五等分のルルーシュさん。 作:ろーるしゃっは
「『
日本国は東京都の私立アッシュフォード学園高等部に通う高校2年生、ルルーシュ・ランペルージはその痩身を怒りに震わせていた。
なんやかやと折り合いの悪い両親の元を飛び出し、愛しのマイシスター・ナナリーと共にスクールライフを楽しんでいた彼の平穏が、たった一枚の母親からの手紙によってぶち壊されたからである。
送信元は太平洋を挟んで向こう、ブリタニア本国の首都・ペンドラゴン。蝋で封された高価そうな便箋が送られて来た時は、「なんだ何時もの
要約すると「日本にいる知り合いの医者の娘さんが成績ヤバイから家庭教師やれ、拒否ったら仕送り差し止めんぞ」というその中身。
即座に猛抗議の電話を母親にかけるも、「お母さんの知ってる限り、ルルちゃんが一番頭良いんだから仕方ないでしょ〜?」などと供述され取りつく島もなく。
加えてこの手紙、至って短い内容だが今の彼には非常に効果的だった。
(金が無ければブリタニアの実家に帰らなければならない。……が、それだけは死んでも御免だ!またあの両親と一つ屋根の下で暮らしたくはない……!)
お陰で自身の家事スキルがメイド並みに向上してしまったのは僥倖だが。
実家への帰還は有り得ない。しかし、この学歴社会を生きていくにあたりハイスクールを辞めて働く、という選択肢も彼の中には無い。将来的には大学院まで進学予定なのだから。何より。
(貧乏してナナリーの
実は仕送りとは別に、賭けチェスや株式投資で裏金をせっせと溜め込んではいる。だが、これらは
加えてこの
仲の良い生徒や何より妹の安全で快適な学園生活を、自分の意地で突っ撥ねて良いものか。
総合して考えれば、反論の歯切れが悪くなるのも無理はなかった。事実、親を翻意させるのに失敗している。新たな考えをまとめる為自宅マンションの一室にて腕を組みつつ、暫し瞑目した末の結論は。
(……ええい、やればいいんだろうやれば!どんな馬鹿でも俺の教鞭をもってすれば更生させられる筈!出来ないのはスザクくらいのモノだ!)
付き合いの長い友人、
「良いだろう……!この俺が指導する以上、何処の馬の骨だろうと必ず卒業させてやる!無体な仕打ちを俺に強いた事、覚えていろよシャルル、マリアンヌ!フハハ、フハハハハハハ!」
此処と異なる位相では世界を壊し、創り変えすらした反逆の男は高らかに笑い上げる。ルルーシュ・ランペルージは、いや"ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア"は、逆境でこそ燃えてくる人間なのだ。
(……お、お兄様がまた何か企ててる……。どうしましょう、物凄く声をかけづらいです……)
「ルルの部屋」なる表札がかかった部屋の前。悪逆皇帝チックな哄笑を聞き、ノックをしようとした格好のまま固まっている当の妹・ナナリーの夋巡は、いかんせんまだまだ続きそうだった。
☆
(先ずは依頼相手の情報収集。の前に次学期の活動計画書の推敲と財務諸表の草案改定、序でに今日の献立も考えなければ。全く、脳内で処理が出来ても手が二つでは思考に筆記が追いつかん……!)
高等部で生徒会副会長を務めるルルーシュの一日は多忙である。特に決算期は目も当てられない忙しさなのに、今日からは家庭教師のバイトの負担も付加される。
少しでもスキマ時間を有効活用せんと、彼は珍しく校内食堂の片隅でサンドイッチ片手に何やらノーパソを叩いていた。いつもなら所属する生徒会室か屋上、或いはクラブハウスあたりで友人達と食べるのだけど、今日に限っては別行動だ。
何故って仕送り差し止め危機の件、出来れば知られたく無いから。特にナナリーにいらぬ心配はさせたくない。しかしこんな所に居れば、当然生徒達の目にも止まる事になり。
「あら、副会長!?どうして学食にいらして?」
「知らないわぁー、でも遠くからでもやっぱりカッコいい♪」
「いつ見ても涼やかでスマートなお方……♡」
……とまあ、取り巻きの声からしてこのように。眉目秀麗にして頭脳明晰、人当たりも良く人望のあるルルーシュは学園の生徒からすれば高嶺の華でもある。友人から評しても、この男の欠点は体力の無さと重度のシスコンくらいのもの。
だからだろうか、ルックスの良さも相まって今の彼はまるで「麗しい顔に憂いを帯びて尚、昼食の寸暇すら惜しんで学園の為奮闘している」ように見えるのだ。実際はPC片手に横目で書類にダメ出ししながら、「このBLTサンド中々美味いな」とか思ってるだけなのだけど。
昼時ゆえに混雑する食堂内。最早誰が最初に彼に話しかけるのかチキンレースの様相を呈してきた時。ふとお盆を持った少女が彼に近づいていったか、と思うと。
「あの、すみません。相席してもよろしいでしょうか……?」
ついに均衡が破られた。突然の誰何にルルーシュが目線を上げると、どうやら空いている自分の向かいの席を所望している少女が一人。碧眼に赤髪のロングヘア、2つの星型のヘアピンが特徴的な、見覚えのない美少女であった。
「……ああすまない、好きに座ってくれ」
外界の情報をシャットアウトするくらいの集中は途切れてしまったが、別段怒るほどの事でもない。そればかりか親切序でに、書類も自分の側へと寄せておく。
「ありがとうございます……!それじゃ失礼して、っと」
「お構いなく。
右手だけで資料をめくりつつペンを入れ、矢鱈に文字数のある書類を凄まじい速度で捌いていく彼。既に仕事中毒の片鱗が示されているのは気のせいか。
しかし全ての紙に「高等部生徒会関連資料」と赤字で印が押されたそれらの資料が、どうにも向かい席の彼女には気になった。実は
「……生徒会に属されているんですか?」
「色々あって副会長を押し付けられてね。君はその様子だと見学か?」
「?……はい、そうですけど……どうして分かったんです?」
既に前の高校のものではなく、
「生徒の顔は全員把握しているんでな」
この男にとり、数百人いる生徒の顔と名前を全把握することなど造作もない。脳内データベースにヒットしなければ、転校生か見学に来たかの二択。ただそれだけの話だが、澱みない返答に嘘はないことを見て取った彼女は。
「凄い、よく出来ますねそんな…………」
(見た目だけじゃなくて、頭も良いみたいですねこの人……。今も左手でタイピングしながら、右手で書類にチェック入れてますし)
且つその状態で初対面の女子との会話もこなす、という聖徳太子みたいなことを易々と行っているルルーシュ。
因みに食事はさっさと食べ終えてしまった。ナナリーの前では早食いするとたしなめられるので控えているが。
「……ああその、実は私本日から転入しますので、下見も兼ねてここに来たんですけど……」
下見。即ち学食のレベルが如何程かの調査である。尚前いた学校より美味しかったが、眼前の男は違う意味にとったらしく。
「成る程。俺も一応役員だから、何か不便を感じたら言ってくれ。校則くらいなら会長のノリ次第でいつでも変えられる」
「ここの校則、会長さんの気分で決まるんですか!?」
「会長は理事長が溺愛する孫娘でな。ついでにここは私立校だ」
「は、はあ…………」
それでいいのかアッシュフォードよ。この学園のガバナンスはどうなってるんだ。
そこまで思った時にバサ、と。前触れなく、彼女の方へ崩れた書類が何枚か寄った。
「すまない」と述べる彼に「いえ大丈夫です」と返しつつ、咄嗟に拾って彼へ手渡す。まじまじ見るつもりはなかったが、視界に飛び込んできてしまった書面を見てびっくり。
「ぜ、全部100点……!?」
それは期末テストの全科目と思わしきテスト用紙を、分かりやすく点数が見えるように留めた紙束だったのだ。
思わず口にしてからしまったと気付き、ごめんなさいと小さく付け加える。お互い初めましてなのに礼を失したかと。
「いや、特段気にしていない。今日中には棄てるしな」
「捨てるんですか?」
思い切りがいい人だなとも考えつつ、「もったいない……」とも呟いてた彼女に。
「PDF化済だし棄却するが、ソレがどうかしたのか?」
「いえ、記念に取っておいたりとかは」
「要らん。無駄な物は棄てる主義なんだ」
「む、無駄ですか…………」
断捨離は彼の習慣である。もし毎日処理する膨大な量の紙媒体を逐一保存していたら、自宅の床が抜けてしまうだろう。無論大切ならば保管するが、テスト用紙は脳内で常に重要度:低に区分けされている。
才気煥発たる頭脳を有する彼にとって、ペーパーテストの返却結果なぞ一々取っておく意味もない。毎度満点に決まっているからだ。
「まあ、いずれ再生紙になると思えば有用かも分からんが。ところで」
「?」
推敲は全て完了、後は家庭教師の件だけ。タスクを粗方終わらせてちょっとした達成感に包まれつつ、手元の林檎のマークのノートPCを静かに閉じたルルーシュは尋ねる。
「始業まで残り7分だが……今からその量、食べ切れるのか?」
「…………あっ」
ついでに言えば予鈴まであと2分。彼女のいつものペースだと、到底間に合いそうになかった。
☆
「な、中野五月です……。よろしくお願いします」
(まさか同じクラスになるとは……)
約15分のち、放課後のHR教室にて。
午前授業で今日は終わりという事もあり、三々五々放課後に遊ぶ計画やらを話し合ってた生徒達。
喧しい彼等を遮ったのは、担任からの「これから転校生を紹介するぞ。しかも美少女だ美少女、喜べ女子と童貞共」なるあんまりな一言だった。
しかし多感な時期の共学校の高校生に、これ程クリティカルに刺さる言葉もない。当然クラスはヒートアップ。
室内のボルテージに若干引き気味になりつつ無難な自己紹介をせざるを得なかったその転入生、なんと先程の大食い少女だったのだ。
「席は最期列、窓際の横だ」と担任に指された彼女が促されるまま歩いていけば、当然隣席に座る
「あ、先程の! ええっと……」
「ルルーシュ・ランペルージだ。ルルーシュで構わない」
「では、ルルーシュさんと」
話し始めて途切れさせるのも何だかなとお互い思い、とりあえずコミュニケーションとばかり声を潜めてひそひそ話す。生徒との良好な関係構築もまた、生徒会役員の務めでもある。
「ところで……結局、完食できたのか?」
「意地で詰め込みましたよ。でももっとゆっくり食べたかったです……」
うう、せっかくの海老天とかしわ天が、と悔いている。どうも彼女、大食漢の気があるみたいだった。
「それにここの生徒さん皆頭良さそうで……進度も早そうだし、今から付いていけるか不安です……」
「とは言っても、編入試験は受かったんだろう?」
試験の難易度はそこそこ高めに設定してある。入試問題を毎年、教師陣と共に作成しているルルーシュが言うのだから間違いない。ところが。
「いやあ、あれマークシートでしたので」
……ははあ、ヤマ勘だけで当てたのか。偶にそういう運の良い奴はいたりする。リヴァルとか。
「そ、そうか……。まあこの学園は単位制だから、教科担任に土下座すれば単位をくれる事もある。あまり悲観しなくても良い」
「……さ、参考程度に覚えておきます」
しかし、学力が低過ぎるというわけではないだろう。証拠が彼女のバッグから先程ちら、と見えた生徒手帳だ。一瞬だけだったが目敏いルルーシュには把握出来た。アッシュフォードのものではない、表紙に写ってたあの校章は。
(確か、黒薔薇女子のものだった筈。あそこはこの学園と同じく進学校だ。女子校とはいえ進学先も偏差値も大した差はない。不祥事をやらかした不良娘にもみえないし、風評があれば生徒間で噂が回ってくる筈。転校は何か別の理由あってのことか?)
事情はよく知らないので全て憶測。何故わざわざ転校なんて手間をかけたのか、と。だがプライベートを不必要に詮索する気もない。それに。
(…………何にせよ、ウチに来たなら大事な生徒だがな)
フ、と意識せずとも顔が緩む。この男普段から情より理、怜悧冷徹を心がけておきながら、根は人情家なのである。
「そういえば、まだ言っていなかったな」
「え?」
「───歓迎するよ、ようこそアッシュフォードへ」
生徒会を代表して述べておく。卒業まで滞りなく、楽しく過ごしてくれると嬉しい。それもまた彼の本心だった。頬杖をつきながら言っても絵になるのは、流石に名家の青き血を引く者だからか。
まだどこか強張っていた表情の五月も、気付くと思わず破顔していた。
「───はい、どうぞ宜しくお願いします……!」
写りの良い写真がSNSを経由し、生徒間でこっそり売買されているこの副会長。彼に笑顔を向けられた五月…………の周りの女子に「しまったぁ! 絶好のシャッターチャンス逃したァ!」などと思われていることは知る由もない。
…………ついでに言えば、担当するはずの教え子が
※緑髪で金眼の担任教師
…生徒ポジが被っちゃうので設定変更。色々と検討した結果教師に。