最後にその手が掴むもの   作:zhk

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裏切りの親友

袈裟斬りされた胸から、足元に赤い血が流れていく。

 

傷は幸いそこまで深くないのはありがたいが、今は俺の事なんてどうでもいい。

 

「なにしてんだよ・・・エルザ・・・」

 

目の前で驚きを露にしながら刀を握るエルザに、そう呼び掛ける。

 

嫌な予感がして走ってきてみれば、あれだけ仲が良かったリィエルとエルザが駅構内で切りあっていた。さすがにそれには俺も驚きを隠せなかったが、たどり着いたらエルザが叫びながらリィエルと切りかかっていた。

 

いつものリィエルなら避けられただろうが、何故か呆然としていたリィエルは微動だにしていなかった。確実に一撃が入ってしまうと理解してすぐに、俺は地面を駆けて二人の間に入ったのだ。

 

だが本当に状況がわからない。一体どういうことなんだ?

 

「シン!?大丈夫!?」

 

「リィエル・・・ああ、結構痛むけど大丈夫だ。」

 

さすがは東洋の刀、切れ味はなかなか物だった。

 

とりあえずリィエルも見たところ大きな怪我もないしそれはエルザも同じ。ひとまず安心だ。

 

「どうして・・・」

 

「ん?」

 

息を吐くような小さな声を発するエルザに、俺は痛む胸を押さえながら目を向ける。

 

「どうしてこんな人殺しを守るんですかシンさん!!」

 

「っ!!」

 

いつもの見慣れたエルザとは違う、必死さというかそういうよく分からない雰囲気を纏ったエルザに引き気味になるが、そんな俺をほっておいてエルザは泣き叫ぶように口を動かす。

 

「そいつは、私の父を殺して、それなのに名前を偽って帝国軍に居座るような外道ですよ!!」

 

「エルザ・・・お前何を言って・・・」

 

「彼女はリィエルなんかじゃない!!邪悪な魔術結社の暗殺者、イルシア=レイフォードですよ!!あなたも騙されてるんです。早く目を覚ましてください!!」

 

イルシアの名前を聞いて、俺は目を見開きながらリィエルの方を向くと、リィエルも悲しそうな瞳で俯いていた。

 

なるほど。そういうことか・・・

 

リィエルの元となったと言ったら言い方が悪いかもしれないが、イルシアはもともと天の智恵研究会に所属する暗殺者だった。そんな彼女の遺伝子から作られたのがリィエルだ。

 

イルシアが暗殺者の時、暗殺の対象の中にエルザの父親がいたんだろう。それをエルザはリィエルがやったと勘違いしている。なんとも面倒な事になってるもんだ・・・

 

「エルザ・・・とりあえず言っておく・・・リィエルは・・・イルシアじゃねぇ・・・」

 

「っ!?そんな事、あるはずが━━━」

 

「実際そうなんだよ。説明するのは難しいけどな」

 

リィエルの素性を説明するには、天の智恵研究会が行った『Project:Revive Life』について説明する必要がある。けどそれは国家機密レベルの話だ。俺も成り行きで知るはめになったが、普通に生活していれば知ってはいけない事柄。ほいほいと言うことが出来ない。

 

「そ、そんなの納得が出来ません!!なら、彼女の魔術も、剣術も、あの時見たそれとまったく同じなのはどう説明するんですか!?信じられません!!」

 

エルザも普通じゃないのか怒りによって我を忘れているのか、矢継ぎ早に言葉を被せてくる。その度に、俺の背後でリィエルが泣きそうな顔になる。

 

駄目だ・・・これじゃ駄目だ。

 

「これ以上私の邪魔をするなら、切りたくはありませんがあなたも━━━」

 

「いいよやりな。」

 

「・・・え?」

 

大体彼女が何を言いたいのか理解はしたので、先にそれを言わせないように俺が先手を撃った。

 

「俺ならいくらでも好きにすればいい。それでリィエルの話をエルザが聞く気になるならな。」

 

両手を広げてご自由にどうぞと言わんばかりな俺の態度に、エルザは困惑ぎみだ。

 

「どうして・・・どうしてそこまで出来るんですか?リィエルのためなら、自分の身なんてどうでもいいんですか?」

 

「別にそこまでは言ってねぇよ。」

 

本当はその通りだ。だが、それをここで明かせば確実にリィエルが悲しむので口にはできない。けれど、

 

「ただな・・・」

 

この真実だけは告げられる。

 

「俺はどんな時もこいつの味方でいるって決めたんだ。だからリィエルが泣きそうなくらい悲しんでんなら、助けにはいる。それだけの事だ」

 

あの時リィエルに誓った。

 

リィエルをどれだけの人が否定しようと、どれだけの人が拒絶しようと俺だけはリィエルの味方でい続けると。

 

「エルザもこんな事、本当はしたくないんじゃないのか?今日まで俺たちに見せていた笑顔は、全部嘘っぱちだってのか?」

 

「わ、私は・・・」

 

エルザの手に持つ刀の剣先が震える。

 

「洗いざらい口に出してみろよ。お前の本心をさ」

 

「私の・・・本心・・・」

 

ゆっくりと、ゆっくりと刀を下ろしていくエルザ。それに俺は優しく微笑みかけ、胸を押さえながら近づくと━━

 

「駄目じゃないエルザ。戦意をなくしちゃ」

 

突如として聞こえた第三者の声が、俺の足を強引に止めて視線をそちらに向けさせた。

 

聞こえた方向はエルザの真後ろ、そこにはこの短期留学でエルザと同じかそれ以上に言葉を交わした少女がいた。

 

「オル・・・ちゃん?なん、で・・・」

 

「はぁ、なんでと聞くのね。それがわからないなら、あなたはそこでおしまいよ。本当に使えないわね」

 

酷く冷淡な口調と冷ややかな笑みと共に投げ掛けられる刃物のような言葉に、俺は不信感を最大限まで引き上げエルザを背にオルタに立ち塞がる。

 

「どうしたんだオルタ?お前今日は体調が悪いとかで寮で寝てるんじゃなかったのか」

 

「ええ、体調は悪いわ。けど、それも今から治るから問題ないわ」

 

「治る?一体なんの話を━━━」

 

俺が最後まで言葉を紡ぐよりも先に、オルタは腰から剣を抜きその剣先に魔術で小さな火を灯した。

 

それは本当に基礎の基礎の魔術。それこそ魔術の才能がある子供ならば、誰からも教えられなくとも出来るようなそんな魔術。

 

「大層な事を抜かしてこれで終わりか?お前の病気ってのは低体温症かなにかか?」

 

「胸を綺麗に切られてガンガン血流してるのにまだジョークが言えるのには心から尊敬してあげるわ。けど、これでいいのよ。」

 

「なに?」

 

不可解に思ったが、その答えはすぐに出た。

 

「あ、あ・・・ああっ!!」

 

「エルザ?」

 

ガタンと刀を手から溢れ落とし、顔をどんどんと青ざめ震えさせ始めるエルザ明らかに普通じゃない。

 

「エルザっ!?」

 

「大丈夫か!?おいしっかりしろ!!」

 

「いやぁァァァァァァァぁ!嫌だ、嫌だ!!」

 

泣きわめくように叫び散らすエルザに、俺もリィエルも慌てふためくしかない。だがその一瞬、俺もリィエルもオルタから完全に視線を外してしまった。

 

そのつけなのか、俺の横腹に槍で突かれたような衝撃な走りその勢いのまま吹き飛ばされた。

 

「がっ!!ぐぅ・・・」

 

視界が明滅する。口から血が溢れているのを見る限り、どうやら肋骨が折れて内臓に突き刺さったみたいだ。痛みは想像以上に酷く、起き上がることすら難しい。

 

「シンっ!?」

 

「動かないことね。私はすぐにでもまたあのバカに向けて魔術を撃てる。それこそ、あなたがなにか行動を起こすよりも早く、ね。」

 

剣を向けるオルタの瞳には、これが嘘ではないとはっきりと告げる力強さが籠っている。

 

(予唱呪文(スペル・ストック)か・・・それで、大方【ストライク・エア】でも俺に飛ばしたんだろうけど・・・こいつ・・・ここまで出来るとはな・・・)

 

辺りに胸の傷から溢れる血と、口から流れ出る血で沼が出来始めるなか、自分の予想を遥かに上回るオルタの実力に舌を巻く。

 

「さてチビ、ここで私と取引しないかしら?」

 

「・・・なに?」

 

警戒を露にし、臨戦態勢をとるリィエルにも怖じ気づかずにオルタは優雅に嗤いながら話す。

 

「このまま私は、すぐにでもあのバカを殺せる。けど私の目的はそれじゃない。私の目的はあなたの捕縛。だから、今あなたがここで降伏し素直に捕まってくれるなら、あいつを狙うのをやめるわ」

 

「降伏しなかったら?」

 

「そうね・・・手始めにあのバカを、次にそこでえずいてる能無しをやろうかしら?私が指を動かせば一瞬よ」

 

「っ!?」

 

リィエルが動揺しながら、俺とエルザの間を視線を行き来させる。

 

「だ・・・めだ・・・リィエル・・・」

 

このままじゃ、リィエルはオルタに拘束される。オルタの後ろに誰がいるのかは正直わからないが、なんのためらいもなく俺に攻撃魔術を撃ってくる時点で、平和な話じゃないのは明白。

 

痛む体に鞭をうち、どうにか立ち上がる。

 

「エルザを連れて・・・逃げろ・・・こいつは・・・俺が・・・」

 

「うるさい」

 

「あがっ!!」

 

鳩尾に風の槍が突き刺さり、思わず膝をつき口から血を吐く。ヤバい・・・呼吸する度に胸が痛む。肺にがっちり肋骨が刺さってるみたいだ・・・

 

「ほら、あなたがどもってるからどんどんあいつが傷つくわよ?次は能無しの方にしようかしらねぇ・・・」

 

「やめて・・・」

 

「なら私に、いえ私達についてきなさい」

 

よく目を凝らすと、オルタの後ろの方に何人もの女生徒の姿。さらにそのなかには見覚えのある人物も。

 

(マリアンヌ学院長!?これにあいつが一枚噛んでるのか・・・)

 

あの時の密会には、こんな意味があったのか・・・自分の警戒心のなさに無力感を感じざるを得ない。

 

「それでどうするの?来るの来ないの?」

 

「・・・行く。それでシン達を傷つけないのなら」

 

「っ!?やめ・・・ろ・・・ゴフッ」

 

一際大きく血反吐を吐き、俺はそこに横たわる。見える景色が歪み、意識が徐々に遠退いていく。

 

(リィ・・・エル・・・)

 

顔をどうにか上げると、寂しげな目でこちらを見る。そしてリィエルはこう言った。

 

ありがとう、ごめんなさいと。

 

ふざけるな、謝るんじゃない。

 

俺は、俺がお前を、お前達みんなを守るって決めたのに・・・

 

また守れないのかよ・・・

 

込み上げる悔しさを胸に秘めながら、俺はそこで意識を手放した。

 

シンシアsideout

 

━━━

 

オルタンシアside

 

「これでいいのね?」

 

「ええ完璧な手腕です。さすがは学年トップの実力、もはや大人の魔術師と大差ないわね」

 

「御託はいいわ。さっさと進みましょう。私はそのためにあなたの話に乗ったのだから。」

 

青髪のチビを気絶させ、未だに震えているエルザと二人仲良く【スペル・シール】にかけながら、私はこの女にぞんざいな返しをする。

 

「これで、私は蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)に戻れる。これで、これで私は遂に━━!!」

 

なにかかしましく言っているが、あの女の目的など私にとってはどうでもいい。

 

これでもう、あのくだらない『龍の巫女』という肩書きを捨て、ベーテンという呪いのような姓から逃れられる。もう誰かと比べられバカにされる必要はないのだ。

 

遂に自分があれだけ願った世界が手にはいるのだ。

 

それなのに・・・それなのに私はなぜ・・・

 

自分の行いに納得がいかないの?

 

「しかし良かったのかしら?エルザはあなたにとって親友のような人ではなかったの?それにシンシア=フィーベルとはそれなりに仲もよかったようですし」

 

「問題ないわ、私は目的のためにどんなことでもする。それだけの話よ。その過程で二人はいらなくなっただけよ」

 

「ふふっ、つくづくあなたは私と同じ思考パターンをしている。面白いわ。」

 

くつくつと笑うマリアンヌに嫌悪感がぬぐえないが、私は目の前で倒れ伏す男に視線を向ける。

 

第一印象は本当に最悪だった。

 

不躾に物を聞いてきて、簡単な嘘に乗るような単純な奴。それだけだ。

 

だが、彼の私の肩書きを聞いても接し方を変えない事にどこか居心地のよさでも感じてたのかしら?

 

くだらない。そんなのは一時の気の迷いなのに。どうせこいつもそこの能無しも心のそこでは私を貶してるに違いない。人間なんて皆そうだ。

 

「さて行きましょう。ここがゴールじゃない。これが私達のスタートなのだから」

 

「それもそうね。さぁ出立するわよ」

 

「「「はいっ!!」」」

 

他の女生徒達が、気絶した青チビとエルザを列車に乗せていく。その間も、私は血だまりに倒れ伏すあの男から目が離せない。

 

「救ってくれるヒーローなんて、この世にはいないのよ・・・」

 

それは事実の確認か、はたまた自分に言い聞かせるためかはわからないが、流れるように口からこぼれた。

 

そして私は動かない彼から目を離し、列車へと乗り込んでいった。

 

オルタンシアsideout

 

━━━

 

薄暗い辺りに、足音だけが響き渡る。

 

「急げ急げ急げ!!」

 

必死の形相で暗闇を駆けるのはシンシア。その足取りに迷いはなく、ただひたすら一直線に進み続ける。

 

「着いた!」

 

目の前に現れた扉を勢いよく蹴り飛ばすように開け、転がり込むようにその中へと入る。

 

そこにあるのは巨大な砂時計。けれどそれはボロボロで、中の砂は至るところについたヒビや割れた部分から流れ出ている。

 

「前に見たのは社交舞踏会前だっけか?にしちゃ減りが尋常じゃなく早いな・・・短期間に三回も使えばこうなるのはわかってたけど。」

 

顔を少し歪ませて、呟く独白には自嘲が少し込められていた。

 

「けど時間がないんだ。迷ってられるか!」

 

躊躇いなくシンシアは、その手を砂時計の割れた部分に腕を突っ込み中の金の砂を握る。

 

すると金の砂はたちまち輝きを放ち、シンシアの体へと消えていく。その状態を数秒維持したあと、シンシアは砂時計から腕を抜く。

 

「これで肋骨はなんとかなるんだが、胸の傷は足りない。そこは根性でなんとかするしかないか。」

 

徐々に微睡んでくる意識の中、決心を決めたようにシンシアは目をつむり意識を投げ捨てた。

 

その時最後に見たのは、もうほとんど砂の残っていない壊れかけの砂時計だけだった。

 

━━━━

 

シンシアside

 

「━━さん!シンさん!!」

 

「くっ・・・」

 

重たい瞼を強引に持ち上げると、目の前では焦りの表情を浮かべながら俺を揺するジニーの姿があった。

 

「起きたっ!大丈夫ですか!!血がこんなに出て━━━」

 

「リィエルは!?エルザとリィエルはどこに行った?」

 

半分怒鳴り込むように問うた質問に、ジニーは目を伏せながら小さな声で話し始めた。

 

「リィエルさんと、エルザさんは・・・マリアンヌ学院長と何人かの生徒に拘束されて、今さっき列車に乗って行きました・・・」

 

「なっ!?」

 

もうすでに出たあとなのか。だとしたら本当に急がないと間に合わなくなる!!

 

「私はそれを・・・ただ見てるだけしか出来ませんでした・・・ごめんなさい・・・私が少しでも時間を稼いでいれば・・・」

 

「ジニー!!」

 

「はいっ!?」

 

ビクッと体を震わせたジニーの肩を掴んで、じっとジニーの瞳を見つめる。

 

「そこについてはお前は悪くない。それよりもナイスだ。ジニーが居なかったら、俺もすぐに状況がわからなかった」

 

「シンさん・・・」

 

「お叱りならあとでいくらでもしてやる。けど今はそれよりもやることがある。」

 

軋む体を立たせ血が大量についたローブについた埃を払って、列車が向かったであろう方向を見据えた。

 

「お前はすぐに先生のとこに行って状況を説明しろ。そうすれば先生がすぐに動いてくれるはずだ」

 

「シンさんはどうするんですか?」

 

「俺か?俺は・・・一足先にリィエル達を追う」

 

「そんなっ!?無茶です!列車の速度に追い付くこともそうですが、相手はコレットさんやお嬢様にも匹敵するような実力者がたくさんいました。それに・・・」

 

「オルタンシアが筆頭だった。言いたいのはそれだろ?」

 

コクりと、ジニーは頷いた。

 

あいつ、どうやら実力を隠していたようだ。あそこまで出来るとは俺も予想してなかったし。

 

それに他の生徒もオルタンシア程ではないしろ、それに近しい実力者揃い。加えてマリアンヌまで相手にしなければいけないと考えると、無謀だと言われても反論できない。

 

「大丈夫だ、なんとか出来るのが俺にはある」

 

けど、それは普通の人間で考えたときの話だ。

 

「《我を縛る業の鎖よ・今その拘束を解き・我を解放せよ》!!」

 

血濡れのタロットを握りしめながら詠唱を終える。それをすれば、俺はただの人間という皮を引き剥がす。

 

顔の紋様は大きくなり、体から黒いマナがあふれでる。そして変わった俺の雰囲気に察したのか、ジニーがその場から一歩下がった。

 

「ただのあまちゃん学生だろ?俺一人でどうとでもならぁ」

 

「え・・・それは・・・一体・・・」

 

「悪い。それは言えない」

 

溢れた黒のマナを形取り、自分の背中に羽を作る。羽をはためかせ少し浮いたあと、最後にジニーの方を向いた。

 

「伝達頼む。ジニーだけが頼りだ。頼むぞ!」

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

ジニーの答えを待たずに、俺は一気に空中に飛び列車が行った方向へと飛翔する。

 

「さてと!道踏み外した奴をひっぱたきにいきますか!!」

 

夜の帳に、俺の叫びがこだまする。

 

長い夜が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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