最後にその手が掴むもの   作:zhk

34 / 51

前回は短かったですが、今回は長めです。

それではどうぞ。


人の悪い上司って嫌われるよね

歩く。ただ歩く。

 

そこは何もない空間。人も、物も何もない、真っ黒な空間を俺はただひたすらに歩く。

 

いや、何もないというのは撤回しよう。

 

『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしシネシネシネシネシネシネシネ』

 

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

 

俺と、この醜悪な罵詈雑言だけがある空間というのが正解だろうか。

 

その声は酷く割れており、まるで幾人もの声を掛け合わせているかのような声だったが、そんな事を気にせずに歩き続ける。

 

これは夢だ。

 

現実に起こっていることではない。これはただ、今の俺を表したかのような夢なだけだ。

 

この声の主は、俺がこの体に秘めた龍としての因子。絶対に適合するはずのないそれらは、何故か俺の体には馴染んだのだが、その代わりにこんな頭がおかしくなりそうな声を夢で聞くはめになった。

 

(ま、慣れればこんなの別にって感じなんだけど)

 

一ヶ月もこんなのを聞き続ければ嫌でも慣れてくる。慣れるのも異常なのかもしれないけど、そこは俺が元からおかしいのだろう。

 

(それにこの程度なら、あの一ヶ月の方が地獄だったからどうってことないな。)

 

自嘲気味な笑みを浮かべながら、響き渡る罵詈雑言を聞き流しながら歩み続ける。

 

すると、目の前に突然扉が現れた。木製と思われるその扉は酷く傷んでおり、少し力をかければ壊れてしまいそうな程だ。

 

その扉が現れたことを確認すると、俺は迷いなしにドアノブに手をかけて扉を開いた。

 

扉を開けたのをトリガーに、目に見える景色が変わる。黒い空間であるのは変わりないのだが、目の前には大きな砂時計が一つ。

 

見た目は至って普通の砂時計なのだが、それはもうきちんと時を計れていない。上部は至るところにヒビが入っており、そこから砂が流れてしまっている。下部に見える砂の量と上部にある砂の量は同じぐらいで、それ以上の量の砂が砂時計の周りに広がっていた。

 

「おーまだこんぐらいあるのか。」

 

砂時計の残りの量を見ながら、俺は一人そう呟いた。そんな事を呟くと、砂時計からピキっと嫌な音が聞こえたと思うとまた小さなヒビが増えた。

 

「あんま余裕ぶってもられないってわけか...」

 

神妙な面持ちになると、砂時計の周りに広がる砂の山に手を伸ばす。

 

金色に輝く砂達は、俺が手を伸ばすとその輝きを一層強くしほんの少し、本当にほんの少しだけ消えて代わりに俺の体が一瞬金に光った。

 

「これでよしっと...」

 

やることを終えると、俺の視界がグニャリと歪み始めた。目が覚め始めているのだ。

 

「出来れば......」

 

そんな消えかかる意識の中、

 

「少しでも長く...」

 

呟いたその言葉は、最後まで紡がれる事はなく━━

 

新しく体の横から感じた違和感に眉を潜めた。

 

「ん?」

 

閉じた瞼を開くと、そこに燦々と光る太陽の一閃が俺の眼球を貫く。その光に少し顔をしかめるが、それよりも気になるのは俺の体の横から感じる違和感。

 

その違和感の方向へと目を向けると...

 

「すぅ...すぅ...」

 

気持ちよさげに眠る無防備なリィエルの姿。

 

それを確認すると俺は一度目を背けて体を起こし、大きく息を吸い込んで━━━

 

「なに人のベッドに潜り込んでんだぁぁぁぁ!!」

 

「あいたっ!?」

 

作った握り拳をリィエルに振りかざしながら、自分の心から思うことを猛々しく叫んだ。

 

日常が、また騒がしくスタートを切った。

 

━━━━

 

「なぁリィエルさんや、俺ここ最近ずっと言ってるよね?俺のベッドに無断で入ってくるなって」

 

「むぅ、シンの隣がよく寝れるのが悪い」

 

「ちょっと待て、それは俺が悪いのか?」

 

並びながら歩くリィエルとそんな会話をしながら、俺達はテーブルを抱えて歩いていた。

 

今学院内は、三日後にまで迫った伝統行事である『社交舞踏会』のためたくさんの生徒や講師が忙しく働いていた。そんな中リィエルと俺は荷物運びの係として、テーブルを運んでいる。

 

それをタワーのように積み上げながら。

 

「大体お前は俺の部屋を占領したんだから十分だろ?それなのに俺がこっちに戻ってきてから毎回毎回俺のベッドに潜り込んで来やがって...」

 

「だってシンの隣が私の居場所だから」

 

「それ意味少し間違ってる...いや少しじゃないのか?」

 

俺はそういう物理的な場所を作った訳じゃなくて...いや言ってもリィエルが理解しなさそうだ。

 

二人揃って山となった抱えられたテーブルを微動だにせずに歩く俺達を、周りは驚いた風に見ているが別段気にしない。

 

だってこれくらい鍛えたら誰にでも出来るんだから。これをさっきグレン先生に言ったら、何故かアホ認定されてしまった。解せない...

 

ここで、何故リィエルが俺の家に居候していたのかという事について言及しておこう。

 

リィエルは元々アパート住まいだったのだが、どうやら結婚騒動のゴタゴタや精神的に参っていたりとしていたことが重なり、なんと家賃を払っていなかったのだ。

 

そのため案の定アパートを追い出されたのが遺跡調査のすぐあと。家が無くなったリィエルをあわれに思ったのか、シス姉とルミ姉がフィーベル家の居候として引き入れたという事らしい。

 

うん、色々突っ込みたい所はあるけれどし始めたらきりがないのでそこは割愛。精々『やっぱりリィエルだな』ぐらいだ。

 

まぁそこは俺としても別によかったのだ。三人から四人になって家もより活気がつくだろうし、リィエルも仲のいいシス姉やルミ姉と一緒にいたいだろう。そこは素直に納得する。

 

だが問題は今朝のような事がここ最近毎日あることだ。

 

俺が起きるといつも隣にリィエルがグースカと寝てる。何度注意しても『シンの隣が私の居場所』の一点張り。それもそれを言ったのが俺なのだから、そこまで強く言えず...

 

(今度扉に鍵を閉めとくか?いや、遠征学習の時扉壊してたよな...甘んじて受けるしかないかぁ...)

 

これがカッシュとかなら役得だぜ!とか言って喜べるのだろうが、残念ながらその手の類いの話で俺はあまり喜べない。むしろ恥ずかしい。

 

(しっかし一応俺今この学院の講師だよな?その講師が学院の生徒と同じベッドで寝てるって...文字にすると犯罪臭がすごいな...)

 

そんな一人で自問自答していると、机を運ぶ場所にたどり着いたので俺達はそこに大量の机を置いた。ドンっ!とかなり大きな腹に響くような音がなったが、まぁ問題ないだろう。多分。

 

「シン、次はどうするの?」

 

「そうだな、この後は確かシャンデリアを運ぶから大講堂の方に行くぞ」

 

「ん、わかった」

 

今日の職員会議で渡された準備の行程表を講師用のローブの懐に直し、俺は大講堂へと歩き出す。その後ろをついてくるようにリィエルが歩く形だ。

 

周りがそんな俺達を好奇の目で見る輩が結構いるが、そこは気にしない。大体俺達はそんな関係じゃないし、今は前までのように級友ではなく講師と生徒の関係だ。そんな恋愛ごとがあっては俺は即解雇、任務なんてやれなくなる。

 

「なんでこう、人って色恋沙汰には敏感なのかね?」

 

「なんのこと?」

 

「いんや。なんでもない」

 

リィエルに何か言ってまた口を滑らせてはたまったもんじゃない。ここでリィエルに深く言うのはやめておこうと決意した時、周りから好奇の視線とは違った物を感じた。

 

その視線の発生原に目をやると、そこには俺達のように荷物運びを行っている作業員の姿。だが少し目を凝らしてみると━━━

 

(アルベルトさん!?)

 

目深に被る帽子の下からギラギラとした目をこちらに向けていたのは、俺の同僚となってしまったアルベルトさんだった。用務員の服装には少し笑いそうになるが、それをどうにか堪えて少し体を動かし会釈する。

 

するとアルベルトさんは顎で俺についてくるように促した。さらによく見ると、アルベルトさんの先をグレン先生が歩いている。

 

どうやら何か話があるようだ。

 

「悪いリィエル、俺ちょっと仕事があるのを思い出したわ。だから大講堂には一人で行ってくれ」

 

「わかった」

 

リィエルの返事を聞くと、俺はアルベルトさん達が歩いていった先へ小走りしていった。

 

(ていうかアルベルトさん、あの格好は恥ずかしくなかったのか...?)

 

本人に聞けばまた睨まれそうな事を内心考えながら、俺は足を止めずに走っていくのだった。

 

━━━

 

合流を終えたあと、アルベルトさんから伝えられた事は俺とグレン先生の目を見張らせるには十分過ぎた。

 

「『社交舞踏会』に乗じた、『ルミア暗殺計画』だと!?」

 

「ちょっと待ってください!?あいつらはルミアから手を引いたんじゃないんですか!?」

 

「落ち着け、状況が変わったんだ」

 

かなりの剣幕でアルベルトさんに問い詰める俺とグレン先生だが、それをアルベルトさんは冷たくあしらう。そしてその理由を説明していった。

 

このルミ姉暗殺計画を考えているのは、やたらとルミ姉を狙ってきた天の智恵研究会だ。だが、それも今ではほとんど鳴りを潜めておりルミ姉を狙うのをやめたのだと判断していた。だがアルベルトさんが言うように、状況が変わった。

 

元々天の智恵研究会は二つの派閥に割れている。古参のメンバーを主とした『現状肯定派』、そして新参のメンバーを主とした『急進派』の二つだ。

 

この『急進派』と『現状肯定派』ではルミ姉に関して目的が違う。『急進派』は殺害を、『現状肯定派』は確保だ。派閥内でも抗争を繰り広げていた両者だが、先の白金魔導研究所の一件の影響でその派閥争いも収束していたのだが、それを『急進派』は否定した。

 

そして、ルミ姉を暗殺する等という暴走に出たということだったのだ。

 

「んな派閥争いのせいで、ルミ姉は命を狙われるって訳ですか...糞だなあいつら」

 

「あんな奴等を理解しようとする方が無理な話だ。」

 

吐き捨てるように言った俺の言葉にグレン先生も同調したかと思うと、アルベルトさんに背を向けた。

 

「待て、何処へ行くつもりだ」

 

「決まってんだろ。この事実を学院に伝えて『社交舞踏会』を中止にしてもらう。人の命が狙われてるってのに悠長にんなことしてられるか!」

 

と言ってグレン先生が足を一歩踏み出したその時、

 

グレン先生の目の前に巨大な円柱が吹き出したのだ。

 

「「なっ!」」

 

グレン先生は直ぐ様後ろに飛び、俺は臨戦体勢を取ろうとするが今目の前で起きた魔術に見覚えがあった。

 

「駄目よグレン」

 

だからこそ、そこに現れた第三者にはさほど驚かなかった。

 

グレン先生と同じ年くらいの女性で、真紅の髪を三つ編みに束ねてサイドテールにしている。その顔は美しいが、どこか人を愚弄するような笑みと目をしていた。

 

帝国宮廷魔導士団の礼服を身に纏ったその女性は、俺を特務分室へと引き入れた張本人であり俺が嫌いなタイプの人間。

 

「てめぇ...イヴ!」

 

「久しぶりね、グレン。会えて嬉しいわ」

 

「俺は顔すら見たくなかったがな!!」

 

そこに現れたのはグレン先生の元上司であり、俺の現上司である特務分室室長、執行官No.1の《魔術師》のイヴ=イグナイト。イヴはその高飛車な態度を崩さずに、グレン先生と視線を交わす。

 

特務分室に入り、この二人の間に一体何があったのかは知ることが出来た。

 

昔のグレン先生の大切な人であった、特務分室のメンバーを囮に使ったのだ。その采配の影響でそのメンバーの女性は死亡したのだという。これを機にグレン先生は特務分室を辞め、講師となったそうだ。

 

「確かに私も采配ミスをしたことは事実だわ。優秀な手駒であるセラを失い、あまつさえジャティスを取り逃がしたのだから。まぁ別に構わないわ、より強力な手駒は手に入ったのだから。ねぇ?」

 

俺に視線を向けてそう聞いてくるが、俺としてはこの女とは会話もあまりしたくないので目を背けるだけ。

 

それを見ると、イヴは嘲笑うかのような微笑を浮かべたあと話を進めていく。

 

「そんな事は今はどうでもいいわ。この度私達は『社交舞踏会』の裏で、密かに連中を迎え撃つわ」

 

「ふざけんな!」

 

さすがに聞き逃す事が出来なかったのか、グレン先生は食って掛かる勢いでイヴに怒鳴り付けた。

 

「学院には無関係の人間が大勢いるんだぞ!そんな奴等を巻き込んじまう事はどうとも思わねぇのか!?」

 

「それがどうしたというのよ」

 

平然とそんな事を口にするイヴに、俺は嫌悪感を隠しきれなかった。

 

こいつは人を道具としか見ていない。どんな人間も、自分の成功のためならば平気で切り捨てごみのように捨てられる。そんな女だ。

 

その考え方は、俺の目指す正義とは完全な真逆。だからこそ、俺はこの女が命の恩人といっても好きになれない。

 

「ごく最近この組織は動きを変えたわ。奴等の狙いである禁忌教典(アカシックレコード)とやらに関わる計画のフェーズが次の段階に移ったことは間違いないわね。だからこそ、これ以上奴等の好き勝手にさせるわけにはいかないのよ」

 

さも当たり前と言わんばかりに語るその話は確かに正しいだろう。それが他にたくさんの人の命を掛け金として差し出さなければ。

 

「確かに天の智恵研究会をほっておく気はねぇ。だがお前らの話を聞く気もない。俺は今からでも━━」」

 

「学院に話をつけるとでも?悪いけどこの話を部外者にするというなら、私はあなたをここで始末しなければならないわ」

 

「へっ。やれるもんなら...」

 

グレン先生は懐から愚者のアルカナのカードを取り出して【愚者の世界】を起動した。

 

「やってみろ!!」

 

その掛け声と共にイヴへと殴りかかる。だがそれは悪手だと理解出来るほどグレン先生は冷静ではなかった。

 

イヴが策にかかったグレン先生に冷ややかな笑みを浮かべたのが、俺の目に入った。

 

━━━

 

グレンはこの時勝ちを確信していた。

 

グレンの固有魔術(オリジナル)である【愚者の世界】は、一定範囲内の魔術の起動を完全に封じる。その先手必勝を常としてきたグレンの奥の手が発動した以上、イヴには抵抗する術はないからだ。

 

だがその慢心が、グレンの身を食らうこととなる。

 

突貫するグレンの前と左右に炎壁が立ちふさがった。

 

(しまった!?眷族秘呪(シークレット)【第七圏】か!!)

 

眷族秘呪(シークレット)とは、固有魔術(オリジナル)の一つでありその血族が先祖代々伝えて強めていく事が可能な物の事を指す。

 

そしてイヴの眷族秘呪(シークレット)である【第七圏】とは予め指定した領域内であれば、魔術行使に必要である過程の『五工程(クイント・アクション)』を完全省略出来るという物。使える魔術は炎熱系のみになるが、それでもその強さは尋常ではない。

 

さらにこの【第七圏】はこの領域に張った時点で魔術として完成する。そのため魔術の起動を封じるグレンの【愚者の世界】は機能しない。

 

(くそっ!避けられねぇ...)

 

突如として現れた炎壁に勢いをつけたグレンが避けられる筈もなく、身を焼く炎に少し怯んだその時、

 

一つの銃声と共に、グレンの目の前の炎が消え去った。

 

「なんのつもりかしら...シンシア」

 

グレンが驚愕を口にするよりも早く動いたのは、グレンの隣を睨むように見るイヴだった。グレンはその視線の先を見ると、そこには拳銃を構えるシンシアの姿。

 

その銃はグレンの愛用するリボルバー型のペネトレイターと違い、弾を一発しか込められない猟銃型の拳銃。その銃口から上がる硝煙から、今の銃声がシンシアによる物なのだと理解するのにさほど時間は必要なかった。

 

「学院で暴れるな。これ以上は看過出来ない。」

 

「私に逆らって勝つつもり?」

 

「この弾丸があんたにとって天敵なのはあんたも理解してるだろ。それにグレン先生の【愚者の世界】も起動済みであんたは魔術を発動出来ない。勝算は十分にあるんじゃないか?」

 

その言葉にイヴが少しだけ眉をしかめるのがグレンにはわかった。理解すると共に驚愕もした。

 

(まさか、今の一発で【第七圏】が無効化されたってことか!?)

 

この領域内であれば、シンシアと言えどイヴに太刀打ち出来ないだろう。だがそのイヴに反撃する素振りはなく、逆に劣勢に追い込まれたようにも見えた。

 

その理由として、グレンには【第七圏】が無効化されたと予想するには十分過ぎるほどだった。

 

「この作戦は聞けない。俺はこのまま先生と一緒にこの情報を学院に知らせる。俺の事をおおっぴらにするならしてもいい。それでも俺はこの考えを改める気はない」

 

少し拙い動きでリロードを完了させると、シンシアはイヴに強い口調でいい放った。第三者から見れば、完全にシンシアの有利な状況にしか見えない。

 

だが、そこでイヴがしたのは呆れるようなため息だった。

 

「まったく、面倒な駒ね。ならこちらもカードを切ろうかしら」

 

「カードだと?」

 

未だに臨戦体勢を解かないグレンが、息吹かしむように聞き返した。

 

「学院に入ってから、リィエルは随分と楽しそうね?少し見ないうちに人間らしくなったじゃない...作られた人形のくせに(・・・・・・・・・・)、ね」

 

「「っ!?」」

 

そのイヴの言葉に、グレンとシンシアは動揺を隠せなかった。その言葉は、イヴがリィエルの真実を知っている事を意味するからだ。リィエルの事は帝国政府側の人間ではシンシアとアルベルトしか知らないはずなのに、だ。

 

「私の情報網を使えばこの程度造作もない、と言いたいけれど残念ながらこれでも骨が折れたわ。アルベルトの隠蔽工作は確かに完璧だったわ。けれどグレン、貴方には穴があった。そこをつかせてもらったわ」

 

「くそっ...俺のミスか...っ!」

 

自分の失態にグレンが歯噛みするも現状はするか変わらない。さっきまでの優勢ムードが一変、シンシア達は一気に窮地に貶められたのだ。

 

「さて、貴方達が学院にこの作戦を流すのなら、リィエルの正体を上に報告するのもやぶさかではないわ」

 

「てめぇ...!!」

 

グリップを握る力を強めながら、シンシアは怒りに顔をしかめる。今にでも殴りかかりたいが、そんな事をしてしまえばリィエルの正体がおおっぴらになってしまう。

 

「『Project:Revive Life』の世界初の成功例。そんな彼女を標本にでもして献上するのは、それはそれで戦果になると思わない?」

 

シンシアは怒りの形相で拳銃をイヴに突きつけるが、引き金を引くことは出来ない。決壊しそうな怒りを、残る理性が強引に押さえ込んでいたのだ。それを理解しているイヴは、余裕の表情のまましっかりとシンシアを見る。

 

「ちっ!!」

 

諦めたのか拳銃を圧縮冷凍して懐に直した。どうにかこの作戦を止めたいグレンとシンシアだが、リィエルを人質にとられた時点でどうしようもない。

 

「そうよ、犬は犬らしく主の言うことを聞いていればいいのよ。それと、残り少ないのだから(・・・・・・・・・)行動には気を付けることね」

 

「......」

 

シンシアはイヴを一瞥すると、ふんっと鼻を鳴らして壁にもたれ掛かった。グレンももう抵抗の意思はないのか、イヴを射ぬかんとばかりに睨むのみ。そんな二人の態度に満足なのか、イヴはくすりと笑う。

 

「さて本題に入ろうかしら。『社交舞踏会』に参加する王女の暗殺を狙う敵組織外道魔術師を押さえる策をね。」

 

不敵に笑うイヴに、シンシアもグレンも何も返す事が出来なかった。

 

 

 





シンが使った弾丸ですが、あれはこの章でしっかりと説明するので今はばらしません。

それでは次回をお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。