友希那に連絡をして二時間、時間は十二時、昼となった。リサみたいな猫は今俺の頭の上に乗っていた。呑気過ぎるだろこの猫。
俺の頬を舐めたり、足の脛に頭を当ててスリスリして来たりとまるで俺を知っているかのように甘えている。もしかするとリサかもしれない。リサと名前を呼んだら反応する、それだけなのに確信を持ってしまう。
「にゃあ……」
「どうした?お腹空いたのか?」
「にゃあ!」
「やめろ頭に猫パンチするな、あとペチペチするな痛い」
何だろう、猫パンチされてるだけなのに気持ちいい。友希那の気持ちがわかってきたような気がする。
それにしてもリサはどこに行ったんだ?もし俺に何も言わないでどこかに行ったとして何かあったら怖い。そう思うと過呼吸が起きそうだ。俺は信じている。この猫がリサであると、今はそう信じよう。そう思ってた方が楽になるかもしれない。
そう思っていると猫は頭から降りて俺の服の中に入ろうとした。そういえば聞いたことがある。猫は飼い主の服に籠ることがあるって友希那が言ってたな。
「入りたいのか?いいけど落っこちるなよ?」
「にゃあ!」
「可愛いなお前は、リサそっくりだよ」
どこからどう見てもリサに似ている。俺にくっついてばかりで二人きりになると甘えてくる。練習の時とは雰囲気が大違いだ。
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ああ~ハルの匂いがする~。一生ハルの側にいたいなぁ。
こんなこと思ってたら本当に猫になって戻れなくなっちゃう!ハルに可愛いなんて言われると照れちゃってまた猫パンチしそうだ。こうやってベタベタ甘えちゃってるけど、いいのかな?
ハルはアタシの名前を呼ぶ、アタシはそれに反応する。名前を呼んでくれるだけでも嬉しい。アタシのことをちゃんと心配してくれてるのが伝わってくる。当たり前か、妹で彼女でもあるアタシを心配しないでどうするんだろう。
ハルがここにいるってことは練習は休んだに違いない。アタシを探すために休んだんだ。そう思うと迷惑を掛けちゃったな。
お腹空いちゃったけどどうしようかな。今のアタシは野良猫だ。そうなるとミルクになっちゃうのかな?何か食べたいけどどうするんだろう。
「今から餌持ってくるから少し待てるか?」
無理、待てないしハルの側にいたいよ!
「にゃああ!」
「暴れるな、落ちるだろ。怪我させたくないんだ、じっとしててくれ」
ハルはそう言って暴れたアタシを優しく抑えた。優しいなぁハルって……。こんなにも大切にしてくれるなんて、もっと好きになりそうだ。
確かお母さん達は二人だけで旅行に行くって言ってたからいないんだっけ?つまり、家はアタシとハルの二人だけ。こんなことバレたら大騒ぎになるよね。よかった、二人きりで……。
「……しょうがない。今から昼飯作るから一緒に食べるか。ここは猫でも食べられる料理にしよう。よかったら料理してる所見るか?」
えっ、いいの!?見たい見たい!
「にゃっ」
「器用に頭に乗ったな。猫にしては凄い、さすがだ」
ハルは器用に頭に乗ったアタシを撫でた。気持ちいい、一生撫でてほしいくらいに気持ちいい。ハルの料理を久しぶりに見れるなんて、嬉しいなぁ。猫になったのはまずいけど、今回は猫になったことに感謝しよう。
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今回はササミの缶詰めがあったので、サラダと合わせてササミサラダを作ることにした。別にキャットフードでもよかったが、この猫がリサである可能性がある以上、別にするわけにはいかない。そうなったらご飯は一緒にした方がいいだろう。
「しかし猫が落ちないように頭動かすの大変だな。これをできる友希那って恐ろしいな。お前もそう思うだろ?」
「にゃ~」
「だろ!やっぱそうだよな!って何で俺猫の言葉がわかるんだ?おかしいな、やっぱりお前リサか?」
「にゃ~あ!」
うん、今度からこの子はリサにしよう。なんかそれがいいなって思った。理由なんかどうでもいい、この子は完全にリサだって思えるからそうしたんだ。
さて、完成だ。リサは喜んでくれるか、それは食べて貰わないとわからない。正に評価が決まる瞬間だな。
「いただきます」
「にゃっ」
リサが頭の上から降りる、俺は頭が動かないようにじっとした。降りてて痛くはないのか、そこは気になるがそれは猫の事情だろうから気にしないでおこう。
リサがササミサラダを食べた。俺はその様子を見てどんな評価になるかを期待した。じっくり見ていたいが、俺も食べようか。
「味はどうだ……美味しかったか?」
リサはギロリと俺を見つめた。もしかして失敗か!?だとしたらリサに申し訳ないことをしたな。
――しかし、俺の思っていたことは違っていた。
ギロリと見て数秒、口元をニヤリとして舌をペロッと出した。え?何だそれは!?
「美味しかった……のか?」
「にゃ!」
リサは喜んだ表情をした。よかった、美味しいって感じてくれた。まずいって言われたらどうなってたか、そんなことを思うと心臓が破裂しそうだ。
これでじっくり昼飯を食べられる。よし、俺も食べるとするか!
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美味しかった。ハルの手料理を食べるのは久しぶりだ。上からハルの料理の様子見てたけど、相変わらず上手い。こんな人がアタシの彼氏だなんて、なんか得した気分だ。
今のアタシはというとハルの膝の上でゴロゴロとしている。やっぱり落ち着く、猫の気持ちがわかるよ。しかも撫でてくれてるし、気持ちよすぎる。
「リサはいつ戻ってくるんだろ……。しかし暇だな、確か公園の猫とじゃれる時に使ってた猫じゃらしあったっけ?」
ハルは膝の上にいたアタシを退けて猫じゃらしを探しに行った。アタシはハルの後を着いていくことにした。探しに向かった場所は一階の庭だ。え?そんなところにあったっけ?
「えーと、どこだっけ……。あったこれだ。よし、暇だからこれで遊ぶか。ほーれリサ、こっちだぞー」
ハルが猫じゃらしを振る、アタシは釣られて猫じゃらしの先っぽを両手で掴もうとした。あ、掴めない!てか釣られた!何だろう、アタシの中の本能が掴めって言ってる。やっぱり釣られるものかな?これって……。
「ほい、ほい」
「にゃ、にゃあ!?」
「ほら、こっちだぞー」
パシッ、パシッと音を立てながら猫じゃらしの先っぽを掴もうとする。掴めてる時はあるけど、空振ることが多い。ハルって他の猫にもこんなことしてるんだなぁ。そんなこと思うと妬けちゃうな。
猫じゃらしでの戯れが終わった後、アタシはハルに持ち上げられ、部屋に戻った。今度はアタシの顎の下を撫でてきた。待って、それは気持ちよすぎる。昇天しちゃうから!
「どうだ?気持ちいいか?」
「にゃあ~」
「アハハ、気持ちよさそうな顔してる。可愛いなぁリサ」
うぅ、面と向かって可愛いって言われてるだけなのに恥ずかしくなる。最近のアタシは受けに回ってる。アタシは攻めも受けも出来るなんて、自分で言うのも何だけど器用だなって思ってしまう。いや、こんなこと思うのはおかしいか。
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あっという間に夜になった。リサの寝床は俺が前に着ていた服にした。それを椅子に敷いた途端にリサは顔を近づけて俺の頬にキスをした。ありがとうって言ってるつもりなのかもしれない。
猫がそんなことをするなんて見たことがない。そう思うと俺は信頼されてるんだなって思ってしまう。猫にキスされるなんて、まるで猫のファーストキスを貰ったみたいだ。
「呑気に寝やがって、ホントに可愛いな。まぁいいか」
今日は寝よう。リサが戻って来ることを信じて隣は空けておこう。
――リサ、おやすみ。
途中からリサになってましたが、今のリサは猫です