最後にその手が掴むもの   作:zhk

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シンシアの戦い!特とご覧あれ!!


大乱闘

 

『大乱闘』

 

それは、この魔術競技祭で最も場が盛り上がる物だ。十人の魔術師見習いによるバトル・ロワイアルで、ルールは簡単。

 

相手に接触せずに、魔術を使って自分以外の九人を場外に落とす、または気絶させればいいのだ。

 

つまり、この競技はどれ程魔術を扱う技能が高いかが雌雄を決する大きな要因となりうるのだ。ということは...

 

魔術がろくに使えない人間は、ただの的となりうるのだ。

 

「「「「「《雷精の紫電よ》!!」」」」」

 

シンシア以外の全員が、試合開始のゴングと共に【ショック・ボルト】をシンシアへと向けて放つ。

 

「予想通りだ!!」

 

それを見たシンシアは、無詠唱で【グラビティ・コントロール】を起動し、その場で少しだけ飛ぶ。シンシアの足元をすれすれで【ショック・ボルト】が通るのを見送ると、すぐさま【グラビティ・コントロール】を止め、地面へと降り立つ。

 

そして他の生徒が詠唱を始めるよりも早く、シンシアは【フィジカル・ブースト】をまたも無詠唱で足にかけ、口を押さえながら自分から最も近い位置にいる生徒へと飛びよる。

 

魔術の恩恵は凄まじく、相手の生徒に近づくまで数秒とかからない。

 

「なん!?」

 

「ごめんな」

 

シンシアは一言謝ると、片手を目の前の生徒に向ける。すると、魔術式が展開されその場で生徒は倒れた。

 

ーーー

 

「な、なんだ今の!!」

 

「シンは魔術はろくに使えなかったはずだろ!?」

 

その光景を見ていた二組の観客席はどよめいていた。シンシア=フィーベルの事をよく理解しているからこその反応だった。

 

シンシアは【ショック・ボルト】すらまともに撃てないほど実技の成績が悪い。そのため今シンシアが魔術を使って相手を気絶させたという事実が、クラスメイトには信じられなかった。

 

しかし、彼らが驚いている間にも試合は進んでいく。またもシンシアに向けて放たれる大量の魔術を、シンシアは難なく回避しながら、先程と同じように生徒に近づき、気絶させていく。

 

「ああ、そう言うことか...」

 

そこで声をあげたのはギイブルだった。

 

「ギイブル?シンは何をしてるの?」

 

「簡単な事だよシスティ。シンは、錬金術を使ってるんだよ」

 

そのギイブルの発言に、全員が目を剥いた。

 

「れ、錬金術?でもどうやって...」

 

「そうだよ。錬金術にそんな技は...」

 

「あるわ!」

 

周りの考えを切るように、システィーナが口を開いた。

 

「【痺霧陣(ひむじん)】を使った。そうよね、ギイブル。」

 

「正解だシスティ。」

 

ギイブルはメガネを少しだけ上にあげながら、解説を始める。

 

「【痺霧陣】は、相手を行動不能に出来る変わった錬金術だ。シンは確かに他の魔術は、ほとんど使えないが錬金術なら話は別だ。それならばかなり使える。もっとも

、僕よりは下だがね...」

 

「そこは言わなくていいだろ...」

 

カッシュの突っ込みが入ったが、ギイブルはそれを鼻で笑いながら一蹴し、試合へと視線を移した。

 

全員がフィールドへと視線を向ける頃には、フィールドに立っているのはたったの二人だけだった。

 

ーーー

 

「くそ!《大いなる風よ》!!」

 

「おっと」

 

フィールドに残るのは、シンシアと一組の生徒。一組の生徒が巧みに魔術による攻撃を仕掛けるが、それをシンシアはギリギリの所で回避していく。

 

(やっぱ一組の奴は強いな...全然近づけねぇ...)

 

先程からシンシアはどうにか相手の懐へと潜り込もうと試みるのだが、その度に一組の生徒の魔術によって阻まれる。隙をほとんど見せない相手の技能に、シンシアも辟易としていた。

 

(さてどうする?多分【痺霧陣】は警戒されてるから効かねぇよな...近づくってだけなら【タイム・アクセラレイト】で行けるけど、その後の遅くなる奴がダメだよな...)

 

シンシアは一組の生徒の周りをぐるぐると走り回りながら策を練るが、一向にいい案は思い付かない。

 

「そろそろ!くたばれ!《虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮》!」

 

相手の生徒がしびれを切らしたのか、シンシアの移動する方向へと向けて、【スタン・ボール】が放たれる。着弾した場所を中心に、激しい音と振動をもたらすこの魔術は、この競技において当たれば即敗退を意味する。

 

「うお!やべぇ!!」

 

シンシアはそれを急な方向転換でどうにか回避する。

 

(あっぶなー。ギリギリだった...)

 

反対の方向に周りながらシンシアは冷や汗をかいた。本当にすれすれの所での回避だった。もし、少しでも反応が遅れれば当たっていただろう。

 

(ヤバい!そろそろ決めないと...ん?)

 

シンシアはそこで、あることに気がついた。

 

こちらを狙う相手の生徒の顔色が、少し悪いように見えたのだ。それに足もどこかおぼつかない。

 

(もしかしてマナ欠乏症なりかけか?ならこのまま逃げてても勝てるけど...やっぱそれは違うよな。)

 

確かにこのまま逃げていても勝てるだろう。だがシンシアはそれは納得出来なかった。勝負に勝っても、戦いに負けたような物だ。

 

そこでシンシアは足を止め、相手に向き直る。

 

会場がいきなり騒がしくなるが、シンシアはそんな事気にしない。

 

「次で決着つけよう、お前もあんま余裕ねぇだろ?」

 

「ふざけるな!お前の...お前のような雑魚に...心配される事なんてない!!」

 

相手は肩で息をしながら、シンシアの問いかけに強く答える。シンシアの純粋な親切からの声かけも、相手の高いプライドがそれを許さなかった。

 

「ま、お前の言うことは関係ねぇよ。これで終わらせる」

 

そう言ってシンシアは真っ直ぐ相手の生徒へと向かっていく。距離にして、およそ十五メトラ。

 

相手の生徒はシンシアへと掌を向けて、構える。

 

シンシアは、それを真っ直ぐ見据えながら離さない。

 

残り十メトラ。

 

(考えるな...目の前のあの手にだけ集中...)

 

シンシアから、外界の情報がほぼカットされる。そしてすべての集中をその向けられた掌に向ける。

 

残り七メトラ。

 

「《雷精のーー》」

 

そこで遂に相手の生徒が詠唱を始めるが、シンシアにはそれは聞こえない。いや、わざと聞いていない。今のシンシアには、その手のひらしか見えていない。

 

残り五メトラ。

 

「《ーー紫電よ》!!」

 

そこで詠唱を終えた【ショック・ボルト】の魔術式がその手のひらに広がる。だが、まだシンシアは動かない。ただひたすら距離を詰め続ける。

 

残り三メトラ。

 

そこで、相手の生徒の掌が一瞬紫に輝いた。

 

(今ッ!!!)

 

シンシアはそこで、【タイム・アクセラレイト】を起動する。すべてを置いていくような感覚になるなか、【ショック・ボルト】がゆっくりとシンシアへと飛んでくる。それをシンシアは、それをコンマ何ミリメトラという所で避ける。

 

そして【タイム・アクセラレイト】の効果が切れ、時間が元に戻り始める。

 

そしてシンシアの耳元で、甲高い音を響かせながら【ショック・ボルト】が通過する。シンシアの見える世界はゆっくりとなり始めるが、それでも強引に体を動かし、相手の生徒の前へと立つ。距離にして、約一メトラ。

 

相手の生徒も驚きのあまり動かないし、シンシアも【タイム・アクセラレイト】の反動で動く事が出来ない。

 

会場は、その異様な光景に静謐な雰囲気が漂っていた。

 

誰もがこの後の事を、固唾を飲んで見守る。

 

(動くな動くな動くな!あと二秒動くな!!)

 

シンシアが【タイム・アクセラレイト】を使って、反動で時間が遅く感じるのは三秒間。今は既に一秒経過しており、あと二秒相手の生徒が動かなければシンシアが動く事が出来るようになる。

 

相手の生徒も、目の前で【ショック・ボルト】を避けられた事の動揺がそれほど大きかったのか、それとも未だに動かないシンシアに不審に思って動かないのかシンシアにはわからないが、この状態が続けばシンシアの勝ちなのだ。

 

(あと一秒!頼む!!)

 

シンシアは祈る。だが、それは叶わない。

 

「さっさと撃て!!」

 

「!?は、はい!!」

 

そこで、観客席から一組の担任であるハーレイが怒声を飛ばす。それによって、相手生徒の止まった時間が動き出した。

 

「《雷精のーー》」

 

(三秒!動く!!!)

 

この状況では詠唱した所で間に合わないし、避けることも不可能だ。だが、シンシアにはこの状況で何が最善かすぐに頭によぎった。

 

三秒が終わった後、すぐさまもう一度【タイム・アクセラレイト】を起動する。そして両手を広げる。

 

そしてーーー

 

「《ーー紫電よ》!!!!」

 

「間に合えぇぇぇぇ!!!!」

 

相手生徒が詠唱が終わり、【ショック・ボルト】が飛ぶのと同時に、シンシアは両手を相手の顔の前で合わせた。

 

俗に言う猫だましだ。

 

紫の一撃がシンシアに入り、相手生徒の顔の前から大きな音が響く。

 

そこからどちらも動かない。

 

会場は静寂に支配されていた。

 

その静寂を破るように、一人の生徒がフィールドに倒れた。

 

倒れたのはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一組の生徒だった。

 

『し、試合終了!!!優勝はなんと!なんと二組のシンシア選手だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

その実況の掛け声の瞬間、会場はまるで爆発したかのような興奮にまみれていった。会場が揺れるほどの大歓声に、ほぼすべての人が立ち上がってその興奮を周りの人間と分かち合っている。

 

シンシアはそこで緊張の糸がほどけたのか、その場に倒れ伏した。

 

「よっしゃぁ...勝ったけど...痺れて動けねぇ...」

 

そのままシンシアは爽やかなほど晴れた青空を眺めながら、そう呟く。これははっきり言って、最後は偶然と言っても過言ではなかった。

 

シンシアが猫だましによって相手を気絶できる事を知っていた訳ではない。これは、シンシアの鋭すぎる動物的勘が、そうさせただけなのだ。だが、そんな事はシンシアですらわかっていないのに、他の生徒がわかるわけがなかった。

 

入り口からドタドタと足音が聞こえ始める。シンシアは顔だけをそちらに向けると、そこにいたのはシンシアのクラスメイトだった。

 

「さすがだぜシン!!熱い戦いだったぜ!!」

 

「すごいよシン君!一組の生徒に勝っちゃうなんて!」

 

「ふん。もう少し余裕のある戦いをすればいいものを...」

 

上から順に、カッシュ、セシル、ギイブルと男子クラスメイト達が声をかけていく。

 

「おお...さんきゅ...」

 

「よしお前ら!勝ったシンシアを胴上げするぞ!」

 

「「「「おおおう!!」」」」

 

「...え?」

 

シンシア以外の生徒全員が、シンシアを持ち上げて一気に高くあげる。

 

「「「「ワッショイ!ワッショイ!!」」」」

 

「ええ!?ちょいちょい!!」

 

シンシアは焦ったような声をあげるが、満更でもないような顔をしていた。

 

(やっぱ楽しいな...全員でひとつの目標に向かうのは...)

 

そんな年寄り臭い事に考え耽りながら、シンシアはその流れに身を任せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからシンシアは気がつかない。自分に向けられていた、好奇とはまた違う、狂喜じみた視線があることにシンシアは全くと言っていいほど気がついていなかった。

 

 

 

 

 

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