最後にその手が掴むもの   作:zhk

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悪くないものは悪くない

シンシアらが睨み付けるように見るザイードは、自分が圧倒的振りな状況であるにも関わらずその顔に余裕の笑みを浮かべた。

 

「やっと繋がったぜ...。リゼが言ってたアレンジってのはてめぇの仕業だな!それに魔術的な仕込みを加えて、この状況を作った。一体何を━━━」

 

「先生!その正体は恐らく『魔曲』です!」

 

グレンの言葉を遮って、システィーナはそう言った。

 

魔曲?とシンシアとグレンがほぼ同時に首をかしげるなか、アルベルトだけは納得したように頷く。

 

「なるほど、音楽に変換した魔術式か。本来魔術は原初の音に近い響きの音で深層意識に介入する。ならば、それが音楽であっても問題はない、という事か」

 

「その通り。そしてその音楽に変換した魔術式で、他人を操る。それこそが『魔曲』だ。そこの少女はよく勉強しているようだが、気がつくのが少し遅かったようだ。何故なら、貴様らは既に逃げられないのだから」

 

自分の魔術のたねが知られたというのに、ザイードは高らかに笑い始める。それを不快に感じたのか、アルベルトは無言で人差し指をザイードの頭へと向けて指す。

 

「貴様のその余裕がどこから来ているのかは知らんが、自分の不利がわからないほど愚かではないだろう?さっさと投降しろ。さもなくば撃つ。」

 

その言葉に躊躇いはなく、ただ機械のような冷徹さを持ったそれは単純な殺意のみをザイードへと指し貫くように放つ。

 

「言ったはずだ。貴様らは既に━━」

 

ザイードは右手に持つ指揮棒を一振りし、

 

「逃げられないのだと」

 

ザイードの率いる楽団が突然演奏を開始する。それに反応しアルベルトが予唱呪文(ストック・スペル)の【ライトニング・ピアス】を発動しようとするが━━

 

「っ!?」

 

途中でアルベルトは発動をキャンセルする。その行動にザイードは薄ら笑いを浮かべていた。

 

「おい!なんで撃たないんだよ!!」

 

「無理だ。今の一瞬で魔術制御に関わる深層意識野を完全に支配された。今魔術を振るえば間違いなく失敗する。俺だけの被害ならばいいが、それが周囲にも被害を与えないと言い切れん」

 

「なんだと!?あの一瞬でか」

 

「そうだ」

 

グレンの問いに肯定の意を示したのは、他でもないザイードだ。指揮台に立つザイードは、自分に相対する者達を見下ろしながら宣言する。

 

「貴様らは社交舞踏会が始まってからずっとこの私の『魔曲』を聞き続けていた。いくらこの支配を脱したと言っても、それは表層意識のみ。根底の深層意識は完全に私の支配下だ!!」

 

高らかに指揮棒を掲げ、堂々とした口調で話すザイードにグレンやアルベルトは苦虫を噛む面持ちで聞くしかない。アルベルトも魔術が使えないということは、グレンやシスティーナも使えないということだ。

 

さらにはザイードは、この会場中の人間すべてを操る事が出来る。魔術が使えない状況でこれでは、グレン達が圧倒的に不利だ。

 

ザイードはもう一度指揮棒を振る。すると会場の人々はジリジリと詰めよって来、完全に囲まれてしまう。そのなかにはグレンの生徒達の姿も。

 

「ああ...そ、そんな...!?私の...私のせいで皆が...!!」

 

ルミアは呆然とするかのように、グレンにすがり付く。あれほどまでに楽しかった社交舞踏会はもうここにはない。ここはもう、可憐な少女らがいるべきではない戦場へと変貌している。その要因が自分であることが、ルミアにとって大きなショックとなったのだ。

 

だがそんなルミアの悲しみなど相手が理解してくれる訳もなく、ジリジリと操られた人々は近づいてくる。

 

「さぁ!自分が守ろうとした者に殺されるがいい!!」

 

その発言を切り目に、操られた人々は一斉にグレン達に飛びかかる。それに反応しようとグレンは動くが、その一瞬ルミアのガードが甘くなった。

 

「あ...」

 

「しまっ!?」

 

呆然とするルミアに、食事用のナイフを持った男性がそのナイフを振り上げてルミアへと突きつけようとする。それにグレンが対処しようとするが、グレンの周りも操られた人々がうじゃうじゃといるため動けない。

 

辞世の句を唱える間もなく、ルミアへとキラリと輝きを放つナイフは突きつけられ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「《黒白の凍氷(とうひょう)・拒むは諸悪の権化なり》っ!」

 

ガンっと響く音が床から聞こえたかと思うと、グレン達の目の前で操られた人々は動きを止めた。否、動きを封じられたというのが正しいだろう。

 

彼ら彼女らの足や手には、黒く凍りついていた。それは半径数メトラのみの範囲だが、動けない者達がその後ろの者達の動きを遮ったため操られた人々の動きは一時的だが止まる。

 

「あっぶねぇ...ギリギリをねらったら本当にギリギリになっちまった...」

 

呟きながら白い息を吐くはシンシア。足元には黒の魔術陣が展開され、その表情には安堵が浮く。

 

「貴様は最初から我が『魔曲』を聞いていたはずだ!そのはずなのになぜ魔術が使える!?」

 

シンシアとは対照的に、ザイードは驚愕のあまり声を荒げながらシンシアに問いただす。確かにシンシアはルミアの護衛のため、かなり早くから会場入りを果たしていた。

 

その時点でザイードの『魔曲』は既に始まっていたのだ。本来ならグレン達と同様に魔術は使うことは出来ないはずなのだ。

 

「ああそれ?あんたの『魔曲』って強力だよな。人間(・・)には」

 

してやったりと言った感じのにやっとした笑みで、シンシアはそう言い放った。

 

「な!?貴様人間ではないというのか?」

 

「おん。龍人ですが?魔術もちょっとラグがあるくらいで、問題なく使えるぞ」

 

ほれと言わんばかりにシンシアは指をたてると、そこでは火花を散らしながら黒い稲妻が迸っている。

 

「さて、ここまでは予想してたか?《魔の右手》のザイード」

 

「くっ...!」

 

ザイードがシンシアに一瞬たじろいだのをアルベルトは見逃さず、アルベルトが即座にナイフを空に投げる。そのナイフの柄には笛の効果がある。ならばそれを勢いよく投げればどうなるか。

 

ピュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 

ホールに笛の音が響き渡った次の瞬間、次に聞こえるのは四発の銃声。火薬の炸裂音とともに撃たれた銃弾は重力による結界を発生させホール内の全員の動きを止める。

 

「ちょいとアル坊!合図が遅いんじゃないのかの!!」

 

「それは今言っても仕方ないでしょう!!」

 

ホールの入り口から聞こえる声に四人が目を向けると、バーナードとクリストフ、そしてリィエルがそれぞれ臨戦体勢で待機していた。

 

「今だ!逃げるぞ!」

 

アルベルトの音頭と共に全員がホールの入り口へと走り出す。

 

重力結果下での動きはかなり大変な物で、アルベルトやグレン、シンシアのような重力下での訓練を行っていない者でなければ難しいのだが、システィーナはこれに備え事前に重力操作の魔術で体重を軽くしており、ルミアはグレンが抱えて走っている。

 

「ちっ!逃がすか!」

 

いきなりの逃走劇に焦りを感じたザイードは、懐から拳銃を取り出しルミアへと向ける。

 

そして引き金を引き弾丸がルミアへと吸い込まれるように飛ぶが、それは途中で突然現れた壁によって遮られた。

 

「残念でした!てことで俺らは逃げる!!」

 

錬金術で作り出した壁での防御に成功したシンシアは小馬鹿にするようにザイードに吐き捨て、シンシア達は会場を脱出した。

 

「面倒な...まぁ問題ない。この空間は私の支配領域なのは間違いないのだ。ハエが一匹混じった程度造作もない。」

 

ザイードはまたも指揮棒を振ると、ザイードに付き従う楽団は後ろを歩き始め、呪いの演奏を展開していくのだった。

 

━━━

 

「逃げ切った~」

 

学院の東端の茂みの影で、シンシアはどっさりと座り込んだ。

 

一応追っ手からは逃げ切る事は出来たのだが、今シンシア達が隠れる茂みの裏手にはザイードによって操られた学院の関係者がうろうろしている。彼らに見つかれば、またいつ終わるかわからないチェイスをすることになる。

 

「かなりじり貧ですね。町の方に逃げますか?」

 

「いや、それでは恐らく町の人間も奴の手によって操られてしまう。この学院内で決着をつけるしかないだろう」

 

「かー!かなり大変じゃの。それにこのままじゃ儂らまで完全に意識を乗っ取られるぞ。手っ取り早く片付けんとな」

 

嘆息を漏らすバーナードに誰もが同意する。そんな空間には、一人の少女が咽びなく声が聞こえてくる。

 

「ぐすっ...ひっく...うぅ...」

 

「な、泣くなって...」

 

「ルミア...」

 

「......」

 

声を殺して泣くルミアに、グレンが宥めシスティーナは当惑、シンシアは無表情でそれを見ているという謎の状況が出来上がっていた。ちなみにリィエルは単独で突っ込もうとして、アルベルトが拘束中だ。

 

「ずっと楽しみだった...小さな頃から憧れてたんです...私なんかが...捨てられた王女が参加なんてすべきじゃないのはわかってるんです...けど...けど!!それも私は許されないんです!!」

 

ルミアの悲痛な吐露に、誰もが無言で聞き続ける。

 

「皆がおかしくなったのも...社交舞踏会がぐちゃぐちゃになったのも...全部私がわがままをしたから...私のせいで...私のせいで!!」

 

ただ泣き崩れていくルミアに、誰も声をかけないと思われていた。が、そこで動いたのはシンシアだった。

 

忍び足でルミアに近づき、ルミアが手のひらで覆っていた顔を強引に自分へと向ける。

 

「え、シン?」

 

シンシアのよく分からないの意図を確かめあぐねるグレンをほっておいて、シンシアは頭をゆっくりと後ろに下げ...

 

「フンッ!!」

 

「痛っ!!」

 

全力で頭突きを叩き込んだ。いきなり頭に響いた痛みに、ルミアはその場で悶えるようにもがく。

 

「ちょ!おま、何やってんだよ!!」

 

「もしかしてシンも操られたんじゃ...!」

 

「シン!美少女の顔に傷をつけるとはどういう事じゃ!!!」

 

「バーナードさん今論点そこじゃないです!」

 

「シンも...敵?」

 

「......」

 

上から順にグレン、システィーナ、バーナード、クリストフ、リィエル、アルベルトというように三者三様の困惑っぷりを見せるがシンシアはそちらに一瞥もしない。

 

そのままシンシアは、悶えるルミアへと駆け寄り声をかける。

 

「なぁルミ姉...ルミ姉ってさ、バカなの?」

 

「へ?」

 

いきなりの質問に、ルミアは痛みも忘れてすっとんきょうな声を出したがそれに構わずシンシアは話を続ける。

 

「ルミ姉はもう王女じゃないじゃん。今はただのルミア=ティンジェルな訳で、エルミアナ王女ではないわけよ。これはわかる?」

 

「う、うん。そうだけど...」

 

「ならなんでわからないかな...」

 

焦れったいと言わんばかりに頭をガリガリと掻くシンシアに、周りの者も何が言いたいのか理解出来ない。

 

「ならさ、最早ただの女の子な訳でしょ?てことは、ただの女の子が舞踏会で優勝して綺麗なドレスを着たいって言うのの、どこがおかしいんだよ」

 

さも当然と言わんばかりのその主張に、ルミアは全力で否定をしようと言葉を出そうとする。

 

私は棄てられたけれど、それでも王家の血を引いているのだから。

 

私一人のために、楽しい舞踏会を台無しになんてしたくないから。

 

理由なんてすぐに出てくるのに、それが口からは出ない。それを見て、シンシアは優しく微笑んだ。

 

「だからルミ姉は悪くないんだよ。悪いのはルミ姉の安全を事前に守れなかった特務分室だから」

 

「ちょい待てシン、それならお前もそこに入るのじゃぞ?」

 

「あそっか。なら一人で勝手に行動した室長が悪いって事で」

 

「それなら納得じゃな」

 

アハハハハハハハハハハハハハハと笑うシンシアとバーナード、それを見て呆れるようにため息を吐くグレンとクリストフとアルベルト。どういう状況かわからないシスティーナとリィエルは、ただただぼけーとするしかなかった。

 

「ま、そゆことだから。それでもまだ罪悪感があるなら仕方ない、グレン先生の胸を借りて泣いとけ!」

 

「は?ちょシぐほ!!」

 

有無を言わさないとばかりにシンシアはまだ泣き止まないルミアを突き飛ばし、グレンへと飛ばす。いきなりの事にグレンも戸惑ったが、すぐに自分のやるべき事を察知し、ルミアの頭をゆっくりなで始めた。

 

「はい完了!」

 

「えらく強引だけどな...でもまぁ結果オーライか」

 

サムズアップするシンシアに苦笑が漏れるグレンだったが、今はシンシアの行いはファインプレーなのでなにも言わない。

 

「さぁてと!いっちょやるぞお前ら!!我ら姫君にハッピーエンドを持ってきてやんぞ!!」

 

「おー!!」

 

「おー」

 

グレンの掛け声にシンシアがやる気一杯に、リィエルはただシンシアを真似て同じ事をするが、そこにクリストフが口を挟む。

 

「そうは言っても、策はあるんですか?僕らは既に敵の術中ですよ」

 

「策はある。だろ?アルベルト」

 

「誰に物を言っている」

 

その不思議なやり取りに、訳を知るバーナードとクリストフは頷き、リィエルとシンシアはきょとんと頷いた。

 

━━━

 

シンシアside

 

「しっかし、グレン先生もなかなかきつい策を出しますね」

 

「あいつら二人はいつもあんな感じじゃわい」

 

「ですね」

 

俺、バーナード、クリストフ、リィエルの四人はグレン達四人と別れ別の方向へと向かう。今ルミ姉を狙うのはこの学院内の操られた人だけではない。

 

「目視で確認しました!奴等です!!」

 

「早速おいでなすったな!!」

 

先輩の言葉で全員が足を止め、臨戦体勢を取る。目の前に現れるのは場に合わないゴスロリな女性に片腕が義手になっている筋骨隆々な男。そして...

 

「あっさり相手側になってるし...」

 

目から光が消え、完全に操られている我らが室長イヴ=イグナイトの三人。勝手に突っ込んでやられてるとかどうなのそれ。

 

「あらあら♪あの青髪の少女はきっと《戦車》なのでしょうけど、銀髪の子は知らないわ♪」

 

「大方ザイードのが言っていた隠し玉という奴だろう。」

 

「......」

 

人気者は辛いなぁ...全っ然嬉しくないけど。

 

「ていうかどうします?こちらは四人ですがあちらにはイヴさんがいます。あまり数で優位に立っていると考えるべきではないですし...」

 

そりゃそうだ。敵の手に落ちようとイグナイト家の魔術士。相当厄介なのには変わらない。

 

「ま、やることは決まってるんですけどね」

 

他の三人を置いて、俺は少し前に出ながら懐から吊られた男のタロットを引き抜く。

 

「爺とリィエルはあの義手のおっさん、先輩はゴスロリの方頼みます」

 

「シンはどうするの?」

 

後ろから聞こえたリィエルの問いに、俺は手元にあるタロットを見せながら答えた。

 

「簡単に罠にひっかかった室長にお灸を据えに行くんだよ。《我を縛る業の鎖よ・━━」

 

タロットを後ろに見せると、先輩と爺は驚いた表情で止めようとしたがそれよりも先に詠唱を始める。

 

「今その拘束を解き・我を解放せよ》!!」

 

唱え終えた瞬間、体から何かがごっそりと無くなる感覚が襲い、俺の背に黒き羽が現れる。顔に蠢く紋様はさらに顔を侵食する面積を広げ、額の方にまで広がるが気にしない。

 

「さてと、んじゃ言った通りで頼みます」

 

「待てシン坊!お主━━」

 

「シン君だめだ!その力は━━━」

 

言うだけいって地面に手をつき、さっき言った組み合わせで戦えるように大きな壁を錬成し場所を区切る。爺と先輩が何か言ってた気がするけど問題ない。

 

「はぁー...リィエルのあれは...」

 

壁を作る時、一瞬だけリィエルと目があった。その時に口を動かして何かを言っていたがそれは聞こえなかった。代わりに、口の動きで何を言っていたかは理解していた。

 

「『けがはしないで』...ね、それは守れるかね...」

 

真っ黒になった頬をポリポリとかきながら、俺は目の前のイヴへと目を向ける。

 

イヴの周りは既に炎を地獄と化しており、光のない目で無感情にこちらを見ていた。

 

「それじゃ行くか...執行官ナンバー12、《吊られた男》シンシア=フィーベル」

 

足を一歩下げて腰をおろして構える。

 

「正気に戻してやるよ、あんたの犬が直々にな!感謝しやがれ!!」

 

その掛け声は作り出した壁に反響し、学院に響き渡った。

 

黒と赤が、今激突する。

 

 

 

 

 

 

 





まさかのヒロインのセリフがほとんどないというね...

次回で社交舞踏会編終了なのですが、次回の短期留学編で他作品のキャラを出そうと思います。

ヒントはfateのキャラで、頭おかしい火力が出せるツンデレアヴェンジャーです。誰だろうなー(棒読み)。

違和感なく登場させられるよう頑張りますので、お楽しみください。

それでは次回もお楽しみに!
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