最後にその手が掴むもの   作:zhk

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1ヶ月も放置してすみませんでした・・・

テストとかその他諸々があったんです。許して?

因みにどうでもいい話として、今日俺の誕生日です。

祝え!俺の誕生を!!

あと今回今までで一番長いかも


素直じゃない奴は煽ると簡単に怒る

何度も説明しているが、聖リリィ女学院に通う生徒達のほとんどはいいとこでのお嬢様である。

 

それに伴って普通なら礼儀作法にかなり精通しているはずなのだ。

 

きっと普通ならそうなんだろう。けど・・・

 

「こりゃないぞ普通・・・」

 

黒板に背中を預けながら、今目の前の光景に頬をひきつらせている。俺とグレン先生が受け持つのは大体四十人くらいのクラス。

 

そこにシス姉やルミ姉、リィエルが一緒になって学問に励むはずなのだが、今目の前のそれはそんな考えとは天と地ほどの差があった。

 

四十人近い人数はぱっくり半分に割れ、それぞれでグレン先生の授業も聞かずにやりたい放題。

 

片方は電車内で遭遇した黒百合会。こっちは賭けチェスや賭けトランプで勝手に盛り上がり、白百合会の連中はというと優雅にティータイムに興じながら雑談中。

 

一回聞くけどここ学校だよね?それにお嬢様が通う聖リリィ女学院だよね?

 

「思ってたのと全然違うんですけど・・・」

 

「そりゃ俺だって言ってやりてーよ・・・」

 

一人呟いた事に、隣のグレン先生が答えてくれるがそれはなかなかボロボロな有り様だ。

 

ついさっき先生は勇敢にもあいつらに授業を聞けと怒鳴りにいったのだが、まさかの反抗にあい全身に魔法を受けてこの様だ。御愁傷様と合掌を送ってやりたい。

 

「くっそー、んだよこれ。これじゃひねくれた奴が多いけどアルザーノ帝国魔術学院の方が何倍もましだぜ・・・」

 

「でもこれ端から見てたら学院に来た当初の先生そのものですよ」

 

「うっ・・・それを言われたら痛い・・・」

 

居心地の悪さを感じたのか、俺からさーと視線を逸らしていく。が、残念ながら向けた先にはさらにうるさい奴が。

 

「そうですよ先生、これで真面目に授業をしてもらえない生徒の気持ちをわかりました?大体先生は不真面目すぎるんですよ!それにですね━━━」

 

くどくどと始まったシス姉の説教に、グレン先生は面倒臭そうな顔になるが、悪いがこればかりは俺にどうにか出来る話じゃない。それにシス姉もなんだかんだ楽しそうだし。

 

「にしてもどうしますこれ?このままじゃ留学もくそもないですよ」

 

「そーなんだよなぁ・・・ったく誰だよこんなクラスにした奴。今からそいつシバき倒しに行きたい」

 

「同感です」

 

学級崩壊と言うことすら生ぬるいような有り得ないこの様子に、俺は深いため息をつくほかない。

 

この学校にある二つの派閥白百合会と黒百合会。この二つのリーダーであるフランシーヌとコレットを筆頭とした派閥の有力者をこれでもかと詰め込んだクラス。それが俺達が受け持つ事になったクラスの実態である。

 

(てかこれ完全に面倒事押し付けられてるよな・・・授業もなんも出来ねぇじゃんか)

 

さてどうしたもんかとグレン先生と二人で悩んでいると、俺達に誰かが声を投げ掛けた。

 

「本当にすみません・・・はるばる遠くから来てくださったのに、こんな事になって・・・」

 

「んな事言ったって仕方ないってエルザ。それにこれはエルザのせいな訳でもないし」

 

声をかけてきたのは、電車であったエルザ。なんとエルザもこのクラスの所属だという。このクラス唯一のまとも枠だ。いやホントにマジで。

 

「けどよエルザ、お前は呑気に授業受けてていいのか?あの下らないお遊びに付き合わなかったら、お前孤立すんぞ?」

 

「そこは大丈夫です。わ、私は黒百合会にも白百合にも所属してないんですよ・・・」

 

グレン先生の問いに、エルザが少し寂しげに答えた。

 

「私は、魔術師としては落ちこぼれなんです」

 

「へー。なんか意外だな。なんかこう・・・ザ優等生って感じだったから」

 

「確かにな。」

 

グレン先生が納得するなか、エルザは苦笑を浮かべながら話を続ける。

 

「それなので、皆の輪の中に入るのは少し悪い気がして・・・」

 

「別に気にしなくていいだろんな事。それともなんだ?別の理由でも━━━」

 

「あまり詮索するのは野暮ではないですか?シンシア先生。」

 

今度は別の方向から聞こえた声の方向に顔を向けると、そちらには片目を髪で確実少し変わった髪型の女子がこちらを見ていた。

 

「えっと・・・誰?」

 

「これは名乗るのが遅れました。あそこでバカやってるフランシーヌ様の侍女をしているジニー=キサラギです。」

 

ペコッと下げられた頭に合わせるように俺とグレン先生も頭を下げる。てかいまこいつ自分の主の事バカにしなかった?それでいいのか侍女よ。

 

でもこの中じゃエルザに次いでまともそうだ。

 

「ジニーだっけか?この状況はどうにかならないわけ?」

 

「無理ですね、私が言って聞くならとっくの昔にやってますよ」

 

ジニーも諦めているのか、気にしたら負けだとでも言いたげに騒がしい方向を見向きもしない。

 

「でもよ、ヤンキーみたいな黒百合会はわかるが白百合会もあんな暴挙に出てるのはなんでだ?最初に聞いた話だと、白百合会は伝統を重んじる派閥じゃなかったのか?」

 

グレン先生の質問ももっともな話だろう。

 

最初に聞いた話によると、この学院は白百合会と黒百合会の二つが存在しており秩序と規律を重んじる伝統派閥が白百合会。それに打って変わって今頭角を伸ばしてきているのが自由を尊ぶ黒百合会。

 

この二つがせめぎあっているという糞ほどどうでもいい話なんだけど、これを信じるなら伝統と規律を重んじる白百合会の連中はきちんと授業を聞くはずなのだが、そんな素振りは一切見えない。

 

「重んじるは重んじてますよ。代々白百合会はこの朝の時間をお茶会の時間として伝統としているんですから。だからそれを邪魔する輩は誰であろうと敵なんですよ」

 

「なんだその暴論!?んな事が通るのかよ!?」

 

「それが通るんですよ。ここの生徒達がそれを学院側に認めさせていますから」

 

「うっそだろ・・・」

 

これじゃ学校なんて言えない。ただの自由広場だ。向上心のあるジニーやエルザからすればいい迷惑以外なんでもない。

 

呆れるように辺りを見ていると、エルザのとなりの席が不自然に空いているのに気がついた。

 

「エルザ、そこの席の奴もあの輪の中にいるのか?」

 

「あっいえ、ここは・・・」

 

さっきと違い少し躊躇いを見せたが、間をおいてエルザは話し始めた。

 

「この席はオルちゃんのなんです・・・」

 

「オルちゃん?え!オルタンシアもこのクラスなの!?」

 

こくりと頷くエルザに、俺は内心面倒臭さでいっぱいになった。

 

何故かオルタンシアに異常なほど嫌われてしまっているのにそいつがこのクラスにいて、それに加えて派閥争いの最前線。もう胃が痛い・・・

 

「しっかしオルタンシア=ベーテンねぇ・・・もしかしてあのベーテン家か?」

 

「ええそうです。よくご存知ですねレーン先生」

 

「まぁこの名前は結構有名だからな」

 

「オルタンシアさんの名字は有名なんですか?」

 

グレン先生に質問を投げ掛けたのはルミ姉だ。その隣でシス姉も興味を持ったのかこちらに体を向けている。因みにリィエルはエルザの肩に頭をのせて熟睡中だ。お前のための留学なのにお前が寝てどうすんだよ・・・

 

「シンとルミアがわからないのはなんとなくわかってたが、白猫が知らないのは意外だな。あれだよ、メルガリウスの魔法使いに出てくる龍の巫女。」

 

「?確かにそれの名前はベーテンですけど、それは偶然なんじゃ・・・」

 

「その元になった本当の龍の巫女の一族の名前だよ」

 

「ええっ!?」

 

「マジで!?」

 

オルタンシアが龍の巫女!?すげー!!

 

「スノリア地方ではまだ龍を崇拝する文化があってな。そこにはベーテンの名を持つ龍の巫女が代々継承されてんだよ。まさかその家系の人間に会うとは思ってなかったがな」

 

「レーン先生の言うとおりです。」

 

なるほど、ならオルタンシアもなかなかの名家の生まれってこった。まぁそれはともかく・・・

 

「なんでこいついないんだ?」

 

「それは・・・」

 

言いにくそうな表情になったエルザに、俺はすぐに断りを入れようとしたがそれよりも先にジニーが俺の問いに答えた。

 

「簡単な話です。受ける必要がないからですよ」

 

「は?どうゆうことだ?」

 

「オルタンシアさんはこのクラス、ひいては学年でトップの成績を納めるんですよ」

 

「へぇ、あいつそんなに出来る奴だったんだ」

 

ただの皮肉やじゃないって訳か。

 

「でも教室はこんな状態で授業もろくに成り立たない事に腹をたてたのか、それとも黒百合会だの白百合会だの下らない事に必死になる周りがバカらしくなったのか、最近はほとんど授業にも顔を出さないんです。でもテストも実技も文句なしなので何の問題もないわけですが。」

 

「まぁこんな惨状を見れば、呆れ返るのも仕方ないわね・・・」

 

「あはは・・・」

 

ジト目で隣でばか騒ぎに興じる彼女らを見るシス姉に、ルミ姉も乾いた笑いしか浮かべない。こればっかりはルミ姉も擁護出来ないんだろう。

 

「にしても授業にも出ないのかそいつ・・・せっかくわかりやすく授業やってやってんのに。」

 

「そうですよね。この質の高さは驚きました」

 

「本当ですよ!こんな授業を毎日受けられている皆さんが羨ましいです!!」

 

「えへへ・・・そ、そう?」

 

シス姉よ、そこは照れるところではないんじゃないか?

 

にしてもこの空気は面倒くさいよな・・・実力行使で黙らせていいんならやるけど、それは後々がうるさそうだし・・・

 

あっ、そうだ♪

 

「先生!やっぱり授業を聞かないのは俺ダメだと思うんですよ」

 

「うん急にどうした?」

 

怪しげに俺を見てくる先生を無視して、俺は自分が思うことを口にする。

 

「先生のレベルの高い授業は皆に共有すべきですよ。だよなシス姉、ルミ姉!!」

 

「え、ええ・・・」

 

「うん。そう思うけど・・・」

 

うしっ二人の言質とったぞ!!

 

「てなわけで・・・」

 

くるりと体の向きを変え、入り口の扉の方を向く。

 

「俺は授業に出ない不良生徒を連れ戻してくるんで!!あとはよろしく!!」

 

「はぁ!?おま、お前この状況俺に丸投げすんな!!」

 

「適材適所っすよ!んじゃ!!」

 

これ以上モタモタしてたら強引に先生やシス姉に捕まると思い、床を蹴って一気に教室から飛び出る。

 

後ろでまだ何かを言っているような気がするが無視だ無視。気にしたら負けである。

 

(学生が授業をサボってる時どこにいるか・・・そんなの一個しかねぇな!!)

 

走りながらオルタンシアがいるところに目星をつけ、俺はさらに加速していくのだった。

 

シンシアsideout

 

━━━

 

オルタンシアside

 

『あれが今代の龍の巫女?』

 

『なんで姉の方じゃないのかしら?』

 

やめて。

 

『お姉さんの方は、この街の歴史でもトップレベルの魔術師らしいわよ。』

 

『それに比べたらあの娘はねぇ・・・それに目付きも悪いし・・・』

 

『だめよ、先代が選んだのは彼女なんだから』

 

私だってなりたくてなったんじゃない。あいつが選ばれたら私も諸手を挙げて喜んだわよ。それなのに━━━

 

『次代の龍の巫女は、オルタンシアとする。以後励むように』

 

嫌だ。そんなことやりたくない。私はもう比べれるなんてたくさんなの・・・

 

『凄いですね!!お姉ちゃん、応援してますからね!!』

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて。

 

『頑張ってくださいね!どんと胸を張ってください!!じゃなきゃ皆に笑われます、論破です!!』

 

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!

 

『私はお前に期待している。頑張ってくれ』

 

「うるさいっ!!!」

 

かばっと勢いよく体を起こすと、聞こえてきた声も見えていた映像も見えず、そこには綺麗な晴天が目に入るだけ。

 

どうやら夢を見ていたみたいだ。それもかなり悪い夢。

 

「はぁ・・・気分悪っ・・・」

 

せっかく下らない授業をサボっているというのに、こんな気持ちになるなんて本当に最悪だ。あんなこと、考えたくもないというのに。

 

どうせ今頃、臨時で来たあのアホみたいなやつとレーンとか言う二人があの幼稚なクラスに手を焼いているのだろう。その様子を想像すると、少しだけ醜い笑みが浮かんでしまう。

 

「すぐにあのクラスを受け持つのも諦めるでしょう。あんな大人になりきれない子供の相手なんて、誰もしたくないでしょうしね。」

 

まったく、私はここに魔術を勉強しに来たはずなのに・・・こんな惨状だなんて誰が想像するだろうか?これでは向上心を持つことすら馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

(さてと、もう一眠りでもしましょうか。二度もあんな夢を見ることもないでしょうし、それにもう少しであんな夢なんて見なくてよくなるんだから・・・)

 

自分にそう言い聞かせて、また瞼を閉じたとき、

 

ガチャリと空気の読まない音が、屋上に響き渡った。

 

「おっ」

 

「は?」

 

扉から現れたのは、今頃問題児達に手を焼いているはずの臨時講師の片割れ。それも私が一番嫌いなタイプの奴だ。

 

「やっぱここにいたか。サボりっつったら屋上が妥当だよな」

 

「・・・なんです?私を呼び戻しにでも来ましたか?あいにくながら、あそこで授業を受けるなんて時間の無駄です」

 

「おいおいグレ・・・じゃなかったレーン先生の授業まだ一回も受けてないじゃねーか。あの人ひととしては残念だけど、授業はマジですごいから」

 

この男が言うことをふんと鼻をならして一蹴する。だが彼にはそれに対して嫌な思いをしていないようにけろんとしていた。

 

これが嫌なのだ。誰でも信じる、疑うことを知らないような奴。

 

まるで、あいつみたいだからこいつは嫌いだ。

 

「というかお前ってすごい家系の奴だったんだな!!」

 

「っ!?」

 

いきなり飛んだ言葉に、私は自分の耳を疑った。だがそんな私の驚いた表情に気がつかないのか、この男はすらすらと喋るのをやめない。

 

「龍の巫女の家系だっけ?なんかカッコいいよな!俺なんて魔術師の名家とか言われてるけど俺は━━━」

 

「それを言うのをやめなさい!!!」

 

反射的に怒鳴ってしまった。唐突な私の行動にこの男は少し驚いたようになったが、すぐに申し訳なさそうな顔になった。

 

「悪い・・・皆が皆家を誇ってるわけじゃないよな。不粋な真似して申し訳ない」

 

きっと彼は本当に心のそこからそう思ってその謝罪を口にしているのだろう。だが、それが余計に勘に触る。

 

こいつに何がわかるんだろう?私の何がわかるんだろう?何もわかっていないくせに、少しでも知ったような口振りで。聞いていて腹が立つ。

 

「まぁとりあえず戻ろうぜ。先生も授業してるし少しは━━━」

 

「くどい!何度も言っているでしょう?私はそんな無駄な事に時間を割きたくないと・・・」

 

そこまで言って、下から何か騒がしい声が聞こえてきた。そちらへ目を向けると、見慣れた輩が見覚えのある輩と魔術を撃ち合っている。

 

「あり?シス姉とルミ姉?リィエルまで・・・それに相手は黒百合会のリーダーのコレット?とあの縦ロールは白百合会のフランシーヌだっけ。あ、ジニーまで出てんじゃん・・・どうしてこうなった・・・」

 

困惑ぎみにこの男が言うのなら、この模擬戦がなぜ行われたのかはこいつも知らないのだろう。

 

「ま、どうせ勝つのはシス姉達だろうけど・・・そだ!!」

 

手をポンと叩いて、こいつは何か思い付いたみたいに私を見た。

 

「なぁ、俺らも模擬戦しない?それで、オルタンシアが負けたら俺に付いてきてきっちり授業を受ける。俺が負けたらもう絡まない。これでどうだ?」

 

「はぁ?なんで私がそんな面倒な事をしなきゃいけないのよ。そういう下らないことはあんた達で勝手にやってなさい」

 

「ふーん・・・」

 

本当になんなんだいきなり、なんで私がこんな奴と模擬戦をしなければ行けないんだ。合理性に欠ける。本当にこいつはよくわから━━

 

「なんだ、負けるのが怖いならそう言えよー」

 

「・・・は?」

 

少しだけ眉をひくつかせながら、どすの聞かせた声でこいつに聞き返した。

 

「それも仕方ないよな、俺は一応講師だし?いくらここの学年トップの実力者っても勝てないわな。うんうん納得納得、俺だって負けるってわかってて勝負は挑みたくはないな。ごめんなフェアじゃなかったわ」

 

軽薄そうに言うこいつ。

 

私が?こいつに勝てない?こんな常識知らずのお人好しのバカに、私が勝てない?

 

冗談じゃない。冗談じゃない!!!

 

「いいわ、やってやろうじゃない!地べたを這いずり回させてやるわ!私に挑んだ事を後悔させてやる!!」

 

「チョロいな・・・」

 

あいつが何かボソッと呟いたのが聞こえたが今はそんな事は関係ない。そんな事よりも重要なのは、こいつの鼻を明かす事だ。

 

腰に刺さった細めの十字剣を引き抜き、剣先をこいつに向ける。

 

「俺も最近あんま体動かせてなかったんだわ。だから、リハビリとしてよろしく」

 

「なめるんじゃ、ないわよ!!」

 

無我夢中で、私は固い床を蹴った。

 

このバカに、一泡吹かせるために。

 

そんな私の内心には、もう寝起きに感じた気持ちの悪い感覚はどこにもなかった。

 

━━━

 

「はーいそこまで。勝者は白猫、ルミア、リィエルのチーム。まぁそりゃそうなるわな」

 

模擬戦終了の音頭を取りながら、グレンは結果に満足するようににやりと笑いながらそんなことを口にする。

 

はっきり言って、模擬戦の内容は終始留学生の三人が優勢だった。

 

システィーナの的確でキレのある魔術行使、ルミアの丁寧なサポート。そして言うまでもなくリィエルの戦闘技術、これらに敵うようなハイスペックなお嬢様はここには存在しなかったのだ。

 

「さてと、負けたお前らに質問だが、なんで負けたかは理解してるか?」

 

「「「・・・」」」

 

質問を投げ掛けられたコレット、フランシーヌ、ジニーは口を一文字に結んでなにも答えない。あれだけこてんぱんにやられれば心が折れるのも仕方がないだろう。それほどまでに、彼女らとの差は大きかったのだ。

 

「まずフランシーヌ、お前は感情が顔と動作に出過ぎだ。そんなんだからあっさり次の動きを読まれて攻撃されんだよ。」

 

「うっ・・・」

 

「次はコレット、魔術師失格。あんな見え透いた罠に引っ掛かってどーすんだよ。そんなんじゃ戦場ですぐに死ぬぞ?もっと頭を使え頭を」

 

「ぬぐっ・・・はい・・・」

 

「最後にジニー、お前は戦況判断が最悪だ。リィエルに一人で太刀打ち出来ないのは、お前ならすぐにわかっただろうに」

 

この戦い、リィエルとジニーは一対一で戦っていたのだが、結局ジニーはリィエルに一撃も与えることは出来なかった。因みにリィエルは攻撃は禁止(やり過ぎる可能性大だから)。

 

「魔術師として力が足りないのは恥ずかしいことじゃない。ただな、実力が届かないのにがむしゃらにやるだけならそれは恥ずべき行為だ。よく覚えとけ」

 

「・・・ご高説、痛み入ります」

 

余程その言葉が身にしみたのだろう。ジニーは強く頷きながらそう答えた。

 

三人に言いたい事を言ったあと、グレンは辺りにいる他の生徒に目を向けながら言った。

 

「お前らは魔術を勘違いしてんだよ。魔術はただの戦いの中の一手ってだけだ。それをいかに工夫し、知恵を振り絞るかが大事なんだよ。お前らみたいにただ力をそのまま振り回すのは、そこらのチンピラと変わらん」

 

それが的を射ているから、彼女らはなにも言えない。今まで自分達が見てきた常識をぶち壊されたのを目の前で見たからこそ、グレンの言葉がよく突き刺さる。

 

「さてと、んで俺が何を言いたいかだけど。今のお前らは魔術師じゃない。ただの魔術使いだ。だけどな・・・」

 

「俺なら、お前達を魔術師にしてやれる」

 

絶対的な自信が含められたその笑みに、全員が見いってしまう。グレンには、それを言わしめるほどの自信が確かにあるのだ。

 

「ほんの少しでも俺の授業を聞きたいなら歓迎してやる。本当の魔術ってのをその胸に刻んでやるよ」

 

尊大な物言いと男らしい(本当に男なのだが)態度に、周りの生徒が侮辱とは違うベクトルの騒がしさを醸し始めた。

 

「すごい御方。今までとは全然違う・・・」

 

「器が違いすぎる・・・」

 

「あれだけ傍若無人な態度をとっていたのに、それを水に流すなんて・・・」

 

「この先公凄すぎる・・・」

 

尊敬の畏怖の敬を込めた視線を送る生徒達。さっきまでの態度はどこへやら、今彼女らにとってグレンはカリスマそのものだ。

 

(チョロい・・・チョロい過ぎるぜこいつら!!これだから箱入り娘は。ちょっと落としてあげてやればこんなに俺に釘付け、本当にチョロ過ぎて心配になってくるぜ)

 

自分のずる賢さと、彼女らのチョロさに怖くなっていたグレンの袖を、誰かがクイクイと引っ張った。

 

「ん?どした?」

 

「グレン、シンはどこ?」

 

「あ」

 

今の今まで完璧に頭から抜け落ちていた。そんな感じの不抜けた声を出したグレンに、システィーナがため息をついた。

 

「にしても遅いわね・・・」

 

「もしかしてまだ校内を探し回ってたりして・・・」

 

「あいつに限ってそんな・・・いやあり得るかも」

 

姉として少し悲しくなるシスティーナだが、だとしたらなかなかに面倒な事になる。

 

「シンってあれ?顔に黒い気持ち悪い模様が入った・・・」

 

「ああ、固有魔術(オリジナル)を持った男の人よね?レーン先生ほど凄い人なのかしら?」

 

「んな事ないだろ。どうせレーン先生のおまけだろ。じゃなきゃ私達と同い年で講師としてくるなんておかしいじゃんか」

 

シンシアのあられもない話が飛び交い始めると、システィーナとルミアとリィエルが眉を潜める。そしてリィエルが一言言ってやろうと足を一歩踏み出したその時、

 

彼女らの上方から、大きな爆音が轟いた。

 

「きゃあ!!」

 

「なんだ!?」

 

グレンが上を見ると、屋上からこちらに向かって飛び降りてくる人影が一つ。それは器用に黒魔【グラビティ・コントロール】を使って綺麗に地面に着地した。

 

「オルタンシアさん?」

 

「なんであんな所から・・・」

 

屋上から来たのは、シンシアが探しに行く理由となったオルタンシア。だが様子がおかしい。

 

何か焦るような表情に、手には十字の剣が持たれている。まるで今何かと戦っているかのように。

 

「おい、これはどういう事だ?」

 

グレンが疑問を口にしたと思うと、屋上からやってくる人影がもう一つ。

 

人影は【グラビティ・コントロール】も使わずに着地すると、講師用のローブを翻しながら焦りを浮かべるオルタンシアへと不敵に笑って見せた。

 

「おいおいそんなもんか?学年トップ。」

 

「うっさいわね!!」

 

飛び降りてきたシンシアは、煽るようにオルタンシアに言うと打てば響くようにオルタンシアが返した。

 

「おいシン、こりゃ一体・・・」

 

「模擬戦ですよ。俺が勝ったらオルタンシアは授業を受けるって話で。てかオルタンシアって長いな・・・」

 

シンシアは余程余裕があるのか、戦闘中にも関わらずグレンの問いかけにすらすらと答えていく。それが勘に触ったのかオルタンシアは剣先をシンシアへと向けて詠唱を始めた。

 

「《穿て・貫け・大気の一撃》っ!!」

 

「よっと」

 

オルタンシアが発動した風の魔術、【ストライク・エア】。空気を槍のような形状にして放つその魔術も、シンシアは焦る事もなく回避。

 

「《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ》っ!」

 

「それはさっき見た!!」

 

黒魔【アイス・ブリザード】によって飛んでくる氷弾を気にせずに前へ飛ぶシンシア。前へ飛ぶが、氷弾には掠りもしない。

 

一歩、また一歩とシンシアがオルタンシアへと距離を詰めていく。だが、ある程度進んだ時シンシアの足元で魔術陣が展開された。

 

「これで終わりよ!!」

 

罠魔術【バーン・フロア】の爆発がシンシアを襲う。直撃すれば死亡判定が入り、模擬戦の勝利が確実になる一撃が入ったのを見てオルタンシアは満足げだ。

 

「なんだ呆気ないな・・・」

 

「リィエルさんやシスティーナさんを見たあとだと、なんだか弱い気がしますね」

 

「バーカ」

 

コレットとフランシーヌの率直な疑問に、グレンは小バカにするように返す。

 

「あいつはその程度じゃねぇよ」

 

グレンの言葉の意味がわからず、二人はまだ爆煙の上がる場所を見つめる。すると・・・

 

「「ええっ!?」」

 

煙の中から現れたのは、巨大な盾。それは彼女らの倍はあろうかというサイズのそれは、爆発前には存在しなかったものだ。

 

「防御完了!」

 

大盾をその辺に投げ捨てながら、シンシアはそう言い放った。その通り、シンシアには傷一つない。

 

「さすがにこのままじゃ終わりそうにないし、そろそろ攻撃開始といきますか。」

 

右手を前に突き出し、狙いを定めたシンシアは、ここで始めて攻撃のための魔術の詠唱を開始する。

 

「《黒雷よ・導け・我に勝利を》っ!!」

 

詠唱と共に現れた黒い魔術陣から、6つの黒い稲島が迸る。それらは寸分違わない狙いでオルタンシアを射ぬかんと飛ぶ。

 

「くっ!」

 

それを回避するために横に飛ぶオルタンシア。だが、それを追いかけるように黒い稲妻は進行方向を変えてオルタンシアへ襲いかかる。

 

「なんなのよっ!これっ!!」

 

飛んでくる稲妻を手に持つ剣で防御する。オルタンシアも予想外なこの攻撃に、目を見開きながら驚いた。

 

「あいつの固有魔術(オリジナル)の一つ、【ホーミング・ライトニング】。対象となる物を先に狙って、それを自動的に追尾する稲妻を放つ魔術だ。」

 

わかっていない他の生徒に解説するグレンに、全員が舌を巻く。この高レベルな魔術を自分で作ったのが自分達と同い年という事が彼女らに大きな衝撃を与えたのだ。

 

「《我・時の頸木より・解放されたし》!」

 

隙が出来たのを見逃さず、シンシアはすぐさま【タイム・アクセラレイト】を発動。それによる超高速移動によってオルタンシアに肉薄する。そしてまだ効果が切れぬ内にオルタンシアの剣を奪い、剣先を喉元に突きつける。

 

わずか数秒。その間に、勝負は決まってしまった。

 

「これで俺の勝ち!」

 

「あり得ない・・・私が・・・こんな奴に・・・!!」

 

「これからは授業をちゃんと聞けよ?オルタ」

 

「はぁ!?オルタ!?ちょっと!?私の名前勝手に略さないでくれる!?」

 

「だって長いんだもん」

 

負けてギャーギャーとわめくオルタンシアを他所に、全生徒は唖然とする他なかった。

 

オルタンシアは、コレットやフランシーヌというクラスの実力者でも勝てないほどの猛者だ。それをこうまでシンシアが一方的な試合運びで圧勝するなど、誰が予想しようか。

 

「罠に錬金術で作り出した大盾で確実に防御する知恵。相手に次の動きを読ませない行動。威力の低い【ホーミング・ライトニング】で相手に隙を作り、そこを高速で動けるようになる【タイム・アクセラレイト】で勝負を畳み掛ける状況判断。これだけ揃ってて、まだあいつをバカに出来るか?」

 

全員が被るように首を横にブンブンと振ってその質問に答えた。

 

「これが、シンシア=フィーベルという魔術師だ。今のお前らに無いものは、あいつが全部持ってる。確実にお前らの見本になれる奴だ。しっかり見て覚えるよーに」

 

「「「はいっ!!」」」

 

シンシアに向けられていた軽蔑の視線は、いつの間にかグレンに向けられる尊敬の視線と同じものに変わっていた。

 

その手のひら返しの早さにジニーとシスティーナは呆れ、ルミアは苦笑を漏らし、リィエルはシンシアの実力を周りが理解したことに満足していた。

 

だから、模擬戦を行うグレンの顔にどこか哀しさが漂っていた事に、誰も気がつくことはなかった。

 

 

 

 

 

 





どうでしか?

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