どうぞ!
今回はちょっと短めです...
帰還と遭遇
生徒はほとんど帰りいなくなった夕刻、職員室の傍らには打って変わって仕事で忙しなく動く講師達の姿があった。
あるものは生徒の成績の確認を、またあるものは近々開かれる『社交舞踏会』への前準備を。
そしてそんな職員室の中で、今日ここに配属となった新人講師であるこの俺シンシア=フィーベルはというと...
大きな欠伸をしながら眠そうにその光景を見てます。
本当に眠い、いつも学院でしてた睡眠タイム(別名居眠り)がすべて仕事の時間に今日から変わったので睡眠が足りん...
帰ろうにもまだ俺には一つだけやることがあるのでそれをするまで帰れないのだが、それも後は書類を提出するだけなのだ。だがその提出する人物が待てど暮らせど職員室にやってこない。
(ねよ...)
大きく体を伸ばしたあと、俺は机に突っ伏して眠る体制を整えた。まったくこの机というのは布団の次に眠気を誘う危険物だと思う。ここまで寝心地がいいものを置くとは、寝てくださいと言っているような物だ。
そんな下らない事を考えながら深い眠りにつこうとしたその時、
「おいこら寝るな新人」
「あいてっ!?」
俺の頭になにかが叩きつけられた。伏せていた頭をあげると、そこには待ち人であったグレン先生が目の前にたっていた。
「後輩を教科書で殴るのは先輩としてどうなんすか?」
「職員室で寝てるお前が悪い」
「先生だって来てすぐの時はこんなんだったじゃないっすか」
「それはそれ、これはこれ。」
そんな暴論を振りかざしながら、グレン先生は俺のとなりに腰を掛けた。
「お前の登場のあれはマジで笑えたな。あいつらのビックリした顔は本当に笑いもんだったわ」
「あのためにルミ姉やシス姉にも言わなかったんですから、いやーあれは笑いを堪えるのが大変だったっす」
二人して意地の悪そうな笑みを浮かべながら朝の光景を思い出す。皆俺を見てあんぐりと口を開けているんだ、そんな滑稽な光景見て笑うなという方が無理な話だ。
もちろんなぜ講師なのかという質問は飛んで来た。そこは元から用意していた嘘でどうにかなった。
「宮廷魔導士団に教えを受けてたなんて嘘がよく通ったな。俺なら真っ先に疑うんだが...」
「これが人望の差って奴ですかね」
「どや顔するなうっとうしい」
グレン先生の言うとおりギイブルやウェンディは疑わしげな視線を俺に向けていたが、正式な講師としての証明書を全員に提示して黙らせた。あの面子を黙らせられるほど俺は舌は立ちません...
「しっかしまさか講師でくるとはな...俺も予想外だわ...」
「この方が色々と動きやすいらしいっすよ?あの人曰く」
何がとは明言しなかったが、グレン先生はすぐに俺の言葉の意味を理解してくれたようだ。
ここに俺を講師として送り込んだのは特務分室室長であるイヴ=イグナイトだ。あの女には文句の一つや二つは言いたいのだが、一応俺の上司であり命を救った奴だ。逆らうのは少し忍びない。
「一通り仕事は教えたけど、出来そうか?」
「あ、それなんですけど...」
自分の机をごそごそと漁りながら、一つの書類の山を無言のままグレン先生の机においた。
「えっと...これは...?」
「とりあえず今月分の仕事は全部終わりましたよ。」
「マジで!?」
驚愕の表情で書類を確認していくが、それは全てグレンの指示通りきっちりと完璧に行われていた。
「案外これって楽なんですね。あそこで修行してる方がよっぽど地獄でしたよ?あと仕事って楽しい!!」
「お前の瞬間記憶半端ねぇ...あとお前社畜に片足突っ込んでるぞ?」
そうは言われてもこれが楽しいのだから仕方がない。考えずに言われた通りに書類を作る仕事とか楽すぎる。あと授業を受けなくていいってのも評価高いね、眠いし。
「てことはさぁお前、今月することないんじゃない?」
「そゆことです」
「ふざけんな!!俺なんてまだ山のようにあるんだぞ!!てことで手伝え助手」
「えー嫌ですよ。俺は定時に帰りたいです。久しぶりに我が家に戻るのだ!」
そう言って俺は立ち上がり、職員室をあとにしようとするが驚くほどの早さでグレン先生が俺の足を掴んできた。
「お願いします助けてください!!まじでこのままじゃ俺学校の良い出汁になっちゃう!!」
「うわっ!?ちょ、離してください!大体年下にそんな頭下げて悲しくないんすか!!」
「ふふっ。プライドじゃ飯は食えないんだよ」
「いや自慢気に言うことじゃない...」
なんでこの人はそんなキメ顔でそんな台詞を言えるのだろうか...
あと俺の足を持ってくねくねしないで欲しい。
「オブラートに包んで気持ち悪い」
「包めてねぇよ!本音が完全に漏れてる漏れてる!!」
「ああもう離してください!!」
周りも仕事を一時中断して俺とグレン先生のバカな行いを冷たい目で見ている。そんな中で後輩の足にしがみつく先輩教師、一体なんの絵だよこれ...
「わかったわかりましたよ!今度手伝いますから!だから今日は離してください!!」
「サンキュー!言質とったからな!!絶対だぞ!!」
小躍りしながら喜ぶグレン先生にため息が出ながら、俺は職員室をあとにするのだった。
━━━
グレンside
シンが職員室から出るのを見たあと、俺は机に締まっておいたある書類を取り出した。そこに書いてあるのは今日この学院に配属になったシンの事が書かれている物だった。
「あいつが
その書類に書かれているのはシンが講師になった経緯と年齢や階梯、そして彼の魔術に関してだ。そこで俺が目をつけたのはその魔術の部分。
『錬金術、及び身体強化の魔術を得意としており、
シンシア=フィーベルの固有魔術であり、三属の魔術の色がすべて漆黒であることが由来。本来の黒魔術を昇華した物であり、汎用性が高く、三属の魔術とほぼ同じ効果だが火力は二回りほど高い。』
細かい説明がほとんど記載されてなく、詳しい理論などはまったくわからない。だが俺はあれが何を元にしているかぐらいは想像がついていた。
(多分シンの
シンの新しく得た力。それは確かに強力な物だ。何せあの魔将星の一人を手負いとはいえ、あっさりと倒すほどなのだから。
(けど、あんなのをただの人間がホイホイ使っていいものなのか?強すぎない?チートだチート。)
内心で新しく出来た後輩に毒づきながら、その資料を鞄の中に押し込んだ。
その強すぎる力に、一抹の不安を感じながら。
━━━
シンシアside
大きな鞄を肩に背負いながら夜道を歩く。久しぶりに歩く我が家への道筋に、俺は心を踊らせていた。
何せこの一ヶ月ほどはずっと帝都オルランドの薄暗い部屋で過ごしていたのだ。久しぶりに住み慣れた部屋に戻れ、ふかふかのベッドで眠れるのだ。テンションがあがるのも許して欲しい。
「おー帰って来た帰って来た」
家の扉の前で感慨深く呟いた。もう帰ってこないとも思った我が家にまた来れた事はやはり嬉しい物だ。
そして扉に手をかけ、勢いよく開けようと扉を前に押すと━━━
「あれ?開かない」
何度押しても扉はガチャガチャと音をならすだけで一向に開くことはない。
もしかして、鍵閉めてる?
その事実に気がついた瞬間、背中から冷たい汗が流れ始めた。
今俺はこの家の鍵を持っていない。加えて家のなかにいるであろうシス姉やルミ姉への連絡手段も持ち合わせていない。
つまり、家に入る手段が無いのである。
「うわぁ...どうしたらいいんだよこれ...」
普段使わない頭をフル回転させながら策を練る。ついにここまで来たのだ。ここで回れ右は出来ない。ふかふかのベッドのために!!
「窓どっか開いてるか?」
ふとそう思い、少し家から離れて全体を見るとちょうど俺の部屋の窓が開いていた。
「あそこから入るしかないか...」
宮廷魔導士でありながら魔術学院の講師である俺が、家に窓から入るのもどうかとは思うが背に腹は代えられない。
鍛え上げた脚力にものを言わせて大きく飛び、家の屋根に足をのせる。そしてそのまま出来るだけ早く開いている窓の元へと走る。こんな光景をご近所に見られたら、俺は盗人と思われても仕方がない。出来ればそれだけは避けたい所だ。
(うし、あとはここにいるシス姉かルミ姉を呼んで入れてもらえれば...)
これで万事解決と思いながら、俺が窓の冊子に手を伸ばすと━━
急に背中に悪寒が走った。
「っ!?」
反射的に後ろに飛ぶと開いた窓から何かが現れた。辺りが薄暗いせいでよくは見えないが、きらりと一瞬光ったのを見てそれが刃物であると即座に理解した。
少し距離窓から距離を置いて屋根に手を触れ、使いなれた刀をすぐに錬成して構える。
(天の智恵研究会の輩か!?くそっ!こんな簡単に家に入られてるなんて...とりあえず窓の近くのやつを倒してすぐにルミ姉達の元へ━━)
そこまで考えたそのとき、月明かりが窓の辺りを照らした。
「へ?」
薄暗い場所に光が灯った事によって窓から出ていた刃物の全容が把握できるようになると、俺はさっきまでの緊張が体から抜けた。
何故なら、それは見慣れた青色のミスリルの大剣。それを使う人に俺は大いに心当たりがあった。
少しボケッとしていると、予想通りの人物が窓から顔を出した。
「なんだ、シンだったんだ。ビックリした」
「それはこっちのセリフなんだけどリィエル。」
ひょっこりと顔を出したリィエルは、いつものように眠たげな目でこちらを見ていた。本当に危なかったぞ?その大剣刺さるところだったんですけど...いやそれより...
「なんでリィエルが俺の部屋にいるんだ?」
「ん、私が今ここに住んでるから」
・・・・・・・・・・・・?????
おかしいな、俺の耳がおかしくなったのか?なんだか今リィエルが俺の部屋に住んでいるって聞こえた気がしたんだけど...
「それで、なんでリィエルは俺の部屋にいるんだ?」
「だから、私が今ここで住んでいるから」
聞き間違いでもなんでもなく、リィエルの口からそうはっきりと告げられた。
俺はそれを聞くとフッと微笑み、リィエルから視線を外して空に出る月を見た。
そうか...リィエルは今俺の部屋で住んでるのか...そうかそういうことか...
「ってなるわけないだろぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
俺のそんな驚愕の思いを込めた叫びが、フェジテの町にこだました。
そんな俺の悲痛な叫びを、リィエル首をかしげて見ていた。
七巻と言いながら内容には一切触れない駄作者を許して...