こいし「んっ!んむ…ぅん」
こいしは夜見に顔を近付けて目を閉じると唇に感触が伝わった瞬間、腕に力を込めて更に夜見の顔を引き寄せた。
しかし夜見はこいしの行動に対して何か抵抗するかと思いきや、何故か抵抗する様子が全くなかった。
こいし(あぁ…お兄ちゃん、今とっても幸せだよ お兄ちゃんも、きっと幸せだよね?だって、キスしてくれたんだから…私の事が好きって事なんだから…)
夜見「…」
そしてこいしがキスを始めてから2〜3分程経った頃、夜見は退屈そうなため息をついてこいしの頭を優しく撫でた。
夜見「こいしさん、もう満足したか?」
こいし「ん〜ん!ん、まだ、まだ…する、ん!」
夜見「…そうか、わかった」
こいし(お兄ちゃんも、幸せでしょ?それなら、まだキスしたまま…あれ?)
その瞬間、こいしはあり得ない事が起きていることに気が付いた。
こいし(え…あれ?なんで、キスしてるのにため息ができたの?なんで、普通に喋れるの?)
異変に気が付いたこいしは目を開けて、ゆっくりと夜見から顔を離すと何が起きているかを見ることができた。
それは、2本の指を唇を隠すように口元に当てている夜見だった。
夜見「ん?思ったより早くやめたな まだ続くと思ったんだがな」
そう、夜見はこいしの不意打ちのキスを受ける寸前に、2本の指を間に挟んで防いでいたのだ。
そして夜見は口元から指を離すとその手をこいしの背中に回し、こいしを優しく抱き締めた。
夜見「こいしさん、それは前にも駄目だって言っただろ?それに、不意打ちだったから結構危なかったぞ」
こいし「…」
夜見「こいしさん、聞いてるか?」
こいし「…ぐすっ」
夜見「えっ?こ、こいしさん?」
するとこいしが涙をボロボロと流して夜見が心配した瞬間、こいしは急に大声を上げながら泣き出し始めた。
こいし「うえっ、う、うわああああああああん!あ、うっうあ!う、ああああああああああ!」
夜見「なっ!?こ、こいしさん!?」
こいし「あああああ!うっ!ひぐっ、あ!うぅ…ああああああああああん!」
また、こいしに泣き声は尋常ではない大きさであり、すぐ近くの夜見は耳に大きなダメージを受けていた。
夜見(うっ!ぁ、あぁ…み、耳が!は、早…く、泣き止ませ…ねぇと…)
そして夜見は耳を塞ぎたくなる程の大きな泣き声を聞きながら、こいしを泣き止ませる為に色々な方法を試したみた。
しかし、頭を撫でたり、手を握ったり、更には頬にキスをしてみたのだが泣き止む事はなかった。
こいし「ひっぐ!あ…あああああ!ぅ…うえ、うあああああん!」
夜見(う、あぁ…ど、どうしたらいいんだ?このままだと、本当に耳が…壊れる!)
夜見は耳を痛めながらも、どうにかこいしを泣き止ませようと考えてみるが、考えられる手は既に尽きてしまっていた。
結局、夜見はこいしを泣き止ませることはできず、こいしが泣き疲れて眠るまで泣き声を聞き続ける事になった。
こいし「…すぅ、んん」
夜見(あ…あぁ、やっと…終わった み、耳が痛ぇ)
夜見は耳を痛めながらもこいしが泣き疲れて眠った事に安堵していると、部屋の扉がゆっくりと開いて廊下からさとりが顔を覗かせた。
さとり「…黒夜さん、大丈夫ですか?」
夜見「ん?あぁ、さとりさん 何とか大丈夫だが…まさか、仕事部屋の方まで聞こえたのか?」
さとり「えぇ、そのまさかですよ」
さとりはそう言いながら部屋に入ると、夜見に抱き付きながら寝ているこいしをしばらく見た後で夜見に尋ねた。
さとり「それで、一体何があったんですか?こいしに何かしたとは思えませんが…」
夜見「あぁ、実は…
そして夜見はこいしの感情がわかった後にした事や、起きた事を包み隠さずに全て話し始めた。
するとさとりは夜見の話を聞き続けている内に険しい表情になり、夜見の話の何かに対して静かに怒っていた。
さとり「…そうですか」
夜見「さとりさん、わかるか?こいしさんが泣いた理由」
さとり「…えぇ、わかりますよ 当たり前じゃないですか」
夜見「そうか、流石こいしさんの姉だな それで、一体理由は何なんだ?」
さとり「…っ!」
しかし、夜見はさとりが怒っていることには気付いていないらしく、いつもの様子でさとりにこいしが泣いた理由を聞いた。
するとさとりは我慢の限界なのか歯を食いしばり、拳を握ってワナワナと体を震わせ、遂に…
さとり「いい加減に…してください!」
さとりは怒りをあらわにして、夜見に本気で怒鳴り始めた。
さとり「いつまで…いつまで!しらばっくれてるつもりなんですか!とっくに気付いてるんでしょう!?それなのに黒夜さんは、いつまで気付いてない振りをずっと続けて…もう、嘘をつかないでくださいよ!」
夜見「…え?いや、さとりさ「もう、嫌なんです!嘘をつかないでください!もう…心にも思ってない事を言わないでください!」
そして夜見の言葉を遮ったさとりは目には涙を浮かべながら、乱暴に扉を開けると何処かへ走り去ってしまった。
夜見は突然の事に唖然としながら開いている扉の方を見ていると、廊下から燐が現れてさとりが走り去った方向をチラッと見た。
燐「黒夜さん、一体何があったんだい?こいし様の泣き声が聞こえたかと思ったら、今度はさとり様が泣きながら走っていったんだけど」
夜見「燐さん いや、それが両方ともサッパリ訳がわからないんだ」
燐「わからない?えっと…取り敢えず何があったか教えてくれないかい?」
夜見「すまない、燐さん まず、こいしさんの方なんだが…
夜見は燐に何があったのかを聞かれると、帰ってからさとりが先程部屋を出ていったまでの事を全て話した。
燐は話を聞いてる間は何かを考えていた様子だったが、話が終わると少し頷いてから夜見にある質問をした。
燐「ねぇ、黒夜さん 黒夜さんは人の考えている事を汲み取る事って、苦手かい?」
夜見「え、いや?別に苦手ではないと思うが…」
燐「ふ〜ん、そうかい それじゃあ、人の思っている事はどうだい?」
夜見「…なぁ、燐さん 何故そんな事を聞「い・い・か・ら、答えて?」
すると夜見は燐に何故質問をしてくるのかを聞こうとしたのだが、燐は笑顔のまま夜見の言葉を遮って質問の回答を求めた。
そこで夜見は、燐の声に怒りのような感情が込められているのを感じ取ったので、大人しく燐の質問に回答をすることにした。
夜見「そうだな…人の思っている事を汲み取る方は苦手、だと思う」
燐「ん、少し歯切れが悪かったね?それに思うって曖昧な言い方だけど、何かあるのかい?」
そして燐は、夜見の回答が少し歯切れが悪かったことと[思う]と言ったことが引っ掛かったようで、その事について夜見に追及することにした。
すると夜見は一瞬動揺したような様子を見せるとすぐに
夜見「別に…何も無い ただ、わからないだろ?思っている事なんて、覚妖怪でもなければ本人にしかわからない 予測はできるけど、それが当たっているなんてのはわからない 本人がそう思っているって言ったとしても、それが本当に思っている事なのかは本人にしか…」
そのまま夜見は無意識にこいしを抱き締めている腕にギュッと力を込め始め、その様子を見た燐は夜見が言いたくない事を追及してしまったのではと察した。
燐「え!?あ、ご、ごめん!い、言いたくないことを追及するような事をして… 言いたくない事なら、別に言わなくてもいいんだよ!そ、それに…正直に言いたくないって言ってくれれば、追及したりなんかはしないし…」
夜見「…いや、お互い様だ 馬鹿正直に言い始めた俺にも落ち度はあった 家族なんだから、遠慮する必要はないのにな」
燐「え?あ…そ、そうだね!アハハ…ハハ…」
すると夜見は顔を上げて笑顔で燐に[お互い様]と言ったのだが、未だにこいしを抱き締めている腕に力は込められていた。
そして燐は夜見の腕に力が込められていたのを見逃しておらず、夜見に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
夜見「…なぁ、燐さん」
燐「え?あ…えっと…な、なんだい?」
夜見「ちょっと、こっちに来てくれ」
燐「あ…う、うん、わかったよ」
だが、夜見は燐のそんな気持ちには気付いていないのか、普段通りの様子で燐に自分の元に来るように声を掛けた。
そして燐は夜見の言う通りに目の前まで来て足を止めたのだが、夜見は燐に更に近くに来るように声を掛けた。
夜見「すまないが、もう少し近くに来てくれ」
燐「え?えっと…こ、この位でいいかい?」
夜見「もう少し近くに来れないか?」
燐「えっと…い、行けるけど」
最終的に燐はスカートが夜見の足に触れてしまう所まで近付いており、夜見は見上げてジッと燐のことを見つめていた。
燐(うっ!な、何でジッと見つめてくるんだい!?)
すると燐は気まずさと恥ずかしさから反射的に目をそらしてしまったのだが、夜見は燐に目をそらされても燐のことをまだ見つめていた。
しばらく夜見は燐のことを見つめていると、視線を一度落としてから再び見上げて燐のことを見つめた。
夜見「ん〜っと、それじゃあ悪いけど…そこで膝立ちしてくれないか?」
燐「…え?ひ、膝立ちをするのかい?」
夜見「あぁ、両膝をついてくれれば丁度良い筈だ」
燐「よ、よくわからないけど…よいしょっと これでいいかい?」
夜見「やっぱりな、丁度良かった ありがとう、燐さん」
燐は訳がわからないまま夜見の言う通りに膝立ちをすると、夜見は燐に軽くお礼を言って少し嬉しそうな様子だった。
そして燐は今度は俯くようにして視線をそらしたのだが、その頭の上に夜見は手を置いてそのまま撫で始めた。
燐「きゃっ!う、ぇ…い、いきなり何をしだすんだい?」
夜見「え?何をって、頭を撫でてるだけだが?」
燐「い、いや、それはわかってるよ… あたいが聞いてるのは、何で頭を撫でてくるんだい?ってことだよ」
夜見「何でって…燐さんが俺に対して、申し訳ない気持ちでいたからに決まってるだろ」
夜見がそう言いながら燐の頭を撫でていると燐は頭をゆっくり上げたのだが、夜見と目が合うと顔を赤らめて頭を下げて視線をそらした。
しかし、燐はまた頭を上げて上目遣いで夜見のことを見始めると、ある事を尋ねた。
燐「よ、よくわかったね あたいが申し訳なく思ってるって…」
夜見「別に不思議な事じゃないだろ?俺が家族になってから、随分経ったんだからな」
燐「ぁ、えっと…そ、そうだよね アハハ…」
夜見(…はぁ、まったく もう気にしてないから別に申し訳なく思うことなんてないのに、どうすれば…)
夜見は燐を撫でながら何をすればいいかを考えていると、いきなり燐が夜見に撫でられた時と同じように小さな悲鳴をあげた。
燐「ひゃうっ!」
夜見「燐さん!?急にどうし…あぁ、そういうことか」
燐「うぅ…こ、こいし様?な、何でこいし様も撫でるんですか?」
こいし「…」
そこで夜見が見たのは、いつの間にか起きていたこいしが身を乗り出して自分と同じように燐の頭を撫でている姿だった。
するとこいしは燐の頭を撫でながら、夜見の腕にゆっくりとサードアイから伸びている管のような部分を巻き付け始めた。
夜見「ん?こいしさん、どうしたんだ?」
こいし「…ねぇ、お燐」
しかし、こいしは夜見に声を掛けられても反応することはなく、燐の方を見て頭を撫でながら話し掛けた。
そして燐はてっきりこいしは夜見に話し掛けると思っていたのか、自分が話し掛けられた事に驚きながら顔を上げた。
燐「えっ!?あ、えっと…何でしょうか?」
こいし「もう、申し訳ないって思わなくても大丈夫だよ お兄ちゃんは、もう気にしてないから」
燐「…えっ?な、何故こいし様がそのような事をわかるのですか?それに、あたいが申し訳なく思っていることも何故知って…」
こいし「何でって、私がお兄ちゃんの心を読んでみたら『燐さんがまだ申し訳ないって思ってる 俺は別に気にしてないのに…』って思ってたからだよ?」
こいしはそう言って首をかしげて不思議そうな顔をしていると、サードアイは濁った瞳で夜見をジッと見つめていた。
すると、そこで夜見はこいしのサードアイがジッと自分を見つめている事に気付き、サードアイに笑顔を向けていると燐が声を掛けた。
燐「…ね、ねぇ、黒夜さん こいし様の言ったことは本当かい?」
夜見「…いや本当も何も、俺はお互い様だって言っただろ?もうその時には、何も気にしてないぞ」
燐「そ、そうだったんだ…ご、ごめんね?あたい、気にし過ぎちゃって…」
夜見「別に謝ることじゃないだろ 燐さんが心配性なのは、燐さんの個性の1つなんだからな」
燐「え?あ、ありが…とう」
夜見「あぁ、どういたしまして」
夜見がそう言って燐の頭を撫でるのをやめて手を引くと、こいしも撫でるのをやめて夜見の方へ向き直って夜見に抱き付いた。
そして夜見がこいしを抱き締めて頭を撫でていると、燐は立ち上がってスカートに付いた埃を払い終えてから夜見に話し掛けた。
燐「ねぇ、黒夜さん 話を戻したいんだけど…いいかな?」
夜見「ん?あぁ、そうだな 確か燐さんに、相手の考えている事と思っている事について聞かれたんだよな」
燐「うん、そうだね」
夜見「それで、何かわかったことはあるか?」
燐「そうだね、あたいが考えた限りだと多分っ…」
夜見(…ん?)
すると、燐は何故か自分の考えを話そうとした所で一瞬だけ言葉を詰まらせた。
燐「…多分さとり様は、黒夜さんの事を少し疑ってるんだと思う」
夜見「…燐さん?こい「ほ、ほら!さとり様にとって黒夜さんは信用したい家族だから、信用したいからこそ逆に疑っちゃうんだと思うよ!」
夜見(…急にどうしたんだ?俺はただ、こいしさんの方の答えも聞こうとしただけなのに… それに、考えを言おうとした時に言葉を詰まらせて…)
そして夜見は燐の妙な行動や言葉の遮りに対して疑問を抱いていると、燐はこいしの方へ数回チラッと視線をズラした。
それに気付いた夜見は、先程の燐の不自然な行動に対しての疑問が晴れた。
夜見(なるほど、こいしさんに聞かれたら何か不味いのか… それなら、今は聞けないか…)
夜見「そうか…疑われてるのか?俺は」
燐「うん、多分…だけどね でも、いつも心配させないように嘘をついてたら、信じたくても信じられないよ?」
夜見「…あぁ、そうだよな」
夜見は燐の考えに少しショックを感じながらも納得をしていると、こいしが夜見の服を力強く掴んでグイグイと引っ張った。
夜見が視線を落とすとこいしは夜見のことを見上げており、夜見は笑顔を作ってこいしにどうしたのかを聞いた。
夜見「こいしさん…どうしたんだ?」
こいし「…お兄ちゃん、お姉ちゃんと喧嘩したの?」
夜見「いや、喧嘩じゃないよ 俺がさとりさんを少し怒らせたから、燐さんに相談に乗ってもらってただけだ」
こいし「…そうなんだ」
するとこいしは何か考えているのかゆっくりと返事をしてから少しの間俯いたのだが、再び顔を上げると夜見に向かってある事を話し始めた。
こいし「ねぇ、お兄ちゃん お姉ちゃんはね、すごく寂しがり屋さんなの」
夜見「…そうなのか?」
こいし「うん、そうだよ お姉ちゃんは私と同じ覚妖怪だから、お姉ちゃんも私と同じように嫌われてたの そして、私が心を閉ざした時には、お姉ちゃんはずっと一人ぼっちで…ずっと寂しい思いをしてたの」
夜見「…」
こいし「だけど、お兄ちゃんだけが嫌われる理由を個性として受け止めてくれた…お兄ちゃんが初めてだったの だからね、お兄ちゃんが嘘をついたら本当は違うんだって思って寂しくなっちゃうの」
そしてこいしはさとりが今までどんな思いでいたのかを説明すると、夜見の胸の奥から罪悪感がどんどんと溢れ出てきた。
夜見「でも、俺はあの時 嘘をついたつもりは…」
こいし「うん、わかってるよ お兄ちゃんは嘘なんかついてないって…」
しかし、こいしが夜見の頬にそっと手を添えると罪悪感こそ無くなりはしないが、それ以上罪悪感が溢れ出してくることはなかった。
更に、こいしがもう片方の手も夜見の頬に添えて顔を包み込むと、温かい何かが夜見の胸の奥をどんどんと満たし始めた。
こいし「だから、お姉ちゃんにちゃんと話そう?嘘なんかついてないって、嘘をついてるように思わせちゃってごめんなさいって…ね?」
夜見「こいし…さん」
こいし「大丈夫だよ、お兄ちゃん それでも、まだ不安なら私も一緒に行ってあげるよ?」
夜見「…いや、いい 大丈夫だ」
すると夜見はこいしを抱き締めたまま立ち上がり、こいしを椅子に座らせると頭を優しく撫でた。
夜見「ありがとう、こいしさん こいしさんのお陰で、何をすればいいかわかったよ」
こいし「んっ、えへへ♪どういたしまして」
夜見「燐さんも、ありがとうな 俺の相談に乗ってくれて」
燐「えっ!?い、いや、あたいは別に…ど、どういたしまして」
そして夜見はこいしの頭から手を離して部屋を出るとさとりの元へ向かったのだが、こいしは部屋の扉が閉じた瞬間に燐に話し掛けた。
こいし「お燐、ありがとうね 言わないでくれて」
燐「はい、さとり様にも言われていたので」
こいし「やっぱり、駄目って?」
燐「はい、そうですね」
こいし「でもね、お燐 私はいつか言うつもりだよ」
燐「そんな事をしたら、前と同じように長々とさとり様に言われますよ?」
こいし「別にいいよ 約束って言ったけど、私は元々守るつもりはないし」
燐「…そう、ですか」
こいし「…お燐、どうしたの?」
燐「えっ!?い、いや、何でもありませんよ!あ、あたいは仕事があるので、もう行きますね」
ガチャッ、バタン
こいし(…私は、この気持ちに嘘をつきたくない だって、この気持ちが私の心を…)
夜見「さとりさん、入るぞ」
夜見はさとりの部屋の前に着くと扉のノブに手を掛けると、一言断りを入れてから扉を開けた。
すると、さとりはベッドの上で背を向けて膝を抱えながら俯いていた。
夜見「さとりさん、少しいいか?」
さとり「…なんですか?出てってくださいよ」
夜見「すまないが、ベッドに座らせてもらうぞ」
さとり「…聞いていました?出てってください」
夜見「あぁ、聞いてるよ だけど、出ていく気はないからな」
そして夜見はさとりに近付き真横で腰をかけると、さとりは夜見に背を向けるように向きを変えた。
夜見「なぁ、さとりさん こっち向いてくれないか?」
さとり「…」
夜見「…まぁ、別にいいか」
しかし、夜見はさとりのその行動に対して特にショックを受けることもなく、夜見は一呼吸空けてからさとりに謝り始めた。
夜見「さとりさん、すまなかった 俺が悪かったよ」
さとり「…」
夜見「正直、さとりさんがなんで怒ったのかはわからない けど、さとりさんを怒らせて寂しい思いをさせたのは事実だ」
さとり「…」ギリッ
夜見「だから、寂しい思いをさせて本当にすまなかった でも、あの時俺は[ドンッ]…は?」
すると突然、さとりは振り向くと同時に夜見を両手で押し、夜見をベッドから突き落とした。
夜見は突然の事に頭が真っ白になり天井を見ていると、さとりは夜見に馬乗りになって夜見の首を両手を掛けた。
さとり「はい!これで満足ですか!?貴方のお望み通りに向いてあげましたよ!?」
夜見「…さ、さとりさん?」
さとり「いい加減に、してくださいよ… この期に及んで、なんで嘘をつき続けるんですか!?」
夜見「…さとり、さん」
さとり「答えてください!答えないと、首を締めますよ!」
さとりはそう言って両手にゆっくりと力を込めると、夜見の首を苦しくならない程度に締め付けて脅した。
だが、夜見の答えはさとりに押されて言い切れなかった言葉だった。
夜見「あの時俺は嘘をついていない」
するとさとりは夜見の答えに一瞬だけ動揺したが、さとりは夜見の首を手を掛けたまま再度問いただした。
さとり「…ふっ、ふざけないでください!正直に答えてください!」
夜見「…あの時俺は嘘をついていない、本当だ」
しかし、夜見は答えを変える必要はないので問い掛けに対して同じ答えを言うが、さとりは首を横に振って夜見を睨みつけた。
さとり「なんで…なんで嘘をつくんですか!?嘘を、嘘をつかないでください!本当の…事を、真実を話してくださいよ!」
夜見「何度聞いても同じだ、あの時俺は嘘をついてない」
さとり「嘘、本当な訳がない!なんで、なんで真実を話してくれくれないんですか!?」
夜見が嘘をついてないと何度答えてもさとりは全然信用せず、夜見はこの不毛な一問一答に呆れたのか逆にある質問をした。
夜見「…逆に聞くが、何故さとりさんはそこまで俺が嘘をついてると思う?俺のことを家族だと、信じてくれると言っただろう?」
さとり「そんなの決まってます!黒夜さんが知らないふりをして嘘をついているからですよ!」
夜見「じゃあもう1つ聞くが、俺が何に対して知らないふりをしてるんだ?」
さとり「っ!そ、それは…」
そしてさとりは夜見のもう1つの質問の回答で言葉を詰まらせていると、さとりは滅茶苦茶な事をし始めた。
さとり「じゃあ、聞きますけど!黒夜さんが前に言った、あんな事って一体何なんですか!?話せる時って、いつなったら来るんですか!?」
それは、夜見の質問に答えずに全く関係ない話を持ち出してくることだった。
そしてその全く関係ない話の内容とは、([第16話 トラウマと嘘]での)あんな事とは何なのか、話せる時というのはいつなのかという事だった。
さとり「嘘をついていないって言うのならば、言ってみてくださいよ!どうせ嘘なんでしょう!?どうせ死ぬまで話さないつもりなんでしょう!?」
夜見「…そういえば、そんな事言ったな それについての答えは既に言っただろ、もし話せる時が来たら話すって」
だが、夜見は滅茶苦茶な事に対しては気にも留めることはなく質問に答えると、さとりは関係のない話について質問攻めを始めた。
さとり「そんなの、全然答えになっていません!ちゃんと答えてくださいよ!」
夜見「だから…既に答えは出てるだろ?もし話せる時が来たらって、まだ話せない」
さとり「だから、そんなのは答えじゃありません!あんな事が何なのか、話せる時がいつなのかを聞いてるんですよ!」
夜見「さとりさん、さっき言っただろ まだ話せないって」
さとり「なんですか、まだって!?どうせ、話さないための口実でしょう!?」
夜見「…だから、言ってるだろ?話せないって」
さとり「一体何が嫌なんですか!?今でも後でも、内容は変わらないでしょう!?」
夜見「何度も言うが、まだ
さとり「そんなのどちらも一緒ですよ!どうせ内容は変わらないんですから、今ここで話してくださいよ!さぁ!さぁ!」
夜見「…はぁ、何度も言ってるだろ まだ
さとり「いい加減に…話さないと「だって、記憶が無いんだから」…え?」
すると、夜見はいきなりとんでもない事をカミングアウトをして、これには流石にさとりも唖然としてしまった。
そして、さとりの手が両手が緩んだ隙に夜見は上体を起こすと、さとりが後ろに倒れそうになったが両手でさとりを支えた。
さとり「えっ、えっ?う、嘘…き、記憶喪失…なんですか?」
夜見「えっと…記憶喪失っていうより[記憶の欠落]って言った方が正しいかな?」
さとり「記憶の…欠落?」
夜見「あぁ、実は昔の記憶の一部が何故か抜け落ちているんだ 外傷的な事がなければ、トラウマによるショックも関係はない つまり、記憶が抜け落ちた理由は自分でもわからないんだ」
さとりはあまりの衝撃的な内容に本当に夜見は記憶がなくなっているのか疑う気持ちもあったが、夜見が頑なに過去を話したがらない理由としては一理あるのではと思った。
さとり「じゃ、じゃあ私は、黒夜さんに対して無理な事を強要して…」
夜見「いや、さとりさんは何も悪くない 大元を辿れば、俺がさとりさんに勘違いをさせなければ良かった話なんだから」
さとり「わ、私の勘違い…ですか?」
夜見「さっきから言おうとしてたけど、さとりさんが中々信用してくれなかったからな あの時俺は嘘をついていない…」
夜見はそのまま言葉を続けながらさとりを引き寄せて優しく抱き締め、ゆっくりと頭を撫でながら謝罪の続きを話した。
夜見「でも、俺が人の思ってる事を汲み取るのが苦手なせいで紛らわしい真似をしてしまった 勘違いをさせた俺をどうか許してくれ、さとりさん」
さとり「黒、夜さん…」
すると、夜見の謝罪の続きを聞いたさとりは静かに涙を流しながら夜見の胸に顔を
さとり(ズルい、黒夜さんはズルいですよ 黒夜さんにはそういう所があるって知ってたのに、本当は私が謝るべきなのに、黒夜さんは自分自身が悪者になるようにして…そんな優しい人、好きになるに決まってるじゃないですか)
夜見「…あぁ、そういえば」
しばらくして夜見は何かを思い出したのか声を出すと、さとりは涙を拭って顔を上げた。
さとり「ど、どうしたんですか?」
夜見「[記憶の欠落]のせいで昔の事は話せないけど、少しなら見せることができるんだが…見るか?」
そして夜見は過去の事は見せることはできると意味不明な事を言い出し、さとりは訳がわからない様子で夜見に尋ねた。
さとり「え?見るって、どういうことですか?ていうか、見ることができるんですか?」
夜見「あぁ、少しだけなら…な?」
さとり「ぜっ、是非見たいです!見せてください!」
するとさとりは夜見の話に物凄く食い付き、夜見の過去の事を見ることを望んだ。
夜見「…そうか、わかった でも、少しだけだからな?」
夜見は自分から言い出したのに一瞬だけ言うのを躊躇したような様子を見せたが、すぐに微笑むとさとりの頭を固定するように頬に両手を添えた。
さとり「え?黒夜さん、一体何を?」
夜見「それじゃあ、見せるからちゃんと見てくれ」
夜見はそう言うと左目を閉じて右目を見開き、さとりの目をジッと覗き込んだ。
さとりは夜見の見開かれた目に威圧感を感じて一瞬怯んだが、夜見の過去の事を知りたい一心で夜見の右目を見ると何かに気付いた。
さとり(…ん?目の奥底に何かが…ある?)
その何かは目の奥底にあるように見えるのだが、その何かはよく見ようとすると更に奥底へ沈んでいった。
だが、さとりはその沈んでいく何かを見ていると、訳のわからない感覚を感じた。
さとり(…いや、違う 何かが…いる?)
確かに奥底へ沈んでいく何かは物である筈なのだが、さとりは何故かその物から者のような気配のようなものを感じた。
しかし、次の瞬間に夜見は左目を開いて右目を離してしまったため、さとりはその謎の感覚の正体を知ることができなかった。
夜見「どうだ、見えただろ?」
さとり「…はい、見えました」
そう言って夜見は手をさとりから離すと再度さとりの頭を撫で始めたのだが、さとりは謎の感覚の余韻がまだ残っており夜見に尋ねた。
さとり「黒夜さん、黒夜さんは一体…何者なんですか?」
夜見「…さぁな、一体何者なんだろうな?」
どうも皆さん、お風呂場の蓋でございます。
前回の後書きで今月中(12月)に投稿を目指していたのですが、2ヶ月程過ぎて申し訳ありませんでした。
年末では確かに小説の内容を考える時間があったのですが、会社からの連絡や会社に入る為の準備等に追われて小説を書く時間が中々取れませんでした。
これからは会社の事などもあるのでかなり不定期での投稿になると思いますが、楽しみに待って頂けると嬉しいです。
それと、本日(令和3年 2月25日)の午後3時頃に50話記念として、あるものを投稿するのでよければ見てみてください。
それでは、よければまた次回も見てみてください。