最後にその手が掴むもの   作:zhk

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ついに9巻スタートです。

特に語ることはないですねはい。

ネタ切れとかじゃないのよ?本当マジで。

てなわけで本編どうぞ


死の彼方へ 思いを置いて
終わりの始まり


「ではこれより!」

 

「本日の『黒魔術学』の授業、ドッジボールを始めまーす!!」

 

 学院の中庭に生徒達を集めたシンシアとグレンは、唐突に大きな声でそう宣言した。

 

「シン!コートの準備は?」

 

「完璧であります!!やろうと思えばいつでも!!」

 

「仕事が早くて助かるぜ!さぁお前ら、じゃんけんで二チームに別れやがれ!負けたチームは、1日勝ったチームの奴隷じゃー!!」

 

「ちょ!?ちょっと待ってください!」

 

 テンションマックスな二人に待ったをかけたのはシスティーナ。彼女はシンが珍しく丁寧に芝生の上に書いたコートを踏みしめながら近づいてくる。

 

「なんでドッジボールなんて遊びを授業でやるんですか!?私達は近々前期末試験が控えてるんですよ!?」

 

「だってさぁシス姉、俺達最近テスト作りでずーっとデスクワークなんだぜ?」

 

「そうそう。だからちょっとくらい遊んだっていいじゃんかよ」

 

「二人はいいかも知れませんが、私達は━━」

 

「甘いな白猫!!」

 

 グレンはシスティーナの言葉を遮り、ビシッと指をシスティーナの鼻先へ突き付けた。

 

「お前はドッジボールを舐めすぎだ。ドッジボールは魔術の運用に必要な物がすべて詰まってるんだぞ!?」

 

「えぇ!?」

 

「ボールを投げることで『肩の強さ』が鍛えられ、ボールの軌道を見ることで『動体視力』も培われる。そしてボールを避ける『反射神経』!!どうだ!これでもドッジボールは魔術に関係ないといえるか!!」

 

「《言えるわ・この・アホ》ーー!!」

 

 グレンの妄言にシスティーナが騙されるなんてことはなく、システィーナの放った【ゲイル・ブロウ】で空高く吹き飛ばされるグレン。もはや恒例行事のこの光景を目の当たりにして、生徒達も呆れるようなため息を吐いた。

 

「まったく、先生は何を考えてるんだ。僕達は寝る間も惜しんで勉強してるというのに・・・」

 

「だからこそ、なんじゃないかな?」

 

 軽蔑するような口調で言うギイブルに、優しく諭すような声音で声が飛んだ。

 

 その声の発声者に皆が目をむけると、そこには笑顔で佇むルミアの姿があった。

 

「先生はきっと、皆の息抜きのためにこの時間を作ってくれたんだよ。皆根を詰めすぎて、ちょっと疲れてるみたいだから。だよね?シン君」

 

「へ?ああうんうん、そうそう。もちろんそうに決まってんじゃんかよ!!」

 

(((絶対にドッジボールやりたかっただけだな?)))

 

 シンシアに冷たい視線を生徒達が送るが、ルミアが言うこともまた事実。それに少しくらいの息抜きも、たまにはいいだろう。

 

 そう根負けした生徒達は、顔に苦笑いを浮かべながらコートへと向かっていった。

 

 そして・・・

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ滅殺!!」

 

「ぬおっ!?おまっ!シン!!自分に【フィジカル・ブースト】かけてやがんな!?」

 

「魔術を使っちゃいけないなんて言ってないもんね!!死ねぇいカッシュ!!」

 

「うばぶっ!!!」

 

「カッシュがやられた!!」

 

「先生どうするんですか!?劣勢ですよ!!」

 

 なんだかんだ楽しんでいるのである。

 

「ふはは!!俺を倒してみたくば倒して見せよ!!」

 

「えい」

 

「えっ待ってリィエルにボールを渡るのは聞いてなぐぼぉ!!」

 

「シンもやられた!!」

 

「油断するからですわ・・・」

 

「こればっかりは、自業自得だね・・・」

 

 リィエルの超豪速球に当てられぶっ飛ぶシンシアに対して、なんとも冷たいクラスメイト達。でも今回ばかりはシンシアが悪いので仕方がないだろう。

 

 後方へ飛んだシンシアは特に起き上がることもなく、静かに空を仰ぐ。

 

(ああ・・・楽しい・・・これがずっと続きゃ文句ないんだけどなぁ・・・)

 

 乾いた笑みを顔に張り付かせながら、シンシアは叶いもしない事に思いを馳せた。

 

 ずっと続くなんてあり得ない。

 

 システィーナやルミア、リィエルやグレン、カッシュ達とは違い、

 

 シンシアの道はもう少しで途切れるのだから。

 

(でも仕方ない・・・それは俺が選んだんだから・・・)

 

 力が欲しいから、

 

 たくさんは守れなくても、

 

 身近な人達を守れるくらいの力が欲しかったから、シンシアはこの修羅の道を選んだ。

 

 だからそれに後悔はしていない。

 

 してはいけないのだ。

 

「シン!さっさと起きてくれ!リィエル無双が止まんねぇんだよ!!」

 

「うっしゃあ任せろ!!遠征学習のリベンジしてやるぜ!!」

 

 だから彼は今日も、固く虚しい仮面を被る。

 

 今という儚く一瞬で平和な夢に、その体を揺蕩わせながら。

 

 ━━━━

 

 シンシアside

 

 もうとっくに日も暮れたころ。

 

 家に帰って来た俺達は夕食の時を過ごしていた。

 

「うっま!!むっちゃうまいこれルミ姉!!」

 

「お、美味しい・・・ルミアいつのまにここまで・・・」

 

「・・・・・・」

 

 今日の料理当番はルミ姉、その料理の感想を俺とシス姉、リィエルが目を輝かせながら口にした。なおリィエルはなにも言っていないが、さっきから一心不乱に料理を口に運んでいる。よっぽど気に入ったのだろう。

 

 俺達の両親は仕事でオルランドにいることが多い。そのため家での料理は基本シス姉とルミ姉が行っているのだ。

 

 俺とリィエル?俺は始めて料理した時全力で包丁をまな板に叩きつけて折った時点でシス姉から首宣言。リィエルは火加減を最大で鍋に水を沸かそうとしたので首。

 

 俺達二人は仲良く料理に関しては小指ほども力になれないようです。ま、いいや、ルミ姉とかの方が絶対美味しいし。

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 自分の作った料理に舌鼓を打つ俺達を見て、ルミ姉はふふっと笑った。

 

「にしてもルミア、本当に最近料理うまくなったわね」

 

「最初の時は酷かったもんな」

 

「あんたが言えたことじゃないでしょーが」

 

 ごもっともです・・・シス姉の正論に返す言葉がなにも浮かばないので、俺はリィエルに並んでひたすら料理に手をつける。うん旨い。

 

「それに、ルミアって最近になって料理に本腰入れ始めたよね?何か心境の変化でもあったの?」

 

 と、そこでシス姉が俺も気になる質問をルミ姉に投げ掛けた。

 

 確かにルミ姉の料理は前から旨かったけど、最近特に料理の練習をしてるのを見る気がする。この前もシス姉に料理の当番変わってくれって頼んでたし。

 

「それは・・・」

 

 ルミ姉は少し言い淀んだあと、

 

「後悔しないように、かな?」

 

 そう言った。

 

 その言葉を聞いた途端、俺はまるで自分の核心を突かれたような気分になった。

 

「え?どうゆうこと?」

 

「だから、色んなことを一生懸命やってみよう・・・なんてね」

 

「えーと・・・それってどういう意味?」

 

「ふふっ、秘密」

 

 なんて言う会話を二人がしているが、今の俺にはその言葉は欠片も耳に入ってこない。

 

(後悔・・・しない・・・ように・・・)

 

 ずっと俺の頭のなかで、ルミ姉が言った言葉が反響してくる。

 

『お前……後悔はしてないのか?』

 

 それと同時に、短期留学の帰りでグレン先生から言われた言葉も浮かび上がってくる。

 

 後悔、後悔なんてするはずがない。

 

 だって本望じゃないか。正義の魔術師に憧れて、それに

 近づけて、たくさんの人を救えた。

 

(そうだ・・・後悔する要素なんてどこにも・・・)

 

 そこで、ふと想像してしまった。

 

 俺だけがいない家のなか。

 

 俺だけがいない教室。

 

 そして・・・襲ってくる、

 

 死への恐怖。

 

(違う!違う違う違う違う!!俺は・・・俺は!!)

 

「シン?」

 

 そこで、俺の意志は現実へと引き戻された。俺の名前を呼んだのは、隣で口元を食べたもので汚すリィエルだった。

 

「あ、ああ。どうした?」

 

「ん、少し変だったから。大丈夫?」

 

 見抜かれたのか、そう動揺するよりも先に俺の口から嘘が零れる。

 

「大丈夫大丈夫、俺もテスト作りで疲れたのかね・・・」

 

「あんた本当に仕事してるんでしょうね?」

 

「もっちろん!下手すりゃ先生よりも働いてんぜ?」

 

「それは・・・否定できないかも」

 

 シス姉の言葉に、皆が笑った。

 

 そうだ、それでいい。これでいい。

 

 隠し通すんだ。そのためなら俺は、何度でもこの重い仮面を被ろう。そうすれば、

 

 もうきっと、誰も泣かないから。

 

 意気消沈しかけた心も元に戻ったとは言い難いが少しはましになったので、また俺は料理にフォークを向けたその時、

 

 俺の背筋に悪寒が走った。

 

「「っ!?」」

 

 反射的に俺は椅子から立ち上がり、辺りを警戒する。俺と同じような物をリィエルも感じたのか、眠たげな表情が鋭く引き締められている。

 

「リィエル!?シンも一体どうした━━」

 

 俺とリィエルの行動をいぶかしんだシス姉が俺達に声をかけようとしたその瞬間に、辺りに硝子が割れたような音が鳴り響いた。

 

 それと同時に、この家に働く力が消えてしまったのを、シンシアは見逃さなかった。

 

「防御結界が破られた・・・」

 

「えっ!?それって・・・」

 

「多分、敵が来た」

 

 迷いないリィエルの一言に、シス姉の顔が真っ青になる。この家にやってくる侵入者、その素性と目的はここまでの経験上いやでも想像がついてしまう。

 

 天の智恵研究会。目的はルミ姉だ。

 

 うっとうしくまた絡んできたのか。そろそろしつこいし諦めをつけて欲しいところだったんだけど・・・

 

「そうは問屋は下ろしてくれない、か・・・」

 

「な、なんで・・・今はお父様も先生もいないのに・・・」

 

 恐怖からか、ガタガタと震え始めるシス姉。そんな姉に声をかけてやろうとしたその時、さっとリィエルがシス姉の前に出た。

 

「大丈夫、安心して。わたしが行く」

 

 そう言うとリィエルは床に手をつき得意の高速錬成で大剣を生成。そしてすたすたと食堂の入り口へと向かっていってしまう。

 

「待って」

 

 だがその動きに、ルミ姉が待ったをかけた。

 

「リィエルが強いのは知ってる。でも、一人じゃ危険だよ」

 

「そうよ!ルミアの言うとおりよ!ここは早く皆で逃げ━━」

 

「だめ」

 

 シス姉が早口で捲し立てるのを、リィエルはばっさりと切り捨てた。

 

「この家の結界を、こんな簡単に破るやつ・・・たぶん、すごく頭がいい。きっと逃げられないから、迎え撃つしかない・・・」

 

「そんな・・・シンは━━━」

 

「リィエルに同感だ。けど、」

 

 この家の結界は相当強い物だ。それなのに、結界を壊すのにかけられた時間はほぼ一瞬。でなければ結界に手をつけた時点で、俺かリィエルが気がつくはず。

 

 かなりの手練れ。それこそ、シス姉やルミ姉が居ては足手まといなほどに。

 

 だから━━

 

「俺が行く」

 

「「「っ!?」」」

 

 俺ははっきりと、皆にそう告げた。

 

「ちょっ!?あんた何言ってんの!?」

 

「そんままの意味だよ。俺が相手を迎え撃つ。その間にルミ姉とシス姉はリィエルに護衛してもらいながら裏口から出て」

 

「だめっ!!」

 

 俺がシス姉を言いくるめていると、予想外の方向から横槍が入った。

 

「だめ・・・シンが一人でいっちゃだめ・・・」

 

「リィエル・・・」

 

 リィエルは泣きそうな顔をしながら俺を見る。が、それに対して俺は驚きのあまりぽかんとした顔のままだ。

 

「シンが一人で行ったら・・・また帰ってこないかもしれない・・・それはわたし・・・絶対にやだ!!」

 

 まるで駄々をこねる子供のような言葉だが、その言葉は綺麗に俺の胸を貫いた。

 

 相手がどれだけの者かわからない。下手をすれば、俺が疑似龍化を使わざるを得ないほどかもしれない。

 

 そうなれば・・・俺は・・・

 

「大丈夫だって」

 

 優しく言った俺の言葉に、リィエルはっと顔を上げた。

 

「ひとまずルミ姉達が逃げる時間を確保するだけ。時間稼ぎだ。それが終わったら俺も脱出する。」

 

「でもっ!!」

 

「このままじゃ、もしかしたら全員死ぬかもしれない。だから、今は全員が生き残れる確率が一番高い方法をとるしかないんだ」

 

 俺の言葉に、リィエルは悩むようにうなり出す。俺が言うことも正しい、けど俺を一人危ない状況に置きたくないという葛藤をしているんだろう。

 

 けど時間がない。

 

「安心しろ。必ずあとで合流する。だからリィエルは、二人を頼む」

 

「・・・わかった。絶対に合流して」

 

「ああ、約束するよ」

 

 この約束に、どれだけの意味があるんだろうか?

 

 今俺がこんな約束をするべきなのだろうか?

 

 そんな考えが頭に過ったが、それをどうにか頭の隅に追いやって俺は食堂の扉を開けた。

 

「それじゃ、その手はずで」

 

「無事じゃなかったら承知しないわよ!」

 

「危なくなったらすぐに逃げてねシン君」

 

「わっーてるよ、三人とも早く逃げろよ」

 

 それだけ言って、俺は廊下を駆ける。

 

 最後まで、リィエルは泣きそうな顔だった。

 

 けれど、目はしっかりしていた。あの分ならきっとしっかりシス姉とルミ姉を守ってくれると信じている。

 

 しかし・・・

 

「俺は一体、何度嘘を塗ればいいんだろうな・・・」

 

 リィエルに言った全員が生き残れる一番可能性が高いものを取ったという話。

 

 あれは嘘だ。

 

 正確には、シス姉、ルミ姉、リィエルの三人の生存確率が最も高い選択が正しい。

 

 全員が生き残りたければ、それこそやって来た侵入者を俺とリィエルの二人で倒せばいい。

 

 だが、それは本当に賭けだ。もし俺とリィエルが突破されればそのまま侵入者はルミ姉を連れ去っていくだろう。

 

 シス姉は確かに強い。けれど、今のような突発的な状況にはとても弱い。ここで戦力と数えるのは少し無理がある。

 

 だから俺は嘘をついた。

 

「ま、今さらか」

 

 ずっと皆に嘘の仮面を見せ、

 

 自分の実情を何も話さずに、嘘八百で隠し通している俺にとって、もはや何を今さらという話だ。

 

 嘘の山に、また塵が一つのっただけの話。罪悪感はそんな簡単な話ではないけれど、今気にすべきはそっちじゃない。

 

(侵入者の撃破、それだけを考えろ・・・)

 

 気配がするのはエントランス。俺はそこへ一心に走る。

 

 そしてエントランスへと続く階段までやって来て、俺は驚きによって目を見開いた。

 

 結構豪華なエントランスの灯りは消え、薄暗い闇のなかランプの炎だけが辺りを照らしている。

 

 だが、たったそれだけの灯りでも、エントランスに立つ侵入者が一体誰なのかを把握するには充分だった。

 

「くっくっく・・・久しぶりだねシンシア=フィーベル。息災かな?」

 

「なんで・・・」

 

 驚きから敵意に変わった瞳をぎらつかせ、俺は叫んだ。

 

「なんでてめぇがここにいる!!ジャティス=ロウファン!!!」

 

 そう俺に名前を呼ばれた侵入者、元特務分室所属、ジャティス=ロウファンはほの暗い笑みを俺に見せるのだった。

 

 

 

 

 




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