ちょっと間が開いたのは許してください。ゆゆゆの方が区切りまで進めたかったんです...
あんまり進みませんでしたが、とりあえずどうぞ!!
『社交舞踏会』とは、本来狭いコミュニティに納まりがちな生徒達の交流のために企画された物なのである。他校生徒や来賓、果ては学院の卒業生までもが顔を出す事を鑑みると、その狙いは自ずとわかってくるであろう。
だからこそ、この行事は軟派なイベントではないのだが...
「ルミア、今度のダンス・コンペで俺と踊れ」
まだたくさんの生徒がいるなか、グレンがルミアに俗に言う壁ドンをしながら語りかけている光景がその場にいる生徒のほとんどの目に入っていた。
もう一度ここに書いておこう。このイベントは軟派な物ではない。だがそれでも思春期真っ盛りの生徒達からすれば、女子と手を取りながらダンスを踊れるこの機会に胸を踊らせないはずもなく、たくさんのカップルがダンスへ向けて練習するのが実態だ。
だがそれでも、講師が生徒をダンスのパートナーに誘うなどは異例中の異例なのだ。それを絶賛グレンは行っているのだが。
「えっ...あの...先生?」
いつもはどんな状況でも冷静に、落ち着いて対応するルミアでもさすがにこれは困惑を隠せないようで、視線を色んな所へ向けている。
ルミアの周りにはその二人の光景に驚きを隠せないと言わんばかりにあんぐりと口を開けるシスティーナ、眠そうに見るリィエル、グレンの行動の意図が読めない生徒達だ。
たった今グレンとルミアにすべての視線が集まっているのは最早言わずもがなだろう。
「お前の意思は知らん。お前はただ俺の申し出を受け入れるだけでいい」
耳元で囁かれるように言う吐息にビクッと肩を震わせ、頬が蒸気していくのがルミア自身もわかってしまう。なぜこうも今日のグレンが強引なのかはルミアにはわからなかったが、どうにかこの状況から逃げたい一心だ。
「シ、システィ...」
「よ、よよよよよかったじゃないルミア!せ、先生と踊りたかったんでしょ!はは、ははははははは...」
まるで壊れたレコードのような笑い声を出しているシスティーナはルミアに助け船など出せるはずもなく、ただその光景をぼけーと見ているリィエルは話にもならない。唯一こんな状況を打開してくれそうな銀髪の弟分は、今この場にはいない。
「別にお前も問題ないだろ?あの曰く付きの魔法のドレス、『
『
それはこの『社交舞踏会』に行われるダンス・コンペの優勝者にのみ着ることが許されるドレス。あまりの美しさに、着たものを妖精と思わせるそんな幻想的なドレス。
この学院に通う乙女であれば、誰もが着たいと願うそのドレスをルミアも着てみたいとは昔から思っていた。だが、このドレスにはあるジンクスがある。
曰く、『
システィーナがグレンの事を少なからず思っていることを察知しているルミアにとって、それは親友に少し悪いとは思いつつも、心のどこかで子供の頃から憧れていたドレスを着てみたいという思いがせめぎ合う。
だが心が答えを出すのを、グレンは待ってはくれなかった。
「言っておくが、逃がすつもりはねぇぞ?」
少し強い口調で荒々しく言うグレンの迫りに、ついに混乱してまともに思考が出来なくなる。システィーナへの遠慮も、グレンを拒むことも出来ずに、
こくんとその真っ赤になった頭を縦に振るしか出来なかった。
この学院でもトップのガードの固さを誇っていた天使ルミア=ティンジェルが落ちた瞬間であった。
「うし!じゃあよろしくなルミア!まぁ元から俺とルミアのペアで申請しちまってるんで、拒否権はなかったんだけどな!」
朗らかにそう言うグレンを、まだ顔の熱が収まらないルミアは少し申し訳なさげにシスティーナへと謝った。
「ご、ごめんシスティ...」
「な、なんでルミアが謝るのよ!わ、わわ私は別に気にしてないし!そ、そそそそもそも元からあなたと先生をペアにしようと考えてたんだから!ほんとよ!!」
早口でまくし立てるシスティーナに、さらに申し訳なさが込み上げてくる。
「そ、それより!なんでルミアなんですか!?それにこんな強引...まさか、先生本気でルミアの事を!」
「......ふっ、んなの決まってんだろ?」
システィーナが今度は顔を赤くしながら詰問したのに、グレンはにやりと笑うと、
「金だよ金!!優勝すりゃ出るんだよ賞金がな!!そのために俺は是が非でもこのダンス・コンペで優勝しなきゃならねぇんだよ!!!」
そんなド屑な発言を講堂に響かせた。
「やっぱりそんな事だと思った...最低ですね!」
「おやおやぁ?自分にパートナーが出来ないからってひがん出るのかぁ白猫ちゃんよぉ?仕方ないな、俺が誰かクラスの奴に声をかけて━━」
システィーナの本人すら知らない真意をグレンが知るはずもなく、いつものように小馬鹿にするような発言をすると、
システィーナの額に青筋がたった。
そして左手に膨大の魔力を込めて。
「この《バカ》ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うげぇぇぇぇぇ!!」
全力のシスティーナによる風の魔術がグレンを襲い、宙に浮いたかと思うとすぐに固い床へとその体を打ち付けた。
「あが!?背中痛っ!!!」
「ホンット最低ですね!!軽蔑します!!」
指を指しながらギャーギャーと叫ぶシスティーナを、ルミアは先ほどとはうって変わってとても冷静に苦笑をこぼすしかない。システィーナが焦った分、自分が冷静になれたのだろう。
と、そんな二人に注意を引かれていたルミアに、まったく予想していない方向から声が聞こえた。
「リィエルちゃん、俺とダンス・コンペで一緒に踊ってくれないかな?」
それは眠たげにグレンとルミアを見ていたリィエルの方向から。リィエルに視線を戻すと、そこには何人かの男子生徒が彼女に詰め寄っていた。
彼らの目的も勿論、ダンス・コンペのお相手探しである。
(およ?リィエルにもお誘いが来てたのか...まぁあいつも結構可愛いそれもそうか)
痛むからだを起こしてその光景を見たグレンはしみじみとそう思った。そして彼女の答えに気になっていると...
「嫌」
興味もなさげに目の前にやって来ていた数人に、そう告げた。
「え、えっと...理由を聞いてもいいかな?」
リィエルに寄ってきた男子生徒はどれも顔は整っているが、なかでも特にイケメンの部類に入るであろう青年はリィエルに笑顔で尋ねた。それがグレンには、『なんで俺を選ばないんだよ!』と内心思っているとしか聞こえないので、少し顔をしかめる。
「もう決めてるから」
「「「は?」」」
そのリィエルの言葉に、周りは色んな意味が籠った『は?』を言った。
一つはダンス・コンペに参加する気だったんだということ。
もう一つは...
「「「えええええええええ!!誰!?誰!?」」」
そのリィエルのお相手だった。辺りにいる生徒、それこそさっきまでグレンに罵声を飛ばしていたシスティーナも意識が完全にそっちに向く。いつもは理論づくしなのだが、内心は乙女なのだ。人の恋愛模様にはやはり興味がある。特に親友のものならばなお一層だろう。
「誰だと思う?」
「あの人をふったって事はきっと相当カッコいい人なんじゃない?」
「そんな...リィエルちゃんも落ちてただなんて...」
「一体どこのどいつだ!リィエルちゃんのハートを盗んだ輩は!!」
講堂内がある種のカオスと成り代わり、学院でもそれなりに名前が知られているリィエルの狙うダンスのお相手について話に花が咲き始める。そんな講堂の中には二年次生二組の生徒達も混ざっている。
「誰だと思うセシル?」
「そうだね...僕もわからないよ」
「同じクラス?はたまた学年も違うとか?」
カッシュやセシル、カイにロッドという男子陣もその話で持ちきり。最早準備なんて二の次である。
講堂内がある種のカオスと化し、収集がつかなくなるんじゃないかとグレンが思ったその時、講堂の扉が勢いよく開かれた。
「すんませーん遅れましたってあれ?全然進んでなくない?」
そこから現れたのは、グレンが今は着ていない講師用のローブに片腕だけを入れ、反対側を服の内側から出したようなテキトーな格好をしたシンシアだった。
「おっかしいな、準備はそろそろ終わる頃だと思ったんだけどなぁ...」
自分が来る前に何が起きたなんて知らないシンシアはのんきに懐から準備の手順が事細かに書かれた書類を取り出し、それに目を通し始めた。
そんなシンシアの姿を見るなり、数人の男子生徒に囲まれていたリィエルは、その間を縫ってシンシアの方へと歩いていく。
「ん?リィエル?どしたんだ一体━━」
シンシアが書類から視線を上げて怪訝な目になりながらリィエルに何かを尋ねようとするが、それよりも先に...
リィエルが両手をシンシアへと突き出し、シンシアの後ろの壁に当てた。
それは文字だけにすれば、グレンがルミアに行った壁ドンなのだが今回は色々と決定的に違う。
やる側の性別が逆である事も一つだが、なによりリィエルよりも十センチほどシンシアの方が身長が高いためまったく動きを封じられていない。
だがいきなりのリィエルの奇行に、シンシアは困惑して動きが止まる。そんなシンシアにリィエルは言う。
「シン、今度のしゃこうぶとーかい?で私と踊ろう?」
「へ?別にいいけど...」
反射的にシンシアはそれを了承すると、リィエルは静かにシンシアに背を向けてまた元の場所に戻ろうと歩き出す。
その位置は丁度シンシアからリィエルの表情が見えない。だがその代わり、シンシア以外のその場にいる者は見たのだ。
満足げにほんの少しだけ口角をあげて、喜んでいるような表情になっているリィエルを。
そんなリィエルと、未だに状況がよくわかってないシンシアを周りの者達は交互に見たあと、
「「「「お前かーーーい!!!!」」」」
「いや何が?」
全員のそんな叫びも、シンシアは首をかしげて困惑するしかなかった。
━━━
シンシアside
と、言う出来事があったのが昨日のこと。
授業がすべて終わった放課後に、俺とルミ姉、シス姉とリィエルは学院の中庭に来ていた。
ここに来た目的は、ダンス・コンペに向けてのダンスの練習である。元より俺は参加する気はなかったのだが、何故かリィエルがかなり乗り気になっているようなので、俺もその流れに乗って参加する事となったのだ。
「いいですか?『社交舞踏会』のダンスはシルフ・ワルツの一番から七番で、これはとある遊牧民の戦舞踊を宮廷用にアレンジしたもので━━━」
参加しないシス姉がグレン先生に熱弁を奮っているが、グレン先生はどっからどう見ても話を聞いていない。
(けど確かにこれはいい策だよな...)
グレン先生の本意を理解している俺からすれば、この策が最も目的を達成するのに適しているだろう。
社交舞踏会に乗じた、ルミ姉の暗殺。グレン先生はそれからルミ姉を守るためにルミ姉とダンス・コンペに参加するという手に出た。これをすれば、当日はグレン先生以外の男性はルミ姉に近づきにくく、さらに自然に護衛の仕事もこなすことができる。
さらに二人が目立てば天の智恵研究会の暗殺はより困難になり、こちらが有利に働く。まさにこの状況下での最善策なのだが、俺はあまり釈然としなかった。
(結局はあの高飛車の想定通りになってるのが気に食わねーな。ほんとああいうタイプの人間マジで嫌い)
内心で自分の上司に毒づいた。それも貴重なあれを一発使わなきゃならなくなるなんて割りに合わない。本当にあれは貴重なのに...
(ま、考えてもしゃーないか。)
暗い思考を振り切ると、丁度シス姉がグレン先生が全然話を聞いていない事に気がついたようだ。
「ちょっと先生!聞いてるんですか?」
「はいはい聞いてますよ~。でも学生のお遊びレベルだろ?その程度で俺が負けるはずねーよ」
珍しくいつものテキトーな自信ではなく、心からの自信を言ったグレン先生に俺が目を見張るがシス姉はそうとは気がつかなかったのか、逆にそんなグレン先生の態度が気に入らなかったらしく...
「なら、私をエスコートしてもらおうじゃない」
「別にいいぜ?やってやるよ」
と売り言葉に買い言葉で二人が踊ることが決定した。
「なぁルミ姉、シス姉はただグレン先生と踊りたかっただけじゃ...」
「ははは...多分そうだね...」
相変わらず素直じゃないな、どうせ内心先生を見返せるとでも思ってるんだろうなぁー。
我が姉ながら、なかなかに面倒な奴である。
だけどまぁ...
鼻を明かされるのはシス姉の方になりそうだけど。
━━━
結果から言って、グレン先生のダンスはかなり凄かった。いつものだらけきった姿からは想像出来ないほどの力強いリードに、シス姉はただただ翻弄されていくのみ。
優雅とは言えないが、とても情熱的だと俺は感じた。そのダンスは周りの生徒達の注目の的となるほど。
「どーだ!俺もなかなか出来るだろ?」
「凄いです!先生がここまでダンスが出来るなんて!」
「昔やってたんですか?」
ルミ姉が感嘆の声を、俺が純粋な質問を言うとグレン先生はダンスを踊って気分が良くなったのか上機嫌に答えた。
「同僚にダンスにうるさい奴がいてな、そいつにしごかれたんだよ。あれに比べりゃこんなの楽勝だわ」
よほど余裕があるのか欠伸をしながら、腰に手を当てて近くの草むらに腰を下ろした。
「さーて、今度はシンが踊ってみろよ。俺がここまで踊ったあとでやれるならな!!」
「えー、まぁやりますけど...」
あんな物を見せられた後はやりにくくて仕方がない。でもまぁ周りもそれをご所望なのは視線で大体わかったので、俺はリィエルを連れて中庭の中央へと足を進める。
「リィエル、さっきのシス姉とおんなじような感じで頼めるか?」
「ん、わかった」
リィエルに手を差し出し、それをリィエルが取ると音楽が流れ始める。
さてと...ほんじゃやりますか。
俺はスイッチを切り替えて、耳を研ぎ澄ました。
━━━
周りにいた生徒やグレンは、皆シンシアはあまりこういう類いの物は苦手としていると予想していた。
シンシアの性格は社交会よりも闘技場を好むようなタイプなので、ダンスの経験はほとんどないのではないかというのがこの場にいる者の総意だった。
そしてそんな風に皆が見ている中、曲に合わせてダンスが始まり...
シンシアが優雅に、そして優しくリィエルをリードした。
「「「え!?」」」
全員が目をひんむき、そのダンスに驚いた。
それはグレンの物とは対照的な、優雅で品のある物だった。一つ一つのステップが完璧に踏まれ、ほんの少しの所作にさえ品格を漂わせていた。
(なんじゃこりゃ!?潜入任務で社交界には行ったことあるけど、ここまで綺麗なダンスは見たことねぇぞ!!)
鮮やかすぎるそのダンスに、グレンでさえも舌を巻く。
そんなシンシアの動きに、リィエルも遅れずついてくる。まだリィエルの方には固さがあるが、それをシンシアがフォローする事でその固さも消え、持ち前の運動神経と類い稀なセンスでシンシアと肩を並べている。
シンシアも自覚はないが、システィーナの双子の弟と言うだけあってなかなかの整った顔立ちだ。それに対してリィエルも負けず劣らずの美少女。
そこに加わるこの優美なダンスは、例えるならば高位の貴族の舞踏会を思わせる。
ダンスは終盤に進んでいき、シンシアがゆったりとした動きでリィエルを引き寄せる。それに体を預けるように自然な動きでシンシアに合わせながら...
ただ一度のミスもなく、華麗なフィニッシュが決まった。
「「「......」」」
全員が呆然とするなか、シンシアはリィエルの手を離して恥ずかしがるように頭をかいた。
「こんなもんか」
「あんな感じでいいの?」
「ああ、バッチシだったぜ。本番もあんな感じでよろしくな」
「ん」
力強くリィエルが頷いたのを切り目に、グレンは現実に引き戻された。
「お前こんなに出来たの!?これプロのレベルじゃねぇか!!」
「え?いやだって、俺一応フィーベル家の長男ですよ?ダンスは仕込まれたんですよ。でも面倒臭かったんで、どうにか楽にやろうと考えたらこうなったんです」
平然と、今のを自己流と言いはなったシンシアにグレンは思った。
(こいつ進む道絶対間違えてる...魔術師よりダンサーになった方が絶対いいと思う...)
渇いた笑いを浮かべながら、グレンはそう思うしかなかった。
中庭に練習に来ていた生徒の胸に、グレン・システィーナペアとシンシア・リィエルペアが二大優勝候補という事が刻まれたのは説明するまでもないだろう。
シン君意外にもダンスが上手かったという回でした。
次回から社交舞踏会に入れるかな?多分...