最後にその手が掴むもの   作:zhk

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やっと社交舞踏会にはいれたぁ...

これ出して俺は寝る!異論は認めん!

ではどうぞ!!



社交舞踏会の始まり

薄暗い町並みの中、俺とグレン先生は並ぶように南地区にある倉庫街へと向かっていた。

 

グレン先生は学院のローブだが、俺は今は特務分室のロングコートにあの色々と面倒くさい仮面をつけている。一応今回俺は特務分室の一員として呼ばれているため、身分を隠すために仮面をつけなければならない。

 

会話をするのはかなり手間がかかるためグレン先生と何か言葉を交わすわけでもなく着いていくと、たどり着いたのは木造倉庫の一つ。

 

グレン先生はそこにたどり着くなり、自分の血で扉にルーンを刻むと扉は誰に押された訳でもなく勝手に開いた。

 

扉が開いたことを確認すると、俺とグレン先生は音をたてずにその倉庫の中へと入っていく。後ろの扉が閉まると、俺は仮面をはずして圧縮冷凍し懐に直す。

 

「お前それ絶対つけなきゃだめなの?」

 

「俺は現在特務分室でもトップレベルの戦力らしいんで、あんまり情報が漏洩するのは避けたいらしいですよ。それでもこの仮面はつけたいとは思いませんがね」

 

「それは同感だ」

 

簡単な掛け合いをしながら前に足を進めていくと、倉庫の奥の小さな小部屋にたどり着いた。

 

「おう!やっと来おったか」

 

小部屋にはもう何人かが待機しており、そのうちの一人が俺達に声をかけた。周りよりも二回りほど年老いている年齢のはずなのに、老いている感じが微塵もせず逆に若々しさすら感じる男性、執行官ナンバー9《隠者》のバーナードは活発そうな笑顔をこちらに向けながら近づいてくる。

 

「やっとって間に合ってない爺?」

 

「後輩なんじゃからもっと早く来るべきではないかの?うん?」

 

「ここの場所を知らなかったんだから仕方ないでしょ」

 

そんな爺のパワハラを聞き流し、俺は他の人へと視線を向ける。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「大丈夫だよ。僕らが少し早かっただけだから」

 

俺が声をかけたのは倉庫ないの木箱に腰を掛けた美少年で、俺とさほど年が変わらないであろう人物、執行官ナンバー《法皇》のクリストフ先輩だ。

 

「お前、二人と知り合いだったのか?」

 

と、そんな気さくな挨拶に置いておかれたグレン先生が俺にそう尋ねた。

 

「知り合いもなにも、クリストフ先輩は俺が『漆黒魔術(ブラック・スペル)』を作るとき手伝ってもらいましたし、爺はこの数週間はずっと組み手してもらってましたよ」

 

「いやーお主ほど若いのにあれほどの魔闘術(ブラック・アーツ)を使えるものはおらんからの。それよりクリストフと儂との扱いの唆酷くない?」

 

「爺が軽い感じでいいって言ったんじゃん」

 

「それもそうなんじゃがの...」

 

うーんと唸る爺をほっておきながら、俺は視線を前に向ける。アルベルトさんは壁にもたれ掛かりながら瞑想をしており、リィエルが瞑っていた目を開いてこちらを見た。

 

「シン遅い」

 

「悪いけどその下りの話は終わったからなし。あと寝るなよリィエル」

 

「ん...」

 

今にも寝そうな感じだが、まぁ話が始まれば起こせばいいだろう。後ろではグレン先生も爺、クリストフ先輩がなにやら談笑しているので俺はアルベルトさんの隣に立つ。この暇な時間にイヴと何か話す気は毛頭ない。

 

「シン」

 

瞑想をしながら話しかけてきた信頼できる上司の呼び掛けに、視線だけで答えるとアルベルトさんは俺にしか聞こえないような声で話始める。

 

「あの事は話していないのか?」

 

「...はい。話す必要も感じませんしね」

 

アルベルトさんは片目だけを開いてこちらを睨み付けるように見るが、それを俺は自嘲するかのような笑みを浮かべて受け流す。

 

「お前がどういう考えで言わないのかは知らない。だが、その行動に責任は持てよ」

 

「わかっています」

 

アルベルトさんが何を伝えたいのか、それは俺が一番よく理解していた。理解しているからこそ俺はこれを誰にも言わないのだ。

 

そんな意思を感じ取ったのか、アルベルトさんはまた目を閉じて瞑想に戻った。

 

「さて、そろそろ始めたいのだけれどいいかしら?」

 

パンと手を叩き、全員にそうイヴが促した。

 

「何をするの?」

 

「あなたは知らなくていいの。あなたはいつも通り何も考えなくていいわ。どうせ言っても理解できないのだから」

 

「ん。わかった」

 

今のイヴの発言に、一言物申したかったがそれよりも今は優先事項がある。不満を噛み殺して俺はイヴの話に耳を傾けた。

 

「まず今回の任務の概要を説明するわ。今回の任務は明後日に行われるアルザーノ帝国魔術学院での社交舞踏会に乗じて、王女の暗殺を狙う輩の捕縛よ。これに質問はあるかしら?」

 

「大有りだよ」

 

不貞腐れるように言いはなったのは、他でもないグレン先生だった。

 

「連中がなりふり構わなくなったらどうするつもりだ。そうなりゃここにいるメンバーをフル稼働させても守りきれないぞ」

 

グレン先生の言うことはもっともだ。敵が暗殺は難しいと判断し、学院ごと爆発させるなどしたらいくらなんでも対応のしようがない。

 

「それは問題ないわ。今回、奴らは暗殺に拘らなければいけないのだから」

 

「どういうことだ?」

 

この問いは俺が発した物だった。それにイヴは自信満々と言わんばかりに俺を見ながら説明していく。

 

「今回のこの一連の動きは、あくまで『急進派』の独断。つまりこれは組織全体の意思ではないのよ。これが組織に知られれば、『急進派』自体が組織の粛清対象になる。それは奴らも避けたいでしょうからね」

 

「...まぁ、わかった」

 

いまいちどういう事かよくわからなかったが、イヴにわからんと言うのが癪だったのでわかった風を装っていく。

 

「敵の戦力は?」

 

第二団(アデプダス)地位(オーダー)》が一人、それと第一団(ポータルス)(オーダー)》が三人の計四人。私達七人でも過剰戦力と言えるわ」

 

イヴが言うのだから間違いはないのだろう。それはグレン先生も理解しているのか、無駄に突っかかることはなかった。

 

「今回もっとも警戒すべきは第二団(アデプダス)地位(オーダー)》。この騒動の首謀者で二つ名と名前は判明しているわ。《魔の右手》のザイード、それが今回の相手よ」

 

「「「っ!」」」

 

グレン先生とアルベルトさん、そして爺に緊張が走るが俺はそれが誰かわからない。

 

「また厄介な奴が来たのぉ...」

 

「《魔の右手》のザイード、主に大勢の人間の前で標的を仕留めるという暗殺特化の魔術師。奴に帝国の要人は何人も殺されていますしね。それに暗殺方法は未だにわかっていません」

 

なるほど...結構位が高いのは聞いてわかったが、相当厄介だな。相手の暗殺方法がわからなければ対応のしようがない。

 

「問題ないわ。なぜなら、私がいるんだから」

 

「策があるんだろうな?」

 

その高飛車な態度がさすがに気に入らなかったので野次を入れると、イヴは鼻で俺を笑う。

 

「私の眷属秘呪(シークレット)【イーラの炎】。一定領域内の人間の負の感情を揺らぎとして視覚化し、特定する魔術。これを私の【第七圏】と|多重起動《マルチ・タスク】して会場に仕掛ける。暗殺者が王女に殺意を抱いた瞬間、私の炎が確実に相手を仕留めるわ」

 

「んな簡単に行くのかよ」

 

「あら?私がこの作戦でミスを犯した事があったかしら?」

 

「......」

 

先生が押し黙ったということは、そういうことなんだろう。まったく生まれ持った才能というのは羨ましい限りだ、俺なんてほとんど魔術が使えなかったってのに。

 

「私の魔術で会場は完全にカバー出来るけれど、相手もバカではないわ。恐らく今回の一件に私が噛んでいると調べて来るでしょうね。なら相手がとる行動は、王女をこの私の領域の外に出し、そこで殺すこと。それを遮るために...」

 

そこからイヴが言う作戦は文句の付け所がなかった。ルミ姉を完全にイヴの魔術の領域に置き、保険として俺とグレン先生、そしてリィエルをルミ姉の近くに置いて備える。

 

会場の外にアルベルトさん、クリストフ先輩、爺が待機し外部からやってくる相手に対応する。まさに隙がない、完璧な作戦。

 

(けど...なんだ?なにか嫌な予感がする。こう、言葉には出来ないんだけれど...なにか致命的ななにかを見過ごしてるようなこの不安は...)

 

そんな不安を感じるが、それに決定的な証拠はない。単純な俺の直感だ。今言葉にして出すわけにはいかない。

 

(何事もなければいいんだけどな...)

 

今にも殴り合いしそうなアルベルトさんとグレン先生の口論を目の端に捉えながら、俺は不安を押しととどめた。

 

━━━━

 

「あー動きにくい...この服まじで嫌い...」

 

学院校舎西館の廊下に佇まうのは俺とグレン先生。どちらも普段なら絶対着ないであろう燕尾服に身を包み、愚痴を口から溢していた。

 

「ほんとこの服嫌いですわ...あれですよ、今度から社交舞踏会はジャージ参加オッケーにしません?」

 

「それがまかり通るなら俺は万々歳だよ」

 

学院の講師の会話とは思えない物だが、俺もグレン先生も元来こういう手のイベントが似合うタイプではない。辟易とするのも少しくらいは許してほしいものだ。

 

今日は遂に社交舞踏会の当日となった。開催の時刻はもう目とはなの先であり、窓から見える外では馬車が矢継ぎ早に学院へと入っている。大方卒業生や来賓の人が来ているのだろうが、この舞台の裏を知るものから言わせてもらえば、来たことは後悔するだろう。

 

「大丈夫なんですかね...イヴはああ言ってましたけど、あいつらが他の生徒達を狙わないなんて確証はどこにもないですよ」

 

そんな平和ボケした空気に嫌気が差したのか、俺の口から出たのは愚痴ではなく不安だった。

 

「それでも俺らはやれることをするしかねぇだろ。それがあの女の手のひらで踊る結果になろうとな」

 

「違いないですね」

 

二人して苦笑を漏らした。結局は俺もグレン先生も、この策をひっくり返せるような事は出来ない。イヴの命令にはいはいと首をたてに振ってきくしかないのだ。

 

あとは、俺達が最善の結末へと持っていくしかない。

 

「お待たせしました先生」

 

考えに耽っていると、グレン先生の方から聞きなれた声が聞こえたのでそちらに目を向けると━━━

 

俺は天使を見た。

 

別段特別ではないドレスを身に纏っているが、丁寧に結った髪に化粧、つけているアクセサリーのすべてが俺の目の前の少女を引き立てている。

 

いつもの少しの子供っぽさを感じさせず、大人びた雰囲気を醸し出すルミ姉に、俺は目を完全に奪われた。

 

「先生、襟とタイが乱れてますよ?失礼しますね」

 

そう言ってルミ姉はグレン先生に近づいて服の乱れを直すが、いつもなら冷やかしの一つや二つを入れるグレン先生も見とれているのか、気返事しか返せていない。

 

(えぇ...ルミ姉だよな...あんなに美人だったんだ...こんなに変わるもんなんだな...)

 

語彙力が喪失したみたいな感想しかでないが、そこは許してほしい。だって本当に今のルミ姉なら、後ろから後光が差していたって俺は違和感を感じないだろう。

 

「それじゃあ先生、行きましょうか」

 

「あ、ああ...」

 

まだボケーとしたグレン先生を引き連れて、ルミ姉は会場へと向かう。と思ったら、何を思ったのかルミ姉はグレン先生から離れて俺の方へと近づいてきた。

 

「かなり真剣に選んでたから、感想言ってあげてね」

 

「へ?ルミ姉、一体何を...」

 

ルミ姉は意味深にウインクすると、グレン先生の手を取って会場へと向かっていった。

 

「感想って一体なんのだ?...ていうかリィエル遅いな」

 

一応ルミ姉の護衛なんだから、ルミ姉と一緒に来るものだと思っていたのだが、ルミ姉は先に行ってしまったし、一体何をしてるのやら...

 

「シン。」

 

「ん?リィエルか。遅かっ━━━」

 

後ろから聞こえた待ち人の声に振り向くと、その姿に俺はまた言葉を失った。

 

いつもはボサボサの髪は綺麗に纏められ、ドレスは髪の色に合うような淡いブルー。そこにリィエルの元々の人形のような美貌が合わさり、本当に高価な人形のようだ。

 

「どう?」

 

「お、おう...すげぇ似合ってる、ぞ?」

 

あまりの衝撃に声が上ずってしまったが、それほどまでに衝撃的だったのだ。

 

「ん、なら良かった」

 

俺が誉めたのが嬉しかったのか、リィエルは頬を少し赤くして微笑んだ。そんな表情に俺は恥ずかしさから目を背けたくなるが、今のリィエルには俺の視線を固定させるには十分すぎるほどの魅力があった。

 

「あらシン、リィエルに見惚れるんじゃないの?」

 

「ふぁ!?シス姉!!」

 

どこから見てたのか、シス姉が意地の悪そうな笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 

「ほれほれ、白状しなさいよ~」

 

「うっ...見惚れて、ました...」

 

ここまで来るともう白状するしかない。俺は潔くそう言うと、シス姉は満足したようにニヤニヤと笑いだした。イラつく、むっちゃイラつく。

 

「良かったわねリィエル」

 

「うん...」

 

リィエルも恥ずかしかったのか、さっきよりも顔を赤らめ視線を俺から窓へと移した。

 

「ああもうこの話は終わり!リィエル行くぞ、ルミ姉も待ってるし」

 

「ん、わかった」

 

俺が差し出した手を、リィエルはゆっくり握る。小さく、柔らかなその手はいつもあの大剣を振っているとは思えない物だった。

 

(て俺は何を考えてるんだ!?今から大事な護衛なんだぞ!?平常心...平常心...)

 

何とか深呼吸をしたあと、やっと落ち着く事が出来たので俺はゆっくり歩き出す。

 

「ちょっとシン、あなた私にはなんの感想もないわけ?」

 

「え?ああ、やっぱり相変わらず平らなんだなと再認識しまし━━」

 

「うっさい!」

 

「痛っ!!」

 

どこがとは言っていないのに、全力で背中を叩かれた。そんなんだから踊る相手がいないんだよとは、さすがに俺も言えなかった。

 

━━━

 

会場では既に何人か踊っている人もおり、雰囲気はなかなか良い感じになっていた。俺とリィエルが会場に入った瞬間、オオーという歓声が聞こえたがほとんどがリィエルに向けてだろう。これ絶対俺釣り合ってない...

 

「よう先生!調子はどうよ?え?」

 

「カッシュ...お願いだから先生はやめてくれ。それで呼ばれるのは背中がむずむずする」

 

「嫌がるのわかって言ってんだよこのリア充め!」

 

絡んできたのはカッシュだったが、その後ろには見知ったメンバーが何人もいる。そんなに参加してたのか...

 

「俺は見たからな!シンがリィエルちゃんに迫られてダンスに誘われたのを!お前も今グレン先生と同じで『夜、背後から刺すべき男リスト』に載ってるからな!」

 

「お前なんちゅーもん作ってんだよ...」

 

近々俺が暗殺されるのか?それが俺が教える生徒の手によってなんて意味がわからない。

 

「大体リィエルと俺はそんな関係じゃないって何度も言って━━」

 

「ふん」

 

「痛った!!ちょ、なんで今リィエルいきなり足踏んだ!?」

 

履いているハイヒールの踵の部分で俺の足を狙い撃ちしたリィエルは、何故か拗ねたようにそっぽを向いた。そんなリィエルの態度に困惑すると周りからため息が。

 

「相変わらずこいつは...」

 

「絶対あいつの頭のなかでは魔術がうまくなることか動く事しかないぞ。」

 

「リア充死すべし!死すべし!!」

 

なんかどんどん私怨が当てられてるような気がするのは俺だけだろうか...?リィエルも機嫌を直したのかこちらを向くようになったのを見ると、俺はカッシュに尋ねた。

 

「そう言えば、なんでこんなに二組の生徒がいるんだ?」

 

「ああ、俺達は少し考えてな。二組全員で参加して、グレン先生の邪魔をしようと思ってな!!」

 

「はぁ!?」

 

まさにはぁ!?としか言いようがない。もっと言ってよいならば、いらんことをとか言いたいがそれはさすがに言えない。とはいえこれは本当に面倒なことになった...

 

(ルミ姉は絶対優勝しなきゃなんねーんだぞ!?お前らマジでなにやってんだよぉ...)

 

あきれてため息が出るが、この中に俺のため息の意味を理解する者はいなかった。

 

「ま、お前も簡単には優勝させねーからな!覚悟しろやシン!!」

 

「ははは...もういいや...」

 

半ば現実逃避して、俺は遠くに行くカッシュ達を見送る。

 

これは何がなんでもルミ姉に優勝してもらわねば...

 

でも...

 

「ん?どうしたのシン」

 

「あ、いや、なんでもない」

 

少しだけ、リィエルの『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を見てみたいと思ってしまうのはやはりダメだろうな。そんな一時の気の迷いを思考の海に擲ち、俺はリィエルに真剣な表情でこう言った。

 

「リィエル、気張っていくぞ!」

 

「ん!」

 

何をとは言わない。ダンスも、護衛も、すべてを最善で終わらせてハッピーエンドな結末を迎えてやる。

 

それが、俺のすべき事であるはずなのだから。

 

 

 

 

 

 





次回から本格的にダンス・コンペが始まります!この社交舞踏会、一体誰に軍配が上がるのか。それはまだ誰にもわからない...
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