最後にその手が掴むもの   作:zhk

39 / 51




天高く、舞え竜よ

燃え上がる炎は狙いをすましたかのように収束して俺へと向かってくる。それを俺は唸るように竜言語魔術(ドラグイッシュ)を発動し、大きな氷柱で炎を遮る。

 

「やっぱ威力がたけぇなおい!」

 

だが作り上げた氷柱で防御できるのはほんの数秒。それを過ぎれば氷はあっさりと溶け、炎は俺へと牙を向く。

 

「よっと!!」

 

横に飛び壁を足台にしてイヴの背後へと飛びながら炎を回避、そして着地したタイミングで俺はまた後ろに飛ぶ。

 

すると俺が着地していた場所が大きな音をたてて爆発する。

 

「【バーン・フロア】...予想通りっちゃそうなんだけど...まだこれを使うタイミングじゃないな」

 

右手に握る猟銃型の拳銃、ハングドマンに視線を一瞬だけ向けて考える。

 

状況は圧倒的に俺が不利。イヴは確実に俺を殺す気でやるだろうが、俺の目的は時間稼ぎ。グレン先生達がザイードを仕留めるまで、こいつらをここで足止めすることだ。

 

(やり過ぎるとイヴを殺しちまうし...かといって緩くやってるとあの炎に焼かれておしまいだよな。)

 

ならば取るべきは、イヴを行動不能に陥れる事。言葉にするだけならば簡単だが、行動に移すにはなかなか大変な話だ。

 

(動きを止めるなら、【痺霧陣】があるけどあれはほぼゼロ距離までいかなきゃ無理。漆黒魔術(ブラック・スペル)でやるのが最善...

 

そう考えていると、俺へまた炎の波がやってくる。

 

「考える暇もなしかよ!?」

 

体から流れ出るマナを意識し形を作り替える事を想像する。すると俺の背中に出ていた黒の羽は四つに別れ、尾のような形を取り始める。

 

「《虚の黒よ・宿せ・氷の刃》!!」

 

漆黒魔術(ブラック・スペル) エンチャント・アイス】

 

通常よりも効力の高い氷の属性を武器などに付与する魔術を、四つに分けたマナの奔流に付与すると先端部が凍りついた。

 

四つの黒い尾を器用に振り、イヴの炎をいなしていく。拮抗しているうちに今度は竜言語魔術(ドラグイッシュ)を唱え、簡単な突風を引き起こし火を沈静化。

 

それを確認すると、俺は力一杯地面を蹴り後方に下がる。

 

(うし!いい感じに時間は稼げてるな...このまま行けば━━)

 

順調な流れに安堵したその時、グラッと視界が揺らぐ。

 

「ちっ!!もう時間切れかよ!」

 

背中の黒の尾は空気に馴染むように消え、顔の紋様も収まり狭まっていく。そして体に襲いかかる大きな疲労感。

 

俺がこの状態、『疑似竜化』を使えるのは約五分。それを過ぎれば強制的に解除されてしまう。解除されれば竜言語魔術(ドラグイッシュ)も、マナを利用した攻撃も行えない。

 

いきなり重くなった俺の動きを狙ったのか、イヴはさっきよりも火力を上げた火を俺へと飛ばしてくる。

 

「《万象に希う・我が前方に・我を守る盾を》!」

 

瞬間錬成の応用ですぐさま壁を作り上げ火を遮るが完全に遮断することは叶わず、熱気がこちらまで回ってきた。

 

「熱っ!?」

 

それに怯み、俺は一歩だけ後ろに後ずさってしまう。すると俺の足元で、カチッと嫌な音がした。

 

「しまっ!?」

 

下げた足元には、魔術陣が発動しておりすぐに体を動かすが間に合わない。魔術陣から吹き出た炎は俺の片足を強すぎる熱量で炙り上げた。

 

「があああああ!!」

 

一気に足から全身に電気が流れるような痛みが走り、焼かれた右足を押さえながらゴロゴロと転がる。

 

痛い、痛い、痛い!

 

視界がチカチカと揺らめき、頭が上手く回らない。

 

(足は...やべ、まともに動かねぇ...)

 

魔術礼服のお陰でひどくはないだろうが、とりあえず動けるような状態ではないのは確かだ。

 

地面に這いつくばっている間にも、イヴは一歩、また一歩と俺へとジリジリと近づいてくる。そして魔術を発動しようと右手を俺に向けた。

 

「させるか!!」

 

懐から起爆符をいくつか取り出し、自分の周りに手首のスナップをきかせて投げる。地面に起爆符がつくと符は音をたてて爆発し、俺を後ろへと吹き飛ばす。その勢いでイヴも少し後ろに下がったため幸いにも距離が空いた。

 

俺はさらにもう一枚符を取り出し足に張り付ける。すると足に魔術陣が展開され、気休め程度だが俺の足の痛みが和らいでいく。

 

「回復符でもこの程度かよ...後遺症になったらどうしてくれんだこの高飛車野郎...」

 

痛みは和らいだが、立つことも難しい。絶体絶命とはまさにこの状況の事を言うんじゃないかと思えるほどのこの状況に、俺は少し笑ってしまう。

 

「いいね、燃えてくるわ」

 

俺は握っていたハングドマンをイヴへと向けた。

 

出来ればこれを使うのは避けたかったが、使わなければ恐らく俺が死ぬ。それはまだ(・・)だめだ。

 

引き金に指をかけて、銃口はしっかりとイヴを見据えている。イヴはそれを気にしないと言わんばかりに魔術を起動する準備に取りかかる。

 

イヴが詠唱しているのは【プロミネンス・ピラー】。B級軍用魔術の指定を受けているそれは、今の俺を仕留めるには十分な火力だろう。

 

足はまともに動かないため逃げられず、俺の真下には絶賛俺を殺さんとする魔術が構築され始めている。

 

まさに背水の陣。だが、それも越えて見せようじゃないか。

 

だって、俺は━━━

 

「正義の魔法使いなんだからなぁ!!!」

 

イヴに向けていたハングドマンを自分の足元に向けるが、地面の魔術陣はもう完成間近。

 

「《0の専心(セット)》」

 

俺が一言そう告げると、ハングドマンは青白い光りを放った。そして光が最高潮に達したその時、

 

俺が引き金を引いたのと、イヴの【フレイム・ピラー】が発動するのは同時だった。

 

━━━

 

「ふっ...やはりこの程度か。気にするほどでもなかったな」

 

操るイヴとシンシアとの戦闘を、魔術によって見ていたザイードに微笑が生まれる。

 

今ちょうどザイードの視点から、シンシアが炎の渦に飲まれたのが見えたのだ。最後に何か悪あがきをしようとしていたが、それはどうやら無益に終わったらしい。

 

「もうすぐルミア=ティンジェルの捕縛も終わる。そして私の暗殺は完全な物として終わるのだ!!」

 

高らかに、それこそ勝利を確信したようにザイードは笑って見せたが、余裕の笑みはすぐに驚愕の物へと変えられた。何故なら━━

 

「なぜ!?なぜ生きている!!!」

 

イヴの近くから見える光景は黒焦げになったシンシアの死体ではなく、地面に力なく横たわるイヴの姿。そして...

 

やりきったような表情で、足に負った怪我の治療を行うシンシアの姿だった。

 

「あり得ない...あの状況から巻き返すなど...あの男は一体何者なんだ...」

 

と、そこでザイードの視点に他の特務分室のメンバーが見えた。どうやらザイードの仲間達もまんまと特務分室に敗北したようだ。

 

徐々に狂い出すザイードの予定に、苛立ちを込めた舌打ちを漏らした。

 

「どいつもこいつも使えん!!あのような雑魚に早々にやられおって...!!」

 

手に持つ指揮棒を折らんとばかりに力を込めて、ザイードはポケットから一つの宝石を取り出した。

 

それは薄気味の悪い紫の宝石で、ザイードが魔力を込めれば鈍く光り輝きを放った。

 

「このままでは奴等はこちらに向かってきてしまう。それはどうしても止めねばならぬ。なれば...」

 

ザイードは狂喜に染まったような笑みで宝石を見る。宝石に写るその顔は不気味そのもので、ついさっきまであった優しげな指揮者の顔ではない。どちらかと言えば、それは地獄から来た悪魔のような、そんな表情。

 

「大義のためなら、その身を捧げることすら彼らなら許すだろう。さて、貴様らにこれが乗り越えられるか?ふふふ...ハハハハハハハハハ!!」

 

狂喜に歪んだザイードの背後から、合わせるかのようにオーケストラは鳴り響いた。

 

━━━

 

「シン、私はけがしないでって言ったよね?」

 

「聞こえなかったかな...」

 

いつも眠たげな目をさらに細めてこちらを睨むリィエルから視線を反らし、俺は口笛を吹いた。

 

一応イヴには勝った。辛勝という言葉が一番似合う勝利だったとは思うが、まぁ勝ちは勝ちだ。文句ないだろう。

 

イヴ以外にいたゴスロリと義手は爺達があっさりと倒し拘束してその辺に転がっている。さすがですね...俺こんなボロボロなのに...

 

「どうじゃクリ坊、シンの足は」

 

「酷いやけどですが、魔術礼服を着ているのが幸いしましたね。少し後遺症が残る程度で大丈夫だと思いますよ」

 

「良かったわい...シン坊も無茶しすぎじゃ。イヴちゃん相手に一人で向かうなど自殺行為じゃというのに」

 

「でもあれが最善だったんだから仕方ないだろ?」

 

おどけるような態度で爺にそう答えるが、爺は睨むようにこちらを見る。まぁ爺が言いたい事もわかるが許してほしい。俺にはこれくらいしか出来ないんだから...

 

「無茶はしないで。シンが傷つくのは悲しい」

 

「わかってるよ。俺もそんなほいほいけがしない━━」

 

俺が言葉を最後まで紡ぐよりも先に、全身を刺すような殺気が俺の背中に走った。

 

「なんじゃ!?!?」

 

爺もそれに気がついたのか、両手に魔術強化が施されたマスケット銃を向け、リィエルは先輩を守るように大剣を構え、先輩もスクロールを持って戦闘体勢だ。

 

全員が視線を向けるのは気絶して倒れているはずの二人のテロリスト。だが様子がおかしい。

 

バタバタとおかしくなったかのように暴れているかと思うと、変化はすぐに目に見えて出てきた。

 

二人の背中に魔術陣が現れ、二人の体がそこに吸い込まれたのだ。

 

「なんですかこれ!?」

 

「わしにわかるか!とりあえず下がるぞい!!」

 

どうにか距離を開けている間に、魔術陣はさらに大きくなる。

 

そしてその魔術陣を中心に、何かが姿を現し始めた。

 

それは全身真っ白の体に巨大な人形の化け物。ドロドロと粘土質の体は俺の身長の二倍はあるんじゃないかと思えるほど。ギョロりと赤い巨大な目をこちらに向けるそれは、明らかに友好的な雰囲気ではない。

 

「おいおい...こんな奴が出るなんて聞いてないわい!!!」

 

爺がすぐに怪物の眉間に銃弾を撃ち込む。が...

 

「効いとらんのか!?」

 

「というより飲み込んだ、という方が正しいでしょうか?物理攻撃はすべて吸収するのか?」

 

銃弾は怪物の体にうめり込むと、そのまま消えてしまった。怪物はいたって平然としている辺りダメージは本当にないのだろう。

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

勢いのある掛け声と共にリィエルが大剣を投げつけるが、それも意味をなさずに飲み込まれていく。すると怪物は俺達を敵対対象と認めたのか、大きな腕をこちらに振りかざしてきた。

 

「避けてください!!」

 

先輩の言葉に、俺も反射的に力の入る左足を使って飛ぶ。他の三人も避けたようで、誰もいない空間を怪物が叩きつけた。だが衝撃音などは何もない。

 

その代わり、怪物が触れた場所は大きなクレーターのような物が出来上がっていた。

 

「どうやら触れた物体を吸収するようですね。恐らく先の二人を生け贄に呼んだ悪魔でしょうか...」

 

「確かにアル坊が倒した奴は悪魔召喚師じゃったの。しっかしこれは厄介じゃなぁ...」

 

物理攻撃が効かない、つまりそれはほとんど対応する手がないということだ。

 

現状ザイードの『魔曲』の影響で俺以外は魔術は行使できない。物理攻撃をまったく通さないのがあの怪物の特徴なのであれば、本当に打つ手なしだ。

 

 

「先輩、魔術上の悪魔ってどんな存在でしたっけ?」

 

「え?たしか強大な概念存在で、炎熱、冷気、電撃といった三属呪文は通用しないはずだよ!それがどうしたの?」

 

「いえ、それさえわかれば十分です」

 

俺は懐から吊られた男のタロットを引き抜き、詠唱を始める。

 

「!?やめいシン!!それはお主の...」

 

「わかってるよ」

 

後ろから俺の肩を持って止めに入った爺に優しく微笑んだ。

 

「けど、これは俺がすべき事だからな。やらせてくれよ」

 

何のための力なのか、それは俺が守りたい物を脅かす物を排除するためだ。だからこそ、この力を使うべきなんだ。

 

タロットを横に振り、『疑似竜化』を発動する。辺りに吹き荒れる黒の粒子が翼を作り上げる頃には、怪物は俺を脅威と認めたのか低い唸り声を上げた。

 

「なんだビビったか?安心しろよ、さっさと終わらせてやるからさぁ!!」

 

高ぶる戦意に身を任せ、背の羽を奮って高く飛び上がる。怪物は俺をはたき落とそうと手を振るが、それをギリギリで回避しながらハングドマンを折って弾薬を詰め込む。

 

チョロチョロと飛び回ると、簡単に怪物の攻撃対象が俺だけになり俺を追うように動き出した。

 

「《■■■■━━》!!」

 

獣の声のような叫びと共に、薄暗い夜空から真っ黒の雷が降り注ぐ。轟音と共に降った稲妻は怪物へと直撃するがダメージはほとんどないようだ。

 

「やっぱ効かねぇか、なら使うしかねぇよな!」

 

顔の紋様を歪めるほどに口角を上げ、俺は怪物が絶対に届かない位置からハングドマンを向ける。

 

「《0の専心(セット)》」

 

そうぼそりと呟くと、ハングドマンは青白い光を放ち始める。

 

怪物は俺へと攻撃しようと手を振るが、それは学院を傷つけるだけで俺へはなんの害もない。

 

「うるせぇな。学院で...俺の居場所で暴れんじゃねぇよ。」

 

引き金に指をかけ、ハングドマンの光は最高潮に達する。

 

「行くぜ...滅魔弾(めつまだん)、起動!!!」

 

瞬間、引き金を引き銃弾が飛ぶ。

 

それは風を切るように怪物へと近づき、近づき、近づき━━

 

残り数メトラという所で、パキンと割れた。

 

怪物は怪訝に赤い目をこちらに見せるが、それに俺は不敵に笑って見せる。そして━━

 

怪物の体が揺るぎ始めた。

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

怪物は理解したようだ。自分の体が消え始めていることに。それこそが、俺の切り札である滅魔弾の効果だ。

 

竜言語魔術(ドラグイッシュ)の一つに、凍てつく波動(バニシング・フォース)という物がある。それは一定範囲内のエネルギー操作系の魔術を無効化するという物だ。

 

この滅魔弾は、その凍てつく波動(バニシング・フォース)の効力を込め、さらに改良を加えた物だ。

 

この弾丸はある程度進むと勝手に壊れ、内部に仕込んだ魔術を壊れた場所を中心に起動する。

 

範囲内の魔術を強引に消し飛ばすという魔術を。

 

元より魔術の支えがあってやっと存在出来る悪魔だ。その支えを俺が無理矢理ぶち壊したのだから、その存在が現界し続けることは出来ない。

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

そして揺らぎはさらに大きくなり、遂に悪魔は一際大きく叫ぶと、跡形もなく消え去った。

 

それと同時に、耳障りな楽団の演奏も聴こえなくなった。

 

「任務完了って事かね...」

 

ハングドマンを器用にくるくると回りしながら、俺は月を背後にそう呟いた。

 

地獄の演奏会は、ここに幕を閉じた。

 

━━━

 

グレン先生とアルベルトさんの作戦はこうだった。

 

グレン先生とルミ姉が囮となりザイードを誘き出す。そこをアルベルトさんが魔術狙撃で射抜くというものだ。

 

シス姉の話によるとアルベルトさんは四千メトラもの距離の狙撃を成功させたらしい。あの人ホントに人間か?

 

作戦はきっちり成功し、ザイードの捕縛には成功。この帝国と天の智恵研究会との戦いの歴史から考えれば大きな成果を得ることとなった。

 

それなのに...

 

「これは納得できん...」

 

俺は未だに屋根の上で一人待機中。真下の屋内では正気を戻した楽団の演奏に合わせ、グレン先生やルミ姉がフィナーレのダンスを踊っているというのにだ。

 

この状況の理由としてはいくつかある。一つは俺の足。イヴによる火傷によってうまい具合に動けないし、クリストフ先輩からは安静にするよう言われたためだ。

 

もう一つは辺りの偵察。既にアルベルトさん達は事後処理のために動き始めたのでこの場にはいない。そのため遠距離の攻撃手段を持つ俺がこうやって辺りの偵察を行う事になったのだが...

 

「結局ルミ姉の晴れ姿は見れずじまいかぁ...残念」

 

今頃ルミ姉は妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)を着て楽しく踊っているというのに...悲しいかなこれも仕事なのだ。きっちりするほかない。

 

一人悲観的になっていると、俺の隣に無言で誰かが座った。

 

「どした?」

 

「特に意味はない」

 

「そうか...」

 

リィエルは素っ気なく返すが、その表情は明るいものであるのは理解しているので俺は特に何も言わない。

 

こてんと俺の肩に顔を乗せるリィエルに、少し苦笑が漏れるがそれと同時に誇らしくなる。

 

俺がここを守ったのだと。

 

俺がルミ姉の夢を守ったのだと。

 

夢に見た正義の魔法使いになれたみたいに思えて、自然に顔が綻んだ。

 

俺とリィエルの見る先には、申し訳なさげに輝く月がいた。丸く欠けることのない月は、まるで今のこの状態を表しているようだ。

 

だが、月はやがて欠けていく物だ。

 

それすらも今に合っているため、なんだか風刺されているような複雑な気分だ。けれど...

 

「月が綺麗だな...」

 

「うん...」

 

その汚れを知らない月の輝きは、とても美しかった。

 

二人しかいない空間を、月は朧気に照らし続けるのだった。

 

━━━

 

「で、こんな所に俺を呼んでなんのようだ?クリストフ」

 

フィナーレのダンスを終え、ほとんどの生徒が帰路についた夜遅くの学院の裏手に呼び出されたグレンは呼んだ張本人に尋ねた。

 

呼ばれた青年は片方だけ出した片目でグレンを確認すると、静かな足取りで近づいた。

 

「こんな夜更けにすみません。先輩には知っておいてもらった方がいいと思いましてね」

 

「なんだ?出来れば手短にしてくれ。社交舞踏会の片付けをせにゃならねぇんだよ。シンも待たせちまってるし。」

 

ボリボリと頭をかきながら話すグレンは、とても面倒臭そうだがクリストフは思いを理解しつつも話始める。

 

「では単刀直入に言います。━━━━━━━━」

 

「...は?」

 

クリストフが言いはなったその言葉に、グレンの表情は一変。その顔は驚愕という感情に塗りつぶされた。

 

「お前、それどんな質の悪い冗談だ?さすがに笑え━━」

 

「僕がこんな冗談を言うと思いますか?」

 

「......」

 

その真剣な眼差しと声音に、グレンは信じざるを得なくなる。クリストフが彼に教えた、驚愕の事実を。

 

「なんでだよ!!なんであいつばっかりなんだよ!!」

 

ガンっと強く壁を殴り付ける。そこにはただの八つ当たりと、辛すぎる現実への逃避の二つの意味が込められているのだと長い付き合いのクリストフは勘づいた。

 

「僕が話したい事はこれだけです。どうか、彼をよろしく頼みます。先輩」

 

クリストフは悲痛な面持ちでグレンにそう言うと、その場から音もなく去っていった。

 

「これじゃ...これじゃあいつが救われねぇじゃねえか!!」

 

苦し紛れに叫ぶその声を、グレンの他に聞くものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





七巻終幕!次回からはあれですよあれ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。