Metronome Synchronization 作:シナモンサンド
プロローグ サッドネス・メトロノーム
唐突になるが、あなたはメトロノームの同期現象というものをご存じだろうか。同じ周期にセットされたメトロノームは、紐で吊るされた台の上ならば、揺らし始めるタイミングは違ってもいずれ揺れが揃ってくるというものだ。
揃ってくる理由は、吊るされた台が揺れたことで、メトロノームに外力を与えられるからだ。例えば、メトロノームの針が右に強く揺れたとき、その反動で台は左に振れる。すると、左に揺れようとした針は右側にかかる外力を受け、本来の周期よりも早く揺れる。これを繰り返すことでメトロノームは揃っていくというわけだ。
少し話題を変えて、ある少女の話をしよう。少女の名前は、氷川紗夜。ギターを趣味としている少女である。誰が呼んだか、「サッドネス・メトロノーム」。直訳すると「正確なメトロノーム」となるだろうか。だが、サッドネスという英語には、悲しいという意味合いもある。
そう、紗夜の奏でる音は正確なのだ。正確すぎて悲しくなるのだ。
なぜ紗夜の音は悲しいのか。その理由は、彼女の性格と双子の妹の存在にある。紗夜はストイックな性分だ。元々あらゆる方面への才覚に溢れているが、常に目標を高く持ち、そのための努力を怠らない、絵に描いたような生真面目だ。
同時に、紗夜は負けず嫌いでもある。才女の上に努力を重ねる彼女が負けるなどそうそうない?確かに、普通ならそう考えるだろう。だが、彼女はいつも敗北感を味わっていたのだ。
双子の妹で、天才の、氷川日菜に。
しかも日菜は紗夜のことをいとおしく思うために、真似をしたがるのだった。それはギターにも言えたことだった。紗夜も日菜のことが嫌いというわけではなかったが、日菜に対して激しいジェラシーを感じていたのは事実だった。それが原因で、紗夜は大好きなはずのギターを辞めようとしたが、日菜が紗夜への感情を吐露したことで、これが氷川紗夜の音だと胸を張って言えるようになるまでギターを引き続けることを誓った。
だが、人とは急には変われないもので、紗夜の性格と過去を織り混ぜたギターは善くも悪くも「サッドネス・メトロノーム」のままだった。
前置きがすっかり長くなってしまった。そんな紗夜に恋をする少年が一人。それが僕だ。
この地球という吊るされた台の上で、平凡で、非力で、矮小な僕に、正確すぎる彼女のメトロノームに重なる
常に上を向いて、自分の音を模索する紗夜を振り返らせることなどできるのだろうか。