とある師弟の成層圏   作:カツヲ武士

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前の話から二日後(日曜日)のお話。

フランス編?これにて終了?

オリ設定!
オリ展開!

嫌いな人は読み飛ばし!


第35話

「まともな情報がまったく集まらない?」

 

どういうことだ?アレから二日経って、

デュノア社の関係者が軒並み捕まるか

抵抗を試みて射殺されたのはわかってる。

 

フランスからの公式回答が無いのは

・・・まぁシカタナイにしても

フランスで起こっていることに対して、

山田君が探っても何も情報が得られない

などありえんだろう?

 

「・・・はい。まずフランス外務省で公式と

された内容では『デュノア社への攻撃は

フランス陸軍による独断』であることを発表。

対して軍は『今回のデュノア社のスパイ

活動について何も知らなかった』とし、

『自国の恥を濯ぐ為に行動を起こした』と

言う声明を出しました」

 

公式回答があったのか?!しかし内容が酷い。

 

デュノア社は犯罪を犯したかもしれんが

本来なら軍が動くことでもあるまいに。

 

ヤったことは軍による民間人の粛清だぞ。

 

「典型的なトカゲの尻尾切りだな」

 

予想はしていたが・・・反吐が出る。

 

「問題はソレだけじゃないんです。

フランス政府からは『デュノア社の爆破に関して

政府は何も知らなかった』という声明と

『軍が勝手に動いた』と言う声明が出されました」

 

「はぁ?」

 

政府が軍の動きを知らないって、ソレはもう

クーデターだろうが!

 

いや。そもそも外務省は『陸軍の独断』

と言う声明を出している。

 

つまり・・・どういうことだ?

 

「さらに30分後、陸軍から『自分たち

は一切動いていない、これは政府による

証拠隠滅と自作自演の茶番劇。政府は

我々に責任を押しつけようとしている』と

言う声明と、アリバイの証明のためなので

しょうか?当時の全部隊の展開状況の一覧を

ネット上に公開したんです」

 

「軍の展開状況一覧だと?!」

 

それも全軍?最上位の軍事機密だろうが!

 

さらに自分たちが「自浄の為に動いた」と

言っておきながら、今度は「動いてない」

だと?いや、政府直属の部隊みたいなのが

居れば爆破や証拠隠滅は出来るだろうが、

何故それを陸軍に押し付けねばならんのだ?

 

「さらにさらに陸軍はこれを政府による

情報漏洩とし、咎める声明を発表。

また『デュノア社への攻撃は空軍か政府の

IS部隊による証拠隠滅の為の犯行』と断じ

徹底抗戦の構えを見せています。

対して空軍も『当方はデュノア社への攻撃

など一切行っていない』と反論。

情報漏洩に関しては『自分たちは無関係

である』と切って捨てました」

 

はぁ?自分で無実を主張しておきながら、

同時に公表した軍の展開状況は政府の漏洩?

 

「なんだソレは?担当の大臣やら長官が

直接集まって話し、軍と政府で談話でも

出せば済むことだろう?」

 

完全に支離滅裂じゃないか。

 

「確かにそうなんですが、その談話を作るため

にはデュノア社を攻撃した犯人の特定が

必要不可欠なんです。

まさか「深夜に正体不明の敵が現れて

フランス国内にあるデュノアの工場や

研究所をピンポイントで破壊した」なんて

ことはありえませんからね」

 

「それはそうだな。どう考えてもそんなことは有り得ん」

 

束あたりなら出来そうだが、アレが動く

なら被害はこんなモノではないよなぁ。

 

さらに言えばこれから冬林技研が連中から

色々と搾り取ろうとしているのに、ソレを

邪魔する理由も無い。

 

そもそも今回の襲撃はタイミング的に

かなり政治が絡むから、煩わしいことを

嫌う束が独断で動くとは考えづらい。

 

冬林技研も束も動く理由が無いどころか、

動けば損をするわけだ。

ならばやはりこれはフランス国内の問題

となるはずなんだが・・・

 

「それで、今回の襲撃の犯人にされて

しまえば陸軍も空軍も政府も大打撃です。

あの後で逃げようとしたデュノア夫妻や

研究者の射殺は、彼らもISを持っている

可能性を考慮され今はシカタナイこと

として周囲にも受け入れられてはいますが、

一番最初の証拠隠滅の為の爆破については・・・」

 

「それはそうだろうな。これを認めれば、

今後都合が悪くなれば正体不明のナニカ

によって証拠隠滅されることになるんだ。

そんなの国民が認めるわけがない」

 

で、国民を納得させるためには談話を出す

必要があり、談話を出すためには犯人の

特定が必要不可欠だが、それが見つからない。

 

一番怪しいのは陸軍だろうが・・・

 

「更にタチが悪いことに、最初の陸軍の

声明と外務省の声明は何者かに改竄され

ている可能性が出てます」

 

「何っ?!」

 

軍と政府の公式発表が改竄されている?!

 

「まさか相手はフランスを狙った国際テロ

組織か何かと言う可能性もあるのか?」

 

これだけのことを仕出かすテロ組織が

存在するとなれば・・・この混乱に

乗じてナニカ仕掛けてくるか?

 

「いいえ。それならあの状況で手は

出しません。黙っていればフランスは

もっと混乱してましたからね」

 

「・・・そうか」

 

それもそうだ。しかも今は国内事情を

優先させているが、対外的にも国際社会で

孤立しつつある状態なんだもんな。

それも現在進行形で。

 

テロ組織が居るなら黙ってるか、政府が

口封じをしようとしたところを映像に

でも収めていたほうがよぽど効果的だ。

 

「色々な憶測が飛び交う中で、現在は声明の

改竄すら政府の自作自演ではないかという声が

上がっている状態でして・・・」

 

あぁ『自分も被害者だから犯人は他に

居る!』と、政府が見せかけようとした

と考えた方が自然だよな。

 

「ならば現状で一番怪しいのは、政府直属のIS部隊か?」

 

陸軍のIS部隊が動いてないならそれだよな。

 

最高軍事機密を知り、今回の件で最も

ダメージを受けるであろう政府の誰か

が独断で動かしたと言うケースもある。

 

「そうですね・・・しかももっと

厄介なことがあるんです」

 

「これ以上厄介なこと?」

 

・・・想像できん

 

「はい。データ上にあるデュノアさんの

公文書が、女性に書き換えられてるんです」

 

「なんだと?!」

 

ありえんだろう!今更ソレを書き換えて何に

なるというのだ!

 

「さらに情報が書き換えられたのは、

デュノア社の爆破の5分~10分前と

言うことが判明してるんです」

 

「・・・デュノア社の人間が情報を隠匿しようとした、か?」

 

それ以外でそんなことをする理由が無いよな?

 

「その可能性は高いです。そして我々

のデータベース内の文書も半分程が

女性に書き換えられています」

 

「はぁ?!」

 

いや、そうか。【公文書】の改竄と

言っていたからな。

 

・・・これはまさか束の仕業か?いや

理由がない。さらに束なら半分と言わず

全部やるよな?

 

「・・・デュノアさんの名前に反応する

ウィルスのようなモノでしょうか?

改竄をしていた担当者は紛れもなく天才で

しょうが、コレを見ると途中で死んだ

のではないかと思われます」

 

「爆破の前に犯人に殺されたか・・・」

 

政府かデュノアか、もしくはIS委員会の

関係者に何らかの指示を受けて動いていたの

だろうが、情報の伝達に誤りでもあった?

 

「そうですね。口封じの可能性もあります。

そんなわけで、現在フランスが出している

声明には一切の信憑性がないんです」

 

「それは・・・そうだろうな」

 

出したと思ったら『改竄されていました』では話にならん。

 

フランス語の文法はわからんが、日本語は

【は】【が】【の】【を】【に】を

変えるだけでまったく意味合いが違う

モノになるし、添削した上で公開した長文

の中でソレを意図的に変えられていた場合、

発見はかなり遅くなる。

 

なにせ添削した本人たちが見なければ

それが正しいのかどうかもわからんし、

そもそも公式見解として公開されたモノに

対して、他者はその文章こそが公式のモノと

見なすんだからな。

 

例えばフランス語の文章を和訳する場合、

政府の公式発表に対して「助詞が違う」など

と突っ込む翻訳家は居ないだろう。

 

それは翻訳家の仕事では無いからな。

 

「フランス軍も政府も混乱しているなかで、

民衆のデモまで発生してます」

 

「あぁ」

 

それもわかる。犯人が国外の戦力やテロ組織

なら警備の在り方に問題が有るし、国内の

組織なら共犯であっても都合が悪くなれば

何時でも何処でも口封じされてしまうという

事だからな。

 

さらに公式見解まで改竄されているとなると、

今の政府や軍は能力的も人格的にも信用できん。

 

そりゃフランスと言うデモが好きなお国柄

じゃなくても、政府や軍に文句をつけたくも

なるだろうさ。

 

「あ・・・さらに厄介ごとです」

 

「・・・今度は何だ?」

 

どれだけ情報を集めても、私たちは政治的に

動くことが出来んから最終的には理事長が

何かするんだろうが・・・流石に今回の件に

関しては私も山田君も当事者だ。

 

理事長と更識が全てを預けるに足りんと判明

した以上は、独自に情報を集める必要がある。

 

・・・集めた情報を有効活用するための

パイプが無いのが痛いところだがな。

 

「今こうして話をしている最中に中国、いえ

冬林技研がIS委員会で提案を出しました」

 

「はぁ?この状況で?」

 

フランスの声明が二転三転してる以上、何が

正しくて何が出来るかわからんのだぞ?

 

今は情報収集するべきじゃないのか?

 

「恐らくこの状況だからこそ、何かしらの

情報を出してきたんだと思います。

会議の様子を映し出しますね?」

 

「あぁ、頼む」

 

さて、教頭はどう動くつもりだ?

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ここ数日フランス国内で発生した問題では、

フランス国内の組織による責任の擦り付けや

一向に状況の改善が見られないことに対して

皆が不安と不満を抱いていることだろう。

 

また対外的に我らを馬鹿にしているような

二転三転する公式回答に対しては、皆が失望し

失笑し、そして憤慨していることだろう。

 

だが、勘違いして欲しくないのだが、そもそも

我々がIS委員会に今回の件を問題提起した最大の

目的は、スパイとしてIS学園に送り込まれてきた

少女シャルロット・デュノアの救済だ。

 

よってフランスの事情を考慮する前に、政治に

翻弄された一人の少女を救済したいのだ。

 

まずIS委員会とフランスとデュノア社による

共謀はすでに白日の下に晒されているのだから、

彼女の扱いについては、スパイではなく虐待

による被害者と言う形で決着をつけたい。

 

親に虐待され、国に脅された少女には他に

取れる手段がなかったのだからな。

 

もしこの意見に異を唱えるモノが居るならば、

ソレは個人で国と戦えると言う夢想家であり、

現実と言うモノを理解出来ない者だろう。

 

それに・・・すでに彼女はスパイですらない。

何せソレを命じたデュノア夫妻は、フランスが

提出してきた資料を信じるなら既に死んでいる。

 

さらにフランスとて今さら彼女が得た情報を

渡されても困るだけだろう。

 

故に我々は彼女を両親とフランスの軛から解放

されたと見なし、現在行っている彼女の一時

保護をこれにて終わりにしたい。

 

説明するまでも無いだろうが、これはフランス

の国内事情に対し我々は口を挟むつもりが無い

と言うことの意思表示でもある

 

かと言って、現在の彼女をフランスに戻す

ことなどあり得ない。

 

我々は抱え込まない。フランスには戻せない。

ならば彼女はどうすれば良い?

 

簡単だ。我々中国はシャルロット・デュノアを

IS学園に再度入学させることを提案する。

 

IS学園はIS委員会の下部組織として今度こそ

『あらゆる国や組織からの干渉を防ぐ』と言う

役割を果たして頂きたいと切に願う。

 

ISコアの所有権に関しては一時IS委員会預かり

とし、専用機は自衛の為にもそのまま保持して

もらいたい。

 

また、IS委員会及びフランス政府は彼女に

対して賠償責任が有るものとする。

 

要するに、少なくともフランス国内が

落ち着くまでの間、IS委員会とフランス

政府は彼女がIS学園内において今まで通り

フランスからの留学生として・・・いや、

もはや男装の必要はないので、彼女が一人の

少女として過ごせることが出来る環境を作る

ことを要求する。

 

具体的には、まず生活費の負担。まぁこれは

両者による定期的な補償金の支払いと言う形

で良いだろう。

 

次に国家代表候補生では無くなるだろう彼女が、

専用機を使うことで発生する費用の負担。

 

これもフランスとIS委員会で負担すること。

 

次に身辺の護衛。暗殺だけではなく、生徒同士の

虐めや虐待の可能性もあるので、これの監督は

IS学園が責任をもって行うこと。

 

以上をもって被害者の少女に対する謝罪とし、

先日我々が上げた関係者各位の罪状から

「彼女に対する人権侵害」と言う項目を

抹消したい。

 

・・・まぁ結局のところは、政治や軍の責任

逃れに子供を巻き込むなと言いたいのだ。

 

幸い学園は休日で彼女が休んだのも一日だけ

だから、学生として授業についていけない

と言うことは無いだろう。

 

少女の社会復帰の意味を込めて、この議題は

早期に解決したいのだよ。

 

さてこの提案に・・・異論の有る方は挙手を。

 

 

「「「・・・・・・・」」」

 

 

ふむ。どうやら異論は無い様子。

 

では委員会執行部は即座に手続きを取って

もらいたい。

 

彼女の安全が確立されたと判断したら、現地

スタッフが彼女をIS学園まで送り届けよう。

 

まさかIS学園が委員会の決定に逆らうとは

思えないが、情報伝達に不備があると困るし

彼女も不安を覚えるだろうから、学園への

連絡は文章だけでなく他の国の代表が見て

いるこの場で行ってもらおうか。

 

『聞いていない』だの『伝達を忘れた』だの

『書類が改竄された』だのと言った言い訳は

許さん。

政治云々ではなく、一人の大人として誠実に

職務に当たることを期待する。

 

・・・以上が我々からの提案です。

 

 

――――――――――――――――――

 

「「・・・・・・」」

 

 

つまり、どう言うことだ?

 

「わ、私たちIS学園はデュノアさんを普通の

学生として迎え入れて、虐めや虐待が無い

ようにきちんと監督しろって事ですよね?」

 

「そうとしか聞こえんが・・・」

 

スパイで無くなったのなら普通の学生。

まぁこの理屈はわかる。

 

そもそも海外からの留学生は、多かれ少なかれ

情報収集が任務に入っているからな。

 

これを罰していては学生の受け入れなど出来ん。

 

故に問題なのは、男として送り込んできた

フランスとデュノア社・IS委員会の担当者と

ソレを知りながら受け入れたIS学園にある。

 

この中でIS学園は対外的にはIS委員会の

下部組織でしか無いのだから、IS委員会の

指示で有れば従わなければならないと言う

方向性に話を持っていけば、無実は難しい

かもしれんが減刑にはなっただろう。

 

理事長の狙いはソレだったろうし。

 

だが、ここで贖罪の場を与えられたことで、

IS学園はこの件から完全に手を引くことが

出来るようになった。

 

デュノアは一学生として学園に通うことになり、

一夏は最初の切っ掛けだけの関わりで、その後

ほぼ蚊帳の外にしてもらえた。

 

週明けに箒やオルコットが騒いで説明を要求

してきても『IS委員会の調査が終わるまでは

詳細は話せない』と言わせれば良い。

 

元々奴等は無関係でわざわざ説明をする必要も

無いことだとは一夏も理解しているしな。

 

しかしコレで冬林技研に何の得がある?

 

いや、凰が一夏にいきなり押し付けられた案件

と考えれば、利益云々よりもフランスの混乱に

巻き込まれることを嫌ったのか?

 

向こうにしても一夏が学園ではなく、自分達を

頼るなんて考えて無かっただろうし・・・

 

私とて、一夏が私の就職先を心配して向こうに

相談に行ったと言われたときは、頭が真っ白に

なったからな。

 

心配をしてくれるのはありがたいし、私が

最初に学園を頼っていれば理事長や更識の

企みにも気付けなかったのだから、私たち

としては悪くはなかったんだが・・・夜中に

いきなりこんな大事の種を持ち込まれて、

さらにその日の内に司馬監査員に伝えに行った

んだろ?

 

今の凰の胃がどうなってるか心配だよ。

 

「とりあえずここまで大々的に告知されたんだ。

今さら理事長も隠しだては出来んから、何か

しら指示が出るだろう。

情報収集を怠る気は無いが、今回の件に関して

我々に選択肢は無い」

 

「・・・そうですね。流石にデュノアさんが

女性と言うことを隠していた学園に対しては

思うところも有りますが、そもそも2週間

も見てきて気付かなかったのは私たちの不明

です。上層部は信用出来ませんけど、彼ら

だけを責めるのも違いますし」

 

全くだ。教頭が目の前に居たら『そんな節穴は

要らんな?』とか言って目を抉られるレベルの

失態だ。

 

はぁ、凰は私がIS学園を退職したら冬林技研で

雇用する用意が有ると言っていたらしいが

この様ではな・・・最初は矯正からだよなぁ。

 

「うむ。お互い自責を忘れずにいこう。それに

デュノアが虐めや虐待を受けないように監督

するのは教師としては当然の務めだ。

IS学園やIS委員会の思惑はともかくとして、

私たちは教師として当たり前のことを

当たり前にやろうじゃないか」

 

「はいっ!」

 

・・・確かに不当な虐めや虐待は許さんが、

だからと言って一夏を巻き込んだことを

許すつもりもないがな。

 

シャルロット・デュノア。貴様に一夏は

絶対にやらんぞ!

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

あのヤロウ!爆弾をコッチに投げ棄てやがった?!

 

「十蔵さん・・・コレは?」

 

「・・・えぇ、フランスの度を越えた醜態に

嫌気がさしたのでしょう。

シャルロット・デュノアさんを抱えることで

得られる利益よりも、関わることで生じる

面倒ごとを避けた。とも言いますがね」

 

こちらがフランスの動きに注視していた隙に

最低限の根回しは終えていたのだろうな。

 

そんなことが無くてもいきなりこんな要求を

出されて、拒否だの異論を唱えることが出来る人間などいない。

 

そもそもシャルロット・デュノアに抱え込む

価値があるか?と聞かれればどこの国だって

『無い』と答えるんだからな。

 

正体がバレたスパイに価値は無い。更に

フランスの弱味を握ると言う意味であれば、

すでに彼女の存在そのモノが弱味だ。

 

抱え込む必要がまるでない。

 

あるとすればISコアくらいだが・・・ココで

もし『彼女を引き取る』と宣言する国が有れば、

ソレは間違い無くISコアが目当てだと世界中に

宣言することになる。

 

そんな宣言をしたら、その国は彼女を引き

入れる為にどれだけの金や資財を提供させ

られることか・・・更に彼女が持っている

専用機は第二世代型と言うのも、無理をして

まで欲しがる理由にはならん。

 

誰だってコアは欲しいが、その所有権は委員会

にあると明言されているし、あくまで自衛の為

に彼女に一時預けられているだけ。

 

つまり彼女を抱え込む場合、新しい技術を得る

ことは出来ないし自国の強化にも使えない。

 

それなのにIS委員会の紐付きの元スパイを

国内で養う必要があるわけだ。

 

更に言えばフランスの混乱の巻き添えをくらう

可能性が極めて高い。

 

そして引き取る大義名聞も無いのが問題だ。

 

奴が彼女を度々『学生』だの『少女』だのと

言っているのは、中立を唱うIS学園以外では

まともに学生として扱われないであろう『学生』を

『学園』に戻すことで、自分達が無責任に

放逐したと言われないようにするためのモノ。

 

そして我々には贖罪として彼女を迎え入れ、

その後の面倒を見ろと言ってきた。

 

・・・我々はこれを拒絶できん。

 

そもそもIS委員会の執行部から正式な申し

入れに加えて、世界中の関係者が見ている

中で『学生の保護』を断るなど不可能だ。

 

今ごろ妻は承諾の意を伝えてるだろうな。

 

「け、けど、コレってアレじゃないですか?

フランスの邪魔とか周囲の目とか、そう言う

のを関係無しにデュノアさんを引き抜けた

って事になりませんか?」

 

「まぁ、見方を変えればそうなりますね」

 

我々にしてみれば、贖罪の機会を与えられた

のだ。正直言ってかなり助かる。

 

学園としては『過去の過ちを糧に、今後は

特定の国の干渉を受けること無く学生の為の

運営を行って参ります』と言った感じの声明を

出すことになるだろう。

 

フランスにしてみても、彼女はただの被害者だ。

 

ISコアは惜しいが、今はソレどころじゃない。

そもそもの制裁決議案はISコア所有権剥奪なのだ。

 

周囲もココで下手につつけば、その矛先を

自分達に回されると知っているから、今は

静観しているだけ。

 

国内の状況が落ち着けば次は国際社会との

折衝が待っているんだ。

少なくとも『人権侵害』のレッテルだけでも

剥がせるなら剥がしたいところだろうよ。

 

それに、問題の大元である彼女に関する関心が

薄れれば薄れるだけフランスはやり易くなる。

 

ならばフランスの最終判断は『IS学園で静かに

暮らしてろ』と言うモノに落ち着くだろう。

 

中国としてはフランスに関わらないと言う

スタンスを取ることで、あくまで自分達は

保護を求めてきた学生を保護しただけと

言い切ることができた。

 

これによってフランス国内の面倒ごとから

完全に手を引けたし、世界的な信用を得る

ことも出来たわけだ。

 

ついでにシャルロット・デュノアと織斑一夏の問題も片付いた。

 

シャルロット・デュノアは国と親に翻弄された

悲劇のヒロインで、織斑一夏はただの善意の

第三者・・・いや、正義の味方となった。

 

これからシャルロット・デュノアと接触しても

誰にも文句は言われないだろうな。

 

少なくとも関係者が誰も損をしていない。

 

この神懸かった利害調整こそが政治を司る

司馬家の政治顧問を勤めるヤツの真骨頂か!

 

「とりあえずは書類の作り直しです。シャルル君

が居なくなり、新しくフランスから女生徒が転入

してくるといった形の手続きを急ぎましょう」

 

完全に掌の上で転がされたが、この上は無駄に

時間をかけずに彼女を受け入れ、国際社会に

対して反省しているとアピールするとしよう。

 

「あーそうなるんですね。コレが平日だったら

どれだけの生徒が混乱していたことか。

いやほんと、週末で助かりましたよ・・・」

 

「・・・そうですね」

 

ここまで見越してのことなんだろうが、

明らかに冬林技研に得が無いんじゃないか?

 

人も得られず、コアも得られず、信用だって

元々低くはないだろう?

 

中国が信用だの名声だのを重んじる国だと言う

ことはわかっているが、冬林技研は利益を

求める企業だぞ。

 

 

くそっ!連中は一体何を得たと言うんだ?

 

 

―――――――――――――――――

 

 

うむ、綺麗にぶん投げる事に成功したな。

 

「流石リー君。阿呆は無事に突っ返したし、

ちーちゃんはIS学園に対して不信感を抱いたし、

いっくんも自分の立場を理解したんだよ!」

 

俺的には阿呆の返却が一番嬉しい。

アレを見てるとイライラするんだよな。

 

「その上で私の水銀の蛇の単一仕様能力を世界

規模で実験することができました。

政治に特化した轡木十蔵には我々の動きを

理解することも出来ないでしょう」

 

世界規模の実験なんざそうそう出来んからな。

しかもその罪をフランスが被ってくれたし。

 

「更にフランスを中心とした欧州の政治的混乱

が俺たちの行動を隠蔽してくれる。

ソレらを考えれば、今回の件は織斑一夏の

信頼を勝ち得ていた准尉の手柄ってこと

になるかもな?」

 

予定では阿呆が自分で俺たちの下に亡命を希望

しない限り、アレの性別に気付いた織斑一夏が

姉に頼み、轡木十蔵が動いて終わる案件だった

からな。

 

切っ掛けを持ち込んで来た准尉は順調に

任務を遂行してると言えるだろう。

 

「え~?貧乳は明らかにミスしてるじゃん!

フォローしたのは束さんとリー君だよ!」

 

「それはそうだが、この辺は上司の仕事でも

あるからなぁ。まさか10代女子の学生に

ミスの責任を負わせるような真似は出来んよ」

 

「・・・兎の言うことに賛同するのは癪ですが、

准尉は明らかに失態を犯しています。

これ挽回したのは師の手腕ですから、准尉

に対しての罰は実行するべきかと」

 

「ふむ」

 

アレか。

コイツにしてみたら軍規違反である以上は

結果的にプラスになっても違反を咎めるべき

だって話だな。

 

正直10代女子の学生にそこまで規律を

求めては居ないが、アレも立派な軍属。

信賞必罰はキッチリしておけと言うことか。

 

やれやれ。子供に甘いのは俺の悪い癖だな。

 

 

 

「そうそう!しーちゃんは部下のミスの責任を

取って『・・・申し訳ございません』してれば

良いんだよ~♪」

 

「ほほぅ」

 

弟子の立体映像か。司馬家の人間には

高く売れそうではある。

バリエーション増やせば中々の売り上げに

なりそうだ。

 

「なっ!貴様、師の前でっ!」

 

まぁ、コイツが認めるはず無いけどな。

 

「束。とりあえずソレは没収だ。からかう程度

ならかまわんが、相手が本気で嫌がることを

するんじゃない」

 

「え~」

 

え~じゃない。ここで争われて機材を

壊されても困るし、本気で弟子が兎に殺意を

抱く前に冗談で終わらせておけって話だ。

 

「でもって弟子は修行が足りんな?」

 

「あうっ!」

 

見せるならまだしも、相手に自分の感情を

読まれてどうする。

しかも相手は人の気持ちがわからん束だぞ?

 

今回はシカタナイって見逃してやっても

良いんだが、准尉を罰する以上は弟子にも

罰が必要だよな。

 

「よって弟子は矯正。束は・・・後で何か

やろうかね。今回はきちんと仕事をしたし

弟子に対するコレは仕事とは無関係だしな」

 

流石に弟子をからかったからって矯正は

出来んし、する気はない。

 

弟子にも束にも対等の友人は必要だからな。

 

「へへ~ん。リー君はしーちゃんだけを

特別扱いしないからね~。そう言うところが

大好きなんだよ~♪」

 

「くっ・・・今回はシカタナイですね」

 

はいはい。その調子で仲良くしてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、とりあえずフランスについては暫く

放置でかまわんな。

ドイツ軍に関してはもう少し様子見っと。

 

んで弟子と簪とラウラは明日の朝には学園に

戻るから、あんまし夜更かしさせるわけには

いかんよな。

 

弟子の矯正は・・・今回は時間もないし

幻魔拳で良いだろう。

 

冷徹な人にオマカセだZE!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んじゃ、ラウラ呼んでさっさと寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッーーーーーーーーーーーーー!」

 

 

 




シャルロット視点?無理でした。

考えるのが無理になって投げ出したと
言われても、私は一向に構わんッ!

やまやんも立派な被害者ですからねぇ。
学園に不信感を持つのも当然ですよね。

十蔵さんは相手がどんな企みがあっても
餌に食いつくしか無い状況です。
コレが選択肢を奪うと言うことなのですよ。

副所長も色々したりしてるけど、彼らの
陣営で今回一番の収穫は弟子の機体による
世界規模の実験であるってお話。

兎、完全勝利☆の図。


銀髪幼女?大好きですが何か?


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