連れ戻しに行ってくる。白猫とルミアは扉の開閉を、リィエルは俺がいない間残っている奴らを守ってくれ」
グレンは鞄の中から銃や弾丸を取り出していく。あの扉の先はまさに未知の世界。どれだけ用心しても足りないほどだ。そんな所に行く覚悟をグレンが決めると、その覚悟に横やりが刺さった。
「グレン、私も行く」
「は?」
そこでグレンにそう言ったのは、
「私もグレンについていく」
「だめだ!その間誰があいつらを守るんだよ、それにな━━━」
「もういやだから」
グレンの言葉を遮って、リィエルは力強くグレンにそう告げた。その目には覚悟を決めた光があった。
「もう、誰かがいなくなるのは嫌だから。それに、誰かいなくなるとシンが安心して帰ってこれないから。私バカだから、難しい事はわからないけど、私は今そうするべきだと思う。」
「リィエル...」
今までこんな風に自分の意思を言うことなんて滅多になかったリィエルに、グレンは驚きのあまり言葉を失った。もう今のリィエルに、前までの弱さは感じない。
「先生!私も連れていってください!必ず力になってみせます!」
「私も行きます!あいつが帰ってきたとき、姉として胸を張れるようにいたいんです!!」
「お前ら...けどだめだ。今回ばかりは聞けねぇ。だから...」
「話は聞きましたよ先生!」
天幕の入り口が翻ったと思うと、そこからカッシュやウェンディ、ギイブルにセシルなど今回の遺跡調査に参加したメンバーが全員集まっていた。
「先生俺達なら大丈夫だから、ルミア達を連れてってやれよ!」
「いつまでもだっこにおんぶじゃ、僕らも納得できません」
「私達だって、やる時はやるんですわよ!」
「なんで...お前らそこまで...」
「決まってんだろ!」
カッシュは一歩進んでグレンへと叫ぶようにいい放った。
「俺達も成長しなきゃいけないんだよ!いつまでもあいつの背中は追ってられないんだよ!!」
その言葉に、全員が大きく頷いた。カッシュが言うあいつとは一体だれなのか、それは言わずもがなだろう。
(シン...お前はこいつらにとってこんだけでけぇ存在の奴だったんだな。)
思い出すのはあの爽やかな笑顔、何の根拠もないのに、それをみれば何故かどうにかなるんじゃないかも思ってしまう、そんな笑顔を。
「わかった。ルミア達を借りてくぜ。こいつらは絶対に俺が無事に連れて帰ってくる。」
そしてグレンは後ろにいる三人へと向き直り、言った。
「頼む、力を貸してくれ。あいつは俺の唯一の家族なんだ。だから...頼む...」
そんなグレンの懇願に、
三人は頷き返すのだった。
━━━
四人が扉を進んでやって来た場所は、まさに地獄絵図だった。至るところに転がる大量の干からびた死体、そのすべてが顔を苦痛に歪ませた表情でそれを見るなりシスティーナは小さな悲鳴を上げてグレンの腕をとったが、そんなシスティーナに構うほどグレンにも余裕はない。
おどおどとしたまま、グレンは足元にも転がる死体を調べ始める。
(こいつら全員魔術師か?けどこの傷は...)
その死体についている傷はなかなかに酷いものだった。腕を切り落とされていたり、焼け焦げたりと明らかに穏やかではない。
殺されたと判断するのが正しいだろう。
リィエルを除く三人はそこに広がる圧倒的な死の気配に顔をしかめる。ここは明らかに生きている人間が居るべき場所ではない。
「さっさと進むぞ。一秒たりともこんなとこに長居したかねぇ...」
そのグレンの言葉を切れ目に四人はまた歩み始める。途中ミイラとなった亡者の悪霊が襲いかかったが、それは四人のうまくとれた連携の前ではあまり脅威ではなかった。
リィエルがミイラを吹き飛ばし、システィーナが魔術によって、グレンが拳銃によってミイラを牽制し最後にルミアの浄化呪文がミイラを消していく。
それを繰り返しながら進み、グレンは歩いているのが塔のような物であると理解した。そんな塔のなかをかなり歩いた所で、グレン達の耳にゴォォと腹に響くような轟音が入ってきた。
「今のって...!」
「ああ。十中八九セリカだろうな。急ぐぞお前ら」
一斉に走り出したグレン達は奥に見えるアーチをくぐり、音のなる方へと向かっていく。
「なっ!んだよこれ...」
そこでグレン達が見たのは、闘技場のような大広間だった。それは競技祭のフィールドよりも遥かに広く、そして年期を感じるものだった。そのフィールドの最奥には黒い巨大な門が立っており、門の前ではセリカが豪快に魔術を繰り出していた。
セリカにまとわりつく亡霊の数は、グレン達がここに来るまでに倒した数とほぼ同じなのではないかと思えるほどの量だった。まるで山のように積み上がりながらセリカへと襲いかかるミイラは━━━
「
たったその一言で粉々に粉砕されていく。たったその一言で三つの魔術を発動した絶技に、リィエルもシスティーナもルミアも目を見張った。だが、そんなセリカの戦い方にグレンは一抹の不安を覚えた。
(あいつ、何を焦ってんだ?)
今のセリカには、ただ力にものを言わせて暴れているようにしか見えない。長年セリカを見てきたグレンには、それに違和感を感じざるを得なかった。
すべての亡霊をセリカが仕留め終えたのを確認すると、四人はセリカの元へと歩み寄っていく。
「セリカ!」
「グレン...か?」
ゆっくりとした動きで、セリカは四人の方を見る。
「なんでここに...」
「そりゃこっちのセリフだ!勝手に一人で行きやがって!とっと帰るぞ?こんなとこ早くおさらばして...」
「グレン聞いてくれ!やっと、やっと見つけたんだ!!」
さっきまでの覇気のなさはどこかに消え、今度は無邪気に笑みを浮かべながらグレンにセリカはそう言った。
「私の失われた過去の手がかりだよ!」
「は?お前なにいって...」
「私はここに来たことがある!それにグレン、ここが一体どこかわかるか?」
「いや、なんか塔っぽい建物なのはわかるがそれ以上は...」
すばやくまくし立てられるセリカの話にどうにかついていきながら、グレンは答えたがセリカは胸を張りながらその質問の答えを言う。
「ここはアルザーノ帝国魔術学院の地下迷宮なんだよ!」
「......は?」
ついにグレンもセリカの話についていけなくなり、そんな素っ頓狂な声を出した。
魔術学院には、超巨大な地下迷宮が存在する。それは今まで誰も踏破することは叶わず、大陸最高の魔術師の名で有名なセリカでさえもそれは成功出来ないものだった。現につい最近もそこへセリカは攻略に行ったが、残念ながら途中で断念せざるをえなくなったほどだ。
完全に置いてけぼりを食らったグレンを差し置いて、セリカの興奮度合いは止まらない。
「やっとだ、あの扉の先へ行けば...すべてがわかる!」
「ちょっ、おいセリカ!?」
グレンの呼び掛けにも答えず、セリカはすたすたと巨大な門へと歩いていき詠唱を始める。
「《其は摂理の円環へと帰還せよ・━━》」
セリカはずっと探し続けていた。自分の過去の手掛かりを、この終わらない生に終わりをもたらすものを。
四百年という人間にとっては長すぎるそんな時は、セリカにとっては苦痛そのものだったのだ。
自分のなかで響く『内なる声』に従って地下迷宮を攻略しようとしていたのも、そのためだ。
けれど、
「象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》!!」
もう彼女もわかっているのだ。
そんな物は必要ないのではないかと。
一人は辛いが、それも今は隣にグレンがいる。
セリカにとって、それでもう十分なのかもしれない。
「消し飛べ!!」
セリカが右手をかざし、黒魔改【イクステンション・レイ】が発動し、光の奔流が黒い門を包み込んでいく。
そしてその光が消えたとき、
黒き門は傷ひとつないままたたずんでいた。
「なんで...なんでなんだよ!!」
「無駄だ。古代人の建造物は物理的には破壊できないのはお前も知ってるだろ?」
そうグレンが諭すが、それでもセリカは黒い門を睨むように見ながら叩き続ける。
グレンはそんなセリカの手を取り、壁にセリカを押さえつけた。
「諦めろ。何がそんなにお前を駆り立てるんだよ...」
「私は...」
いつもの豪胆な態度からは想像出来ないほどの弱々しい声が、フィールドに響いたその時。
『その門から離れろ、無礼者』
そんな声が、グレン達の耳に入った。
すぐにグレンは反応し、声の聞こえた方向を見るとそれはフィールドの中央にいた。
緋色のローブで身を包み、両手に剣を構えるそれは闇が人の形となったような魔人だった。
(あれはやべぇ!!!!)
それを見た瞬間、グレンの脳内で警鐘が全力で鳴り響く。それはシスティーナやルミアも感じたようで、リィエルでさえもそれに向ける剣が少し震えている。
『
重くのし掛かるような声音に、グレンの冷や汗が止まらない。だがそんなグレン達を関係ないと言わんばかりに、セリカは堂々とそれの前へと出た。
「はっ!!誰だお前!」
『貴女は...』
それはセリカを認識すると、纏っていた重い雰囲気を緩めた。
『ついに戻られたか。我が主にふさわしい者よ。だが、今の貴女には、この門をくぐる資格は無し。お引き取り願おう』
「なっ!?貴様、私の事を知って...」
そんなセリカの言葉を無視し、魔人はグレン達の方を向く。だが、それをセリカは許さなかった。
「《人の話を聞け》!!」
セリカは左手を振りかざすと、魔人の周りを炎の柱が包み込んでいく。だが、それは魔人が左手に持つ剣を振るといとも容易く消えていった。
『この程度の児戯、なんの情もわかん。どうやら、昔の汝は死んだらしい』
「はっ!
セリカはそう判断したが、グレンはそうは思わなかった。なぜなら、ある一定の威力をこえた魔術は打ち消す事が出来ない。今セリカが使ったものは、その一定を軽々と越えている。
けれど、頭に血が登ったセリカには冷静な判断が出来なかった。
今度は手に握られた、かつて『剣の姫』とまで呼ばれた者の剣に【ロード・エクスペリエンス】をかけて震う。
その素早すぎる一撃に、魔人は左手の剣で受け止めると、
セリカの動きが変わった。
「な!?なぜ、私の魔術が...」
『ここまで落ちたか...フン!!』
魔人は失望の意味を込めたため息の後、左手の剣でセリカを吹き飛ばすと、今度は右手の剣で切りつけようとする。それをセリカはギリギリで避けるが、微かな傷がついてしまう。
だが、それが決定打となってしまう。
「力が...」
体に踏ん張りが効かなくなり、その場に力なく倒れ伏す。なぜそうなったのかもわからないまま、セリカは魔人を見る。魔人は無慈悲に剣をセリカへと向けていた。
『最早慈悲も与えん。神妙に逝くがいい』
「やべ!セリカ!!」
グレンが動こうとするがもう遅い。魔人は剣を振り下ろし、セリカを真っ二つに切ろうと肉薄して━━
そこで、不思議な事が起こった。
魔人の剣が、セリカの目の前で止まったのだ。
それも、まるで時が止まったかのように。
「一体なにが起こって...」
『こっちよ』
そこで聞こえるのはまた違う声。それはシスティーナやルミア、グレン達の後ろから聞こえてくる。グレン達は振り替えると、そこにいた者に目を見張った。
『早くしなさい。あいつはここに足を踏み入れた者を許さない。地獄まで追ってくるわ。だから━━』
「ちょっと待って...」
そこで制止を促したのはシスティーナだったが、今は誰もがとりあえず制止を求めるだろう。
目の前に現れたのは少女だった。真っ白な髪に、淀んだ赤い瞳。纏うのは薄い衣で、背中には謎の翼が生えている。そして...
「貴女...どうしてルミアと同じ顔なのよ!?」
システィーナの言うとおり。
彼女は、ルミアと瓜二つだったのだ。
━━━
地上では、カッシュ達が全神経を張り巡らせて警戒に当たっていた。幸いグレンがその場を離れてから魔獣などは姿を現していない。
「先生今頃アルフォネア教授と合流できましたかね...」
と、そんな吐露をしたのは警戒に当たっていたウェンディだった。
その顔には、少しの不安が見え隠れしている。
「大丈夫だって!先生にルミアやシスティーナ、リィエルまでついてるんだぜ!大丈夫に決まってるだろ!!」
「それもそうですわね...」
カッシュが元気にそう返したが、カッシュ自身不安が拭えない。だが、今は自分がしっかりしなければいけない。そんな強迫観念に突き動かされ、カッシュは警戒に当たる。
だからこそ、最初に気がついたのはカッシュだった。
「全員気を付けろ!なにか来る!!」
少し遠くから聞こえる足音、それに反応して全員に呼び掛け魔術の起動の準備をする。カッシュがその音の方向をじっとにらみ続ける。
そしてそこから現れたのは、一台の馬車だった。
「へ?」
警戒度に対して、現れるはずがないそれの登場に警戒班の全員があんぐりと口を開けるはめになった。
馬車の迎えが来るのは明日だ。だから今日こんな辺境の遺跡に馬車が来ること事態がおかしな事なのだ。
そんなカッシュ達をほっておいて、馬車から人影が現れる。
真っ黒のローブに対して白の仮面をかぶり、長い黒髪をたなびかせてその人物は地面に降り立った。
「な、なんだよあの人...」
「僕がわかるわけないだろう...」
その異様な見た目に、カッシュもギイブルも引き気味になっているとその男はカッシュの元へと歩いてくる。そしてポコポコという音と共に、男の顔につける面に文字が浮かび上がってきた。
『私は宮廷魔導士です。任務の途中でここで騒ぎを聞きつけてやって来ました。なにかありましたか?』
「宮廷魔導士団!?」
カッシュのその驚きを込めた言葉に、ギイブルやウェンディがざわざわと騒ぎ始めるが、ここでカッシュは冷静だった。
「あ、貴方が宮廷魔導士である証拠を見せてください!」
『...』
カッシュのその一言に少しだけ間を開けた男は、懐から一枚の紙を出した。そこには宮廷魔導士の証である鷲の紋章がつけられていた。
『これでよろしいですか?』
「はいありがとうございます!それじゃあ状況を説明します!!」
そしてカッシュは現状起こっている事をすべて男に伝えると、男はゆったりとした歩みで遺跡へと歩いていく。
「え!?ちょっと!!」
男の行動が読めず、カッシュはその男に着いていく。そして男は勢いよく遺跡の扉を開け、最深部にある
「カッシュ君!?その人は...」
「えっと...あ、あの...」
最深部で待機していたセシルとリンは、いきなりの男の登場に困惑しているが、男はそんな事お構い無しにカッシュに告げる。
『今から彼らの救出に向かいます。』
「え?さっき言ったじゃないですか!?ここの開け方はルミアとシスティーナしか知らないって...」
『問題ありません』
男は
「嘘っ!?」
「なんで...!?」
驚きの声を出したのもつかの間、三次元的な扉がカッシュやリンにセシル、そして仮面の男の前に現れる。
『それではここの防衛をよろしく頼みます。それでは』
「ま、待ってください!!」
カッシュは今にも扉の先に足を踏み込もうとする仮面の男を呼び止める。
「あの、みんなを、よろしくお願いします。」
そう言ってカッシュは頭を下げる。カッシュに合わせて、リンやセシルも同じように頭を下げた。
そんな三人を仮面の男はじっくりと見渡すと、仮面を少しだけずらした。そして、
「必ず連れて帰ってくる」
と肉声で三人にそう答えた。カッシュが頭をあげる頃には、もう仮面の男は扉の奥へと消えていった。
「すごいね...宮廷魔導士だよ!これならきっと大丈夫だよ!!」
「あ、ああ。そうだな...」
そう答えるカッシュは、今の仮面の男の声がどこかで聞いた物であるような気がしてならなかった。優しげだが、どこか力強く、安心するその声はまるで━━
(まさかな...)
カッシュはそんな妄想をやめて、警戒班の元へと戻るのだった。