夜見「ただいま...あれ?」
地霊殿に着いた夜見は玄関を開けて中へ入ると、誰もいないエントランスを見て首を傾げた。
いつも出迎えてくれるこいしが、今日は珍しくいなかったのだ。
夜見(まぁ、今日は帰るのが早かったから仕方ないな)
しかし、夜見は特に気にせずに自分の部屋に戻るとマントと仮面、夜刀と白刀を机の上に置いて部屋を出た。
そして夜見は目の前のこいしの部屋の扉をノックしたのだが、部屋の中から返事は返ってこなかった。
夜見(あれ、いないのか?)
すると夜見は再度扉をノックをして部屋を覗いたが、夜見の予想通り部屋の中には誰もいなかった。
夜見(部屋にいない...仕事部屋で手伝いか?)
そして夜見は次にこいしがいそうな仕事部屋へ向かい扉をノックすると、扉の向こう側からはさとりの声が聞こえてきた。
さとり「入っていいですよ」
夜見「あぁ、仕事中にすまない」
夜見が扉を開けて部屋に入るとさとりは眼鏡をかけて書類を書いており、夜見は部屋を見渡したがこいしの姿は見当たらなかった。
さとり「おかえりなさい、黒夜さん 今日は早かったですね」
夜見「あぁ、ただいま さとりさん、すまないがこいしさんを知らないか?」
さとり「こいし...ですか?ちょっと待っててください」
さとりは夜見にこいしの居場所を聞かれると、ペンを机の上に置いて目を閉じた。
そしてさとりはサードアイを両手で優しく掴み、何かブツブツと呟き始めた。
さとり「これは...違う、これも違う これは?...いや、お燐の声ね この声は?...あ、これかしら?」
しばらくして、さとりはこいしの居場所がわかったのかサードアイから手を離すと目を開いた。
さとり「黒夜さん、こいしは今5番のペットの部屋にいます」
夜見「心の声でわかるのか、すごいな」
さとり「いえいえ、大したことじゃありませんよ それより早く行かないと、こいしが別の場所に移動してしまうかもしれませんよ?」
夜見「あぁ、そうだな ありがとう、さとりさん」
さとり「えぇ、どういたしまして」
そして夜見は部屋を出ると1階へ降りてペットの部屋の方へ向かい、扉に5と書かれた部屋の前に着くと扉をノックをした。
しかし、扉の向こうからは返答は無かったのだが、夜見は再度ノックをして扉の向こうへ声をかけた。
夜見「こいしさん、いるだろ?能力でこいしさんの妖力を感じ取ってるからわかるぞ」
そう言って夜見は扉の向こうから返答を待ったが一切返ってくる様子は無く、夜見はため息をつくとドアノブに手を掛けた。
夜見「入るぞ、こいしさん」
そして夜見が扉を開けると部屋の中にはライオンが数頭おり、こいしは中央で寝そべっているライオンに
すると、こいしは夜見に気付くと頭をゆっくり動かして夜見の方を見たのだが、夜見を映している目は覇気が無かった。
夜見「こいしさん、どうしたんだ?」
こいし「...」
夜見「調子でも悪いのか?」
こいし「...」
夜見は周りにいるライオンに臆することなくこいしに声を掛けるが、こいしは反応することなくただ夜見をジッと見つめていた。
夜見(...本当にどうしたんだ?)
すると夜見は元気が無いように見えるこいしが心配になってきて、こいしに近付こうとするとライオンが一斉に夜見を睨みつけた。
そして、中央以外のライオンは唸り声を上げ始め、姿勢を低くして夜見に向けて威嚇を始めた。
夜見(なんだよ、うるさいなぁ)
しかし夜見はライオンの威嚇を無視して1歩踏み出すと、夜見に1番近かったライオンが飛び掛かって床に押し倒した。
だが、ライオンは夜見を床に押し倒すと前脚で押さえつけるだけで、特に噛み付いてくる様子は無く唸り声を上げ続けていた。
ライオン「グルルルルル」
夜見「...本っ当、うるさい」
こんな状況で夜見は未だにライオンの唸り声がうるさいと思っており、目を閉じて息を吐くと目の前のライオンを睨みつけた。
夜見「うるせえんだよ、クソ猫が」
すると夜見は殺気がこいしに当たらないように放ち始め、夜見を押さえつけていたライオンは唸り声を小さくして後ろへ退いた。
そして夜見は立ち上がって他のライオンも殺気で退かせると、殺気を収めてこいしに近付いて話し掛けた。
夜見「ただいま、こいしさん」
こいし「... 」
夜見「とりあえず、一緒にこいしさんの部屋に行こうか」
こいし「...」
そう言って夜見はこいしを抱き上げたがこいしは何1つ反応せず、されるがままに抱き上げられている状態だった。
そして夜見はこいしを抱き上げたまま部屋を出ると、こいしに話し掛けながらこいしの部屋へ向かった。
夜見「こいしさん、今日はあまり仕事が無かったんだ」
こいし「...」
夜見「それで早く帰れたから、後で動物に触れる練習に付き合ってくれないか?」
こいし「...」
夜見(やっぱり反応は無いか...一体どうしたんだ?)
夜見はこいしに色々話しかけてみたのだが反応は貰えず、こいしが無反応の状態のまま部屋の前まで来てしまった。
すると夜見は部屋に入ってベッドにこいしを座らせると、こいしの正面に椅子を置いて座った。
夜見「こいしさん、なんで何も喋ってくれないんだ?」
こいし「...」
夜見「何か嫌な事でもあったのか?それとも、喋れない理由でもあるのか?」
こいし「...」
夜見「...こいしさん、お願いだから何か返事をしてくれないか?」
こいし「...」
夜見はこいしに喋らない理由を聞いてみたが何も反応してくれず、返事をして欲しいとお願いをしても何も反応してくれなかった。
そして夜見はどうすればこいしが反応をしてくれるのかを考えていると、部屋の扉が開いて向こう側からさとりが顔を出した。
さとり「黒夜さん、少しいいですか?」
夜見「ん?あぁ、構わないぞ こいしさん、少し待っててくれ」
夜見はさとりに呼ばれると椅子から立ち上がり、こいしの頭を撫でて部屋から出るとさとりが部屋の扉を閉めた。
さとり「すみません、一応こいしには聞こえないように場所を移しましょう」
夜見「あぁ、わかった」
さとりはそう言いながら歩き出したので夜見は後に付いていくと、さとりは仕事部屋に中へ入ったので夜見も続けて入った。
するとさとりは部屋に入ると一瞬だけ顔をしかめるが、さとりは何事もなかったかのように話し始めた。
さとり「ありがとうございます、黒夜さん それで話があるんですが、実は先程からこいしの心の声がうるさいんです」
夜見「こいしさんの心の声がうるさい?」
そしてさとりの話の内容は心の声のことだったので夜見は思わず聞き返すと、さとりは少し申し訳なさそうな様子で
さとり「はい、そうなんです...っと言っても困りますよね すみません、さっきの話は忘れて下さい」
どうやらさとりは話をしてみたものの、夜見にとって心の声の話は言われても困るような話だったと思っているようだった。
そして夜見は聞かされた内容を忘れて欲しいと言われたが、すぐに忘れられるはずもなく少し困った顔をしながらさとりに言った。
夜見「いや、忘れろって言われても...そういう訳にもいかないだろ」
さとり「...まぁ、そうですよね ついさっき話した事を忘れて下さいだなん「いや、そういう事じゃなくてな」...え?ひゃあ!?」
すると夜見はさとりの言葉を急に遮って俯いているさとりの頭を撫で始め、そのまましゃがんでさとりと目線の高さを合わせた。
夜見「さとりさんが困ってるのに放っておけるわけないだろ、一緒にどうにかできないか考えよう」
さとり「い、いや、でも...私が我慢すればいいだけの話なんですよ?それに黒夜さんは心が読めないのに、心の声の話をしても絶対に困るに決まってます」
夜見「あぁ、確かに俺は他人の心を読むことはできない でも、話に困るかどうかは別だろ?」
さとり「た、確かにそうですけど!私は黒夜さ「それに...
そして夜見は再びさとりの言葉を遮ると今度は両手でさとりの両肩を掴み、さとりの目をジッと見つめながら言った。
夜見「さとりさんは、とても綺麗な目をもってるじゃないか」
さとり「っ〜!く、黒夜さん!?きゅ、急に何を言い出すんですか!」
すると夜見の言葉を聞いたさとりは一瞬で顔を真っ赤にして怒鳴ったのだが、夜見はさとりが急に怒り始めたのかと思った。
夜見「えっと?さとりさん、何を怒ってるんだ?」
さとり「べ、別に怒ってなんかいません!黒夜さんが急に私の目が綺麗だなんて言うのが悪いんです!」
夜見「いや、でも本当に綺麗だと思うぞ?ほら」
夜見はそう言ってさとりのサードアイを両手で優しく掴んでさとりの方に向かせると、さとりは「え?」と小さな声を漏らした。
夜見「綺麗だろ?さとりさんのサードアイ」
さとり(あ、あれ?私の目を綺麗って言うのはサードアイの事?つまり、黒夜さんが言ってたことって...)
夜見「...あれ?おーい、さとりさん?」
そしてさとりは勘違いに気付くと俯いて肩を震わせるが、夜見は応答しなかったさとりの顔の前で手を振っていた。
さとり「.........で...よ」
夜見「ん?さとりさん、さっき何か言ったか?」
さとり「紛らわしいですよって言ったんです!」
夜見「...え?」
するとさとりはいきなり大声を出したかと思うと肩で息をしていたのだが、夜見がいきなりの大声に呆然としている様子を見て我に返った。
さとり「あ!す、すみません!いきなり大きな声を出してしまって 大丈夫ですか?耳が痛くなったりしてませんか?」
夜見「え?あ、あぁ、大丈夫 少し驚いただけだ」
さとり「ほ、本当ですか?別に気を使わなくたっていいんですよ?」
夜見「本当に大丈夫だ、気を使ってもいない」
さとり「そ、そうですか ふぅ、良かった」
さとりはそう言って胸を撫で下ろして落ち着くと、先程勘違いしていたと知った時にわかった夜見の言葉の意味を確認した。
さとり「要するに黒夜さんの言っていた私が目を持っているというのは、私が聞いたこいしの心の声を黒夜さんに伝えればいいってことですよね?」
夜見「ん?あぁ、そうだ そうすれば俺が心を読む能力がなくてもこいしさんの心の声がわかるって話なんだが...さっき、さとりさんは一体何を勘違いしたんだ?」
さとり「なっ!?そ、そんなのはどうでもいいじゃないですか!今は、こいしの事を最優先に考えましょう!」
すると夜見は先程のさとりの勘違いが気になったのだが、さとりが慌てながらも話を強引に逸らすと夜見はさとりの言葉に頷いた。
夜見「...確かに、それもそうだな それで、今こいしさんの心の声は聞き取れるか?」
さとり「はい、大丈夫ですよ 今のこいしの心の声はペット達のと比べて、一際大きいですから」
そしてさとりはこいしの居場所を特定した時のように再び両手でサードアイを掴むと、目を閉じてこいしの心の声を聞き始めた。
しばらくすると、さとりはこいしの心の声に対して頷き始めたのだが、さとりは急に苦しそうに頭を抱え始めた。
さとり「あっ!?う!あぁ!」
夜見「さ、さとりさん!?おい、大丈夫か!?」
急に苦しみ始めたさとりは夜見に心配の声を掛けられるが、それどころではないのか頭を抱えたまま苦しそうにしていた。
すると夜見は何を思ったのかさとりを抱き寄せたが、さとりは意外に苦しみが和らいでいるのか苦しそうな声が減った。
さとり「はぁ、はぁ、あ!うぅ...」
夜見「さとりさん、もういい!無理にこいしさんの心の声を聞くな!」
さとり「うぅ...はぁ、はぁ、はぁ、うっ、はぁ、はぁ」
夜見「さとりさん、大丈夫か!?まだ苦しいか!?」
さとり「うっ、はぁ、はぁ、だ、大丈夫です 少し、このままでいさせてください」
夜見「あぁ、わかった ゆっくり休んでくれ」
そしてさとりは夜見に抱き締められたまま休んでいると呼吸は少しずつ落ち着き、しばらく経つとさとりの呼吸は元に戻っていた。
さとり「...黒夜さん、もう大丈夫です 離していいですよ」
夜見「本当に大丈夫か?まだ、このままいてもいいんだぞ」
さとり「大丈夫ですよ、何も問題ありません」
夜見「...そうか、わかった 離すぞ」
夜見はそう言ってさとりを離して立ち上がったが、夜見は未だにさとりの容体を心配をしていた。
すると夜見が心配していることに気付いたさとりは、夜見に向けて満面の笑みを見せた。
さとり「黒夜さん、本当に大丈夫ですよ 寧ろ、黒夜さんのお陰で助かりました」
夜見「助かったって...そもそも俺がさとりさんに頼まなければ、さとりさんは苦しむことも無かっただろ」
そして夜見はさとりに助かったとお礼を言われたのだが、今度は視線を下に逸らしてさとりに対して申し訳なさそうにしていた。
するとさとりはそんな夜見の様子を見て、あることを聞いた。
さとり「黒夜さん もしかして、私に迷惑をかけたとか思ってませんか?」
夜見「...思ってるに決まってるだろ 実際に迷惑をかけたんだからな」
さとり「やっぱり、そうでしたか」
どうやらさとりは夜見の思っていたことを察していたらしく、ため息をつくと夜見にあることを伝えた。
さとり「黒夜さん、私達は家族なんですよ?家族に迷惑をかけるのは当たり前の事なんですから、目一杯迷惑をかけて下さい」
夜見「いや、俺は迷惑をかけ過ぎてる 異変で1週間帰らなかった事があったし、最悪の場合死んだこともあったんだぞ?」
さとりは夜見に家族なのだから迷惑をかけてもいいと伝えたのだが、夜見は流石に迷惑をかけ過ぎていると返した。
すると、さとりは確かに夜見の言う通りだと思いながらも、首を少し傾げて夜見に聞いた。
さとり「えぇ、ありましたね だから何ですか?」
夜見「...は?さとりさん、何を言っているんだ?」
さとり「何を言ってるって...そのままの意味ですよ」
夜見はさとりの答えに一瞬だけ唖然としたが、すぐに聞き返すとさとりは笑顔で答えた。
さとり「確かに黒夜さんは、私達の中で1番迷惑をかけているかもしれませんね でも、ただそれだけじゃないですか」
さとりはそう言って夜見の手を両手で包むように優しく握ると、優しい眼差しで夜見の顔をジッと見つめた。
さとり「それに私達だって、黒夜さんに迷惑をかけているのでお相子ですよ 実際、私は黒夜さんによく仕事を手伝ってもらっちゃっていますしね」
夜見「...そんな考え方でいいのか?いつか、後悔するかもしれないぞ?」
さとり「大丈夫ですよ、黒夜さんを信じていますから」
そしてさとりは無意識に夜見の手を優しく包んでいる両手に少し力を入れると、夜見は視線を上げて一瞬だけ笑みを浮かべた。
夜見「...こんな俺を、信じてくれるのか ありがとう、さとりさん」
さとり「えぇ、どういたしまして」
するとさとりは惜しむようにゆっくりと手を放すと、「さてと」と言って優しい表情をすぐに真剣な顔に変えた。
さとり「それじゃあ、話を戻しましょうか」
夜見「...あぁ、そうだな」
夜見はさとりの表情が真剣な顔に変わるのを見ると気持ちを一新して、こいしのことについての話に思考を切り替えた。
さとり「それじゃあ、私が聞いたこいしの心の声の結果から言いましょうか」
夜見「あぁ、わかった」
そしてさとりは早速こいしの心の声を聞いた結果を言ったのだが、その結果は夜見にとって予想外の答えだった。
さとり「それで、結果なんですが...正直、こいしの心の声を全く聞き取れませんでした」
夜見「...え、聞き取れなかった?じゃあさとりさんは、こいしさんの心の声に苦しんだ訳じゃないのか?」
夜見は予想外の答えに驚くと思わずさとりに疑問を投げかけたのだが、さとりは首を横に振って先程の答えに少し説明を加えた。
さとり「いえ、私が苦しんだのはこいしの心の声を聞いたからですよ こいしの心の声が聞き取れなかったのは、巨大な心の声が複数あってそれが混ざりあっていたからなんです」
夜見「心の声が複数?つまり、こいしさんは何か思っていることが複数あったって事か?」
すると夜見は何かを複数思うことができるのかと疑問を抱いたが、そこでさとりは簡単に例を挙げた。
さとり「はい、そうです 例えるなら、不安や緊張した時に色々と考えてしまったり思ってしまう状態に近いですね」
夜見「なるほど、確かにそれなら思っていることが複数あってもおかしくないな」
そして夜見はさとりが例を挙げてくれたおかげで疑問を解消できたのだが、それと同時に新たに知る必要があるものが出来た。
夜見「だとしたら、こいしさんの感情を知る必要があるな」
さとり「そうですね、こいしの感情さえわかればいいのですが...感情、ですか」
それは今のこいしの感情だったのだが、今のこいしの感情を知るのは至難の業だった。
何故なら、今のこいしは何に対しても無反応状態。要するに、感情を知る手掛かりは極めて少なすぎるのだ。
夜見「心の声が複数あったということは、負の感情に近いものなんだろうが...困ったな」
さとり「そうですね、手掛かりがほとんどありません こいしの心の声を集中して聞く訳にもいきませんし、どうすれば...」
さとりはそう言うと、どうやって感情を知ろうか悩み始めたのだが、夜見はさとりの先程の言葉を聞いてある事を思い出した。
夜見「そういえば、さとりさん こいしさんの心の声を聞き始めた時、確か最初の方は聞き取れていたよな?」
さとり「ん?えぇ、確かに最初の方は少し聞き取れていましたけど、それがどうしたんですか?」
夜見「その時に聞いた心の声が、一体何を言ってたか教えて欲しいんだ」
どうやら夜見はさとりが聞き取れた最初の方の心の声に、何かこいしの感情を知るヒントがあると思っているようだった。
そしてさとりは困ったような顔をしたかと思うと、こんな事を言い出した。
さとり「え、いや、別に教えても構わないですけど...すみませんが、実は内容をあまり覚えていないんですよ」
夜見「ん、そうなのか?それなら、覚えている内容だけで構わないぞ」
さとり「そ、そうですか?それじゃあ言いますけど、その...変に思わないで下さいよ?」
夜見(ん、変に?一体どういうことだ?)
すると夜見はさとりがあまり内容を覚えていない事は気にしなかったが、さとりの最後の言葉は少し気になり疑問を抱いた。
だが、さとりが覚えている内容を話し始めると、夜見の疑問はすぐに解消された。
さとり「[おに...ちゃ、す、で...お...ご、に、い...ちゃ...し、きょ、み、ちゃ...のと、ろ...におし...に、た わた...きっ、てく...のに、ぱり、の...と、かじゃ...]だった筈です」
夜見「...えっと?こいしさんの心の声を聞き取ったんだよな?」
さとり「えぇ、そうですよ でも、心の声はノイズがかかっていたので、聞き取れた断片が間違っている可能性もあります」
しかし夜見の聞かされた内容はバラバラのパズルのようなもので、しかもさとりは間違っている可能性があると言ってきた。
夜見(...いやいや、どうすればいいんだよ?唯一の手掛かりだと思った内容は断片しかないし、かと言っても他に知れることは何も無いし...)
そして夜見は最終的にこいしの感情を知る事ができないのではと思ってしまうが、さとりはブツブツと何かを呟きながら懸命にこいしの感情を知ろうと頑張っていた。
夜見(...いや、何を思ってるんだ俺は さとりさんはあんなに頑張ってるっていうのに)
すると夜見は一瞬でもそんな事を思ってしまった自分に少し苛立ち、頭をガシガシと掻くと振り返って扉へ向かって歩いた。
さとり「ん?黒夜さん、何処に行くんですか?」
夜見「...さとりさん、少し1人で考えてくる」
夜見はそう言ってさとりを残して部屋を出ると、自分の部屋に戻ってベッドに腰掛けた。
そして夜見はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、すぐに冷静になることができた。
夜見(さぁ、考えろ さとりさんの聞いた断片だらけの心の声がわかれば、こいしさんの感情を理解できる筈なんだ)
すると夜見は再度深呼吸をして両手で耳を塞ぎ、更には目を閉じて五感の内の2つの情報を遮断した。
夜見はこうして余計な情報を出来るだけ取り除くと、頭を1度真っ白にしてからさとりの言葉を文章に起こした。
そして起こした文章から[、]と[...]を取り除くと、文章に出来た空白に文字を五十音順に1文字ずつ入れ始めた。
つまりは総当たり、言い方を換えれば
しかも、さとりは聞き取れた断片は間違っている可能性があり、総当たりで文字を入れても文章が成り立たない可能性もあるのだ。
そんな事は少し考えればすぐにわかる話で、もちろん夜見もそんな事はとっくにわかっていた。
しかし、夜見はそれをわかったうえで空白に文字を入れ、文章が成り立たなければ次の文字を入れた。
文字を全て入れても成り立たなければ前後の断片が違うか、はたまた2文字以上入るのかもしれないので再び1から入れ直す。
文字を全て入れ、再び入れ直すまでの間にかかった時間は...
僅か0.1秒。
そして再び文字を入れ終えると、数カ所当てはまったが偶然の可能性を考慮しつつ文字を入れ直す。
文字を入れ、再び入れ直すまでの時間...僅か0.1秒。
そして次に入れ終えた時間も0.1秒。
その次も0.1秒。
そのまた次も0.1秒...
そして文章は完成して、夜見はこいしの心の声が何を言っていたかを知ることができた。
計0.5秒での解析、圧倒的な速度だった。
夜見が方法として総当たりを取った理由、それは他の方法に比べて総当たりの方が
こうしてこいしの感情を理解した夜見は両手を耳から離して目を開くと、ある事を思いながら立ち上がってこいしの部屋へ向かった。
夜見「こいしさん、入るぞ」
そして夜見は扉をノックをしてこいしの部屋に入ると、こいしは座った位置から1歩も動かずにベッドに倒れて天井を眺めていた。
夜見「...こいしさん、まただな」
こいし「...」
夜見「確か、前は冬...だったよな」
すると夜見はこいしに声をかけながら近付き、こいしの上体を起こしてあげると椅子に座った。
夜見「すまないな、こいしさん また同じ気持ちにさせて」
こいし「...」
夜見「...まったく、何で俺は学習しないんだろうな」
夜見は少し落ち込んだような様子でそう言った後にため息をつくが、顔を上げると笑顔でこいしに向けて両手を広げた。
夜見「ほら、こいしさん 抱きしめてあげるぞ」
こいし「...」
夜見「さぁ、おいで」
そして夜見は椅子から少し身を乗り出してこいしを抱きしめると、いつものように頭を優しくゆっくりと撫で始めた。
しかし、こいしは何も反応を示すことは無かった。
夜見(...あぁ、やっぱり駄目だよな)
すると夜見は両腕に力を込めて、こいしを全力で抱きしめた。
夜見「...なぁ、こいしさん」
こいし「...」
夜見「俺は本当にこいしさんのことが好きだし、本気でこいしさんのことを愛してる」
こいし「...」
夜見「こいしさんは、いつも証明してくれてるよな」
こいし「...」
夜見「それに対して俺は、こんな事しかしてないよな...」
こいし「...」
夜見はそう言って腕の力を緩めてこいしの顔を正面から見つめたが、こいしの覇気の無い目は夜見を見ている気がしなかった。
しかし...
夜見「俺だけこんな事なのは、不平等だよな だから、俺もこいしさんと同じように証明するよ」
こいし「...お、兄...ちゃん?」
続けられた夜見の言葉は、こいしの目の焦点を合わせて夜見を見させていた。
夜見「本当に好きで、本気で愛してるぞ こいしさん」
そして夜見はこいしの顔に自分の顔を近付けると、夜見の唇はこいしの頬にそっと触れた。
すると、こいしの目は徐々に光を取り戻し、その光はいつものこいしを呼び覚ました。
こいし「お、お兄...ちゃん?」
夜見(...そういえば、後のこと何も考えてなかったな この方法って多分、さとりさん的にはアウトな気が...)
こいし「ね、ねぇ!お兄ちゃん!」
夜見「ん、こいしさん どうした?」
夜見はいつものこいしを呼び覚ますと考え事を始めたが、こいしに呼ばれると夜見は考え事をやめた。
そして夜見はこいしを見てみると、こいしは夜見の唇が触れた頬を震えた指で触っていた。
こいし「え、あ...そ、その、さ、さ...」
夜見「...さ?」
こいし「さ、さっき、な...何で?何でキス、したの?」
夜見「え?何でって、証明するって言っただろ?」
こいし「証...明?」
こいしは先程の夜見の話を聞いていなかったのか、訳がわからないといった状態でポカンとしていた。
すると、その様子を見た夜見は何か勘違いでもしたのか、恐る恐るこいしの機嫌を伺うように問い掛けた。
夜見「あ、えっと...嫌だったか?もっと、別の方法で証明した方が良かったか?」
こいし「え、あ!ううん、そんな事ない!とっても、とっても嬉しかったよ!」
夜見「そ、そうか?それなら良かった」
どうやら、夜見はこいしが嫌がっていたか心配をしていたようだが、こいしの反応を見る限り心配をする必要は無かったようだ。
こいし(え...へへ、えへへ♪初めて、お兄ちゃんがキスしてくれた♪)
すると、こいしは頬を少し赤くしながら夜見の首に両腕を回して、夜見に向けて満面の笑みを浮かべた。
夜見「ん、どうしたんだ?」
そして、夜見はこいしの頭を優しく撫でながら何かあるのか尋ねたが、こいしは笑みを向けたまま何も答えなかった。
夜見「...ん?こいしさん、聞こえてるよな?」
こいし(えへへ♪も、もう、いいよね?お兄ちゃんがキスをしてくれたんだから、いいんだよね?)
しかし、しばらくするとこいしは突然腕に力を込めて、一気に自分の顔を夜見の顔へ近付け始めた。
夜見(なっ!?待...
こいし(やった、やっと...
...少し前、さとりの方では。
さとり(...ん?こいしの心の声が、急に静かに?)
さとりはこいしの感情を理解しようとしている中、急にこいしの一際大きかった心の声が静かになったことに気が付いた。
そして、さとりは慎重にこいしの心の声を聞こうとしてみると、近くでもう1人の心の声が聞こえてきた。
さとり(これは、黒夜さんの心の声?)
それは勿論、こいしの感情を理解することができた夜見の心の声だった。
その時、さとりは夜見がこいしの感情を理解したことに気が付いたのだが、同時にある事にも気が付いてしまった。
さとり(そう、ですか... 黒夜さんはわかったんですね、こいしの感情が 私より、
すると、さとりはため息をついたのだが、そのため息には安堵が霞んでしまうほどの大きな寂しさが混ざっていた。
しかし、さとりはある心の声を聞きとった瞬間、先程のため息にあった寂しさは吹き飛んでしまった。
さとり(駄目、絶対に駄目!そんな事、許される訳がない!許される事はない!そんな事...絶対にあるわけがない)
どうも皆さん、本当に久しぶりです。
お風呂場の蓋でございます。
今回の投稿は前回の投稿から実に、4ヶ月以上の時間が空いてしまいました。
誠に申し訳ございませんでした。
進路の方はすぐに決まってはいたのですが、進路が決まる前に定期テストがあったり、進路が決まった後は自動車の教習所に通ったりと色々な事がありました。
また、つい先日にも定期テストがあり、中々小説の内容を考える時間がありませんでした。
しかし、最近は小説の内容を考える時間が増やせているので、今月中にもう1話の投稿を目指して頑張っていきたいと思います。
よければ、また次回も見てください。