最後にその手が掴むもの   作:zhk

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お、お久しぶりです・・・

3ヶ月完全放置、本っとうに申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!

ネタが完全に思い浮かばなかったり、違う作品書いてたりしてましたはい・・・

ホントにごめんなさい。反省してます。

てなわけでどうぞ


その手で闇を裂け

 最初に感じたのは、胸の違和感だった。

 

 なにかいつもと違うような、そんな感覚。

 

 それに合わせて目の前でオルタンシアがその絹のような白い肌に赤い斑点をつけているのに気付き、やっと俺は自分の胸に視線を下ろした。

 

 そこにあるのは、俺の胸から生え出た剣の刃だった。

 

 ああ、俺刺されたんだ。

 

 そう理解した途端、

 

 俺の体中に激痛が、胸から電流が流れたように走った。

 

「かっ・・・ごほっ・・・」

 

 せりあがってきた血塊を口から吐き、痛みに耐えながら俺は自分を貫いた犯人へと目を向ける。

 

「マリ・・・アンヌ!!」

 

「あら、まだ元気なのね」

 

 マリアンヌはそう至って平淡や口調でそう言うと、

 

 俺に刺さった剣を一気に引き抜いた。

 

「あああああああっ!!」

 

 胸から血が飛び散り、辺りを赤に染め上げて俺は力なく揺れ動く列車の床にバタリと倒れた。

 

 痛い、痛い、痛い。

 

 胸がまるでやけどをした時のような熱さを帯びている。視界も激痛からなのかぼやけ始めた。

 

 だが、それでも、俺はこの一連の事件の首謀者から目だけは反らさなかった。

 

「怖い怖い。視線だけで人を殺せそうだわ。まぁそうやって地べたに這いつくばっていては、何も出来ないのだけれど。」

 

 侮蔑を込めた言葉を俺へと吐き捨てると、マリアンヌは剣についた俺の血を払うように剣を横凪ぎに振った。

 

「さて、どう料理するの?オルタンシア」

 

「・・・え?」

 

 と、そこで今の今まで沈黙を保ち列車の端に座り込んでいたオルタンシアへマリアンヌは話題の矛先を向けた。

 

 が、オルタンシアもそこで自分に話しかけられるとは思っていなかったのか、それともいきなり俺が刺された事で動揺したのか、すっとんきょうなこえを漏らす。

 

「あなたがこいつを殺したいと言ったのでしょう?まぁ殺すのはダメだけれど、腕の一本や二本なら切り捨てても構わないわ。どうする?」

 

「わ、私は・・・」

 

 教職員が言っていいはずがないような残忍な事を羅列するなか、オルタンシアはついさっきまでの突っぱねるような強さが消え失せたように弱々しい。

 

「はぁ・・・駄目ね。あなたも使えないわ。」

 

 そんなオルタンシアに嫌気が刺したのか、もう見切ったと言わんばかりにマリアンヌは彼女へ冷たすぎる視線を向けた。そして、俺を刺した剣の刀身をオルタンシアへと向ける。

 

「このままうろちょろされて、邪魔でもされたらそれこそ面倒だわ。今のうちに、面倒事は処理しておいた方がよさそうね」

 

「ああ・・・ああ・・・」

 

 初めて自分に向けられる殺意に、オルタンシアは恐怖のあまり後退る。が、ここは列車内。マリアンヌから逃げ切ることなんて不可能だ。

 

「さよなら、哀れなお人形さん。最後も今までのように一人で行きなさい」

 

「嫌・・・嫌よ・・・私はっ!!」

 

 その金色の瞳から一筋の雫をオルタンシアが流すも、マリアンヌは無情に鋭利な剣の刃を彼女へ振りかざさんとしている。

 

 また、俺は見てるしかできないのか。

 

 あんなデカイ口を叩いた癖に、また俺はなにも出来ずに終わりになるのか。

 

(違う・・・違うだろっ!!)

 

 なんのために俺はこの力を得た!!

 

 なんのために大きな代償を払った!!

 

 身近の人達を守りきるためだろう!!

 

 なら、今俺がやるべきことは、

 

 こんなところで寝そべっていることじゃねぇ!!

 

 そう思えば、体はバネのように動いた。

 

 痛む体も、胸から流れる血も無視して、

 

 マリアンヌを俺は全力で蹴り飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

 一瞬マリアンヌは苦悶の声を漏らすも、すぐに受け身をとって距離をとり、俺に刃先を向ける。

 

 それに合わせ、俺はマリアンヌとオルタンシアの間に入った。

 

「おかしいわね。普通動けるような怪我じゃないはずなのだけど・・・」

 

「あいにく・・・まだくたばっては・・・られないんでね・・・」

 

 精一杯のやせ我慢と、やれるだけの気力を振り絞って、俺はマリアンヌへ向けて不敵に笑って見せた。

 

「にしても理解できないわ。あなたが今背を見せているその子は、あなたを殺そうとしたのよ?それもあなたが大事にしている友人達も裏切って。」

 

 背後でピクリとオルタンシアが肩を震わせたのがわかった。それをマリアンヌも理解しているからこそ、彼女は独白をやめない。

 

「そんな彼女を、あなたがそこまでして守る理由はあるのかしら?」

 

「あるさ」

 

 迷いなく、躊躇いもなく、俺はマリアンヌの問いにそう答えた。

 

「なんたって・・・俺は・・・」

 

 懐から血の滲んだ吊られた男のタロットを取り出し、俺ははっきりとマリアンヌへ言ってのけた。

 

「正義の魔法使いになる男なんだからな!!」

 

 目の前で、泣いている奴がいる。

 

 なら、そいつを助ける。

 

 理由なんて、そんな簡単な物でいい。

 

 難しい事は考える必要すらない。

 

 ただ、自分の信条を貫く。それだけだ。

 

 その叫びと同時に、俺は疑似龍化を発動。背中から黒のマナの奔流が溢れで、俺の胸の傷が徐々に消えていく。

 

「これが人工龍人の本領・・・さすがの一言ね」

 

 禍々しさが列車内を支配していくなかでも、マリアンヌは俺の変貌っぷりに余裕げな反応だ。

 

「なるほど、これには既に知ってたか。てことは俺をここに呼んだのも実験動物にでもしようって算段だったってことか」

 

「ご名答。本来なら捕縛したリィエル=レイフォードを餌にしてあなたも捕縛、仲良く二人揃って私の研究材料としたかったところよ。まぁ結果は変わらないと思うけれどね」

 

「は?何いってんだお前」

 

 俺はさっきマリアンヌが俺へと向けたような嘲笑を顔に張り、マリアンヌへ指を指す。

 

「計画は変更だ。お前は俺がしっかりお縄につけてやるからよ、行き先は牢獄だ!!」

 

「ふふっ、その減らず口を今ここで折ってあげるわ」

 

 売り言葉に買い言葉と言った具合に、マリアンヌが俺の言葉に乗ってきたのを確認すると、俺は後ろで恐怖で縮こまっているオルタンシアを見る。

 

 そして、

 

「大丈夫だ。俺がなんとかする」

 

 精一杯の笑顔で、俺は彼女にそう言った。

 

「さあやるか!こんなばか騒ぎ、ちゃっちゃとしまいにしようぜ!!」

 

 俺はそう声高らかに叫ぶと、列車の床を蹴った。

 

 体の中で鳴る警鐘なんて、完全に無視しながら。

 

 ーーー

 

 

 

 姉ほどとはいかないにしても、オルタンシアはそれなりに魔術が使える方だと自負している。

 

 学院でもシンシア達が来るまでは上級生相手でも負けなかったし、成績だって一位だった。

 

 母は町でも高名な魔術師だったし、凄い魔術だって何度も見たことがある。

 

 だが、

 

「なんなの・・・これ・・・」

 

 今私の目の前で行われているそれは、オルタンシアが知るような物とはまるで違う。

 

 マリアンヌとシンシアによる魔術戦。それは正しい。

 

 が、レベルが違いすぎる。

 

 マリアンヌが剣を振れば、列車のなかの気温を一気に跳ねあげるのではないかと思えるほどの熱量の炎がシンシアへと飛ばされる。

 

 だがそれをシンシアは体から溢れる黒いマナを巧みに具現化し、炎を完全に防衛。

 

 それが終わると、今度はシンシアが黒い稲妻を両手からマリアンヌへとかなりの速さで放つが、それもマリアンヌはオルタンシアがギリギリ目で追えるかどうかという速さで避ける。

 

 ただ、先ほどからこれの繰り返し。だがこれだけでも、両者のレベル、加えて人の道を外れた力がどれ程の物なのかを彼女が理解するのは、さほど難しい事ではないだろう。

 

「ちっ!!鬱陶しいな・・・・」

 

「ふふっ、さすがに一筋縄ではいかないわね・・・」

 

 二人の超戦闘によって、半壊しかけている車両で二人がひとまず距離をとる。今のところ戦況は拮抗状態。

 

「その剣・・・ただのもんじゃないな?さっきからその炎、魔術を起動しているようにはみえねぇ・・・」

 

「あら?よく気がついたわね。特別に教えてあげようかしら」

 

 マリアンヌが嗤う。

 

「これは炎を操る魔術遺産(アーティファクト)炎の剣(フレイ・ヴード)。かのメルガリウスの魔法使いに登場する魔剣、そのレプリカよ」

 

「炎魔帝将ヴィーア=ドォルの百の炎の一つってか・・・なんだか最近魔将星に縁があるのは嬉しいやら悲しいやら・・・」

 

 自嘲ぎみに笑いつつ、シンシアは黒いマナを一つに集めて槍を作り上げると迷わずにマリアンヌへそれを突き刺す。

 

「無駄よっ!!」

 

 マリアンヌがまた剣を一閃。すると業炎がシンシアのマナの塊をそのまま飲み込んだ。

 

「ちっ、やっぱただ単に力押しじゃ無理があるわな・・・それにさっきからあいつの身体能力がおかしい」

 

 大方あの剣の効果なんだろうなと簡単に予想をつけるが、シンシアのその予想は的を得ている。

 

 今マリアンヌは、炎の剣(フレイ・ヴード)から使用者だったヴィーア=ドォルの経験をその体に憑依させている。そのため今の彼女の力は、魔将星の力をそのままその身に宿しているという事になる。

 

 だが、それはデメリットなしにどうにかなるものではない。

 

「あはははははっ!!あははははははは!!燃えなさい!!私の邪魔をするものは、全部!!」

 

 シンシアは攻撃していない。にもかかわらず、マリアンヌはブンブンと剣を振るい出す。それによって、強すぎる炎が列車内を吹き荒れ始めた。

 

(こいつっ!?このままじゃ自分ごと燃やすってわかってんのか!?剣に正気を完全にのまれたって訳か)

 

 豪火をギリギリのところで回避しつつ、後ろのオルタンシアへ当たらないように注意しながら対応策を考えるが、なにぶん状況がシンシアに不利すぎる。

 

 本来、シンシアの戦闘スタイルとして狭い場所はNGなのだ。こんなところでは竜言語魔術(ドラゴイッシュ)は使えない。

 

 さらに列車内も半壊状態。こんなところで強力な漆黒魔術(ブラック・スペル)を使ってしまえば、列車ごと崩壊しかねない。

 

 加えてマリアンヌの炎で動きにくい列車内でさらに動きが制限されてしまっている。まさにシンシアが最も忌避する状況が、今ここに出来上がってしまったのだ。

 

「こりゃきつ━━ぐっ!?」

 

 急に体に感じた違和感に、シンシアはたまらず足を止め、膝をつく。

 

『ツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセツブセ』

 

『コワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセ』

 

『コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ』

 

 沸き上がってくる負の感情、頭に響く悪魔の声に、シンシアはその表情を苦しげに歪ませた。

 

「さすがに短時間連発は危険だったな・・・計画変更・・・」

 

「あははははははは!!」

 

 狂喜染みた高笑いをあげながら剣を振るうマリアンヌに対し、シンシアは両手を列車の床にパンとつけた。

 

 途端、床に紫電が走ったかと思うとマリアンヌとシンシアとを隔てる壁が現れ、シンシアへの炎を遠退ける。

 

「オルタンシアっ!!」

 

「っ!?なに!?」

 

 内心パニックに陥っていたオルタンシアは、声が上擦っているのも気にせずに勢い任せに答える。いつもの彼女なら、高いプライドが邪魔してそんな事出来ないのだろうが、今はそんな事すら考える余裕もない。

 

「結構キツいから強行手段でいく!!だからオルタンシアへの防御は無理だ!!だから今から三秒間は自力であの炎を止めろ!!」

 

「止めろって・・・あれを!?無理よそんなの!!」

 

 オルタンシアが指差す先には、今にも壁を溶かさんとばかりに熱く燃えたぎる炎。作り上げた壁がもう既に半分溶けかかってる辺り、マリアンヌが出す炎がどれだけの火力を生み出しているかよくわかるだろう。

 

 わかるからこそ、オルタンシアは尻ずぼんでしまう。

 

「私なんかにあんなの無理よっ!?私になんか出きるわけないでしょ!?無理よ!出来っこないわ!!」

 

 頭を抱えて、弱気になるオルタンシア。それを見てシンシアも頭を抱えたくなってくる。

 

「けど現状策はこれしかない。」

 

「無理よ!!このまま私達は灰みたいに燃え尽きるしかないのよ!!ハハハ・・・私みたいな女にはちょうどいい最後かもしれないわね・・・」

 

 もう、すべての現実から逃避したような声で、オルタンシアは言う。

 

「勝手に嫉妬して、勝手に憧れて・・・」

 

 弱々しく、儚げに、なにもかも諦めたように。

 

「友達も裏切って、悪に手を染めた、醜い私にはお似合いの━━━」

 

「ふざけんな!!!」

 

 だが、そんな事をシンシアは許さなかった。

 

 へたりこむオルタンシアの胸ぐらを掴みあげ、壁に彼女の背を叩きながらシンシアは鬼の形相で言い放った。

 

「そんな簡単に諦めんじゃねぇよ!!足掻け!!最後の最後まで足掻き続けろ!!お前にはそれが出来るだろうが!!」

 

「知ったような口を聞かないで!!足掻く?そんな事出来っこないわ!!そもそもなぜあなたは私がさも出来る事が前提みたいに━━━!!」

 

「お前が諦めずに足掻けないやつなら!お前は今ここにはいないだろうが!!」

 

 オルタンシアはその言葉に、はっと目を見開いた。

 

「夢捨てられず、一度諦めかけたけど、それでもまだ願ったからお前は今ここにいるんだろうが!!お前は、自分が思ってるよりも凄いやつなんだよ!!」

 

「でも・・・私なんて・・・」

 

「違う!!」

 

 すうっと深く息を吸うと、カムイはさっきまでの怒声を潜めてオルタンシアに語りかけた。

 

「努力をひたむきに続けられる、それだけでお前は充分凄いやつなんだよ。それは俺が肯定してやる。否定する奴なんて俺がぶん殴ってやる。だからよ・・・」

 

「俺に、お前の力を見せてくれ。今、お前の力が必要だオルタンシア」

 

 真剣な、真っ直ぐな瞳。

 

 それはまさに、オルタンシアがあの時、母へ向けた目と同じもの。

 

(そっか・・・私は間違ってなかったんだ・・・)

 

 憧れも、羨望も、

 

 なにも無駄じゃない。

 

 無駄になんてならない。

 

 きっと、目の前の彼はそうさせてはくれないのだと、オルタンシアはこんな状況にそぐわず微笑を浮かべてしまう。

 

(ホントに・・・こいつは面倒なんだから・・・せっかく諦めようとしてたのに・・・)

 

 頭ではネガティブな事を思いつつも、その表情は明るげだ。

 

「いいわ。やってやる、こんなところでまるこげなんてごめんよ!!」

 

 折れていた膝を立たせ、力強い視線を壁へと向けるオルタンシアに、前までの弱さは、もう微塵もなかった。

 

「さーてと!オルタンシア、自力で自分の周りを・・・」

 

「突っ込むのにそれでいいの?」

 

「・・・あ?」

 

 シンシアが考えていた策を話そうとすると、オルタンシアは鼻で笑うようにシンシアに言う。

 

「私の身は私が守るわ。けど、今だけあんたも守ってあげる。」

 

「・・・出来るの?」

 

「はぁ!?なめるんじゃないわよ!!私は━━━」

 

 今度は、オルタンシアが不敵に笑いながら、

 

「私は、次期龍の巫女よ!その程度、簡単にやってのけてみせるわ!!」

 

 高らかにそう宣言して見せた。

 

 その宣言に、少しだけ驚いたようなそぶりを見せるシンシアだったが、すぐに納得したような顔つきになり、

 

「なら頼むぜ!火傷したらお前のせいな」

 

「はぁ?そんな事、万に一つもあり得ないわよ!」

 

 簡単な軽口を、となりにいる相棒へと言ってみせた。

 

 状況は最悪、絶対絶命。

 

 だが、自然と、

 

 オルタンシアのなかで、負ける気はさらさらなかった。

 

「なら・・・行くぞ!」

 

「ええ!《大気の壁よ・二重となりて━━》」

 

 掛け声と時を同じくして、シンシアは列車の床を蹴る。

 

 同時にシンシアが作り出した壁は崩壊し、おびただしい熱量の炎がシンシアへと肉薄していく。

 

 シンシアをその炎が飲み込もうとせんとしたその時、

 

「《我らを守れ》っ!!」

 

 炎を、二重の空気の障壁が遮った。

 

 黒魔改【ダブル・スクリーン】

 

 通常一重しか出ない【エア・スクリーン】の改変。対象を選択し、対象の前方に空気の壁を二重で張るその魔術は、マリアンヌの炎を遮る。

 

 が、

 

「うっ・・・だめ!もたない!!」

 

 それでもマリアンヌの熱量の方が強い。このままでは発動した【ダブル・スクリーン】は、数秒と堪えずに火の渦に飲まれるだろう。

 

 だが、たった数秒、それだけあればシンシアには充分だ。

 

「《乖離せよ・遊離せよ━━━」

 

 一歩、シンシアの右手に青の光が灯る。

 

「我が腕手(かいなで)に━━━」

 

 一歩、炎の海を裂き、力強く踏み出す。

 

「崩壊の兆しあれ》っ!!!」

 

 一歩、手の閃光は瞬き、一筋の軌跡を描き、

 

 シンシアの右手が、マリアンヌの剣に触れた。

 

「なっ!?」

 

 マリアンヌが驚愕の声を出すももう遅く、

 

 マリアンヌの剣は、パリンと音を経てて跡形もなくなった。

 

 それと同時に、列車内に充満していた炎も消え失せ、ほんの一瞬だけ辺りを静寂が支配する。

 

 だが、そんな静寂をシンシアは破り捨てる。

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 腹の底から声をだし、シンシアは左手を握って前につきだした。

 

 その拳は綺麗なルートを進み、そして、

 

 マリアンヌの呆けた顔へと叩き込まれた。

 

 マリアンヌはその一撃に対応も反応もすることが出来ずに、勢いのまま壁へと吹き飛び、白目を向いてそのまま意識を投げ売った。

 

「や、やったの・・・?」

 

 あまりに一瞬の出来事に、オルタンシアがそんなか細い声を漏らした次の瞬間、

 

「うっしゃああああああ!!勝ったああああああ!!」

 

 シンシアが、歓喜の声を上げた。

 

「オルタンシアまじナイス!いやー俺はやってくれるって信じてたぜ!!」

 

「え、ええもちろんよ!なめないでくれる?」

 

 お世辞なしの褒めになれてないのか、オルタンシアは頬を赤く染めながら、目をシンシアから反らした。

 

「いよぉし!このままリィエルとエルザを救出してとんずらとしますか」

 

 そう意気込んで、シンシアは一歩踏み出すと、

 

 ぐらりと視界が歪んだ。

 

「あり?」

 

 体勢を戻す時間もなく、シンシアはそのまま緩慢な動きで床に倒れた。

 

「え?ちょっと?ちょっとあんた!?」

 

 オルタンシアがシンシアに呼び掛けるが、シンシアにはその声もなんだかかなり遠くから呼ばれているように感じる。

 

(あれぇ?もしかして・・・マナ切れ??)

 

 駅からここまで疑似龍化を使用し、さらにオルタンシアとの戦闘、極めつけにマリアンヌとの戦いで二度目疑似龍化が決定だになったのだろう。

 

 逆に今まで動けたのが不思議なくらいだ。まぁほとんど根性なのだが。

 

(なんかデジャブ・・・あとは・・・先生達に任せるしかないか・・・)

 

 また、やりきれなかった。

 

 そんな後悔と悔しさを胸に秘めながら、

 

 シンシアの意識は、深い深い底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここからポンポンと投稿していくので、お待たせさせた分しっかりするので許してください(-_-;)

というか待ってくれてた人いるかな・・・

不安だ・・・

感想や批評、待ってます。

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