『私はそうね...ナムルスとでも名乗っておくわ』
そんなあからさまな偽名を名乗りながら、ルミアに瓜二つの少女は話した。
既に闘技場からは脱出し、魔人ともかなりの距離を空けることに成功したため今はひとまず一息をついていた。あの時気絶してしまったセリカをグレンは背負いながら、訝しげにナムルスを見やる。
「お前は何者なんだ?その変な翼はなんだ?なんで俺達を助ける?あのバカみたいに強い魔人はなんだ?」
『......』
グレンは矢継ぎ早にナムルスに問いを投げ掛けるが、それをナムルスは徹底的に黙秘を続けるため答えを聞くことは叶わない。
「んだよ、答えてくれないとわからないんだが」
『悪いけれど、答えたくても答えられないのよ。答えてしまったら、後々が大変だから』
「ちっ...可愛くない奴だな。そっくりでもルミアとは大違いだな。」
不機嫌にそう言うグレンに、反論したのはルミアだった。
「先生ダメですよ。ナムルスさんは私達を助けてくださったですから」
「けどなぁ...」
納得出来ないとばかりにグレンは苦い顔をするが、そこはルミアに免じて引き下がることにした。すると、ルミアはナムルスににこやかに笑いかけた。
「ナムルスさん、さっきは私達を助けてくださってありがとうございました。なんで貴女が私と同じ姿をしているかはわからないけど、私は━━━」
『馴れ馴れしく話さないでちょうだい』
ナムルスはいきなりルミアに敵意むき出しの強い口調で、そう返した。その突然の悪意に、ルミアでさえも少し驚きで動きが固まった。その場に緊張が走り、それぞれが臨戦体勢になる。
『大丈夫よ。私はあなた達に危害は加えられない。今の私は実体のない思念みたいなものだから。これはただの八つ当たりよ。それでも言わずにはいられない...貴女さえいなければ...!!」
ルミアにいい放ったナムルスはグレン達に背を向けて、また先導するように歩き出す。その言葉には、深い憎悪と敵意と、底知れぬ悪意が籠っていた。
「あなたは優しいんですね」
だが、そんな彼女にもルミアは優しく話していく。
「貴女は私の事をそれだけ憎んでいながら、私達を助けてくれた。なぜナムルスさんが私をそこまで恨んでいるのかはわかりません。けれど、せめてお礼だけは言わせてください」
ルミアはしっかりとナムルスの背を見ながら言う。
「私達を助けてくれて、ありがとう」
『......』
ルミアの感謝を聞くと、ナムルスが遺跡の闇にぐらりと消えていく。
「お、おい!?」
『少しも頭を冷やしてくる。私はこの遺跡のどこにでもいるわ。このまま私が教えて通りに進んでいきなさい。それじゃあね...』
そしてナムルスは完全に消えてしまった。
「なんだよ...もうわけがわかんねぇ」
偽ルミアに謎の強力過ぎる魔人、よく分からないこの遺跡。わからないことが多すぎる。
だがそこで、グレンの背中でセリカが少し動いた。
「セリカ...眼が覚めたか...」
それに気がつき、グレンは安堵の息を漏らした。システィーナやルミア、リィエルも同じような反応をする。
「どうだ?動けそうか?」
「残念だが無理そうだ」
苦しげな声でセリカは答える。その顔は少し苦痛に歪んでいるように見えた。
「あの魔人の魔刀は、斬った相手の魂を吸収し自分の力に転用するようだ。私はエーテル体をかなり食われてしまった。これでは、もう魔術は使えないかもな。は、はは...一人突っ込んでこの様だ」
「笑えねぇよ...」
魔術師にとって霊的な物を扱う霊魂、エーテル体はとても重要な物だ。魔術を完全に使えないとまではならないかもしれないが、何かしらの後遺症が体に残る可能性はとても高い。
「グレン...私を置いていけ」
「は?お前なにいってんだよ...」
セリカの突然の独白に、一同は足を止めた。全員がセリカの方を見るがセリカは話続ける。
「今や私は完全な足手まといだ。まともに一人で動くことすらできん。だから私を━━」
「っざけんな!!!」
大きな叫びが、迷宮にこだました。その叫びは、グレン以外が肩をビクッと震わせるほどの迫力があった。
「足手まとい?ああそうだな、俺の忠告や止めを全部無視した挙げ句こんな様とか、マジで笑うしかないわ。ほんと耄碌ばばあのおもりは面倒だよ。けどな、家族をこんなとこにほっておけるかよ!!!」
「グレン...」
「お前だってそうするだろうが!家族って、そう言うもんだろうが...」
グレンにとって、セリカはかけがえのないたった一人の家族だ。いつもは面倒くさそうにあしらったりしてはいるが、セリカをとても大切に思っていることは事実なのだ。
そんなセリカを、グレンが見捨てるわけがなかった。
「私は...お前の、家族なのか...?」
「なにいってんだよ。当たり前だろ?」
「そう...か...ひっく...ぐすっ...」
するとセリカは急に嗚咽とともに、その美しい瞳から涙を流し始めた。
「なに泣いてんだよ」
「私は、ずっと怖かった!家族だと思ってるのは、私だけなんじゃないかって...」
「なんでそうなるんだよ...!」
「だって、私はどう考えても人間じゃないじゃないか!!」
「はぁ??」
セリカはポツリポツリと四百年重ねてきたその感情をゆっくりと話していく。
戦いと不安と、絶望に満ちた暗い四百年間。
その薄暗い道のりに、一筋の明かりが差し込んだのだ。それは紛れもない、グレンだった。
グレンと過ごす日々は、戦いに明け暮れたセリカにとって癒しそのものだったのだ。少しずつ成長していくグレンを見ていくのが、セリカの中で一つの楽しみにすらなるほどに。
もう内に聞こえる声も、自分に課せられた使命すらもどうでもよかったのだ。
ただ、グレンと一緒に過ごしていたかっただけなのだ。
だが、彼女の中でグレンと自分を比較してしまう部分があった。それは彼女が『
四百年も生きる自分は人間ではない。ならば、グレンもどこかで私の事を恐れているのではないか?そんな疑心暗鬼は心に住み込んで離れなかった。
だからセリカは地下迷宮の踏破に没頭した。
『
「馬鹿野郎だな...そんな事で悩むお前も、それに気がつけなかった俺も...」
セリカの心をすべて聞いたグレンが最初に出した言葉はそんな物だった。
「俺とお前は家族だ、それは絶対だ」
けれど、けれどその言葉は、
「誰がどれだけ否定したって、俺はお前の家族なんだよ。
暖かく、セリカの不安をゆったりと溶かしていった。
「そうか...私...は...そんな簡単なこと....も...」
「セリカ?」
ふとグレンはセリカの方を見ると、セリカはまた深い眠りについた。
「グレン。今のって...」
後ろで殿を務めていたリィエルが、グレンの隣までやって来るとそんな事を尋ねた。
「あいつがお前に言った事の受け売りだよ。ったく...お前らだけじゃなくて、俺まであいつに毒されてきたのかね...」
恥ずかしくなったのか、リィエルから目を背けてまた歩いていく。
そして、
『ありがとうグレン』
「うおっ!?」
いきなりグレンの隣に現れたナムルスが、不意にそんな事を言った。
「いきなり出てくんなよ...てかなんでありがとうって...」
「別に...」
ナムルスはそれ以上答えないと意思表示し、また先導しながら歩いていった。
━━━
そのまま迷宮を何語もなく抜けられれば、どれだけハッピーエンドだっただろうか。だが、かの魔人はそうも容易くグレン達を逃してはくれない。
「来たな...」
後ろから徐々に近づいてくる気配に、グレン達は足を止めた。恐らく魔人はもう既にグレン達の目と鼻の先にまでやって来ているであろう。
「ナムルス、このまま逃げ切れそうか?」
『無理ね。まだ目的地までかなりあるし...』
ナムルスのその答えを聞くと、セリカを近くの壁にもたれ掛からせて腰から銃を抜く。
「俺がここに残る。お前達はセリカを連れて先に行け」
「ダメです先生!先生も一緒に...」
「無理だルミア。このままじゃ時期に魔人に追い付かれて全員仲良くあの世行きだ。だからここは━━」
『駄目よ』
グレンの言葉を遮ったのは、意外にもナムルスだった。
『貴方はここで死ぬわけにはいかないのよ』
「ならどうすんだよ!?追い付かれるのは時間の問題だぞ!」
『それは...』
ナムルスがいい淀んだのをいいことに、グレンが攻め立てていく。
「あいつへの対抗策がなにもないんだからな。だから俺が少しでもここで足止めして...」
『駄目よ!貴方とセリカだけは生き延びなきゃ行けないのよ!お願いだからっ!』
「あんなバカみたいに強い奴にどうやって勝つって言うんだよ!」
『それは...』
いい淀んだナムルスを良いことに、グレンは強く言うがグレンの言うことはもっともな話だ。
『あいつさえ...あいつさえここに居てくれればあんな魔人なんて...!!』
「は?あいつって誰だよ?」
『こっちの話よ。それよりも、貴方だけは生き延びなきゃいけないのよ』
「まだんな事をほざいてんのか!」
「あ、あの...」
そんな一触即発の空気の中で、声をあげたのはシスティーナだった。
「あの魔人の倒し方なら、私に考えがあります」
「『え?』」
システィーナの一言に、グレンとナムルスは二人して素っ頓狂な声を出した。
━━━━
結局全員で魔人を戦うことになったグレン達は、迷宮内に作られていた空中庭園にいた。場所はあの闘技場までとはいかないにしても、かなり広い。そんな場所に、グレン達は臨戦体制で待ち構えていた。
そしてそんな緊張のなか、遂に魔人が姿を現したのだ。
『ほう?我に立ち向かうか、その心意気は評価しよう。愚者の民よ』
「けっ!なーに余裕ぶってんだよ!お前の倒す方法なんて、もうこっちとらわかってんだよ!!」
グレンは不敵に笑みをこぼして、魔人をにらむように見ながらまた口を開く。
「お前を四回殺せりゃ俺達の勝ちなんだからな...?」
『っ!?なぜそれを...』
かかった。グレンは内心ガッツポーズをしながら口角が自然にあがるのが自分でもわかった。
システィーナの見解は、あの魔人が『メルガリウスの魔法使い』に登場する魔王が従える魔将星アール=カーンだと言うものだった。
彼の最大の特徴は、二振りの魔刀と十三の命。
一つは魂を喰らう黒の魔刀
(物語では、アール=カーンは魔王を主と認めるために戦い四度殺され、正義の魔法使いとの戦いで三度殺された。それであとは確か...謎の死、だったか?)
その残りの二つだけが、物語では曖昧なのだ。この物語は、まるで伝記物のようにこと細かく書かれている事で有名なのだが、いくつかの部分だけがなぜか曖昧なのだ。このアール=カーンの死もその一つだ。
(最後だけアール=カーンが言った残りの命の数が合わないのは俺も昔気になったが、今は好都合だぜ!)
この戦い、あの魔人から四度命を奪えばこちらの勝ちだ。それに相手のタネさえわかってしまえば対応のしようなどいくらでもある。
格上の敵でこそ、グレンの本領は発揮される。
『いいだろう...汝らが何故それを知ったのかはわからぬが...我の残り四つの命、見事刈り取ってみせよ』
目の前の存在がアール=カーンだとしたら、疑問に思うことは山のようにある。だが、それもこれもアール=カーンを倒してからの話だ。
「さぁいくぞお前ら!」
「ん!」
「援護するわよ!」
「うん!」
グレンの掛け声とともにリィエルとグレンは魔人へと突撃、システィーナとルミアは魔人へ左手を構えた。
そしてアール=カーンの目の前まで二人がやって来ると、グレンは右から、リィエルは左から攻撃を仕掛けていく。グレンの手には、ルミアの『感応増幅力』を載せた付与がされており、光る拳が魔人に振りかかる。
それを魔人が防御すると、今度はセリカの剣を借りたリィエルがそのミスリルの剣を振るうが、その二つの攻撃を魔人は意図も容易く防御していく。
これも一つの作戦のうちだった。
そして特筆すべきは、この二人の連携だ。
長年共に魔導師時代、修羅場を潜り抜けてきたその息のあったコンビネーションがあって初めてこの圧倒的な魔人と戦うことが叶うのだ。
だがこの作戦は、魔人が武器を持ち替えてしまえば簡単に打ち破られる。けれど、魔人にはその気配はない。
『ッ!!』
「持ち替えてみろよ!ほら?どうした!!」
実はグレン達は、魔人がこの二刀の魔刀を持ち替えてこない事はわかっていたのだ。
システィーナ曰く、伝承の中でアール=カーンは持つべき手が決まっているのだ。つまり、一度武器を持ち替えてしまえばその武器の本領である能力は、無効化されてしまう。
(けど、あしらわれてるな!くそっ!!)
二人による阿吽の呼吸の連携も、魔人は冷静に対処していく。その動きには余裕が満ちていることに、グレンは歯噛みするしかない。
そこで一瞬隙が出来てしまい、魔人は両手の剣の柄で二人を殴り付けた。
「ぐぁぁぁぁ!!」
「あぐぅ!」
勢いのあまり派手に吹き飛ぶ二人。魔人は重い剣擊を放つリィエルを厄介だと考えたのか、リィエルへと目で追えないほどの速さで踏み込んでいく。だが、
「《猛き雷帝よ・極光の閃光以て・刺し穿て》!!」
接近する魔人に向けて、システィーナは【ライトニング・ピアス】を撃つ。それはルミアの異能によって強化されたため、威力スピードともに圧巻の一言。だが、それを魔人はリィエルに近づくのを途中でやめ、後ろに飛ぶことで回避する。
「《慈悲の天使よ・遠き彼の地に・汝の威光を》!」
そこでルミアによる高等
「ナイスだルミア!いくぞリィエル!」
「ん!いいいいいいいいいやぁああああああ!!」
体がまた動くようになると、二人は再度魔人へと攻撃を開始する。
『小賢しい真似を!』
魔人はそこで二人同時に相手をすることをやめ、狙いをリィエル一択に絞った。両手の刀がリィエルの白い肌に向けられたその瞬間━━
魔人の心臓は、グレンが一瞬で引き抜いた銃によって射抜かれた。
『なぬっ!!』
いきなり自分のストックが一つ奪われた事に心底驚きながら、魔人はグレンの方へと意識を向ける。
そこに隙が生まれたのを、リィエルは即座に見切った。
「いいいいいいいいいやぁああああああ!!」
両手で持つミスリルの剣を、力一杯に横凪ぎにふった。その素早い一撃にグレンに意識が完全に向いていた魔人が避けられるはずもなく、二つ目の命を魔人は落とすはめになった。
『くっ...猪口才な...っ!?』
この一瞬、魔人は二つのミスを犯したのだ。
一つは、グレンの銃を必要以上に警戒してしまったこと。魔人は銃と言う存在を知らず、さらにはグレンが銃を使う瞬間を見ていなかったため、それがどういう作りで自分の心臓を穿ったのかがわからなかったのだ。そのため魔人は必要以上にグレンのそれに意識を割かねばならなくなった。
そしてもう一つは、この目の前で短時間で自分から二つの命を奪った二人にしか魔人は注意が向かなかった事だ。
だから、システィーナの二射目への対応が確実に遅れてしまう。
『ぬぅうん!!』
システィーナの【ライトニング・ピアス】を
『ぐぉぉ...』
寸分違わず、閃光は魔人の頭部を撃ち抜いた。
「うっし!連続三つだぜ!」
一瞬の内に窮地に立たされたアール=カーンが後ろに下がるのを見ながら、グレンは作戦が成功した事にニヤリと笑みをこぼした。
『見事だ...愚者の民よ...これほどの絶技、かのお方と合間見えたあの時に匹敵する。少し汝らを嘗めてかかっていたようだ。』
そしてその言葉と共に、アール=カーンから強者の余裕が消え、完全な戦士の雰囲気が現れた。
ただ敵を倒す、そんな意志が込められたように。
『ここまで興奮したのは久しぶりだ。良いだろう、汝等を障害と認めよう』
その本気度を醸し出した魔人に、グレンは冷たい汗が流れ震える足に力を込めた。
「奴さん本気出しやがった...てめぇら!こっからが本番だぞ!!」
全員に叱咤激励を送ったあと、また四人は攻撃を再開した。
━━━
「うっ...ここは...」
セリカの重い意識が覚醒したのは、自分の真下から聞こえてくる騒音によってだった。
(一体なにが...)
まだ痛むからだを起こして、階下を覗きこんだ。
そこにあったのは圧倒的な蹂躙爪痕だった。
満身創痍で膝をつくグレンとリィエル、その後ろには真っ青な顔になりながら手を膝につき、肩で息をするルミアとシスティーナ。そして彼らの御前には、
平然と立つ、魔人の姿。
『ここまでやるとは...正直恐れ入った。だが、これが愚者の限界のようだな』
魔人は片手を掲げると、なにかを唱え始めた。すると、その手には膨大な熱量を帯びた巨大な球体が姿を現した。それはまるで、そこに第二の太陽が現れたかのような熱量を孕んでいるのがひしひしと伝わってくる。
『せめてもの救いだ。痛みなく逝かせてやろう...』
詠唱を完全に終えた魔人は、今にもその熱球をグレン達に解き放とうとしていた。
「くっ!駄目だ私が━━」
『やめなさいセリカ!』
セリカが奥の手を使おうとしたのを、ナムルスが呼び止めた。
「お前がナムルスって奴か!いくらグレン達の命の恩人だといっても、邪魔をするならお前も潰すぞ!!」
『ダメなのよ!貴方はここで倒れては...っ!?!?!?』
その時、ナムルスは今までグレン達にも見せていない驚愕の表情になった。
『な...なんで...』
「なんだ!?どうかしたのか!!今は時間が無いんだぞ!!」
セリカの怒りを込めた言葉とは裏腹に、ナムルスはその驚きが大きすぎたのか一人呆然とする。そして、一言呟いた。
『あいつが...あいつがなんでここに...!?』
━━━
リィエルside
もう全身が痛い。いつもは軽く感じる剣ですら、今では鉛のような重みを感じる。
けど、あの魔人はそんな私達をお構い無しに熱球を飛ばそうとしてくる。
このままじゃ、システィーナやルミア、セリカにグレンは死んでしまう。
(いやだ......そんなのはいやだ!)
強引に体を起こして、痛む体に鞭をうちながら私は皆の盾になるように立ちふさがった。
「リィエル!駄目だ!」
「リィエル!逃げて!!」
後ろからシスティーナとグレンの声が聞こえたけれど、私はどかない。
みんなを守るんだ。シンのように、シンがまた笑顔で帰ってこられるように!!
それが、私がしたいと思った事なんだから!!!
『この炎に怯えず、後ろの者達を守ろうとするその心。感服する。であるからこそ、この炎を受けるに相応しい!!いざ、神妙に逝ね!!』
そして、魔人は私に向かって炎の球を投げつけた。それはゆっくりと私へと近づいてくる。
どんどん周りが熱くなるのがわかる。けれど、私は引かない。これに意味が無かったとしても、私は最後まで皆を守りたい!!
「ダメ!!リィエル!!!」
最後にルミアの泣きそうな声が聞こえたけれど、それに答える前に炎は私の目の前までやって来た。
あまりの眩しさに、私は目を閉じた。
(バイバイ、皆...シン...)
最後にあの銀髪の、会いたいと願いに願った青年の顔を思い浮かべた。もし、まだ叶うのなら...
叶うのなら、またシンに会いたい━━
そして、来るであろう強い熱さに強く目をつむった。
だが、痛みも熱さもやってこない。
私はゆっくり目を開けると、そこには...
「え?」
私の眼前で、火の玉は凍りつき止まっていたのだ。
そして火の玉は音もなく崩れ、私の足元にガラガラと落ちていった。そこには、もう氷の屑しか残っていない。
何故そうなったのか、そんな事を考えるよりも先に━━
私の顔の横を黒い風が吹き抜けた。
いや、それは風じゃない。黒いなにか。
『ぬうお!!』
ガンっという甲高い音と共に、魔人は大きく後ろに吹き飛ばされた。そして魔人が元いた場所に、その黒いなにかはいた。
私やアルベルトが着ているローブと同じものに、黒い長い髪。そしてそんな黒髪とは正反対の、真っ白な仮面。その手にはその男の体の大きさに見合ったサイズの刀が握られている。
「リィエル!大丈夫か!?」
グレンが私を呼び掛けるが、私はそれよりも目の前の仮面の男に視線が釘付けになる。
「あれは特務分室のローブ!まさか、あいつが《吊られた男》なのか!?」
グレンは声を荒げてそう言った。すると、吹き飛ばされた魔人がむくりと起き上がり、睨むようにその男を見た。
『我が晩節を穢す愚か者が!何者だ!!』
その大きな叫びを聞くと、仮面の男は何も喋らない。代わりに、ポコポコとした音と共に仮面に文字が浮かび上がった。
『私は帝国宮廷魔導士団しょぞぞぞ■○□■_■□○◎▲※□◆●!!!』
途中までは言葉になっていたのに、最後はよく分からない物を綴ったかと思うと、
「あーもう鬱陶しい!!こんな面倒くさい事するより口で喋った方が絶対早いっての!!」
男はつけていた仮面を投げ捨てた。
すると、姿が少しだけ変わっていく。
「あ?誰だって質問か?なら答えてやるよ!!」
長かった黒髪は消え、代わりに現れるのは輝くような短めの銀の髪。仮面の下の顔には頬に黒の紋様があり、瞳はきれいな緑色。
「ああ...ああ!!」
それは会いたかった、会いたくて仕方がなかった人。
「帝国軍宮廷魔導士団特務分室所属!執行官No.12!《吊られた男》のシンシア=フィーベル!今からお前を倒す男の名前だ、覚えとけ!!」
黒のローブを翻しながら、シンは意気揚々と魔人に宣戦布告を告げていった。
遂に登場我らが主人公!まさかの特務分室入りして帰還です!!え?だいたいわかってた?そう...( ・_・)
これはこの作品を書きはじめた時から考えてたんですよ!!いやー書けてよかった!!
感想どんどんお待ちしてまーす!