秋の始まり、歌姫の成長
ああ眠い。夏は終わったのはいいが、色々ありすぎだ。リサが猫になったり、海に行ったりと奇想天外なことがあった。特にリサが猫になった時は本当に焦った。
夏休みの思い出は他にもあるが、振り返るのはここまでにしよう。さて、九月に入ったが、初っぱなからある壁が立ちはだかっていたのだ。その壁とは、調理実習だ。
「友希那、本当に大丈夫なのか?」
「何を言ってるのハル、私が失敗するわけないでしょ……」
「友希那、震えてる時点で説得力ないよ!」
リサの言う通りだ。友希那は強がっているが、震えている。私は平気だ、ではなく失敗が怖い、というのが正しい。うちの歌姫は歌は上手くても料理は駄目だ。大丈夫だろうか、心配だ。
俺と友希那は同じクラスで、調理実習ではクッキーを作るということになっている。このため、休みを使ってクッキー作りの練習をすることにした。俺とリサでサポートするが、上手くいってほしいな。
「でもハル、当日でもサポートはしてくれるのでしょう?頼りにしているわ」
「いや、頼りにされるのは嬉しいが、あくまで失敗しないようにだからな?」
「とりあえず作ろうよ!それで味見して、美味しいければいいよ」
あと、愛を込めてね、とリサは言った。待て、何俺をチラッと見て言ってんだよ。下心モロバレだよ、隠せてねえよ。俺とリサが付き合ってから三ヶ月経つが、完全にリサは俺にクッキーを食わせようとしてるな。それで美味しいと言わせるつもり何だろう。
しかし、久しぶりに二人のエプロン姿を見る。友希那は猫がプリントアウトされたエプロンを、リサは赤のエプロンを着ている。これはファンに見られたら消されるだろうな。俺は赤の髪留めゴムで髪を一つ縛りにし、黒のエプロンを着た。
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アタシはハルに多くの視線を送っで愛を込めでと言った。ハルなら気づいてくれるかな?今日は友希那にクッキーを作りを教えることも兼ねてハルにクッキーをあげる。
気づいているかはわからない。でも、ハルならわかってくれる筈だ。ハルにアタシなりの恩返しをする。先月アタシが猫の時に甘やかしてくれたから、今回のクッキー作りはその恩返しだ。
ハルのクラスではバタークッキーを作るそうだ。今回はバターだけじゃなく、ブルーベリーのクッキーも作ろう。友希那にとってはいい経験になるし、ハルなら美味しいって言ってくれるかもしれない。よし、頑張ろう!
「リサ、最初はバターをクリーム状になるまで練って、そしたら砂糖を加える、この手順だからやってみよ」
「友希那なら出来る。俺とリサも教えるから自信持ってやろうぜ」
「リサ、ハルありがとう。私はクッキー作りに全てを賭けるわ」
友希那、相当気合い入ってるなぁ。クッキー作りすぎなきゃいいけど……。余ったら紗夜達にあげようかな。
それからアタシとハルは友希那をサポートしつつクッキー作りを教えていった。ハルは紅茶の茶葉を使ってクッキーを作ったようで、味はとても良かった。さすが料理研究部部員だよ。
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そして休みを終えて調理実習の日を迎えた。一組五人という班で、俺と友希那は同じ班になった。他の三人は男子一人、女子二人となった。しかも三人共友希那のファンだった。
こうなってくるとクッキー作りはなかなかに大変な問題となる。失敗しないようにサポートしないといけないな。友希那は少し緊張しているが、一昨日よりは増しになっている。
「友希那、落ち着いてやろう。大丈夫、友希那なら出来るから」
「そ、そうね。クッキー作りに全てを賭ければどうということもないわね」
いや、全てを賭けなくてもいいと思うんだけどなぁ……。さて、頑張りますか!
今回の家庭の授業は二時間使っている。調理実習なのだから当たり前か。俺は他の班からも助けを求められ、バタバタしてしまった。先生からもサポートに回って良し、と言われた。
そして昼休み、俺と友希那は実習で作ったクッキーをリサに渡した。友希那が気合いを入れて作ったんだ、美味しいに決まってる。友希那は実習の時も冷静だった。
「リサ、味はどうかしら?」
「美味しいよ友希那!やっぱ練習した甲斐あったね!」
「よかったな友希那」
リサは美味しいと言ってくれた。友希那にとっては凄く嬉しいことだろう。本当によかったな、友希那。
その後、練習の時間になった。今日の友希那はとても機嫌が良い。三人はどんな反応をするんだろう、楽しみだ。今の俺とリサは娘を見守るかのような雰囲気だった。
休憩に入り、皆が一息ついた所で友希那は口を開いた。頑張れ、友希那なら言える。俺が友希那を見守っている時、リサが話し掛けてきた。
「ハル、友希那上手くいきそう?」
「いくと思う。俺は友希那を信じてるから」
「だよね。友希那が頑張って作ったんだから、美味しいって言ってくれるよね」
そして友希那は皆に話があると言った。今日の実習でクッキーを作ったのであげるわ、と紗夜達に渡した。どうなるかわからないけど、今は見守るしかないな。
「友希那さん、今食べていいですか?」
「いいわよあこ、召し上がれ」
いただきます、とあこは嬉しそうに言った。クッキーを口に含んで数秒、あこは美味しいです!と言い、紗夜と燐子も同じく美味しいと友希那に言った。
それを聞いた友希那は感動したのか、涙を流した。目の前で美味しいって言われたら感動する、リサに初めて料理を作った時も同じことを経験してるから気持ちはわかる。
――友希那、本当によかったな。
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「リサ、一昨日のことなんだが……」
「何?なんかあったのー?」
「愛を込めてって言った時、俺のことをチラッと見てたよな?」
「え、気づいてたの!?」
やっぱり気づいてたかー。アタシはあの時チラッと見たけど、ハルに恩返しをするためにやったんだ。そこに気づいているかはわからない。とりあえず話を聞いてみよう。
「そりゃ気づくだろ。リサはわかりやすいんだよ」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。攻められた時なんて顔に出るくらいにわかりやすいだろ」
「ハルだってそうじゃん!ハルだってアタシと同じようにわかりやすいじゃん!」
そうだ、ハルだってわかりやすい。アタシとハルは双子であるせいか、攻められると顔に出ることが多い。
アタシとハルは互いに言い合った後、二人して笑い合った。話を戻そうとハルは言い、アタシはチラ見した理由をハルに話した。ハルはそれを聞くと、アタシに可愛いと頭を撫でながら言った。
「ハル、急に可愛いって言わないでよ!」
「しょうがないだろ。そんな理由を言われたら可愛いって言うしかない。事実だろ?」
「うぅ……。それを言われたら言い返せないじゃん!」
「じゃあ俺からも一つ、愛を込めようかな。リサ、目瞑ってくれるか?」
アタシは言われるがままに目を瞑った。うん、わかりやすい答えだ。きっとアレ何だろうね。そう思っていると、唇に何かが重なるのを感じた。やっぱりキスだ。
ハルが愛を込めたのはキスだ。他にもやり方はあると思うけど、キス魔のアタシが言えることじゃない。まぁいいや、キスしてくれたんだ。それでよしとしよう。
恩返しどころか、ハルに恩返しをされたような気がする。ハルからも「リサが隣にいてくれることが恩返しなんだ。俺はそれで満足だ」と言われた。うわぁ、こんなこと言われるなんて……。キュンと来ちゃうよ!
リサに弟がいたと明かされましたが、この作品では弟は出しませんので、ご理解下さい