最後にその手が掴むもの   作:zhk

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今回で六巻最終回です!お楽しみに!!


吊られた男

「シン!?なんでお前が...!!」

 

「あー先生、積もる話は後で頼みます。とりあえず...」

 

視線をグレンから魔人へと向け直し、片手で持っていた刀を構える。

 

「こいつ倒すんで」

 

堂々と余裕の表情でシンシアは宣言した。

 

『ほう?汝が我を殺してみせると言うのか?』

 

「今のがそれ以外の何に聞こえんだよ。ちゃっちゃと終わらせたいから...行くぜ?」

 

そう言うと、シンシアは地面を蹴りアール=カーンへと肉薄する。かぶと割りの要領で縦に振られた刀は、ビュンと風を切る音と共に魔人へと振りかかるが、それを魔人は難なく二刀の刀を交差して止める。

 

『そんな単調な攻撃が何度も━━━』

 

「《黒き雷精よ・虚の赴くまま・━━》」

 

『っ!?』

 

両手で持った刀から片手だけを離すと、シンシアはその手を魔人へとかざして詠唱を始める。それに反応するように魔人は後ろに飛ぶと...

 

「撃ち抜け》!!」

 

シンシアの詠唱が終わり、その手から真っ黒の閃光が飛んだ。

 

『ふんっ!』

 

だがそれは魔人が振るう魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)によってかき消された。

 

「はぁ!?そんなのありかよ!!」

 

相手の剣の性質を知らないシンシアからすれば、魔術の無効化なんて驚く以外出来ないのも仕方ないだろう。だが、それよりも驚きたいのはシンシアの後ろに居たグレン達だった。

 

「シンが...魔術を使った...?でも、今のって...【ライトニング・ピアス】?」

 

「いや、【ライトニング・ピアス】は黒くなんかねぇ。あれはなんだ?」

 

元宮廷魔導士団にいたグレンでさえ、今の魔術がどういうものかはわからなかったが、今するべきはそれではないと即座に判断する。

 

「シン!そいつは魔将星のアール=カーンだ!」

 

「はぁ!?あの魔煌刃将アール=カーンですか!?まじで!!じゃあ今のって魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)なんすか!!すっげぇ俺もほしい!!」

 

「んな事いってる場合か!俺ら四人がかりでも勝てなかったんだ!お前一人じゃどうにもなんねぇよ!!」

 

シンシアがなかなかの実力者なのはグレンだって認める。シンシアは数少ない、グレンが全力で奇襲を試みても勝てるかわからない相手だ。ただのシンプルな接近戦であれば、グレンは手も足も出ずに負けるだろう。

 

だが、今回は相手が悪すぎる。

 

「まじでアール=カーンなのかよ...てことは余力なんて残してたらこっちがやられるよな...さっきは奇襲だったからうまく入っただけってことか...なら、」

 

シンシアは不敵に笑いながら懐に手を入れ、あるものを取り出した。

 

それは、吊られた男のアルカナのカード。

 

「やってやろうじゃねぇか!!《我を縛る業の鎖よ・━》」

 

吊られた男のアルカナを片手に持ちながら、シンシアは詠唱を始める。すると、アルカナは黒く鈍い光を放ちはじめた。

 

『させん!!』

 

変わった雰囲気に危機感を覚えたのか、アール=カーンは両手の刀を構えシンシアへと突っ込んでくる。

 

「今その拘束を解き・━━》」

 

それでもシンシアは動じずに詠唱を続ける。吊られた男のアルカナにのみ光っていた黒の光は、第二節を言い終える頃にはシンシアの体すら覆っていく。

 

そして、アール=カーンがもう目の前まで来たとき、

 

「我を解放せよ》!!」

 

詠唱が完全に終わる。すると、シンシアの体から黒の粒子が雪崩れるように現れると魔人を吹き飛ばす。

 

魔人はすぐに姿勢を元に戻し視線をシンシアに向けると、シンシアの姿は変貌していた。

 

顔の黒い紋様は顔の半分を覆うまで広がり、背中には先ほど出てきた黒の粒子が集まり一対の翼を作り上げている。それは最早人間というよりも、異形の者という方が正しいような気がする。

 

その姿にシスティーナとグレンは見覚えがあった。それは紛れもない、あの結婚騒動の時の暴走したシンシアの姿そのものだったのだから。

 

「さて...続けようぜ魔人さんよぉ...」

 

唸るような声を出しながら、シンシアは魔人を睨み付ける。すると、魔人の足元に黒い氷柱が姿を現し魔人の左腕をはねた。

 

『ぐおっ!!!これは、竜言語魔術(ドラグイッシュ)だと!?汝は人間では...』

 

「残念!俺は人工竜人だ!!」

 

刀を魔人に投げつけ、シンシアはそれと同時に走り出す。両手を強く握ると、その手には黒い稲妻が迸った。

 

『くっ!!』

 

魔人は片手だけで飛んできた刀を弾き、こちらに飛び込んでくるシンシアへと注意を向ける。だが、そこで魔人は気がついた。

 

自分が弾いた刀の柄に、何か札が巻き付けられていることに。

 

『なん!?』

 

魔人が何か言うよりも早く、その札が光り札から白い縄が現れ魔人を拘束する。

 

『ぬぅ!!小賢しい真似を!!!』

 

いつもならば魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)でこの程度の魔術は簡単に無効化できるのだが、その剣はシンシアの竜言語魔術(ドラグイッシュ)によって腕ごと飛ばされてしまっている。

 

だから、シンシアの一撃を避けるすべがない。

 

「これで!」

 

大股で助走をつけ、魔人へと飛ぶ。右手を後ろにさげ全力で殴り付ける姿勢をとる。

 

「終わりだぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、黒い稲妻を纏ったシンシアの拳は否応なしに魔人の胸にぶち当たり、あっさりとその胸を貫いた。

 

同時に、魔人に異常なほどの電撃が走る。

 

『がぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!』

 

体内を走り去った黒い稲妻は、魔人に絶大なダメージを与え...

 

最後の一つを破壊した。

 

シンシアは魔人から腕を引き抜くと、魔人から距離を空ける。それに合わせ、魔人はゆっくり後ずさっていった。その体から、黒い霧を上げながら。

 

『まさか...まさか最後にあなた様にお会いできるとは...』

 

「は?俺?」

 

シンシアを見ながら、魔人はそんな事を言い始めたがシンシアには身に覚えがない。

 

あの力(・・・)すら引き出せないとは...我もまだまだ未熟のようだ...」

 

「いやお前一体なんの話を...」

 

わけのわからないその話に、シンシアは頭にクエッションマークが頭に浮かぶが、魔人は何故か歓喜に肩を震わせている。

 

『見事だったぞ愚者の民草の子らよ!!よくぞ我を殺して見せた!汝等に最大の賛辞を送ろうッ!!』

 

そう言って両手を広げると、魔人から出る黒い霧はさらに勢いを増す。そして、最後にまたシンシアを見ると、

 

『さらば、我が求めた主(・・・・・)よ!!』

 

そう告げると魔人はきれいに跡形もなく消えていった。ただ、場には沈黙だけが残っていく。

 

「あの魔人、何が言いたかったんだ?よくわかんねぇ奴だな...それよりも、」

 

まだ困惑顔のシンシアは、表情を柔らかい物に変えると振り向いてグレン達を見た。

 

「えっと...まぁ、ただいま」

 

いつもの明るい笑みで、シンシアは四人にそう言ったのだった。

 

「シン...シン!!!」

 

痛む体の事も忘れ、リィエルはシンシアの下へと走っていきその勢いのまま抱きついた。

 

どれだけ会いたいと願ったかわからない。

 

どれだけ会えないと絶望したかわからない。

 

だから、もう離したくないという一心で、リィエルはシンシアにしがみついた。

 

「なんで!なんでどこかいっちゃったの!!私、私寂しくて...!!」

 

「それは...ごめん。でもまぁ...」

 

そしてシンシアはリィエルの頭を優しく撫でながら、話す。

 

「皆無事でよかった。」

 

「ううっ...!!ぐっす...!!」

 

そんな感動の再開を、システィーナとルミア、セリカは涙を流しながら見、グレンは空気を読んでその場を離れた。

 

ここに、魔人との戦いは幕を下ろした。

 

━━━

 

「んで?色々聞きたいことがあるんだが...とりあえずさぁ...」

 

夕焼けの緋色が草原を染め上げるなか、馬車の御者台でグレンはとなりに座るシンシアへと言葉を投げ掛けた。

 

「お前その仮面なんなの?」

 

訝しげに見るグレンの視線の先には、またあの真っ白な仮面で顔を隠すシンシアだった。髪も銀髪から長い黒髪に変わっており、シンシアはグレンの方を向くのと同時にポコポコと仮面に文字が浮き上がる。

 

『一応皆がいるって事で顔は隠さなければいけません。これは室長からの命令です』

 

「イヴの?てかその仮面だとそんな話し方になるんだな」

 

『普通に喋っているのだけれど、何故か語調がおかしいのです。』

 

表情は見えないが、肩をすくめる動作を見る限りシンシアも嫌々のようだ。

 

「まぁ今は他の奴らは全員寝てるから、その面は外していいぞ?」

 

「ならお言葉に甘えて」

 

シンシアは仮面を外して圧縮冷凍を施すと、それを懐に直した。

 

「じゃあ教えてもらおうか、お前がなんで特務分室(そこ)にいるのか」

 

「やっぱそこですよね...まぁ話しますけど。」

 

視線を目の前の夕日へと向けながら、シンシアはゆっくりとした形で話始めた。

 

「宮廷魔導士団に捕まった後、本当なら俺はすぐに処刑されるはずでした。」

 

「っ!?」

 

絶句するグレンをよそに、シンシアは話続ける。

 

「まぁあっち側も俺みたいな予測できないものは置いておきたくなかったんでしょうね。そして秘密裏に処刑されようとしたその時、止めに入った人がいたんですよ。

それが特務分室室長、イヴ=イグナイトでした」

 

「そこでイヴが出てくるのか...ちっ、思い出したくもない顔だぜ。」

 

グレンはそこで因縁の女の顔を頭に思い浮かべ、苦い顔をした。

 

「室長は他の宮廷魔導士を丸め込んで俺にこう聞いたんですよ。」

 

『ここで死ぬか、私の駒となって生きることを選ぶか、貴方はどうする?』

 

「んで、その質問に答えて俺は晴れて特務分室入り。諸々の罪状はすべてカット、代わりに室長の駒となりました。」

 

「あの野郎...!」

 

グレンはその話で、これがイヴの策略だったのだと理解した。元々特務分室にシンシアを引き入れようとする動きは確かにあったが、それはアルベルトによって水面下で止められていたのだ。

 

だが、状況は変わった。シンシアが竜人となった事ですべてが一変。イヴはそこをついたのだ。命を盾に強引にシンシアを特務分室の椅子に座らせるために。

 

「先生の思うこともわかります、けどこれは俺が選んだ事です。俺は後悔してませんよ」

 

あっけらかんとシンシアは御者台の背もたれにもたれ掛かりながらそう言った。

 

「それと俺の任務はルミ姉の護衛の補佐です。だからまた学院に戻りますよ」

 

「てことはまた面倒な生徒が帰ってくるのかよ。ったく、まとめる俺の事も考えて欲しいもんだ...」

 

「ああその件なんですけど、実は━━━━なんですよ」

 

「はぁ!!!!マジでか!!!」

 

「はい。マジです、じゃあ今後ともよろしくお願いしますね?グレン先生」

 

悪そうに笑いながら、仮面をまた自分の顔につけるとシンシアは馬車の中へと戻っていった。

 

馬車の中ではもう全員が深い眠りについていた。そんな無防備な友人達を微笑ましく思いながら、シンシアも近くに座る。

 

(にしても...あの魔人は何が言いたかったんだ?)

 

帰って来た感慨にふけるよりも、気になるのはあの魔人の言葉。

 

(あんな魔人の主になった覚えはないっての。それに...)

 

もう一つ、思い出すのは遺跡を出る直前のナムルスとの会話だった。

 

 

━━

 

『ねぇ』

 

「ん?」

 

それはグレン達が戦いの傷を癒している時だった。ナムルスはシンシアの下へとやって来るとそう言葉を投げ掛けた。

 

「あんたがナムルス?皆を守ってくれてありがとうな。本当に助かったわ。」

 

『......』

 

明るい口調でそう語るシンシアを、痛ましげに見るナムルスはそこで口を開いた。

 

『貴方はそれでいいの?』

 

「......」

 

ナムルスの問いかけに、シンシアから笑みが消え沈黙が返ってくる。まるでナムルスは何かを見抜いているように話していく。

 

『グレンとセリカを守ってくれた事は私からも礼を言うわ。けど、あの力を使っていれば貴方は確実に━━』

 

「それ以上は言うな」

 

静かに、そして強くシンシアはナムルスにただ一言告げた。そこには明確な強い意志が込められていた。

 

「お前がなんでそれについてわかったのかは知らないけど、これを使うのに俺は躊躇いはない。それが例え、色々削っていくとしてもな」

 

これで話は終わりと言わんばかりに、シンシアはナムルスに背を向けてグレン達の下へと歩んでいった。

 

『なんで...なんであんたはいつもそうなのよ...!!』

 

だから、そんなナムルスの言葉はシンシアの耳には入らなかった。

 

━━━

 

ナムルスの言葉を思いだしながら、馬車の隙間から差す夕焼けを見やる。

 

(そうだ、力は得た。だからあとは、それを皆を守るために使うだけ。そこに躊躇いも不満もなにもない。あのきな臭い室長に顎で使われる事だって構いやしない。だって...)

 

シンシアは自分の隣で肩を寄せあって眠るシスティーナとルミア、そしてリィエルの三人を見た。

 

(こんな暖かな日常を守れるんだから...)

 

仮面の底で一人静かに微笑んだ。それが少し悲痛な物だったことは、仮面に隠れて誰にも見えなかった。

 

━━━

 

遺跡調査から数日がたった。

 

いつもの教室ではいつも以上に騒がしくなっている。その理由は、あの遺跡調査での出来事が大きい。

 

「は!?宮廷魔導士に会ったぁ!?」

 

「マジかよカッシュ!どんな奴だった?」

 

「なんか変な格好だったけど、凄そうだったぜ!なんか歴戦の覇者って感じで!!」

 

「やっぱスゲェな宮廷魔導士って!!」

 

と、そんな身内の噂話を苦笑いでシスティーナは聞いていた。あの事件の全容を知るものとしては聞いていてどう反応していいか困るものだ。

 

「そう言えばリィエル、シン君から何か連絡はあったの?」

 

「ううん、近々ここに戻ってくるってだけ」

 

「なら待ちましょう?どうせけろっと帰ってくるわよ。」

 

小声で会話するのは一応シンシアがあの仮面の魔導士であるという事実は秘密のためだ。だが一応この三人にはすべてを明かしてどこかに行った本人も、ここ数日音沙汰無しだ。

 

「ういお前ら静かにしろー。授業始めんぞ」

 

そんな朝の一時に終わりを告げるように、グレンが教室の中に入ってくる。それに合わせ騒がしかった生徒達も各々の席へと座る。

 

だがそこで生徒達は気がついた。いつもだるそうなグレンの顔が、どこか今日はにやにやといたずら好きの子供のような顔をしていることに。

 

「さて授業を始めていくんだが、急だがこのクラスに副担任の講師がつくことになった。」

 

そのグレンの言葉を切り目に、教室がまたもざわざわと騒がしくなる。

 

「先生副担任なんて他のクラスにはいませんが、何故うちのクラスだけなんですか?」

 

「元々副担任としてどこかのクラスにつくことになってたんだが、なにぶん本人の強い希望でな。このクラスの副担任じゃなきゃいやなんだと」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、質問したギイブルにそう返した。その態度に全員が不審気になる。

 

「ま、俺から話すよりも会った方が早いな。おい!さっさと入ってこい!!」

 

グレンの呼び掛けと共に、教室のドアが勢いよく開かれる。そしてそこから講師用のローブを羽織った人が現れるのだが、

 

その人を見た瞬間、教室中の生徒が息を飲んだ。

 

「えーと紹介に預かりました、今日からこのクラスの副担任を務めさせていただきます、」

 

講師用のローブに片腕だけを通し、もう片方の手を服の内側から出しただらしない格好に、グレンと同じようにニヤニヤとした笑いを浮かべる青年。

 

「シンシア=フィーベルです。久しぶり、皆。これからまたよろしく♪」

 

いきなり登場したシンシアに、全員が口をあんぐりと開けて数秒。その後、

 

「「「えええええええええ!!!」」」

 

驚愕の意味を込めた叫びが、教室内でこだました。

 

クラスに波乱が帰って来た、そんな瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





まさかの講師として学院に戻ってくるとは誰が予想したでしょう?

次回から七巻の内容に入りますが、少しもう片方に力を入れるので投稿が少し遅くなると思います。

気長に待ってくれればと思います。それではまた次回、お楽しみに♪

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