遂に!遂に!!ヒロイン登場!!
やっとだよ、ほんとやっと...
それでは第7話です!どうぞ!
日が経つのは意外にも早く、既に明日は競技祭の日となっていた。それぞれが心に緊張や興奮を持つなか、全ての生徒が明日の準備のため、グレンの声かけでその日の特訓は早めに切り上げられた。
「なーシス姉、俺はいつまで毒味をすればいいんだ?」
「うっさいわね!うまくできるまでに決まってるでしょ!」
「いや...十分うまいと思うけど...」
しかし、ここフィーベル家邸宅では全く違う緊張が走っていた。邸宅のキッチンではシスティーナとルミアが世話しなく動いており、近くの椅子に腰かけているシンシアは、その光景をあくびしながら見ていた。
「シン、システィも乙女なのよ。好きな男性にあげるものだから一番いいのをあげたいのよ」
「そんなもんなの母さん?」
そしてルミアとシスティーナの指導をしながらシンシアの隣に座るシンシアとシスティーナ、そしてルミアの母はそう微笑みながら話す。
「何!!システィが好きな男だと!!一体どんなやつなのだ!?私がこの目で直々にーーー」
「はいはい黙りましょうねあなた?」
そう言って、突然介入してきた父を簡単に沈める母親を見ながら、シンシアは額に冷や汗を浮かべるしかできなかった。
「ルミ姉はどんな感じなんだ?」
「うーん。卵がうまい具合に作れないの」
「別にいいんじゃねぇの?俺から見たら十分きれいに出来てるんだけど...」
「ううん、やっぱり作るなら一番良いのがいいから」
「そっか」
さっきから二人が作るものの試食をさせられているシンシアからすれば、出来れば早く終わっい欲しいというのが本音なのだが、二人の真剣な表情からそんな事は言えるはずもなく、さらにそれを言えば自分の隣に座る鬼に火をつけそうだったので言うことは憚れていた。
「ごめん、悪いけど少し走ってくるわ」
「こんな時間に?もう八時過ぎよ?」
辺りは既に日は暮れて該当が灯っており、人通りもあまり多いとも言えない。母親である彼女が心配するのももっともな話だった。
「出来ればすぐに寝れるようにしたいから、ちょっと体を疲れさせたいんだよ。すぐ帰ってくるから」
「わかったわ。九時までには帰ってきなさい。じゃないとシンもこうなるわよ?」
そう言いながら母親は魂が抜かれたようにそこに横になる父を指差しながらそう言う。
シンシアはそれに対して震えながら首をブンブンと振りながら家から出た。
外は涼しげな風が吹き、オレンジに光る街灯が石畳を照らしている。まだ人は何人か通ってはいるが、朝や昼に比べればかなり少ない。
シンシアは少しストレッチとして屈伸やアキレス腱を伸ばしたあと、その場から駆け出した。
特に目的地があるわけではない。時間としては一時間自由に走り回れるので、三十分でどこかに行って、残りの三十分で帰ってくればちょうどいいだろう。
時間が時間のため、シンシアの足音が辺りに響く。すれ違った何人かがシンシアの方を向くが、そんな事を気にせずに走り抜けていく。
シンシアは小さい頃から、魔術を使うセンスはまったくといって良いほどなかった。今使える魔術は、小さい頃から自分が使えた数少ないものを極めた結果なのだ。
そしてそこから派生させ、自分のスタイルを考えた結果『魔術がうまく使えないなら、それを知識と体で補えばいいじゃないか』という考えに至ったのだ。
そこからシンシアの肉体強化の日々が始まった。今から数えるともう八年か九年も前の話だ。それもこれも、シンシア自身の夢のためだ。
(俺だってわかってるんだけどな...魔術がろくに使えないのに魔術師になりたいなんて...そんなの夢物語ですらないってのは...)
シンシアは走りながら、ふとそんな事を考える。シンシアの魔術センスでは、シンシアの夢である『正義の魔法使い』になどなれる確率はほぼゼロだ。
だが、彼は諦められなかった。だからそのために、魔術を補うためにあらゆる事をした。
魔力調節のセンスには長けていたので、
それほどに、シンシアは自分の夢を諦められない。
何故そこまで目指すのか?と聞かれれば、憧れたからとしかシンシアにとっても言いようがない。憧れや尊敬、恋などの感情は、言葉ではあまりあらわせられないのが世の常だ。
シンシアがそんな思いに耽りながら、自分の右手に着けた懐中時計を見る。時刻は八時二十分、もう少し走ればちょうどいいだろう。と、時計に意識が向いた時だった。
「あだっ!?」
「痛い」
シンシアに何かがぶつかったような衝撃が走る。時計に意識を向けるあまり、前への注意をおろそかにしていたシンシアの完全な不注意だ。
「あっ!ごめん、大丈夫か?」
そう言いながら前を見ると、そこには少し小柄な少女がそこに倒れていた。髪は水色で、延び放題となっており、それを後ろで一つにまとめてある。目は眠たそうに半開きになっており、体には藍色のローブを羽織っていた。
「ん。大丈夫、問題ない。」
そう返すも、その少女は一向にそこから起き上がらない。
「ほんとか?まぁ手を貸すからとりあえず起き上がろうぜ?」
シンシアがそこで手を伸ばすと、少女はその手をつかんでその場から起き上がる。やはり身長は低く、シンシアの肩ほどまでしかない。
「悪いなぶつかって。じゃあな」
そこでその場からシンシアが離れ、すべてが終わるはずだった。だが、彼女はそこで終わらなかった。少女はシンシアの服の袖をいきなりつかみ、シンシアの動きを止める。
「え?どうした?」
シンシアは怪訝そうに尋ねると、少女は表情を全く変えずに答えた。
「私、道がわからない。」
「へ?迷子なのか?」
「違う、道がわからないだけ」
「いや、それを一般的には迷子と言うんだぞ...」
少女は違いがわからないのか、首を傾げる。
「うし!ぶつかったお詫びもかねて俺がそこに連れてってやるよ。どこに行きたいんだ?」
シンシアも、さすがに迷子の少女をこんな夜中にほっておく事なんて出来ない。それに彼女はなんだか、ほっておいたら危険なような気が、シンシアの中にあった。
「ほんとに?」
「おう!男に二言はねぇよ!」
シンシアは胸にドンと手を当てながらそう答える。ここまでくれば乗り掛かった船だ。最後まで面倒を見るのが筋というものだろう。
「じゃあここに行きたい」
「ん?どれどれ...」
シンシアはその少女から渡された紙を見る。そこに書いてある場所は、魔術学院の敷地内にある魔術競技場を指していた。
「競技場?ここに行きたいのか?」
「うん」
シンシアにそう答える少女に、シンシアは困惑してしまう。
(どういうことだ?今行ったところで開いてねぇしな...)
「なぁもしかして、明日の競技祭に行くのか?」
少女はまたも、シンシアの問いにゆっくりと首を縦に振る。
「つっても今は開いてねぇぞ?こんな時間だし、先生も誰もいないと思う」
「大丈夫、そこで待ってる人と合流するから」
「なるほど...」
シンシアは少し思案するようなしぐさをとり、もう一度少女へと向き直る。
「わかった、そこまで連れてってやるよ。」
「ありがとう」
少女は簡単に礼を言うと、シンシアの後ろに着いてくるように歩く。
「そう言えば名前聞いてなかったな、俺はシンシア=フィーベル。シンでいいぜ。お前は?」
「リィエル、リィエル=レイフォード。」
「ふーん。リィエルか。わかった」
そう簡単な自己紹介をして、シンシアは学院へと向かう。こんな夜に学校へ向かう事なんてなかなか無いので、少しシンシアはワクワクしていた。
暗がりを歩く男女、それは周りから見ればなかなかに特殊な光景であったが、夜の時間ということもあって辺りには人はいなかったし、それを気にするシンシアでもなかった。
「競技祭を見るためにここに来たのか?」
シンシアが素朴な疑問を、リィエルに投げ掛けたのだがリィエルから返ってきたのは予想だにしない返答だった。
「任務」
「へ?今なんて?」
「私は任務のためにここに来た」
リィエルは表情を変えずにこちらを見ながらそう答える。
(ん?ちょっと待って...任務?任務??こんな子が?俺とそんな年が変わらないような子が?まさかな...)
内心出来た一番あり得ない予想を頭の端に押しやり、リィエルの寝惚けた発言なのだと強引にシンシアは決定した。
「待ち人はどんな人なんだ?」
「アルベルトは、シンより大きな男」
「...もうちょっとなんかなかったのか」
「?」
リィエルに聞いても思う答えは返ってこないと判断したシンシアは、何かを尋ねるのではなく談笑に切り替えようとしたときだった。
「おいおい坊主、なかなかかわいい子つれてんじゃねぇか?」
シンシアとリィエルの前に、所謂ゴロツキという名が一番合うような男達だった。人数は四人。
「ちょっとそこの嬢ちゃん貸してくんない?少しだけ遊ぶだけだから、なぁ?」
男達は下卑た笑みを浮かべながらリィエルへと近づいてくる。
「なぁリィエル、確認だがあの中にお前の待ち人のアルベルトとやらはいるのか?」
「いない」
「わかった」
シンシアはそれだけ確認すると、リィエルを庇うように前に出る。
「ああ?なんだよ坊主、俺らとやろうってのか?あん?」
男の一人がシンシアへと近づき、指をポキポキとならして威嚇し始めるがシンシアは動揺すら見せない。
「先に言っとく。ケガしても自己責任な」
「はは!!このガキ、俺らに勝つつもりでいやがるぜ!!」
四人の男達が腹を抱えて笑い出すが、シンシアは気にしない。
「俺は言ったからな」
それだけ呟くと、シンシアは構えをとり四人と相対する。
「邪魔なんだよ!うら!!」
シンシアに近づいて行った男がシンシアへと拳を奮う。だが、シンシアはそれを難なく受け流し、代わりに相手の顔に自分の膝を打ち込む。
「ぐぼぉ!?」
痛みに呻きながら、蹴られた男はその勢いのまま倒れていった。
「はい、次」
そう言うと、シンシアはその場で立って止まっている二人に近づく。そして一人の鳩尾にストレートを入れて行動不能にしたあと、直ぐ様もう一人の顎にアッパーを食らわせる。
二人とも今度はうめき声すらあげずに倒れ込んだ。
「あと一人か...」
そう思ってシンシアが残り一人に視線を向けると、遅かった。その男は既に手にナイフを握ってこちらに突撃していた。この状態では相手の攻撃を止めるのは難しい。かといって避けるのはよりダメだ。
(避けるとリィエルに当たるし、これは甘んじて受けるしかないかな...)
そう考えたシンシアは、後に来る痛みを恐れて目をつぶろうとしたが、それは徒労に終わる。
何故なら、シンシアの目の前でその男は吹っ飛んでいったからだ。
「は???」
シンシアは全く状況が掴めなかった。自分はなにもしていないのだ、だからこの男が吹き飛んだ理由がシンシアにはわからない。
「ん、これで終わり」
そうシンシアの隣から声が聞こえた。シンシアはそちらを見ると、一体どこから出したのか、リィエルが自分の身の丈ほどの大剣を片手に持っていた。
「え、今のリィエルがやったの?」
「うん」
「その大剣で?」
「うん」
「......」
シンシアは、これほどまでに相手に同情したことはなかった。
(というか、相手生きてる?これ...)
シンシアは飛ばされた男へ駆け寄ると、どうやら打撲だけのようで体に大きな傷はなかった。大方剣の腹で殴ったのだろう。
(あの小さな体のどこにそんなパワーが...)
半ば呆れていると、それよりも聞かねばならないことに気がついた。
「なぁリィエル、お前なにもんだ?」
普通の少女にこんな芸当出来るはずない。さらにシンシアにはそれに加えて疑う理由があった。それは、リィエルが持つ大剣だった。
(恐らく錬金術、だよな?にしては早すぎる。どれもこれも人間離れしてるし、ふつうじゃねぇ...)
シンシアの真剣な表情を、リィエルの半開きの瞳がじっと見つめる。そして彼女はゆっくりと口を開いた。
「私は帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団、特務分室所属のリィエル=レイフォード。軍階は従騎士長。コードネームは『戦車』。」
「..........へ?????????」
それを聞いたのはシンシアだが、シンシアはその予想の斜め上を行く発言に唖然とするしかなかった。
「えっと...リィエルが?帝国の魔導士団?」
「そう」
「それで?特務分室所属と...」
「そう」
その肯定の言葉に、シンシアは頭が痛くなってくる。きっとシスティーナがいつも感じてるのはこんな感じなのだろうという感慨深いものが、あるにはあったが今はそれよりもこっちの方が何倍も重要だ。
(特務分室ってあの特務分室だよな?親父がよく言ってた所だよな...)
宮廷魔導士団特務分室
アルザーノ帝国国軍省管轄の、帝国宮廷魔導士団の中でも魔術がらみの案件を専門に対処する部署。最大人員は22名で、それぞれに大アルカナにちなんだコードネームが付けられる。
(それもかなり凄腕ばかりの精鋭揃いじゃなかったっけ?え?こんな簡単に一般人に名乗っちゃっていいの??)
シンシアは困惑に困惑を重ねる。
「な、なぁリィエル、そう言うことはさ、簡単に口にして良いのか?」
「シンが私が何者かと聞いたから」
「え!?これ俺のせいなの!?」
シンシアは心外だと言わんばかりに目を見開き抗議するが、リィエルはそんな事素知らぬふりですたすたと歩いていく。
「シン急いで、アルベルトが多分待ってる。」
「え?これはほっといていいのか?」
シンシアは自分の周りに広がる惨状を指差しながらリィエルに聞いた。なんせその周りにはいかつい男が四人大の字で倒れているのだ。シンシア一人ならほっておくのもやぶさかではないが、今は状況が状況だ。
「大丈夫、アルベルトがなんとかしてくれる。」
「すげぇなアルベルトさん...その人も特務分室なーーッ!?」
まだたずねたい事が山ほどあったが、それは後ろから広がる猛烈な殺気によって遮られる。
シンシアがすぐに後ろに振り向くと、その後ろには一人の男が立っていた。リィエルの髪より濃い青髪、まるでナイフのように鋭いその雰囲気を携えた男は、こちらに指を向けていた。
そしてそちらを見た瞬間、その男の指が一瞬紫に光り、そこから雷の一閃が駆け抜ける。それをシンシアは、ほぼ反射的に体を動かして避けようとする。しかし、その光線はシンシアには向けられておらず、
「ぎゃん!?」
シンシアの後ろには立っていたリィエルの頭へと直撃した。当たったリィエルはピクピクと体を動かしながら、痙攣したようにその場に倒れた。
「リィエル!?」
シンシアは直ぐ様倒れたリィエルの元へと走り寄る。
「うう...痛いよアルベルト...」
「アルベルト?あの人が!?」
シンシアはそのままその男の方を向く。
「リィエル、何故一般人に素性を明かした。」
「シンは信じられると思った」
「根拠は?」
「勘?」
「......」
アルベルトは額をおさえながら大きなため息をついた。そして視線をリィエルから、アルベルトの方を見るシンシアへと向ける。
「悪いが、少し話がある。お前も来い」
「え?俺ですか?」
シンシアは自分を指差しながらそう問う。
「お前以外誰がいる?さっさと来い。ついでにそこのバカも連れてきてくれ」
そう言うと、アルベルトは二人に背を向けて歩いていく。
「リィエル、歩けるか?」
「まだ痺れる...」
うつ伏せになりながらリィエルは顔だけをあげてそう返した。
「しゃーねぇか。悪いが我慢してくれよ」
シンシアはすっとリィエルを持ち上げる。世に言うお姫様抱っこだが、シンシアは別にその程度で気にするような人物ではない。リィエルもまた同じである。
それに、シンシアはそれよりも気がかりなことがある。
シンシアはリィエルを持ち上げながら、自分の懐中時計を見る。針が指す時刻は、九時。
(帰る前に、遺書書いた方がいいかもしんねぇ...)
恐らく、家で頭から角を生やした母親の姿を想像しながら、シンシアはリィエルを抱き上げアルベルトを追うのだった。
次回から競技祭開幕!
出来れば近々すぐに投稿するので、お楽しみに!