メアリー・ポピンズ、ホグワーツへ行く   作:むぎすけどん

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組み分け

メアリーが大広間に入ると、そこは別世界だった。

おびただしい数のろうそくが空中に浮かび、幻想的に4つの長テーブルを照らしていた。

長いテーブルにはすでに上級生と思われる生徒たちが座っており、各色の配色から察するに、おそらく各寮に分けられているということなのだろう。

見上げると、天井は夜の空のようになっていて、実際に星々がきらめいているように見える仕掛けになっていた。

「高度な認識阻害呪文が重ねられてるわね」、とメアリーは感心した。

広場の奥にはもう一つの長テーブルがあり、ホグワーツ魔法学校の教授陣と思われる人たちが鎮座していて、森番に引率される一年生の集団を観察していた。

メアリーはふと真ん中に座っているヤギひげの男と目があった。男はねっとりとした目でメアリーを観察していたが、メアリーが見返すとすぐ視線をそらした。位置関係からいってあれがホグワーツ校長のフィニアス・ブラックではないかとメアリーは推測した。

森番は教授陣に一礼し、教授たちの前方に置かれていたスツールの上にボロボロのとんがり帽子を置いた。しばらくすると、帽子は軽やかに歌いだした。その内容が校長の外見的特徴を揶揄するような内容だったので、真ん中に座っていたヤギひげの男は不機嫌そうな顔でその帽子を睨んだ。

やがて、ヤギひげの男の隣にすわっていた年配の女性教授が先生方を紹介し、そのヤギひげの男がブラック校長であることが確定した。年配の女教授は教頭であり、バチルダ・バグショットと名乗った。

バグショット女史は高名な魔法史学者であり、その著作のいくつかはメアリーも読んだことがある。

ミーハーではないが、彼女を実際に見ると貫禄があり、ブラック氏よりもよっぽど校長にふさわしいのではないかとメアリーは感じた。

痩せた森番はロバートソン・アイといい、教授陣の席に戻った瞬間、急にやる気のない表情になり、こっくりとうたた寝を始めた。自分の仕事以外の時は極力関わろうとしないタイプらしい。

バグショット教頭から、トンガリ帽子についての説明がされた。どうやら、その帽子をかぶることにより、自動的に組み分けの選別が行われるらしい。

実際にバグショットからエイブリーと呼ばれた少年がかぶると間髪いれずに帽子が「スリザリーン!」と叫んだ。左側の緑色のテーブルから歓声が聞こえ、エイブリー少年は小走りでそちらに向かった。

新入生の組み分けは順調に行われ、やがて

「ダンブルドア、アルバス!」とバグショットが言った。

 

そのとたん広場が「ざわっ」とし、剣呑な雰囲気に飲み込まれた。

「あれが、『マグル殺しのダンブルドア』か!」

「人殺し」

「恥知らずめ。」

「アズカバンに送られればいいのに」

といった少年を罵倒するひそひそ声がそこら中にささやかれるようになった。

 

「全く、子供は関係ないでしょうに、恥知らずはどちらでしょうね」とメアリーはつぶやく。汽車の中で少年はときおり暗い表情を見せていた。2年前の事件が少年の環境を一変させたのだろう。メアリーの親戚を愚弄した少年に対し制裁を行ったのは気の毒だったかもしれない、と彼女は少しばかり同情した。

 

ダンブルドアは口さがないささやき声の中、平然とした表情で広場を歩いていた。そういった類の中傷に慣れていたのだろう。そんな少年をバグショット教頭は温かい表情で見守っていた。

トンガリ帽子をかぶったダンブルドアだったが、エイブリー少年とは対照的に、組み分けに時間がかかっていた。その間、少年は能面のように無表情で、広場のひそひそ声はとどまることはなかった。

やがて、「…ならば、グリフィンドール!」と帽子は叫んだ。

それを聞いた少年は少し喜んだ表情になったが、赤色のグリフィンドールのテーブルを見て、表情が固くなった。

グリフィンドールのテーブルではまばらに拍手がおこり、上級生たちは微妙そうな顔でダンブルドアを見つめていた。とても少年を歓迎しているという雰囲気ではなかったのだ。

 

ダンブルドアの組み分けが終わり、広場に漂っていた剣呑な雰囲気はなくなった。しかし、それも次の名前が呼ばれるまでのことだった。

「ドージ、エルファイアス!」

その少年は異形だった。

少年の顔には鱗のような青色のできもののようなもので覆われていて、それを見た広場は異様な雰囲気になっていた。

「無理もない」とメアリーは思った。

「あれは、龍痘。 ひどい時には死にいたることもある感染性のある病。」

まさか、ホグワーツで対策をしていないこともないだろうけど、自分に伝染ることを恐れる人たちもいるだろう。そう思い、メアリーはブラック校長のほうを見た。するとブラック校長は驚いた表情でドージを見つめていることに気付いた。

「まさか…ね。」

そうこうするうちに、異形のドージがグリフィンドールに組み分けされた。グリフィンドールのテーブル席はもはや、お通夜状態といってもよかった。

 

それからしばらくして、ネリー・ルビナが呼ばれた。

「ネリー・ノア!」名前を呼ばれた赤毛の少女はぺろりと舌を出した。覚悟はしてたけど、本名を呼ばれたのは不本意だったらしい。しかし、思ったより彼女が騒がれることはなかった。ノアの名字はマグル界にも一定数いたし、まさか直系の子孫としては、認識されなったのだろう。先に紹介されたグリフィンドールの新入生のインパクトが強すぎたというのも大きかったのかもしれない。

ネリー・ルビナは、ほどなくハッフルパフに組み分けされた。

 

そして、

「ポピンズ、メアリー!」とバグショットは言った。そのとたん、今までとは違った種類のざわっとした声がささやかれるようになった。

「なんて綺麗な子だろう」

「あれが、メアリー・ポピンズか」

「七つの海を制覇した魔女」

人々からの賞賛の声を背景にして、メアリー・ポピンズは鼻高々にトンガリ帽子まで行進した。

ふとグリフィンドールの席の方から強い視線を感じた。メアリーがそちらを見ると、ダンブルドアがにらむようにしてこちらを見つめていた。

「汽車でのことを根に持たれたのかしら」といぶかしく思いながら、メアリーは帽子をかぶった。

 

「フム、お前がメアリー・ポピンズか。話には聞いておる。」バリトン調の低い声がメアリーの耳の中で響いた。

「ナバホ族を解放しただとか、ポセイドンの娘の病を治した、だとか眉ツバもんじゃと思っておったが、まさか、すべて、真実であったとはな。」

一種の開心術であろうか。メアリーは戦慄した。

「心配するな、あの校長にお前のことを話すことはない。それにお前の心の奥底まではのぞけないようだ、不思議よのう」と帽子は言った。

先ほどの歌しかり、帽子は校長を嫌ってるのだろうか。たしかに彼はうっかり屋さんっぽいところがありそうだが。

「うーむ、さきほどのダンブルドアといい、とんでもない逸材が今年集まってきたようじゃな。ことにお前の底が見えぬ。

うん、勇気はある。しかし、無謀さはない。そのような行動を一番に嫌っているようじゃな。魔法の知識は、この年にして相当お持ちのようだな。知識欲は人一倍ありそうじゃ。するとレイブンクローもありえるな…

そして、人に献身したい、という思いがあるな。不思議なことじゃ。ずいぶん、うぬぼれ屋さんかと思っていたが」

「うぬぼれ屋ですって!」メアリー・ポピンズは憤慨した。広場の空気が凍った。

「まぁ、怒るな。なんという覇気じゃ。..末恐ろしい。仲良くなった子も組み分けされたようだし、ハッフルパフにしてやろうかとも思ったが…。いやしかし、それはないな。ハッフルパフはありえん。やはり、スリザリンが一番可能性が高そうだな。純血のヘビの血筋を持つようだし、身内思いの面がある。野心も高いし狡猾なところもある」

「狡猾だって!」またもやメアリーの覇気が広場を襲った。さっきまでにらんでいたダンブルドアもおびえた表情になった。

「…計画的で…完璧に近いという意味じゃな」帽子の声も少し震えていた。

「そうでしょうとも!」とメアリーは受けあった。

「い、偉大なる魔法使いになるだろう、するとやはり..」

「スリザリーン!」と帽子は叫んだ。

とたん、われんばかりの大歓声がスリザリンのテーブルで起こった。

 


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