最後にその手が掴むもの   作:zhk

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話の展開がかなりポンポンと進んでいきますが、気にするな!!

という訳で第5話です。どうぞ!!


競技祭と廃棄王女の本音
競技祭はやっぱり楽しい方が良いに決まってる


重たい瞼を開けると、そこには見慣れない天井がシンシアの目に写った。

 

「え?俺死んだ?」

 

「生きてるよ。ちゃんとな」

 

ふと溢した疑問に、隣から答えが返ってくる。どうやらシンシアはベットで寝ていたようで、顔だけをそちら側に向ける。

 

「なーんで先生がベットで横になってんすか...」

 

シンシアの隣でベットに寝ていたのは紛れもないグレン本人だった。その体は傷だらけで顔は青白くなっている。

 

「お前が倒しきらなかった奴と戦ってこの様だよ。というかお前も無茶し過ぎだろ!テロリストに立ち向かうとかよ...」

 

「一介の教師が立ち向かう事もどうかと思いますけどね...」

 

「ハッ、違いねぇ」

 

シンシアとグレンは共に苦笑を漏らした。

 

「あいつら心配してたぜ?お前が死んだらどうしようって。」

 

「あれ?俺ってそんな好感度高かったっけ?」

 

「意外と皆お前の事は良い奴だと思ってんじゃね?だって家族のために、テロリストに挑むなんてどこの物語の主人公だっての。」

 

グレンがバカにするように笑うが、シンシアの顔はあまり優れない。

 

「でも、俺はルミ姉は救えなかった。」

 

「そこは俺がなんとかしたから大丈夫だ。お前が気にする話じゃねぇよ。お前はよくやったよ。」

 

グレンの慰めも全く意味をなさないように、シンシアの表情は変わらない。

 

「自分の感情に身を任せて、周りを全く見れてなかった。まだまだ俺もガキですね...」

 

「シン...」

 

シンシアはまだ痛む体に鞭を打って体を起こす。

 

「さてと、てことは先生がもう全部終わらせてくれたって事でいいんすか?」

 

「おお。もうほんと大変だった。セリカに時間外労働の特別給与が欲しいってねだっとこ...」

 

「その金で、俺に飯を奢ってくれるんすか?」

 

「んなわけねぇだろ!?。」

 

そんな軽口を交わしていると、部屋の扉が勢いよく開く。

 

「先生、体調もうーー」

 

「お、ルミ姉無事だったか!」

 

入ってきたのはルミアだった。シンシアはルミアの無事を確認して安堵するが、ルミアの方は全く違う心情だった。

 

「シン君!?もう大丈夫なの?」

 

「おう!まだ痛いけどそこまで酷くない。ま、大丈夫でしょ。」

 

そこでやっと不安げだったルミアの顔に安堵が見え始める。が、それも一瞬で今度は怒りの方が強くなっていた。

 

「シン君のバカ!なんであんな事したの!!」

 

「え?い、いやなんでって...見てられなかったし。それにあのままじゃルミ姉だって連れてかれそうだったじゃんか。ま、結局連れてかれたわけだけど」

 

「そうじゃないの!私はなんで自分の命を簡単に捨てようとしたか聞いているの!!」

 

ルミアの言いたい事はそういうことだった。

 

シンシアはあの時、敵を倒すことだけを考えており、自分の命が助かる事を勘定にいれてはいなかった。それはシンシアがそう考えた訳ではない。シンシアが無意識にそうしたのだ。

 

「...ごめん。あの時は怒りに身を任せてたから...以後気を付けます...多分...」

 

シンシアはひっそりと最後に何か言ったが、それはルミアの耳には入らなかった。その最後の言葉を聞いていたグレンは、深いため息を溢すしかなかった。

 

ーーー

 

アルザーノ帝国魔術学院で起きた自爆テロ未遂の事件は、一人の非常勤講師と一人の生徒によって最悪の危機を逃れることとなった。

 

しかし、この事件は社会的な不安を煽るとして内密に隠蔽。帝国宮廷魔導士団が総力をあげて情報を徹底統制したことで、この事件の真相を知るものはほんの一部となった。

 

しかし、ただこれだけならばよかったのだが、ある情報が密かに問題となった。

 

「学生がテロリストの一人を撃破、ね...」

 

うす暗い部屋の中で、真っ赤な髪の女性はその調査資料を見ながら一人呟いた。その資料に書かれているのはこの事件の顛末と、功労者の写真。

 

その写真は二枚あり、一つに写るのは濁った目をした青年。この青年は彼女も知り合いのため今回の騒動で活躍した事については理解できた。だが問題はもう一人だ。

 

その写真、真っ白な銀髪に深緑色の瞳の少年が写った物を片手で持ちながら彼女はひっそりとぼやく。

 

「マークしとくべきかしらね...」

 

そう言うと彼女はその少年の資料に赤いペンで何か文字を書き、その部屋から出ていった。

 

誰も居なくなった部屋に、ただ一つ残された資料には赤い文字でこう書いてあった。

 

『特務分室候補』とーーー

 

ーーー

 

そして、学院には平穏が帰って来た。ルミアが少しの間休学するというトラブルがあったが、そのルミアも今では普通に学校に通っている。

 

で、今はというとーー

 

「はーい、『飛行競争』に出たい人、いませんかー?」

 

教室は驚くほど盛り下がっていた。全員が全員暗い顔になっており、教卓で話しているシスティーナの話をただ聞くだけとなっていた。

 

「じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」

 

これもまた無反応。教室にはどんよりとした雰囲気が広がっていく。

 

今ここ二年次生二組が決めているのは、一週間後に迫った魔術競技祭に向けての種目決めだった。

 

教卓ではシスティーナがこの議長のような役割を担っており、その後ろでルミアが書記として黒板に書こうとしているが、一向に決まらない以上書くこともないので黒板にはまだ何も書かれていない。

 

「ちょっとシン!?アンタも少しは話し合いに参加しなさい!!」

 

そこでシスティーナは、この中で唯一寝ている生徒であり自分の弟であるシンシアへと声をかけた。が、シンシアは未だにいびきをかきながら眠っている。

 

「起きろって!いってんのよ!!」

 

「ふがっ!?」

 

システィーナの鉄拳が、シンシアの頭部へと決まる。そしてゆっくりとシンシアはその重たい頭をあげる。

 

「いってぇ...ちょいシス姉!最近まで体ボロボロだった人間に対しての態度か!?」

 

「朝からランニングとかいってフェジテ一周してきた人間が怪我人なわけあるか!!」

 

システィーナの突っ込みに、シンシアは少し苦い顔をする。シンシアはあの事件で大きな怪我を負ったが、そこはクラスメイトの尽力によって事なきを得ることが出来た。しかし、その後家でシスティーナと母親から二重で説教を食らうはめになったのが一番シンシアにはこらえたのだった。

 

(しっかし、ルミ姉があの『廃棄王女』だったとはね...)

 

前でぷりぷりと怒るシスティーナの後ろで苦笑いを浮かべるルミアをシンシアは見ながらふと考える。

 

あの事件の後、この事件の功労者としてシンシアとシスティーナ、そしてグレンの三人が帝国の上層部へと呼び出された。そこで告げられたのは、ルミアの素性だった。

 

実はルミアは異能者で、その力を持ちながら王室に生まれてしまったのだ。この国では異能はあまりよく思われない。その政治的事情から、ルミアは公的には死んだこととされフィーベル家へと名を変えてやって来た、という事だったのだ。

 

(まぁだからと言って何が変わるわけでもないか...)

 

だが、シンシアからしたらその程度の事“ふーん、凄いなー”ぐらいにしか考えていなかった。出自がどうであれ、今目の前にいるのは家族であるルミ姉だ。その事実はシンシアの中では変わらない。

 

その考え方で、ルミアはかなり救われているのだがシンシアはそんな事知るよしもなかった。

 

「えーとねぇ、『大乱闘』。」

 

「は?」

 

シンシアがいきなりそう答えたが、それは主語も述語もないためシスティーナには何がなんだかわからなかった。

 

「いやだから、『大乱闘』に出たい。それが一番楽しそうだし」

 

その一言に、クラスがどよめき始める。この大会には各クラスから魔法技能の高い者を使い回す兆しがある。その中で恐らくシンシアは最も実技の成績が悪い方に入るだろう。勝てる可能性はゼロに等しかった。

 

「ふふ、面白い冗談だね。実技の落ちこぼれがこの競技祭に出場する?笑わずにはいられないよ」

 

「ああ?」

 

そのシンシアに皮肉を咬ましたのは、シンシアの斜め後ろの席のギイブルだった。

 

「『大乱闘』はこの競技祭で最も激しい競技だ。大量の魔法が飛び交い、その中で最後までステージに立っていた人が勝利だ。ろくに魔法も使えない君が出ても、的にされるだけだよ。」

 

「ちょっとギイブル!?」

 

その嫌味な言い方に、システィーナが怒声をあげる。

 

「どうしたんだいシスティーナ。僕は事実を言ったまでだよ。」

 

「事実にしても言い方があるでしょう!!」

 

「おいこらシス姉」

 

シンシアが苦い顔をしながらシスティーナを睨み付ける。さすがにシスティーナも言い過ぎたと思ったのかシンシアから目を背けた。

 

「全く、システィーナもそろそろ現実を見たらどうだ?足手まといをいくら参加させた所で意味はないよ。いつも通り成績上位者で埋めるのが必然だろう。」

 

「それじゃ意味無いじゃない!せっかく先生が『自由に決めろ』って言ってくださったんだから、皆ででましょうよ!!それに成績上位者で埋めた去年は、なんだか面白くなかったし...」

 

「これは面白い面白くないは問題じゃないんだよ。この競技祭には魔導省に勤める官僚や、帝国宮廷魔導士団の団員も大勢いらっしゃる。これはそれらを目指す僕らにとっては絶好のチャンスだ。」

 

ギイブルは一息つき、そしてまた話続ける。

 

「それに今回競技の優勝者、及び優勝クラスにはご来賓としていらっしゃる女王陛下から直々に勲章を与えられる。これがどれ程価値があるものか、君にもわかっているだろう?なら、大人しく成績上位陣で固めるんだ。」

 

「貴方ねえいい加減に!?」

 

システィーナもさすがに堪忍袋の尾が切れたのか、ギイブルへと食ってかかろうとする。その時、バンっと大きな音をたてながら教室のドアが開いた。

 

「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様になー!」

 

そこで教室に入ってきたのは、グレンだった。グレンは非常勤から完全にここの講師となった証のローブを肩から羽織り、胸を大きく張りながら教室の中央へと進む。

 

「喧嘩はやめるんだお前達、争いは何も生まない。なにより、俺達は優勝という一つの目標を目指し共に戦う同士じゃないか!!」

 

と、とても爽やかな笑みを生徒達に向けながらそう話す。だが、

 

((((キモいーー))))

 

ほとんどの生徒がグレンに対して同じ感情を抱いた。しかし、シンシアはというとーー

 

(あのグレン先生が本気!?これは面白くなるんじゃね!?)

 

いつも通り、グレンの予想を越える行動にわくわくしていた。

 

「お前ら種目決めに難航してるんだって?ったく何やってんだよやる気あんのか?他のクラスはとっくに種目を決めて、来週に向けて特訓してんだぞ?」

 

「やる気のなかったのは先生でしょう!?先生がこの前、『お前らの好きにしろ』って言ったんじゃないですか!!今さらなんでそんな事を言うんですか!?」

 

そのシスティーナの反論に、グレンはきょとんとしている。

 

「俺そんな事言ったっけ?マジで覚えが無いんだけど...」

 

「ああ、やっぱり面倒臭がって人の話全然聞いてなかったんですね!」

 

システィーナは教卓に突っ伏すように倒れていった。しかしグレンはそんな事気にしないといった具合に話を進める。

 

「さて、お前らで決まらない以上、このクラスを率いる総監督であるこの俺が、超カリスマ魔術的英断力を駆使し、お前らが出場する競技を決めてやろう!!ただ言っておくが、俺が指揮をとるからには勝ちにいくぞ?遊びは無しだ。覚悟しろ。」

 

そのいつもは全く見せない、熱血なグレンにクラスのメンバーは驚きを隠せなかった。

 

そしてグレンはその勢いで、どんどん種目を決めていく。それにその種目決めは、近年主流となっていた成績上位者の使い回しではなく、クラス全員を使った物であり、それぞれの得意分野を最大限発揮できる物であった。

 

「さてあとはシンシアか...」

 

「はい!!」

 

シンシアは目を爛々と輝かせながらグレンを見る。もうその顔は『大乱闘』に出たいと書いてあるようだ。

 

「わーってるよ。それにお前が合うのはこれしなねぇ。シンシアは『大乱闘』に出ろ。」

 

「うっしゃぁー!」

 

シンシアはその場に立ち上がり、ガッツポーズをする。そして自分の後ろにいるギイブルに勝ち誇った顔を見せた。それを向けられたギイブルは苦虫を潰したような顔になり、シンシアから視線をグレンへと移した。

 

「先生、いい加減にしてくださいませんかね?そんな編成で、勝てるわけ無いじゃないですか?」

 

「ほう?ギイブル。ということはお前、俺が考えた以上に勝てる編成が出来るのか?」

 

グレンはその言葉に純粋な感心だけをのせてギイブルに尋ねる。それをギイブルは呆れたように見下しながら吐き捨てるように返した。

 

「そんなの決まっているじゃないですか!成績上位者だけで全種目埋めるんですよ!!」

 

「...え?」

 

そのギイブルの発言に、グレンは間抜けな声を出してしまう。

 

(ちょ、ちょいちょい先生?もしかして知らなかったのか?)

 

シンシアは内心焦っていた。もし、これでグレンが競技を成績上位者のみで埋めてしまえば、シンシアは『大乱闘』に出られなくなる。それはまた、去年のように観客席で暇をもて余さなければいけなくなるということだった。

 

(あの時は暇で暇でおかしくなりそうだったのに、今年もそれを味わうとかマジで勘弁だ!)

 

シンシアはどうにか先生の考えを戻そうとした時、

 

「何言ってるのギイブル!せっかく先生が考えた編成にケチつける気!?」

 

システィーナがギイブルの意見に真っ向から反論していく。

 

「そうだぜギイブル!先生が真剣に考えてくれたんだぞ!これに乗らねぇ手はないだろ!」

 

シンシアはシスティーナの反論を好機と感じ、システィーナに便乗してさらに流れを後押しする。

 

「先生がここまで考えたんだぞ!あのグレン先生がだぞ!これは絶対優勝できるね!!それこそ女王陛下の御前で叙勲されるなんて当たり前ぐれぇにな!!」

 

「あのーちょっと?シンシア?」

 

「そうよ!大体成績上位者だけで競わせての勝利なんて、何の意味があるの?先生は私達を優勝へ導いてくれると言ってくれたわ!それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!!」

 

「「ですよね先生!?」」

 

珍しく、本当に珍しくシンシアとシスティーナの思いが一致する。二人の考える目的は全く違う物だが、今ここではお互いの目的は同じだった。

 

「お、おう...」

 

二人の物凄い剣幕に圧されたのか、グレンはただ頷く事しか出来なかった。

 

「確かにシンの言うとおりだな...」

 

「システィがそこまでいうのなら...」

 

そしてクラスの雰囲気はどんどんシンシア達の望む方へと流れていく。それをグレンは脂汗を流しながら見ていた。

 

(なんて事してくれんだこの二人!!俺は生きるか死ぬかがかかってんだぞ!!このままじゃ俺餓死するぞ!?)

 

そう、グレンがここまでやる気を出したにはやはり裏があった。グレンの目的は優勝する事で貰える特別賞与だった。今グレンは給料としてもらった金を全てギャンブルにつぎ込んで飛ばしてしまい、今月の食費も無いほどなのだ。まさに呆れるほどの屑っぷりである。

 

つまり、今回の競技祭がグレンの首を繋ぐかどうかを決めるのだ。

 

(お願いだギイブル!!どうにか反論してみんなを黙らせてーー)

 

「ふん、やれやれ。君達はそういうところだけそっくりなんだな。まぁ、それがクラスの総意なら好きにすればいいさ。」

 

そう言ってギイブルはグレンの願いとは裏腹に、その場に静かに座ってしまった。

 

「ま、せいぜいお手並み拝見させて頂きますよ先生?」

 

(黙らっしゃい!!あっさり下がりやがって、こっちには見せれるお手並みなんてねぇよ!?)

 

最早グレンは心の中で泣くしか出来なかった。

 

「先生良かったですね。先生の目論見通りに行きそうですよ?」

 

「そうっすよグレン先生!全員で優勝目指しましょ!!」

 

システィーナが微笑みながら、シンシアは殺りきったような顔をしながらグレンへと声をかける。

 

(こいつらぁ!!シンシアに限っては絶対『大乱闘』に出たいだけだろ!!それに白猫の奴、俺を嘲笑いやがッた!!まさかこいつ、俺の思惑を知っててこの行動に出たのか?ならなんて質の悪い奴なんだよこいつ!!)

 

シンシアの考えはグレンには読まれていたが、純粋なシスティーナの思いにはグレンは全く気づかず、よく分からない勘違いだけが二人の間に広がる。

 

「先生がやる気を出したんだから、私達も精一杯頑張るわ。だから期待しててね、先生?」

 

「お、おう...もちろんだ...」

 

勘違いはそのまま直る事なく、システィーナの純粋な微笑みに、グレンは震えながら引き吊った笑みを浮かべている。

 

「なんだか、噛み合ってないような...」

 

その状況を唯一正しく見ていたルミアは、その光景を苦笑いしながら見るほかなかった。

 

 

 

 




これちゃんとシンシア脳筋で書けてるかな?

不安になってくる...
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