グレネードのヤベー奴   作:素飯

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グレネードとレモネードで韻が踏めますね。


ピッチャー振りかぶって……投げました!

 思考が冷える。

 手に力がこもる。握った物を潰すかの如くそれはまるで万力の様。

 外さず零さず全力でソレをぶつけることだけを考える。集中する。

 

(外さない。絶対に当てる)

 

 男が踏みしめる廃墟の床は砂利や崩れたコンクリートがそのままになって、足場が悪い。それは動かす事の出来ないオブジェクト。窓際に転がっている直方体のコンクリートの塊、その破壊不能オブジェクトはまるで野球場のマウンドに埋まっている投手板の様だ。

 

 荒野吹き荒ぶ砂塵が晴れ彼我の景色を明確にする。そこに頭の中で一本の緩やかな放物線を描く。

 気は抜かず一瞬のうちに全工程を完了させる腹積もりで、男は全身に力を籠め、構える。

 今まで何度も繰り返してきた構え。今まで何度も反省してきた構え。

 一種の芸術品とも呼べるその構えから流水の如く仮初の体を動かし、相手の動きを見やる。

 

「――シッ!!」

 

 力を込めた男が、その手に握られていたソレを、まるで銃弾のように投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の狩りは微妙だったな~先週のドロップ考えたら月とスッポン」

「前潜ったのは宇宙戦艦のとこでしたし、そりゃ落ちる物も質が落ちますよ。ちょっと稼ぐには疲れないし良い感じの場所だったんじゃないですか?」

「それはまぁ確かにな」

 

 談笑しながらそこそこな速度で荒野を駆ける男二人。

 この二人は同じ大学の同じゼミで学ぶ学友同士。GGOを通じて意気投合し、今じゃそこそこ名の知れたタッグのスコードロンだった。

 方や高いAGIとこれまた高いVITで撃っても死なないしそもそも当たることが稀なスキルビルドをした場を引っ掻き回す戦場の賑やかし担当。火力は低いが弾数が多く、ばら撒きでプレッシャーを与えて来てウザいサブマシンガン使いな所から、付いた二つ名は『羽虫』。悪口じゃね?

 もう片方は羽虫よりは低いAGIとVITに、その分少しだけSTRに振った羽虫より少し火力が高いが、少し脆く遅いスキルビルド。サブマシンガンよりは火力があり、それでいて軽量なアサルトライフルを取り回し、敵がスコープを覗かず腰だめでぶっぱなす選択をしてくる羽虫とは違いスコープを覗かなければ当てることが難しい距離から敵にぶっぱなすプレイスタイルだ。中距離からそこそこな速度で動き回り羽虫をカバーし、羽虫にカバーされる良い感じの連携をしてきてウザいという点から付いた二つ名が『遠い羽虫』。やっぱり悪口じゃね? 

 

 そんな羽虫コンビが、今そんな感じのクッソウザいプレイスタイルでMobのモンスターをぶっ殺してドロップをせしめて荒野を駆けている。BoBなどのソロ前提の大きな大会に出てくることはないが、スクワッドジャムのような複数人で出ることができる大会では中々注目を集めるタイプのプレイヤーだった。

 

「いやまぁでもマジで助かったわ。俺だけだったら火力が足りねえ所多くていい感じに稼げる所少なかったんだよな。モブ狩りは勿論PKもAGI対策はされてることが多いからリスキーだし」

「先輩サブマシンガンですもんね。対策に関してはゼクシードとかその辺が言い出したAGI万能説のせいでドッとAGI型が増えたせいもありますけど……」

 

 羽虫はもともとソロだったが、ソロでMob狩りをやり続けるには聊か火力が心もとなく、PKをやるには広まった対策と、自身の超高いとは言えないプレイスキルのせいでソロでは限界を感じるようになっていた。そこでゼミの後輩である遠い羽虫に声をかけ、一緒にGGOをするようになった経緯がある。

 そして遅ればせながら参上し羽虫と組んだ後輩は、羽虫をウザがっていた連中に「新しい羽虫が来た! 遠いところからブンブン言ってきてウザい!」と言われ、見事『遠い羽虫』の名を付けられたわけである。かわいそう。

 

 極まったステータスと凄まじいプレイスキルでブイブイいわす様な闇風を筆頭にした『AGIのヤベー奴』よりぶっ飛んだ連中じゃないが、それでもそこそこのステータスとそこそこのプレイスキルでブンブン言う『AGIのウゼー奴』筆頭、それが羽虫という男であった。言ってしまえば闇風の下位互換である。悪口である。

 ちなみに自分と組むとGGO内部から闇風とかその辺の奴から尊敬の感情を引っこ抜いたような評価を後輩が受けるようになることは羽虫にはわかっていた。ひどい。

 

「ゼクシードぜってぇぶっ殺す……ってもう死んでんだっけ?」

「INしてないだけって話もありますよね。回線切断でデータが飛んでGGO辞めたとも」

「うわえっぐ……GGOのデータ飛んだりしたら俺死ぬわ……ゼっちゃん可哀そう……」

「僕も死にます……てかゼっちゃんて、知り合いやったんですか?」

「いや全然」

「ですよね」

 

他愛もない話をしているうちに、羽虫二匹が砂が多かった荒野地帯を抜けコンクリートで舗装された市街地へと踏み入った。グロッケンまでは荒野を挟んでそこそこ近い位置にある街だ。

 

――そして、そこから約1㎞先に一人の男が居る街でもある

 

ガツンと、コンクリートの地面に何か硬いものがぶつかった音がした。

 

「――?」

 

 羽虫のどちらかがその音を聞いた刹那、それは起こった。

 羽虫達の間の地面にぶち当たったそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラズマの嵐を巻き起こし羽虫を蹴散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、グレネードで狙撃をするヤベー奴の物語である。

 




レモネードとグレネードで韻が踏めますね。

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